25/05/06
国民年金は生涯でいくら納めて、いくらもらえる?受給して元がとれるのは何年?

1960年度生まれのみなさんは、2025年度、老齢年金の標準的な受給開始年齢である65歳を迎えます。亡くなるまで支給される老齢年金は、長生きをすればするほどお得ですが、現役期間にずっと自営業等で国民年金保険料を納めていた人は、何年で保険料の元がとれるのでしょうか。そこで今回は、40年間で納めた国民年金保険料の合計額と2025年度の基礎年金額を比較するとともに、年金の請求前の今まだ間に合う選択肢や、現役世代への教訓を紹介します。
40年間で納めた国民年金保険料の合計額は561万円
日本国内に住む20歳以上60歳未満の人は全員、公的年金制度に加入しなければなりません。1960年4月2日生まれの人の国民年金加入期間は、1980年4月から2020年3月までの480ヶ月です。国民年金保険料の合計額は、月額保険料3,770円の1980年度から、1万6410円となった2019年度にかけて、561万8040円にのぼります。
●2025年度の基礎年金の満額は83万1696円
2025年度の基礎年金の満額は月額6万9,308円、年額で83万1696円(1956年4月2日以後生まれ)。したがって、65歳から満額で受給を開始し、仮にこの金額がずっと受け取れたとすると、「6.8年」で国民年金保険料の元がとれる計算です。
公的年金の額は、賃金や物価の伸びに合わせて毎年度改定が行われることから、この期間は今後の経済の動きによってさらに短くなる可能性があります。
<年金制度における保険料と給付の関係>

筆者作成
●2025年度に受給を始める1960年度生まれの損益分岐点は「7.4年」
しかしながら、ここまで用いられた国民年金保険料の金額は、納付した当時の名目上の価格であり、現在の経済水準に置き換えた方が、これまでの拠出・負担の実態をより表しているといえるでしょう。
そこで、各年度の国民年金保険料に、厚生年金で現在の経済水準を反映する際に用いられる「再評価率」を乗じると、40年間の国民年金保険料の合計額は約614万2072円と換算できます。したがって、2025年度に65歳から受給を開始する1960年度生まれの人は、保険料の元がとれるまで「7.4年」かかる見通しです。
<1980~2019年度の国民年金保険料の推移>

筆者作成
繰り下げ受給をすると何歳で国民年金保険料の元がとれるのか?
65歳から7.4年、つまり73歳を迎えるまでに国民年金保険料の元がとれるという試算結果は、日本人の平均寿命から考えても、多くの人にとって「払い損」とはならず、比較的前向きな気持ちになっているところではないでしょうか。しかしながら、もらえる年金が基礎年金だけ、もしくは2階部分の厚生年金が手薄な人は、元をとること以上に、年金で老後の生活費がまかなえるよう年金額を増やすことが大切です。
●75歳受給開始でも80歳を迎えるまでに保険料の元はとれる
老齢年金の標準的な受給開始年齢は65歳ですが、66歳以後75歳までの間に受給開始を繰り下げることで、年金額を増やすことができます。その増額率は、1ヶ月繰り下げるごとに0.7%で、亡くなるまで変わりません。
例えば、2025年度83万1696円の基礎年金は、受給開始を70歳まで繰り下げていた人は118万1008円(増額率:42.0%)、75歳まで繰り下げていた人は 153万320円(増額率:84.0%)となります。したがって、国民年金保険料の元がとれるまでの期間もまた、70歳受給開始で「5.2年」、75歳受給開始で「4.0年」と、65歳受給開始よりも短くなり、男性でも平均寿命を迎えるまでに元がとれる計算です。
<各年齢時点における受給開始年齢別の総支給額>

筆者作成
●請求手続きがまだなら繰り下げ受給は間に合う
繰り下げを待機している期間の生活費や、年金額が増えることで税金や社会保険料が増加するといったいくつかの留意点はあるものの、繰り下げ受給は老後資金の選択肢を広げることでしょう。
2025年度に65歳を迎えるみなさんの中には、「もう繰り下げ受給は間に合わないのでは?」と思っている人もいるかもしれませんが、まだ年金受給に向けた請求手続きを行っていないのであれば安心してください。年金は65歳に到達して自動的に支給が開始されるわけではなく、請求手続きが必要となります。受給開始を繰り下げるかどうか悩んでいるのであれば、結論が出るまで請求手続きを待ってみるのも一つの手です。
2025年度の国民年金保険料に基づく損益分岐点は「10.1年」
ここまでは1960年度生まれの人を例に、国民年金保険料の元がとれるかを見てきました。ちなみに、2025年度の国民年金保険料17,510円を、40年間納めた場合の支払総額は840万4800円となります。1960年度生まれの支払総額よりも約226万円増、元がとれるまでの期間も2.7年長い10.1年となるこの結果に、現役世代の多くが驚くはずです。
●国民年金保険料は17,000円の上限に到達
1980年度に6,892円(現在価額)だった国民年金保険料は、この45年間で約2.5倍に増加しました。以前は年金給付に合わせる形で保険料の引き上げが行われてきましたが、保険料水準の上限を定めその範囲内で給付を行う仕組みが、2004年の年金制度改正ですでに導入されています。2025年度の保険料17,510円は、その上限17,000円(2004年度価格)に、物価や賃金の伸びを反映したものです。
●「国民年金保険料vs.厚生年金保険料」ポイントは所得再分配機能
現役世代への負担に対する配慮がなされているとはいえ、所得等に関係なく定額の国民年金保険料は、低所得の人ほどその負担が大きくなります。
年収150万円(標準報酬月額12万6000円)の人が厚生年金保険に加入できる場合、労使折半後の厚生年金保険料は月1万1529円です。自己負担額は国民年金保険料より少ないのにもかかわらず、厚生年金保険料には1階部分の基礎年金分が含まれているほか、2階部分の厚生年金も支給されます。つまり、厚生年金保険に加入する働き方は、「保険料の元がとれるか」と「年金額を増やす」という両方の視点から、現役世代にとってメリットが大きいといえるでしょう。
「国民年金保険料の元がとれる」より大切なことにも目を向けよう
今回は、1980年4月から2020年3月まで国民年金保険料を納めてきた1960年度生まれの人は、65歳を迎える2025年度から何年で保険料の元がとれるかを解説しました。40年間納めた保険料の損得に関心が向かうことは自然なことですが、「7.4年」という結果以上に大切なのは、年金額そのものであり、年金で老後の生活費をどのくらいまかなえるのかという現実の問題です。
年金受給を目前に控えた世代も、働き盛りの現役世代も、「どうすればもっと老後の安心がつくれるか」という広い視点で、年金額を増やすさまざまな選択肢に目を向けてみましょう。
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神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker

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