25/01/08
日本経済の停滞は官僚が原因~「官僚生態図鑑――ズレまくるスーパーエリートへの処方箋」
ガン闘病中ながら精力的に著作を世に出し続けている経済アナリストの森永卓郎氏。今回ご紹介する本では日本の官僚にフォーカスを当て、その優れた資質や仕事内容、そして近年の変質について詳しく分析しています。私たち一般国民にとって、官僚はどんな仕事をしているのかよくわからない遠い存在ですが、長年彼らを間近で観察してきたという氏がこの本の中でその日常や行動パターンをリアリティたっぷりに紹介しています。
官僚はスーパーヒーローだった!
選び抜かれたエリートといわれる官僚。東京大学出身の森永氏も「東大生の1割くらいしかいない彼らは、地頭が良すぎてどうやってもかなわない」「けた違いに優れた頭脳と知識量を持ち、あらゆる変化に対する柔軟な対応力や知的創造性を持っている」と高く評価しています。
官僚に求められる資質は3つあります。1つ目はずば抜けた知的能力。ミスが許されない国会答弁などの緊迫した場面でもそつなく説明対応できる高い能力が必要です。2つ目は頑強な体力。仕事は激務で連日深夜にまで及ぶため、眠る時間が削られてもバリバリ働ける丈夫な身体と体力が必要です。そして3つ目は高い熱意。すべてに優先して国のために尽くすという情熱と意思がないと激務はこなせません。
官僚の仕事はこれら3つのどれが欠けても続けられない大変なものです。本人のやる気がなければブラックな職場でしかないハードな環境で、自分の能力を最大限仕事に捧げられる人なんてそうはいないもの。もはやスーパーマンのレベルですね。
日本経済の停滞は官僚のせいだった!
官僚の年収は、その働きぶりに見合わないほど低いそうですが、彼らにとって政策立案に携る仕事はなによりも大きな魅力です。国の政治の方針を決める責任の重い任務に彼らは誇りを持って取り組み、これまで日本を支えてきました。
しかし2001年以降、政策立案の業務は官僚主導から政治家や内閣主導に方針転換され、やりがいのある仕事を失った官僚は自分たちの利益を最大化するようになりました。国家公務員の定年延長や首都移転の遅延がそのいい例です。東京の首都中枢機能を地方に移す法律は35年も前に国会決議されましたが、その計画は一向に進まないまま東京の人口と地価高騰は上がり続け、都民は生活環境の悪化や災害率の上昇リスクに日々さらされています。これは便利な都心から地方に移りたくない議員や官僚の先延ばしが原因だと氏は指摘します。
また、出生率の低下は日本の大きな問題で、適齢期の男女に経済的余裕がないことが原因ですが、日本の政策は子育て支援。政府の援助金は子供がいる裕福な官僚夫婦が手にし、結婚・出産資金が必要な人々に届きません。これでは少子化が収まるどころか深刻化する一方です。
こうした官僚たちの暴走が日本社会に大きな影響を与えているとの具体的な説明には、頭が痛くなります。
これからの日本を支えてもらうには
以前の官僚は仕事に誇りを持ち、国策を論じながら日夜政策づくりにはげんでいましたが、政策決定権が奪われてからはやる気をなくし、ほかに活躍の場を求めるようになりました。高い能力を持つ若手官僚が民間企業に移るのは国にとって大きな損失です。著者は官僚の民間流出を止める策として、彼らにやりがいのある仕事を与えること、それが無理なら報酬を3倍にすることを提案しています。優れたキャリア官僚ならその賃金に見合う成果を上げられるのでしょう。
日本では政治家への不信感が強く、選挙投票率はずっと低いまま。その分官僚の活躍に期待したいものです。国のためにバリバリ働けるのにその能力を生かしきれない不遇の時にある官僚たちですが、日本の未来のために優秀な彼らを最大限活用できる方法が見つかってほしいものです。
政治家についての本は多くても、エリート官僚に関する資料は今まで探せませんでしたが、この本には著者が実際に体験したエピソードを交えながら、官僚の優秀さも問題点も紹介されており、現代社会の複雑な構造や政治家と官僚の立場の違いがクリアになります。
今後の官僚のあるべき姿を考えるいいきっかけになる一冊です。
【読書ブロガー小野寺理香のブックレビュー】記事
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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