25/03/25

この記事のライター

池田 幸代

国民年金保険料「未納が４割」は大ウソ、実際の未納率は？

物価は上昇しているのに、「年金は実質的に目減りし続けている」と聞くと、「将来自分は年金がもらえるのだろうか」「年金の制度が破綻するのではないか」と不安に感じます。実際、自分はきちんと国民年金保険料を納めているにもかかわらず「公的年金の未納率は4割」などと耳にすれば、「年金を納めるのは結局損だ」と思うこともあるでしょう。しかし、本当に損なのでしょうか。今回は、年金の正しい知識を増やし、国民年金保険料の未納期間をカバーできる制度を押さえておきましょう。

国民年金に加入する人と加入の種類

日本の公的年金には、日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の人がみんな必ず加入する「国民年金」と、会社員や公務員などが加入する「厚生年金」があります。このうち、国民年金は、加入している人を職業によって3つの種類に分類しています。

第1号被保険者：自営業、フリーランス、学生、無職の人など
第2号被保険者：会社員・公務員など
第3号被保険者：会社員・公務員などに扶養されている配偶者

加入している国民年金の種類によって、国民年金保険料の納める方法、手続きなどが違っています。
第1号被保険者は納付書をもとに自分で国民年金保険料を納付します。一方、第2号被保険者は勤務先が給料から自動天引きしてくれますし、第3号被保険者は第2号被保険者の保険料の中に含まれているので、国民年金保険料を自分で納める必要はありません。ですから、そもそも国民年金保険料の納付について未納が生じるのは、第1号被保険者だけということになります。

未納率とは何をもとにしているのか？

国民年金の被保険者には、種類があることがわかりました。国民年金保険料は、税金と同じように納付する義務があります。しかし、第1号被保険者には、失業したり、収入が減ったりして、経済的に困っていて国民年金保険料を納めることがむずかしい場合もあります。そうしたときには、国民年金保険料の免除（全額・一部）や納付猶予があります。

また大学や専門学校などに通う学生には、学生納付特例という国民年金保険料の納付猶予制度があります。2019年4月からは、産前産後期間の国民年金保険料の免除もスタートしています。特に第1号被保険者の年齢構成では、20～24歳の年齢の人が占める割合が全体の24.3％と最も多く、若い年代の人たちに国民年金保険料の免除等の制度を知ってもらうことが重要になります。

厚生労働省の「令和5年度の国民年金の加入・保険料納付状況」によれば、国民年金保険料の納付率は、83.1％（最終納付率）という結果が報告され、前年度から2.4ポイントも増加しています。 2012年度（平成24年度）に、最終納付率64.5％という数字が発表されている時期もありました。しかしその後、国民年金保険料の納付率は11年連続で上がっています。

＜国民年金保険料の納付率の推移＞

過去には国民年金保険料の「現年度納付率」が60％を下回った時期もありました。これをうけて国民年金保険料は「未納率4割」と言われることもありました。確かに「4割の人が国民年金保険料を納めていないではないか」と思われるかもしれません。

しかし、これは国民年金保険料を全く納めていない人が4割いるということではありません。国民年金保険料の納付率は、納付義務がどれだけ果たされているか見るための指標で、「納付しなければならない月数」に対する「実際納付した月数の割合」です。つまり、人数が4割ではなく、月数が4割だったということです。

また、国民年金保険料の納付率の指標において、国民年金保険料は納付期限から2年以内に納めることができるので、過年度2年目納付率を最終納付率としています。

しかも、会社員や公務員の場合には、国民年金保険料は給与から差し引かれているので、未納はありません。国民年金保険料の未納は第1号被保険者だけのことになります。国民年金の第1号被保険者の数が減少しているなかで、国民年金保険料の実際納付した月数の割合が増えることは大きな意味があります。

本当の年金未納率はどれくらいなのか？

それでは、国民年金保険料の本当の未納率はどれくらいなのでしょうか？
実は、前出の「令和5年度の国民年金の加入・保険料納付状況」によれば、1.2%です。内容を確認していきましょう。

令和5年度の報告では、国民年金の加入者数が全体で6745万人になっています。
・第1号被保険者　1387万人
・第2号被保険者　4672万人
・第3号被保険者　 686万人
・合計　　　　　　6745万人
そのうち、国民年金保険料の未納者は79万人です。

国民年金保険料の未納者とは、国民年金第1号被保険者であって、24か月分の国民年金保険料が未納になっている人をいいます。国民年金保険料の支払いがむずかしい場合には、免除や納付猶予が使えます。免除や納付猶予を利用した人は、未納者ではありません。

＜公的年金加入者数の推移＞

令和5年度の調査では、国民年金保険料の未納者数は79万人です。ですから、単純に国民年金保険料の未納者の数を国民年金の加入者で割って計算すると、1.2％になります。国民年金保険料の未納者は40％と聞いていたけれど、実際の数字はかけ離れていたのだと、驚かれるかもしれません。表面的なことだけに惑わされないよう、本質を知る必要があります。

日本年金機構は、国民年金の保険料の最終納付率が、令和4年度に初めて80％を超えたことを受けて、今後5年間で納付率80％後半を目指す計画です。

具体的には、国民年金保険料を納めやすい環境づくりの整備をしています。
口座振替、クレジットカード納付、コンビニ納付、インターネット納付など金融機関の窓口以外に納付できる方法を増やしています。特にインターネット納付では、スマートフォン決済アプリ納付を利用している数が大幅に伸びています。毎月の納付以外に前納制度を設け、毎月納付するよりも割安感のある方法も取り入れています。

納付状況には納付率が高い地域と低い地域があるので、地域の実情に合わせた対策をとっています。その結果、前年度と比較すると、すべての都道府県で最終納付率が上昇しています。また、外国人加入者の増加に合わせて、多言語による相談を受け付けたり、パンプレットを整備したり、サービスを向上させたりすることも検討しています。

このほか、国民年金保険料が納められないときの免除や納付猶予、学生納付特例などの制度が使えることを知ってもらう活動を行っています。

国民年金保険料を納められないときの制度

国民年金は、20歳から60歳までの40年間加入して保険料を納め、65歳から満額の年金を受け取るしくみになっています。しかし、長い人生のなかでは、収入が減る、失業などで国民年金保険料を納めることが経済的に困難になることもあります。そういった場合には、国民年金保険料の免除や納付猶予の制度があります。

国民年金保険料の免除は、本人・世帯主・配偶者の前年の所得が一定以下の場合や、失業した場合などに利用できます。申請書を提出して承認されれば、国民年金保険料の全額または一部を免除される制度です。ちなみに1月から6月までに申請する場合には、前々年の所得で判断されます。一部免除は、4分の3、半額、4分の1があり、所得に応じて納める国民年金保険料が変わります。

国民年金保険料の納付猶予は、20歳以上50歳未満の方で、本人と配偶者の前年の所得が一定以下の場合に利用できます。本人が申請して承認されると、国民年金保険料の納付が猶予されます。

免除や猶予の承認を受けた期間は、老後の年金や障害年金、遺族年金を受け取るための加入期間になります。国民年金保険料を全額免除された場合でも、国民年金保険料を全額納付した場合の年金額の2分の1が受け取れます。
国民年金保険料が未納になると、その期間は年金を受け取るための加入期間に入りません。もし、免除や納付猶予期間中に障害の状態になったり死亡したりしても、一定の要件に該当すれば、障害年金や遺族年金を受け取ることができます。しかし、未納のままにしておくと何の保障も受けられません。

また、大学や短大、専門学校（夜間や通信制も含む）などに通う学生の場合には、国民年金保険料の学生納付特例があります。20歳になったときから国民年金の被保険者になり、国民年金保険料の納付が義務づけられますが、申請することで在学中の国民年金保険料の納付が猶予される制度です。

10年以内であれば後から国民年金保険料を納める「追納」ができます。一定期間を過ぎると国民年金保険料に利息が付きますが、老後の年金を満額受け取るために納付をおすすめします。

＜免除・猶予・特例・未納の違い＞

年金を増やす、年金が受給可能になる制度がある

国民年金保険料を払い忘れたり、払うことが困難なときであったりしても、2年以内なら後からさかのぼって国民年金保険料を納めることができます。また、免除制度や納付猶予制度、学生納付特例を利用した人は、免除や猶予されていた期間の国民年金保険料を後から納めることができる「追納制度」が利用できます。追納できるのは、申し込みをして承認された月の10年以内の期間に限られます。

さらに、老齢基礎年金の受給期間を満たしていない場合や、未納期間があって年金を満額受給できない場合で、厚生年金保険や共済組合に加入していないときには、60歳以降でも未納期間をカバーできる「任意加入」という制度を利用することができます。

任意加入は、
・未納期間をうめて年金額を増やしたいときは65歳までの間
・受給資格期間（10年以上の加入期間）を満たしていない人は、受給資格期間を満たすまで、最大70歳までの間
で利用することができます。
任意加入の申し込み方法は、居住地の市区町村の窓口に問い合わせてください。

年金をもらえずに損するのは「自分」

年金制度には、高齢になったときにもらう老齢年金ばかりではなく、万一のときに受け取れる障害年金や遺族年金もあります。きちんと国民年金保険料を納付していれば、亡くなった人が生活を支えていた遺族が給付を受けたり、年金加入中の病気やケガで障害の状態になったりしても、継続的に受け取れる年金や一時金があります。

年金の加入を終えた後でも、60歳以上65歳未満で日本国内に住んでいる場合は、障害基礎年金の対象になります。老後の備えだけではなく、障害を負ったときの備えになることは、大きな安心感につながります。

筆者の知人は60歳のときにある病気が見つかり手術を受けました。手術は成功したのですが、大きな意識障害が残り、術後寝たきりで話すこともできなくなりました。そこで、本来なら65歳からもらう予定の年金を「障害年金」として受給するよう準備を進めています。障害年金を受け取るには、初診日の前々月までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間（厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合員期間を含む）と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上必要です。きちんと国民年金保険料を納めているからこそ障害年金が受け取れるのです。

国民年金保険料の未納は老後の年金の加入期間に反映されないだけではなく、障害年金や遺族年金を受け取るための加入期間にも影響してきます。万一の場合に保障がないと、大きなダメージを自分も家族も受けることになり、生活が破綻するかもしれません。

支給されている国民年金の金額のうち、半分は国が負担しています。もし免除期間があっても、国が負担する半分は受け取ることができ、残りの半分は国民年金保険料を納めた割合に応じて年金を受け取ることができるしくみになっています。全額免除の月でも年金額はゼロではないのです。しかし、国民年金保険料を未納で払わなかった場合には、国が支払う負担分の金額をもらうことはできません。

年金は生きている間生涯にわたってもらうことができます。年金をもらえずに損するのは、誰でもない自分です。2017年8月からは老後にもらう国民年金の受給資格期間が、25年から10年に短縮されました。もし誤った知識で国民年金保険料を未納にしているのなら、今すぐに納付のための行動を起こしましょう。

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池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役　本気の家計プロ®

証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー（AFP）を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー

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