24/10/10
厚生年金で絶対やってはいけない5つのこと
私たちのセカンドライフの暮らしを支える公的年金。最近では、会社員や公務員のみならず、パートタイムやアルバイトで勤めながら厚生年金保険に加入している人の数も増えてきました。厚生年金保険への加入によって、将来の保障が手厚くなることは言うまでもありませんが、受け取るときにはどのようなことに注意しないといけないのでしょうか。今回紹介する5つの内容は、みなさんがセカンドライフの家計収支を見通すうえでも欠かせない情報が満載です。
厚生年金でやってはいけないこと①:60代前半にもらえる年金を請求しない
厚生年金保険への加入歴が1年以上ある、1961年4月1日以前生まれの男性と1966年4月1日以前生まれの女性は、65歳を迎えるより前に「特別支給の老齢厚生年金」を受け取ることができます。例えば、1960年(昭和35年)4月2日生まれの男性は64歳、女性は62歳から報酬比例部分の受給が可能です。特別支給の老齢厚生年金は、生年月日と性別によって受給開始年齢と支給対象部分が異なるので、下の図をまず確認しましょう。
<特別支給の老齢厚生年金の受給開始年齢>
日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金」より
特別支給の老齢厚生年金には、繰り下げ制度はありません。ですから、受給要件を満たしたら速やかに請求手続きをすることが大切です。年金を受ける権利(基本権)は、権利が発生してから5年が経過すると、時効によって消滅します。つまり、受給開始年齢から5年を過ぎても請求をしていない場合、その後1ヶ月分ずつ時効が発生して、本来受け取れるはずだった年金が受け取れなくなってしまうので、注意してください。
厚生年金でやってはいけないこと②:寡婦年金や障害基礎年金を理解せずに繰り上げ請求
65歳からもらえる本来の老齢厚生年金は、その受給開始を60歳から65歳になるまでの間に繰り上げることが可能です。しかしながら、繰り上げ請求をすると、繰り上げた期間だけ減額となります。減額率は、1ヶ月繰り上げるごとに0.4%(1962年4月1日以前生まれは0.5%)で、亡くなるまで変わりません。また、老齢厚生年金のみ繰り上げることはできないため、老齢基礎年金も同時に繰り上げ請求の手続きを行う必要があります。
例えば、(老齢基礎年金を含む)年金額180万円の人が、60歳に到達してすぐ繰り上げ請求を行うとしましょう。減額率24.0%(0.4%×60ヶ月)を反映した136.8万円が、亡くなるまで支給されますが、注目すべきは支給総額です。「60歳から年136.8万円」と「65歳から180万円」のパターンを、支給総額(額面ベース)で比較すると、80歳10ヶ月より先は、65歳から受給を開始した方が上回ります。
繰り上げ請求は、一度手続きを行うと取り消しができないことから、慎重な判断が求められることは言うまでもありません。さらに、繰り上げ受給では、その請求時点で65歳になったとみなされ、主に次のようなことができなくなることを押さえておきましょう。
・国民年金の任意加入や保険料の追納
・寡婦年金(国民年金)の受給
・事後重症などによる障害基礎(厚生)年金の請求
厚生年金でやってはいけないこと③:加給年金を理解せずに繰り下げ受給
最近は、65歳で請求手続きを行わずに、受給開始を66歳以後に繰り下げて、増額された年金を受け取る選択をする人も増えてきました。
繰り下げ受給による増額率は、1ヶ月繰り下げるごとに0.7%。65歳で180万円もらう予定だった年金額は、70歳まで繰り下げると255.6万円(増額率42.0%)、75歳まで繰り下げると331.2万円(増額率84.0%)へ、それぞれ大きく増やすことができます。そして、受給開始から11〜12年で、65歳からもらい始めるよりも支給総額(額面ベース)が上回る点にも注目です。
しかしながら、年金の受給開始を繰り下げることによる制限が何もないわけではありません。例えば、厚生年金保険に20年以上加入していた人が、要件を満たす65歳未満の配偶者や子どもを扶養している場合に、老齢厚生年金に上乗せして支給される「加給年金」は支給停止となります。単独で受け取ることや、繰り下げることはできません。
<加給年金の受給要件および年金額>
日本年金機構「加給年金額と振替加算」より筆者作成
配偶者に係る加給年金の額は、特別加算額の173,300円(2024年4月から)と合わせて408,100円。歳の離れた配偶者や、小さい子どもがいる場合には特に、無視できない金額と言えます。そこで1つの解決策は、老齢基礎年金だけを繰り下げる方法です。繰り上げ受給とは異なり、老齢基礎年金と老齢厚生年金、どちらか一方だけの繰り下げもできるので、この受給方法に基づく年金額の試算も行ってみるとよいでしょう。
厚生年金でやってはいけないこと④:在職老齢年金の仕組みを知らずに働く
年齢に関係なく、賃金を得ながら老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金を含む)を受給している人が注意しておきたい仕組みが、「在職老齢年金」です。
在職老齢年金では、1ヶ月あたりの賞与額を含む月額給与と老齢厚生年金の額が、「支給停止調整額(2024年度:50万円)」を超えた場合、老齢厚生年金のうち50万円を超えた部分の2分の1の額が支給停止されます。さらに、支給停止された部分は、繰り下げ受給による増額の対象にならない点にも注意が必要です。
<在職老齢年金の仕組み>
日本年金機構「働きながら年金を受給する方へ」より
老齢期を迎えてもなお働くことは素晴らしいことですが、この仕組みを知らないまま、セカンドライフの家計収支を立てているなら、見直しが必要かもしれません。在職老齢年金による支給停止を考慮した年金見込み額は、公的年金シミュレーターやねんきんネットの試算ツールから簡単に知ることができるので、積極的に活用しましょう。
なお、在職老齢年金は、厚生年金保険の仕組みです。老齢基礎年金は、加入実績に基づいて全額が支給されるので安心してください。
厚生年金でやってはいけないこと⑤:失業給付と老齢厚生年金の併給調整を知らない
離職して新しい仕事を探す場合には、失業給付(雇用保険の基本手当)を受けることができますが、65歳未満の人が失業給付と老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金を含む)を同時に受け取ることはできません。
<失業給付と年金の調整の例>
日本年金機構「失業給付・高年齢雇用継続給付の手続きをされた方へ」より
さらに、60歳に到達した時点に比べて賃金が75%未満に低下した、雇用保険の加入期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の人は、賃金額の最大15%(2025年4月から10%)に相当する金額が「高年齢雇用継続給付」として支給されます。
年金を受けながら厚生年金保険に加入している人が高年齢雇用継続給付を受ける場合には、(在職による年金の支給停止に加えて)標準報酬月額の最大6%に相当する老齢厚生年金額が支給停止となることも、次の例で確認しておきましょう。
●高年齢雇用継続給付と老齢厚生年金の併給調整の例
【前提】
・60歳に到達したときの賃金:35万円/月
・60歳に到達した後の賃金:20万円/月
・特別支給の老齢厚生年金:10万円/月
【計算】
・高年齢雇用継続給付:3万円(20万円×15%)
・在職による年金の支給停止額:0円
・高年齢雇用継続給付による年金支給停止額:1.2万円(20万円×15%×0.4)
・毎月の受け取り額:31.8万円(20万円+3万円+10万円-1.2万円)
なお、加入期間と平均標準報酬額に応じて決まる老齢厚生年金の報酬比例部分は、この期間も増え続けており、将来の支給額に反映されます。
年金の知識がセカンドライフを豊かにする
今回は、厚生年金をもらえる人が知っておかなければならない、受け取り時の重要なポイントを5つ紹介しました。せっかく頑張って働いて保険料を納めてきたのに、手続きの漏れや、制度に対する誤解で「こんなはずではなかった」と後悔はしたくないですよね。60歳から75歳までの間で自由に受給の開始時期を選べる公的年金は、その知識がセカンドライフを豊かにする強力な武器となります。年金事務所や、ファイナンシャルプランナー等も活用しながら、人生100年時代の準備を確実に進めていきましょう。
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神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker
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