24/06/11
年金に6万円上乗せされる「年金生活者支援給付金」はどうすればもらえる?
年金に上乗せする形で給付される「年金生活者支援給付金」をご存じですか?毎月約5000円、年約6万円の上乗せは、年金生活を送る上で大きなプラスになるでしょう。では、年金生活者支援給付金はどのような人がいくらもらえるのでしょうか? 今回は年金生活者支援給付金の内容を詳しく紹介します。
年金に上乗せして給付する年金生活者支援給付金制度
消費税が10%に引き上げられたのは、2019年10月。この増税により生活費の支出が増えたので、年金生活者の家計にも少なからず影響が出たのではないでしょうか。そこで国は、消費税を引き上げた分を活用して、公的年金等の収入やその他の所得が一定の基準以下になった年金生活者を支援することにしたのです。その支援が2019年10月にスタートした「年金生活者支援給付金制度」です。
年金生活者支援給付金制度は受給対象者に対し、年金に上乗せして給付金を支給する制度です。年金生活者支援給付金制度には「老齢年金生活者支援給付金」「補足的老齢年金生活者支援給付金」「障害年金生活者支援給付金」「遺族年金生活者支援給付金」の4種類があり、いずれの場合も対象者であれば受給できます。
老齢年金生活者支援給付金とは?
65歳以上の年金受給者に対する給付金を「老齢年金生活者支援給付金」といいます。
老齢年金生活者支援給付金の受給対象者は、下記のすべてを満たす人です。
【老齢年金生活者支援給付金の受給対象者】
・65歳以上で老齢基礎年金を受給している
・同一世帯全員の市町村民税が非課税である
・前年の公的年金等の収入金額とその他の所得の合計額が87万8900円以下である
※上記所得には障害年金や遺族年金などの非課税所得は含みません。
※前年の公的年金等の収入金額とその他の所得の合計額が77万8900円を超え87万8900円以下の方には「補足的老齢年金生活者支援給付金」(後述)が支給されます。
●老齢年金生活者支援給付金の給付額はいくら?
老齢年金生活者支援給付金は、次の(1)(2)の合計額になります。
(1)国民年金保険料の納付済期間に基づく額(月額)
= 給付基準額5,310円 × 保険料納付済期間/被保険者月数480月
(2)国民年金保険料の保険料免除期間に基づく額(月額)
= 給付基準額1万1333円(※) × 保険料免除期間/被保険者月数480月
(※)国民年金保険料の全額免除、4分の3免除、半額免除の場合、給付基準額は1万1333円ですが、4分の1免除の場合は5,666円となります。
上記はいずれも2024年4月時点での金額です。老齢年金生活者支援給付金は、物価の変動により毎年改定されることになっています。
所得が一定範囲内のときにもらえる補足的老齢年金生活者支援給付金
老齢年金生活者支援給付金には、「前年の公的年金等の収入金額とその他所得の合計額が87万8900円以下」という所得基準額が決まっています。ただ、この所得基準額を少しだけオーバーする人は、老齢年金生活者支援給付金を受給している人よりも収入が少なくなるという逆転現象が起きてしまいます。
そこで、所得の逆転現象をなくすために、前年の公的年金等の収入金額とその他の所得の合計額が77万8900円を超え87万8900円以下の人には受給額を調整するために「補足的老齢年金生活者支援給付金」を支給するようになったのです。
補足的老齢年金生活者支援給付金計算方法は以下の通りです。
●補足的老齢年金生活者支援給付金の給付額はいくら?
給付基準額5,310円 × 保険料納付済期間/被保険者月数480月×
{(補足的老齢年金生活者支援給付金の上限額87万8900円-前年の公的年金等の収入金額とその他所得の合計額)
/(補足的老齢年金生活者支援給付金の上限額87万8900円-老齢年金生活者支援給付金の上限額77万8900円)}
障害年金受給者がもらえる障害年金生活者支援給付金
障害年金を受給している人で、一定の支給要件を満たす場合は「障害年金生活者支援給付金」をもらえます。
障害年金生活者支援給付金の受給要件は以下の通りです。
【障害年金生活者支援給付金の受給要件】
・障害基礎年金を受給している
・前年の所得が472万1000円以下である
※上記所得には障害年金、遺族年金などの非課税所得は含みません。
※前年の所得は扶養親族の数に応じて増額します。
●障害年金生活者支援給付金の給付額はいくら?
障害年金生活者支援給付金は、障害等級1級・2級で異なります。
・障害等級2級:月額5,310円
・障害等級1級:月額6,638円
ただし、障害等級が3級の場合は支給の対象外となります。
遺族年金受給者がもらえる遺族年金生活者支援給付金とは?
遺族年金を受給している人は、一定の支給要件を満たせば「遺族年金生活者支援給付金」をもらえます。その要件は以下の通りです。
【遺族年金生活者支援給付金の受給要件】
・遺族基礎年金を受給している
・前年の所得が472万1000円以下である
※上記所得には障害年金、遺族年金などの非課税所得は含みません。
※前年の所得は扶養親族の数に応じて増額します。
●遺族年金生活者支援給付金の給付額はいくら?
遺族年金生活者支援給付金の給付額は以下の通りです。
・月額5,310円
ただし、2人以上の子が遺族基礎年金を受給しているときは、1人分の給付額は5,310円を子の数で割った金額となります。
年金生活者支援給付金はどうすればもらえるの?
年金生活者支援給付金は、所得基準などの要件を満たしていればもらえますが、実際にもらうためには「年金生活者支援給付金請求書」を提出する必要があります。では、どのような流れで年金生活者支援給付金を請求すればいいのか、ケース別に見ていきましょう。
●はじめて老齢基礎年金を受給する場合
年金生活者支援給付金の受給対象者になることが見込まれる人には、65歳になる3ヶ月くらい前に日本年金機構から届く年金請求書に「年金生活者支援給付金請求書」が同封されてきます。その請求書に必要事項を記入して最寄りの年金事務所へ、もしくは郵送で提出します。老齢基礎年金を65歳からもらう場合は、年金請求書も一緒に提出しましょう。
しばらくして日本年金機構から審査の結果通知書が届きます。受給対象者となれば、振込通知書が届き、老齢基礎年金に上乗せして年金生活者支援給付金が振り込まれます。
●はじめて障害基礎年金・遺族基礎年金を受給する場合
障害年金生活者支援給付金と遺族年金生活者支援給付金も、請求方法は老齢基礎年金をはじめて受給するときと同じです。障害基礎年金、遺族基礎年金の請求をするときに、一緒に年金生活者支援給付金請求書も提出します。
●所得が減って受給対象者になる場合
基礎年金(老齢・障害・遺族)を受給中で、前年分の所得が減っている場合、要件を満たしていれば新たに年金生活者支援給付金の受給対象者になります。新たに受給対象者になる人には、日本年金機構から9月頃に「年金生活者支援給付金請求書」が入った封書が届きます。その場合は、年金生活者支援給付金請求書に必要事項を記入し返送します。
その後、日本年金機構から審査の結果通知書が届き、受給対象者となれば振込通知書が届きます。年金生活者支援給付金は基礎年金に上乗せして振り込まれます。
年金生活者支援給付金は、原則として請求した月の翌月分から振り込まれます。年金生活者支援給付金請求書は、日本年金機構から届いたらできるだけ早く返送するようにしましょう。
年金生活者支援給付金請求書を提出するときは、課税証明書などの添付書類は不要です。また、翌年以降も支給要件を満たしている場合は、請求書を再度提出する必要はありません。
所得が増えたら年金生活者支援給付金はもらえなくなるの?
年金生活者支援給付金は、所得が基準額以下などの要件を満たす人が対象の給付金です。前年の所得が基準額を超えるともらえなくなります。これまで年金生活者支援給付金をもらっていたけれど、支給要件を満たさなくなり対象から外れるときは、日本年金機構から「年金生活者支援給付金 不該当通知書」が届きます。
年金生活者支援給付金が不該当となる主な理由は、以下の通りです。
・前年の所得が基準額を超えたから
・同一世帯に住民税が課税されている家族がいるから(老齢年金生活者支援給付金の場合)
・年金が全額支給停止になったから
上記のような理由で不該当になったとしても、後日所得額の更正があった、家族構成が変わった、停止されていた年金の受給が再開したなどの理由で受給対象に該当する場合は、年金生活者支援給付金請求書を提出しましょう。認定されれば受給できる可能性があります。もし不明点があれば、最寄りの年金事務所に相談するとよいでしょう。
また老齢年金生活者支援給付金の場合、不該当にはならないが、受給額が減ることがあります。それは、前年の所得額が77万8900円超、87万8900円以下になったときです。所得がこの範囲内になると、補足的老齢年金生活者支援給付金に変わります。給付金の計算方法が変わるため、老齢年金生活者支援給付金よりももらえる額が減ります。受給額が変わるときは、日本年金機構から「支給金額変更通知書」が届くので、内容を確認しましょう。
年金生活者支援給付金の給付基準額はどう決まる?
年金生活者支援給付金は、「給付基準額」に国民年金の保険料納付済期間と保険料免除期間を反映させることで給付額が決まります。その際、給付額のもととなる給付基準額は、物価の変動に応じて毎年改定される仕組みになっています。ちなみに2023年度の給付基準額は5,140円で、物価変動率は3.2%でした。これを踏まえて、2024年度の給付基準額は2023年の物価変動率を反映させた結果、5,310円となったのです。
物価変動率が上がると給付基準額も上がり、反対に物価変動率が下がると給付基準額は下がります。毎年、厚生労働省が年金額の改定について公表しますが、その際、年金生活者支援給付金の給付基準額の改定についても一緒に公表されるのでチェックしてみるとよいでしょう。
●前年と比較した2024年度の給付基準額
2023年は物価変動率が3.2%上昇したので、各年金生活者支援給付金の給付基準額は増額となりました。2024年度と2023年度の給付基準額との違いは以下の通りです。
<年金生活者支援給付金の給付基準額>
日本年金機構「令和6年4月分からの年金額等について」より筆者作成
●国民年金の保険料免除期間があると給付額は変わる
老齢年金生活者支援給付金は、保険料納付済期間に応じて給付額が変わります。
・計算式:給付基準額×保険料納付済期間÷被保険者月数480月
たとえば20歳から60歳まで40年間保険料を納付してきた人は、給付基準額の5,310円を受け取れるので、年間63,720円の老齢年金生活者支援給付金をもらうことができます。ただし保険料納付済期間が40年に満たない場合は、給付額は5,310円よりも少なくなります。
また、保険料の免除期間がある場合、受け取れる給付額は、保険料納付済期間による給付額と、免除期間による給付額の合計となります。このとき、免除期間の計算式は納付済期間の計算式とは異なります。
・免除期間の計算式:給付基準額(※)×保険料納付済期間÷被保険者月数480月
(※)の給付基準額は免除期間に応じて変わります。
・全額免除、4分の3免除、半額免除の場合:11,333円
・4分の1免除の場合:5,666円
たとえば、保険料の納付済期間が240月、全額免除の期間が60月ある人の場合、老齢年金生活者支援給付金の給付額(月額)は以下のようになります。
(1)保険料納付済期間の給付額 5,310円×250月÷480月=2,655円
(2)保険料免除期間の納付額 11,333円×60月÷480月=1,417円
(1)+(2)=4,072円
年金生活者支援給付金では保険料免除期間は反映されるため、免除期間に応じて給付金をもらうことができます。しかし未納期間は反映されないので、国民年金保険料が払えなくなったときは必ず免除の手続きをしましょう。
一度でも不該当になったら、所得が変わっても再び受給できなくなる?
年金生活者支援給付金は、支給要件に該当しなくなったときは不該当と認定され、支給停止となってしまいます。しかし、所得が減るなどして支給要件を満たすようになれば、再び受給できるようになります。
●毎年実施される継続認定
毎年、年金生活者支援給付金を受給する本人と同一世帯で暮らす人の前年所得に関する情報が、市町村から日本年金機構へ提供されます。この情報をもとに日本年金機構では、支給要件に該当するかどうかの継続判定を行います。
このとき、前年所得が所得基準額を超えたり、世帯の中で課税される人が出てきたりしたときは支給要件を満たさなくなるため、年金生活者支援給付金は支給停止となります。
●再び支給要件に該当するようになったとき
継続認定で不該当になったとしても、以下のような理由で再び支給要件を満たすときは、年金生活者支援給付金の受給が可能になります。
・所得が減り所得基準額以下になったとき
・確定申告の更正で所得額が修正されたとき
・支給停止だった年金の支給が再開したとき
・世帯の構成が変更になったとき
再び年金生活者支援給付金の支給要件に該当するときは、日本年金機構から請求案内が届きます。その際、年金事務所へ「年金生活者支援給付金請求書」を返送することで、再び受給できるようになります。
年金生活者支援給付金のよくある質問
年金生活者支援給付金について、多く寄せらせる質問をまとめてみました。
●Q: 老齢年金生活者支援給付金はどのように手続きすればいいですか?
A:はじめて老齢年金をもらう人が65歳になる誕生日の3ヶ月前くらいに、日本年金機構から年金請求書が入った封書が届きます。その封筒の中に、「年金生活者支援給付金請求書」が同封されてくるので、必要事項を記入して返送します。
年金生活者支援給付金請求書を提出しても支給要件に該当しない場合、給付金の支給はありません。ただ、支給要件に該当しない人でも、その後所得が減少して新たに対象者となる場合は、日本年金機構から請求書が届きます。そのときは忘れず手続きをしましょう。
●Q: 障害年金生活者支援給付金もしくは遺族年金生活者支援給付金の手続きはいつすればいいですか?
A: 新たに障害年金・遺族年金を受給するときに手続きします。障害基礎年金もしくは遺族基礎年金の受給手続き(裁定請求)をする際に、「年金生活者支援給付金請求書」も提出しましょう。
●Q: 年金生活者支援給付金の手続きに必要な添付書類はありますか?
A: 年金生活者支援給付金は、市町村から提供される所得情報をもとに支給の判定が行われます。そのため、手続きする際は年金生活者支援給付金請求書を提出するだけでよく、他に添付書類は必要ありません。ただ、所得情報を確認することができない場合は、別途添付書類の提出を求められる場合があります。
●Q: 年金生活者支援給付金は毎年手続きをする必要はありますか?
A: 一度手続きをして年金生活者支援給付金の対象者となれば、翌年以降は手続きの必要はありません。
●Q:年金生活者支援給付金はいつまで受給することができますか?
A: 年金生活者支援給付金制度が続いている間は、継続して給付金をもらえます。ただし、支給要件から外れた場合は「年金生活者支援給付金不該当通知書」が届き、支給は停止されます。
●Q: 老齢年金生活者支援給付金は、夫婦がそれぞれ受給することはできますか?
A: 老齢年金生活者支援給付金は世帯支給のものではなく、支給要件に該当する1人ひとりに支給されるものです。そのため、夫婦ともに支給要件を満たしていれば、それぞれに老齢年金生活者支援給付金が支給されます。
年金生活者支援給付金の条件を満たすなら手続きを忘れずに
老齢年金や障害年金、遺族年金を受給する人で、前年の所得が基準額以下で支給要件を満たす場合は、老齢年金生活者支援給付金・障害年金生活者支援給付金・遺族年金生活者支援給付金をもらえます。また、前年の所得が77万8900円超、87万8900円以下の範囲内のときは、補足的老齢年金生活者支援給付金をもらえます。
新たに老齢年金・障害年金・遺族年金を受給するときは、請求手続きをする際に年金生活者支援給付金請求書も提出しましょう。支給要件に該当すれば、年金の支払月に給付金をもらえます。給付金の振込額は、日本年金機構から送られてくる振込通知書で確認してくださいね。
【関連記事もチェック】
・「ねんきん定期便見たら数十万円増額してた」年金額が増えた驚きの理由
・「年金211万円の壁」を超えると手取りが急激に減るってほんと?
・国民年金保険料「40年間全額免除」だと、年金はいくらもらえるのか
・年金が78万円上乗せになる「長期加入者の特例」受けられる条件
・年金を「月22万円」もらえる人の現役時代の年収はいくら?
前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう