25/06/05
地形を知れば国の思惑がわかる~『あの国の本当の思惑を見抜く 地政学』

毎日ニュースで流れる国際情勢。ロシアのウクライナ侵攻も米中間の緊張も、海の向こうの遠い話のようですが、その影響でエネルギーや原材料の価格が高騰し、物価が上昇していることを考えると他人ごとではありません。今回ご紹介する本では、世界情勢や歴史解説系の動画配信者である社會部部長さんが、世界の主な国の地政学的状況を解説しています。
国と地形の深い関係
地政学とは、地理的条件から国際政治を考察する、地理から政治をひもとく学問です。人間は定住するようになってからずっと土地の奪い合いを繰り返してきました。
隣国との関係は国境にあるものが平原か山か海かで変わります。大陸国家は隣国と平原で地続きのために、軍隊が攻め込んで戦争になりやすく、歴史上の覇権国はローマ帝国、イスラム帝国、フランク王国、オスマン帝国、ナポレオン帝国、ロシアなど、周囲の国々を征服した大陸国家がほとんどです。領土争いで負けないように、各国が軍備を増強し続けるため、対立や紛争が絶えません。
対して海や山で囲まれた国は外からの攻撃を受けにくく、戦争はあまり起きません。日本のような海洋国家では陸軍はさほど必要なく、険しい山岳に囲まれたスイスやブータンなどは小国でも独立国家を守っています。現在の世界に大きな影響を与えるアメリカ、ロシア、中国の3国も、強大ながらそれぞれに地政学的な強みと弱みを持っています。
高い陸軍軍備を持つ海洋国家アメリカ
アメリカは大西洋と太平洋を両側に持つ海洋国家です。地形的に攻め込まれないのが強みですが、他国を攻めづらいのが弱点。トランプ政権は自国経済や安全保障を最優先するアメリカファースト政策で強い国をアピールしていますが、海洋国家でありながら莫大な予算をかけて海外の協力国に軍事基地を配備し、強い陸軍を必要とする大陸国家に協力しているのは、ユーラシア大陸に自国を脅かす巨大な覇権国が出現することを恐れているためです。
中国に対抗しているのは、中国が人権侵害をしている独裁国家だからでも経済面でライバルだからでもなく、ますます国力をつけてユーラシア大陸の覇権国とならないように牽制しているわけです。高い軍事力を持つ理由は、大陸の勢力均衡を保たなければ生存できないために防衛策として覇権国の暴走を抑える必要があるからです。
周辺国に立ちはだかる大陸国家ロシア
アメリカと対照的に、ロシアはヨーロッパの国々と陸続きで繋がっている大陸国家です。攻め込みやすい大平原は大国ロシアにとって有利な地形で、歴史的にもモンゴル方面や東欧地域の小国を攻撃しては領土を拡大してきました。ロシアのウクライナ侵攻も、地理的要因から起こりました。ロシアが西側勢力からの攻撃を防ぐ緩衝地帯とみなすウクライナがNATOに加盟することで、敵が間近に接近し、敵側の勢力が強まることに大きな危機感を持ち、防衛行動に出たのがその理由です。さらにクリミア半島の港は冬でも凍らず、外洋で他国にせき止められることがないため、黒海ルートの拠点として手放すまいと、その領有権をウクライナと争っているというのが実情です。
海洋国家をめざす大陸国家中国
中国は地続きの地形の大陸国家で、北に接するモンゴルにたびたび侵略されたため、遊牧民であるモンゴル民族が北東に移動するまでは、首都はもっと南の黄河沿いの洛陽にありました。最近の中国は海洋国家への変化を目指しており、習近平政権は東シナ海や南シナ海、さらにはインド洋にまで進出しようとしています。中国もアメリカに対抗して、米中の海洋上の軍事ラインである第一列島線での封じ込めを突破しようとしていますが、太平洋に出るには日本や台湾が邪魔で、ヨーロッパ方面だとマラッカ海峡がネック。マラッカ海峡沿いのマレーシアやシンガポールはアメリカ寄りの国々であるため、中国は別ルートとしてミャンマーを通ってインドをぬけ、パキスタン方面に向かう「真珠の首飾り」航路を開発しています。
地理的要因から国際情勢をとらえられる
地理的要因は国家にとって非常に重要です。社会の授業で「源頼朝は、三方を山、一方を海に囲まれた天然の要塞である鎌倉に幕府を開いた」と教わったように、頼朝は拠点を地政学的に選んだわけです。また日本が島国でなければ他国からの干渉を受けて鎖国はできず、今とはまったく違う歴史になったことでしょう。
海に囲まれた日本は他国に気軽に旅行できませんが、平和で治安のいい社会は大陸国家がうらやむほどです。この本を読むと、現在の複雑に入り組んだ国際情勢を国家間の戦略の駆け引きとしてとらえられるようになります。興味のある方は、ご一読をお勧めします。
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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