25/07/16
厚生年金「月17万円」もらえる人の割合は男女で全然違う

老後の生活費として、ひとり暮らしに必要な金額は月約17万円とされています。これは総務省「家計調査報告(2024年)」にある、65歳以上単身世帯の平均支出をもとにした数字です。そのため、年金だけで生活をまかなうには、毎月17万円以上の年金を受け取る必要がありますが、実際にその額を受け取っている人はどれほどいるのでしょうか。
今回は、厚生年金の受給額が月17万円以上の人の割合を男女別にご紹介し、背景にある働き方や賃金格差についてもわかりやすく解説します。
年金「月17万円以上」もらっている人はどのくらい?男女でここまで違う
厚生労働省年金局が公表した「厚生年金保険・国民年金事業の概況 2023(令和5)年度」によると、老齢厚生年金(基礎年金を含む)の平均月額は14万6429円です。
このうち、男性は平均16万6606円、女性は10万7200円と、大きな差があります。
また、厚生年金の受給権者(年金を受け取る資格がある人)は全国で約1605万人。そのうち、月17万円以上もらっている人は約563万人(全体の35.1%)にのぼります。
さらに男女別の17万円以上の年金受給者を見ると、
・男性:総数1060万人に対し約537万人(約50%)
・女性:総数545万人に対し約26万人(約5%)
となっており、男女間で年金額に大きな開きがあることがわかります。
<老齢厚生年金月額別受給者数(老齢基礎年金を含む)>

厚生労働省年金局「厚生年金保険・国民年金事業の概況2023(令和5)年度」より
女性の年金が男性より少ない理由とは?
女性の年金額が男性よりも少なくなる背景には、さまざまな要因が関係しています。ここでは、3つ紹介します。
●女性の年金が男性より少ない理由1:女性の平均賃金は男性の約70%
厚生労働省「2024(令和6)年賃金構造基本統計調査」によると、2024年の平均賃金月額は、男性が約36万3100円、女性が約27万5300円です。女性は男性の賃金の約75.8%にとどまっています。実際、男性は年齢階級が高くなるにつれて賃金も高くなり、賃金ピークは55~59歳に44万4100円となるのに対し、女性のピークは、45~49歳に29万8000円(男性比約70%)と男性に比べ上昇が緩やかです。
このように、女性は男性よりも賃金が低いという現状があります。そのため、支払う厚生年金保険料も少なくなり、結果、将来の受給額も低くなってしまいます。
●女性の年金が男性より少ない理由2:女性の約53%が非正規で勤務
厚生労働省「労働力調査(基本集計)2024(令和6)年」によると、2024年の正規の職員・従業員数、非正規の職員・従業員数と男女別の割合は次のとおりです。
<正規職員と非正規職員の人数>

厚生労働省「労働力調査(基本集計)2024(令和6)年」より筆者作成
【正規の職員・従業員数と男女別割合】
・正規の職員・従業員数:3654万人
・男性:2355万人(64.4%)
・女性:1299万人(35.6%)
【非正規の職員・従業員数と男女別割合】
・非正規の職員・従業員数:2126万人
・男性:682万人(32%)
・女性:1444万人(68%)
【正規・非正規職員等の合計に対して、非正規職員の男性割合】
・男性、正規・非正規職員数の合計:3037万人
・男性、非正規職員等の割合:682万人(22.5%)
【正規・非正規職員等の合計に対して、非正規職員の女性割合】
・女性、正規・非正規職員数の合計:2743万人
・女性、非正規職員等の割合:1444万人(52.6%)
上記の調査より、2024年時点で女性の非正規雇用率は52.6%と、過半数を占めています。一方、男性は約22.5%。非正規雇用では、厚生年金に加入したとしても、正規社員と比べ賃金が低いため、年金受給額も少なくなりがちとなり、将来の年金額に大きく影響します。
●女性の年金が男性より少ない理由3:育児や介護による離職
女性の年金額が少なくなる背景には、結婚・出産・育児・親の介護といったライフイベントの影響で、仕事を辞めたり働き方を変えたりするケースが多いことも大きく関係しています。
たとえば、出産後に育児休業制度を利用しても、家事や子育てとの両立が難しく、フルタイムでの復職をあきらめて夫の扶養に入る人も少なくありません。この場合、「第3号被保険者」として保険料の支払いは免除されますが、加入は国民年金のみとなり、将来の年金受給額は厚生年金加入者に比べて大きく下がります。
また、子育てが落ち着いたころに復職した場合も、次は親の介護がはじまるケースも多くあります。介護の負担は女性に偏る傾向があり、パート勤務での就労時間を調整することになる場合もあれば、離職を余儀なくされる場合も。その結果、収入が減るだけでなく、年金の納付額も減り、将来の受給額に影響するのです。
つまり、女性の年金が少なくなるのは収入の問題だけでなく、ライフイベントに伴う働き方の変化が大きく関係しているのです。
自分の年金額を知り、老後資金の見通しを立てる
老後の生活に備えるためには、まず自分がどれくらいの年金を受け取れるのかを知ることが重要です。現在の収入や働き方によって年金額は大きく変わるため、早めに把握し、必要に応じて対策を取ることが求められます。年金額を確認する方法として「ねんきん定期便」と「公的年金シミュレーター」があります。
●ねんきん定期便とは
「ねんきん定期便」とは、毎年、誕生月に日本年金機構から届くハガキです。これには、主に、今までの年金納付実績や、将来の受給見込み額等が記載されています。年齢ごとに少し記載される内容がかわります。
・50歳未満の人:「これまでの加入実績に応じた年金額(年額)」と「年金加入期間」が確認できます。加入実績に応じた年金額は、あくまで途中経過の金額であり、今後の加入状況によって増えていきます。
・50歳以上の人:「年金加入期間」と「受取見込額」が記載されています。見込額は、「60歳まで今の状態で保険料を納めた場合」にもらえる年金額です。これにより、より具体的に老後の生活設計をイメージできます。
ねんきん定期便は郵送されるだけでなく、以下の日本年金機構の「ねんきんネット」でも確認できます。もしうっかりハガキを失くした場合でも、同じ内容を確認することができます。
●公的年金シミュレーターとは
「公的年金シミュレーター」とは、働き方・暮らし方の変化に応じて、将来受給可能な年金額を簡単に試算できるツールです。60歳まで働いた場合と65歳まで働いた場合の比較や、パート・フルタイム・起業など働き方の違いが年金額にどう影響するかを確認できます。また、年金の繰り下げ受給による増額(1カ月につき0.7%、最大84%)もシミュレーション可能です。
なお、公的年金シミュレーターで表示される年金額は「額面」です。そこから、税金や健康保険料や介護保険料などが控除されるため、実際の手取りは85~90%程度になる点に注意が必要です。公的年金シミュレーターは、ねんきん定期便に記載された二次元コードからスマホなどでアクセスするのが便利。厚生労働省のウェブサイトからアクセスすることも可能です。
年金だけで足りないかも…そんな時は“今できる備え”を
老後の生活費は、ひとり暮らしでも月に約17万円が必要とされています。しかし、女性でその金額以上の年金を受け取っている人は、全体のわずか約5%。男性のおよそ50%と比べても、その差は歴然です。
けれど、「年金が少ないから不安」と思い詰めるのではなく、少しずつできる対策を始めてみませんか?
たとえば、iDeCo(イデコ)やNISAなどの制度を活用して、無理のない範囲で資産形成をスタートすること。今のうちから長く続けることで、将来の備えになります。
また、退職後も自分のペースで働き続けられる環境を整えておくことも、心強い収入源に。さらに、通信費・保険料・光熱費などの固定費を見直すことで、毎月数千円〜1万円以上の節約につながります。
「年金だけじゃ足りないかも…」という不安は、多くの女性が感じているもの。だからこそ、早めに“自分の老後”に向き合い、できることから始めてみましょう。小さな備えの積み重ねが、未来の安心につながっていくでしょう。
【関連記事もチェック】
・2025年度の「住民税決定通知書」は絶対確認、見るべきところはココ!
・申請忘れは大損…定年後の手取りを増やす6つの手続き
・毎年6月に届く「年金振込通知書」確認しないと大損の可能性
・厚生年金「夫16万円・妻10万円」、夫が亡くなったら妻の年金はいくらになるのか
・厚生年金で絶対やってはいけない5つのこと

舟本美子 ファイナンシャルプランナー
「大事なお金の価値観を見つけるサポーター」
会計事務所で10年、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として14年働いたのち、FPとして独立。あなたに合ったお金との付き合い方を伝え、心豊かに暮らすための情報を発信します。3匹の保護猫と暮らしています。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。FP Cafe登録パートナー

この記事が気に入ったら
いいね!しよう