24/10/25
「10月の給与が減った」人は絶対に確認すべき給与明細のある項目
毎月の給与、だいたいいくらもらえるかほとんどの人は把握しているでしょう。しかし、そういう人の中には、10月に振り込まれた金額を見て「あれ、何で減っているの?」と驚く人もいるかもしれません。
もしも10月の給与が減っていたならば、給与明細を絶対に確認しましょう。給与が減った理由がわかります。今回は、10月の給与が減った理由とその影響を詳しく解説します。
10月の給与が減ったのはなぜ?
10月の給与が減った理由は、社会保険料にあります。10月は、社会保険料の見直しが給与に反映される月だからです。
給与から天引きされる社会保険には、健康保険、厚生年金保険、介護保険(40歳以上の方のみ対象)、雇用保険などがあります。このうち、健康保険、厚生年金保険、介護保険は、毎年7月に社会保険料の見直しをする「定時決定」があります。
定時決定では、直近3ヶ月(4月・5月・6月)の給与や各種手当をもとに「標準報酬月額」を算出します。これにより保険料の金額が決まり、9月1日から反映されます。
例えば、4月~6月に残業などが多ければ、その分給与額が増え、標準報酬月額の等級が上がり、社会保険料が増えます。しかし、10月になって残業が4月〜6月よりも減れば、残業代は少なくなります。少ない支給額に対して、増額した社会保険料を負担することになります。つまり、残業が多い時期ではなく、残業が少なくなった時期に、多く社会保険料を支払うというタイムラグが原因で、手取り額が減ってしまうのです。このように、標準報酬月額の等級は、給与額によって変化します。もし、10月分の給与が減ったのであれば、定時決定において、標準報酬月額の等級が上がったからかもしれません。
ですから、まずは、社会 保険料が前月と比べて違いはないかチェックしてみましょう。
多くの会社の給与明細の備考欄には「標準報酬月額の変更に伴い、社会保険料が変更になっています」という説明が添えられているはずです。
給与から控除される社会保険の決まり方
健康保険や厚生年金保険、介護保険などの社会保険料の見直しのプロセスについて、もう少し詳しく説明します。
●標準報酬月額とは
標準報酬月額とは、会社員が会社から支給される毎月の給料などを区切りのよい幅で区分したもの。それぞれの社会保険料を出すときの計算のもとになるものです。
健康保険・介護保険の標準報酬月額は、第1級の5万8千円~第50級の139万円までに区分されています。また、厚生年金の標準報酬月額は、8万8千円~65万円までの32等級に区分されています。
標準報酬月額を計算する基準になる金額は、基本給だけでなく、役職手当、資格手当、通勤手当、残業手当など、労働の対象として支給されるものをすべて合計した「総報酬額」です。
例えば、毎月の給与などの総報酬額が21万円~23万円であれば、標準報酬月額は22万円のグループにまとめられます。このとき健康保険・介護保険は18等級、厚生年金は15等級に属することになります。
このような標準報酬月額をまとめた表は、あらかじめ都道府県ごとに作成されています。その中では、等級ごとに個人が負担する健康 保険、介護保険、厚生年金保険料が一目でわかるようになっています。
●標準報酬月額表(東京都・2024年3月分から)
協会けんぽのウェブサイトより
●定時決定での計算方法と反映される時期
毎年7月に行われる定時決定では、会社が4~6月の3か月間に支払った給与の総支給額をもとに計算し、年金事務所または健康保険組合へ書類を提出します。
諸手当を含む総支給額をもとに、標準報酬月額を計算してみましょう。なお、いずれの月も17日以上勤務していることが前提となります。
例)総支給額が4月:23万円、5月:25万円、6月:24万円の場合
・標準報酬月額の計算式=総報酬額(4月+5月+6月)÷3
数字をあてはめ計算をすると以下のようになります。
(23万円+25万円+24万円)÷3=24万円
標準報酬月額は「24万円」に決定します。等級は、健康保険・介護保険では19等級、年金保険では16等級になり、9月から翌年8月まで適用されます。
●毎月の社会保険料の計算方法
実際に控除される社会保険料を計算するときは、標準報酬月額に健康保険、介護保険、厚生年金保険などの保険料率を掛けて計算します。このとき算出された保険料は、会社と社員本人で負担します。実際の計算式は以下のとおりです。
① 健康保険
被保険者が40歳未満の場合:標準報酬月額×健康 保険料率
被保険者が40歳以上の場合:標準報酬月額×(健康保険料率+介護保険料率)
保険料率は、都道府県ごとに違いがあります。会社の本社所在地によって適用される料率が決まります。
② 厚生年金保険
標準報酬月額×18.3%
保険料率は、2017年9月以降固定されています。
算出した保険料は、会社と社員が折半で負担します。給与明細の健康保険、介護保険、厚生年金などの控除欄に表示されているのは、社員負担分です。
実際の例で、社会保険料を計算してみましょう。
例)Aさん 33歳
勤務先の本社所在地:東京
標準報酬月額:24万円(健康保険では19等級・厚生年金では16等級に該当)
健康保険料率:9.98%
厚生年金保険料率:18.3%
① 健康保険料
24万円×9.98%=2万3952円
Aさんが負担する保険料は、2万3952円÷2=1万1976円
② 厚生年金保険料
24万円×18.3%=4万3920円
Aさんが負担する保険料は、4万3920円÷2=2万1960円
定時決定で標準報酬月額が決定すると、原則1年間は変更することはありません。しかし、様々な理由で給与の大幅な変動が3か月以上続けば途中で標準報酬月額を変更する「随時改定」もあります。
標準報酬月額が改定されるケースにはどんなことがあるのか
標準報酬月額の等級改定は、給与の手取り額が多くなったり少なくなったりするだけではありません。そもそも、標準報酬月額は、給与に見合った健康 保険料や厚生年金保険料を計算するためのものです。その内、厚生年金保険料は、将来もらえる老齢厚生年金を準備するための掛金です。そのため、何かの理由で給与が多くなれば、厚生年金保険料を多く納めることになり、その分、将来もらえる老齢厚生年金が増えます。
最近の動向で標準報酬月額が改定されるケースには、賃上げ、社会保険の適用拡大がありそうです。それぞれの背景を簡単に確認しましょう。
●賃上げ
物価上昇や人材確保が理由で企業が賃上げを行うケースが増えています。新卒の初任給だけでなく、既存の社員の給与も一律で◯万円アップ、あるいは◯%アップという具合に増やしている企業もあります。給与が上がれば標準報酬月額の等級も上がる可能性が高くなります。もっとも、賃上げ分以上に社会保険料が増えるわけではありませんので、この場合は「給与が減った」とはならないでしょう。
●社会保険の適用拡大
2024年9月まで、パート・アルバイトの方が社会保険の適用対象となる年収「106万円の壁」の対象になる人の条件は、
・従業員数が101人以上
・労働時間が週20時間以上
・賃金が月8万8000円以上
・学生ではない
・2カ月を超える雇用が見込まれる
をすべて満たす場合となっていました(なお、これを満たさない場合も、年収が130万円を超えると社会保険の適用対象となります)。
2024年10月からは、従業員数が「51人以上」の勤務先で働くパート・アルバイトの方が新たに社会保険の適用対象となります。これに該当する人は、給与の手取り額が少なくなる可能性があります。ただし、多くの場合11月に支払われる10月分の給与から反映されます。
もっとも、手取りが減る一方で、社会保険に加入することで、将来の年金や医療保障を充実させることができる点も忘れてはなりません。
賃上げで給与が増えた場合、老齢厚生年金はどの程度多くなるのか
賃上げで「標準報酬月額の等級」が上がった場合、将来もらう年金にどのくらい影響があるか実際に試算してみましょう。
老齢厚生年金を計算する前提条件は以下のとおりです。
・Aさんは、2024年4月時点で33歳、大学を卒業して就職
・年金を計算する際のベースになる「平均標準報酬額」は29万円。
平均標準報酬額は、1年間にもらうボーナスも含めて考えます。今回の年間のボーナスは、60万円と仮定。60万円÷12か月=5万円。毎月の給与の標準報酬月額は24万円となります。
ざっくりとした老齢厚生年金の受取額は、 保険料の納付月数と収入から、以下の式で計算できます。
(A)=平均標準報酬月額×7.125/1000×2003年3月までの加入月数
(B)=平均標準報酬額×5.481/1000×2003年4月以後の加入月数
(A)+(B)=老齢厚生年金の年額
① 賃上げ前の年金額
年間給与24万円×12=288万円
年間賞与60万円
加入期間:2010年4月から60歳までの38年(456か月)
平均標準報酬額:(288万円+60万円)÷12か月=29万円
2010年から就職のため(B)の式のみで計算
(B) 29万円×5.481/1000×456か月=72万4807円≒72万円
実際にもらえる老齢厚生年金は年間約72万円になります。
② 賃上げにより月額2万円が加算された場合の年金額
年間給与24万円×12+年間賃上げ代24万円=312万円
年間賞与60万円
加入期間:2003年4月から60歳までの38年(456か月)
平均標準報酬額:(312万円+60万円)÷12か月=31万円
上記①と同じく、(B)の式のみで計算
(B) 31万円×5.481/1000×456か月=77万4794円≒77万円
実際にもらえる老齢厚生年金は年間約77万円になります。
上記の試算から、賃上げ前、賃上げ後の場合で比較してみると、もらえる年金が年額5万円違うことがわかります。
現実には、残業代等も含まれる場合もあるでしょう。そうなれば、年収はさらに増えると思われます。そのため、上記の数字は概算にすぎませんが、賃上げ額の月額2万円(年間24万円)が、将来の年金額に大きく影響することがご理解いただけることでしょう。
社会保険料が増えることでのメリット
もし、10月の給料の手取りが減っていたとしても、長い目で見れば「そう悪いことではない」といえます。なぜなら、社会 保険料が増えることにはメリットがいくつかあるからです。
●障害厚生年金、遺族厚生年金が増加する
厚生年金は、老後を支える老齢厚生年金にばかり意識が向きますが、万が一障害がある状態になったときに受け取る「障害厚生年金」や、万一お亡くなりになった場合にご遺族が受取る「遺族厚生年金」があります。標準報酬月額が上がり、社会保険料が増えることは、遺族厚生年金や障害厚生年金の額にも影響します。
●傷病手当金が増加する
健康保険からの医療給付には、病気や怪我のために一定期間以上、会社を休んだ時にもらう傷病手当金、出産のため会社を休み、給料がもらえないときにもらう出産手当金があります。どちらも、支給されるのは、「一定期間の標準報酬月額を平均した額×2/3ほど」です。標準報酬月額があがれば、受け取る際も多くなる可能性があります。
10月の給与の手取り額が、増えた、減ったということに注意するだけでなく、さらに一歩踏み込んで、将来の年金、万が一の際の給付金などへの影響も考えてみましょう。
2024年4月からの「雇用保険」の料率は?
給料から天引きされる社会保険には「雇用保険」もあります。雇用保険は、労働者の生活及び雇用の安定と就職の促進を図るための制度で、支給される給付金としては、失業給付金などがあります。なお、雇用 保険料は従業員と事業主がそれぞれ負担しています。
2024年4月1日〜2025年3月31日の雇用保険料率は、次のとおりです。
●雇用保険料率(2024年4月1日〜2025年3月31日)
厚生労働省の資料より
労働者が負担する雇用保険料は「賃金×雇用保険料率」で計算することができます。
●「一般の事業」の雇用保険料率を計算
【毎月の給与が25万円だった場合】
・2024年4月1日から2025年3月31日まで
労働者負担:6/1000 25万円×0.006=1500円
これより、2024年4月分の給与から控除される雇用保険は1500円です。
雇用保険料の対象になる賃金についても、基本給、残業代、通勤手当、扶養手当、資格手当、賞与など、従業員に労働の対償として支払われるものすべてが含まれます。
手取り減を「お金のことを考える機会」にしよう
毎年、4月、5月、6月の給料を対象に「標準報酬月額」の見直しがあります。10月にもらった給料には、その結果が反映されており、手取りが減る人、増える人、さまざまなのではないでしょうか。
最近は、いろんなものやサービスの値段が上がっています。手取りが減った人の中には「家計のやり繰りが大変…」と感じる方も少なくないかもしれません。
このタイミングを今後のお金の使い方を見直したり、老後資金を考えたりする機会にしていきましょう。
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舟本美子 ファイナンシャルプランナー
「大事なお金の価値観を見つけるサポーター」
会計事務所で10年、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として14年働いたのち、FPとして独立。あなたに合ったお金との付き合い方を伝え、心豊かに暮らすための情報を発信します。3匹の保護猫と暮らしています。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。FP Cafe登録パートナー
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