21/04/17
楽しくリアルな経済学の絵本~『新装版 レモンをお金にかえる法』
レモンはどうやったらお金に変わるのでしょうか。魔法か錬金術か、はたまたわらしべ長者のようなおとぎ話かと思ったら、しっかりとした経済の絵本でした。今回は、子どもにも読みやすい本「レモンをお金にかえる法」を紹介します。
絵本で語られる経済社会
ひとりの女の子が、家にあったレモンを絞り、砂糖と水を合わせてレモネードを作るという、誰でも簡単にできそうなところから話は始まります。レモネードという価値をお金と交換することで経済が回っていく仕組みが、わかりやすいことばと挿絵で紹介されます。
“ジョニーを雇うと、
ジョニーのやることは 労働、
きみのすることは 経営、
彼に払うお金は 賃金。” (本文より)
このように語られる、たった32ページの短いストーリーですが、「経済学入門の巻」という副題の通り、製品を生産して販売し、企業化、機械化、人材雇用、ストライキ、ボイコットを経て交渉、調停へ進み、競争、利益の減少に至り、合併を行い、資産を流動化するといった流れを通じて、ひと通りの経済用語や経済社会の仕組みが学べるようになっています。
この絵本が教えてくれるのは、企業の生産活動と需要・供給による価格決定メカニズム、開業資金の調達方法、雇用と経営・労働争議、新規参入による価格競争、信用創造といったテーマの経済理論。
出版されたのは40年近く前ですが、内容は時代を問わない普遍的な経済の原理原則で、今なお読み継がれる超ロングセラーです。
子どもにお金の知識を与えるべき?
子どもにお金の話をすることはありますか?お小遣いの話題はしても、お金がどのように周って世界を動かしているのか、お金とどのように向き合うべきかを話す機会はなかなかないでしょう。
日本では、お金にあまりいいイメージがなく、お金の話題はタブーのような通念があります。子どもに話すのは教育上よくないと考える風潮もあり、ほとんどの子どもは親や学校からお金の教育を受けないまま大人になります。そうやって子どもの頃にお金の知識を増やせなかったためか、私は経済と自分の生活を結びつけて考えられないことがよくあります。
この絵本は、経済をテーマにした子供向けの本が日本にないことを心配した経済学者の佐和隆光氏が、アメリカの『HOW TO TURN LEMONS INTO MONEY』を翻訳したもの。子どものときに親とこの本を読んでいたら、もっと経済について理解できたのにと思います。なんと、今でも日本の子ども向け経済絵本は、この本しかないのだそう。それはつまり、大人は40年前と変わらず、お金の話を子どもにしていないことになります。子どもたちは大人になってから経済活動を学び理解し、実際に動かしていけなくてはなりません。
生きていく上で大切なお金の話をするのは、恥ずかしいことではなく大事なこと。子どもに世の中のことを教えるときに、経済の知識も合わせて伝えることが大切でしょう。この本ではおもしろく、そしてやさしく経済を学ぶことができます。
実際にあったビジネスモデル
自分で商売をしたことがない人がいきなり起業するのは難しく、失敗しがち。弟子入りするような環境がない場合は、商品の開発・仕入れ、営業・販売・管理といった一連の作業を試行してみることで、商売の作法を身に着けられます。この絵本の出版当時はインターネットが世に出ていなかったため、内容を試すには、本物に近いものを作り、紙に計算するしかありませんでした。今ではこの本を見本にして、机上でネットショップを作り、オンライン決済を行い、クラウド会計ソフトで記録するといったバーチャル体験が簡単にできます。
試すにしても、子どもがレモネードを作って売り、大きく事業展開させるなんて非現実的だと思うかもしれませんね。でも、なんと現実にこの絵本と似たことが起こっています。数年前、アメリカのビビアン・ハーという9歳の少女が、奴隷制度廃止運動団体への寄付活動のために父親とレモネードスタンドを始めました。ツイッターやクラウドファンディングを通じて支持者や寄付金を集めた彼女は、レモネード販売事業で数十億円を売り上げ、成功したビジネスパーソンとして一躍有名になりました。つまりこの絵本で語られることは現実化可能なのです。
楽しそうなイラストとともに、絵本の女の子が行っていることはまさに経済活動。見やすく読みやすく、年齢を問わず誰でも手に取って何度も読み返せるため、パパもママも子どもと一緒に内容について考えて話し合うことができます。家に一冊置いておきたい、隠れた名作です。
【読書ブロガー小野寺理香のブックレビュー】記事
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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