24/04/28
「ねんきん定期便見たら数十万円増額してた」年金額が増えた驚きの理由
毎年1回届くねんきん定期便、確認していますか?もしもしばらく確認していないという人がいたら、ぜひ確認してください。もしかすると「以前より年金額が増えている」と驚くかもしれません。2021年に「ねんきん定期便」の年金額の表示の仕方に変更があったため、見た目上、年金額が増えているかもしれません。今回は、一部の人について、「ねんきん定期便」の年金額が増えることになった理由と「ねんきん定期便」の見方で注意しておきたい点を紹介します。
2021年から「ねんきん定期便」の年金額が増加している人が多数
「ねんきん定期便」は、毎年1回、誕生月に届きます。ハガキで届くことが多いですが、35歳、45歳、59歳といった節目の年齢には封書で届くことになっています。
「ねんきん定期便」には納付した保険料の額や年金加入期間、年金見込額などが記載されています。「ねんきん定期便」を見れば、将来もらえる年金額がどれくらいかの目安を立てられます。
ところで、50歳以上の人の中には、「久しぶりに『ねんきん定期便』を見たら、年金額が急に増えていた」と驚いた人がいるかもしれません。実は、2021年6月から一部の人の年金額の表示が変わり、以前よりも多い年金額が表示されている人が少なからずいます。
「ねんきん定期便」の年金額が急に増えているのは、50歳以上かつ「厚生年金基金」の加入歴がある人です。年金額そのものが増えたからではありません。以前は「ねんきん定期便」の年金額に含められていなかった厚生年金基金の「代行部分」の年金額が、含めて表示されるようになったことが理由です。
「厚生年金基金」の「代行部分」とは?
日本の年金制度は3階建て構造となっています。1階部分が国民年金、2階部分が厚生年金、3階部分が各種の私的年金です。厚生年金基金とは3階部分に相当する年金制度で、企業年金の一種です。
<公的年金のしくみ>
厚生労働省「いっしょに検証!公的年金」より
厚生年金基金は私的年金ですが、国が行う老齢厚生年金の支給の一部を代行するという特徴があります。厚生年金基金では、独自に掛金を運用しており、プラスアルファ部分として上乗せ給付も行っています。
老齢厚生年金は「報酬比例部分」と「定額部分」に分かれます。厚生年金基金では、基金加入員期間の「報酬比例部分」の年金給付を代行します。
厚生年金基金加入者については、この「代行部分」の老齢厚生年金は、厚生年金基金から支給されます。そのため、国からは「代行部分」を差し引いた老齢厚生年金が支給される仕組みになっているのです。
<厚生年金基金の基金代行部分の給付のイメージ>
日本年金機構のウェブサイトより
厚生年金基金制度は1966年にスタートし、大企業を中心に導入が進みました。しかし、バブル経済崩壊以降は資金の運用が困難になり、2014年以降新規設立が不可となりました。厚生年金基金は、解散もしくは他の企業年金への移行が促進されており、実質的に制度廃止となっています。
なお、厚生年金基金に加入している、あるいは加入していたかについても、「ねんきん定期便」で確認できます。「ねんきん定期便」の「これまでの加入履歴」のところに厚生年金基金の加入期間が書いてあれば、厚生年金基金の加入履歴があることがわかります。
「ねんきん定期便」掲載の年金額はどう変わった?
50歳以上の人の以前の「ねんきん定期便」では、国から給付される老齢厚生年金のみが記載されていました。厚生年金基金が給付を行う「代行部分」の年金額が含まれていなかったのです。つまり、厚生年金基金に加入していた期間がある人については、「ねんきん定期便」に記載されている年金額は、実際の年金額よりも少ない額だったということです。
2021年6月以降の「ねんきん定期便」では、「代行部分」も含めた年金額が表示されるようになりました。今後は、実際にもらえる年金額に近い数字が表示されることになります。年金額がどれくらい増えているかは、厚生年金基金の加入期間によって異なります。長く加入していた人なら、数十万円くらい年金額が増えているかもしれません。
今回の変更は50歳以上の人のみが関係するものです。50歳未満の人の「ねんきん定期便」には、以前より「代行部分」が含まれていたため、今回の変更は関係ありません。
なお、「ねんきん定期便」に記載されている年金額は、50歳以上か50歳未満かで次のような違いがあります。
・50歳以上の人…現在の年金制度に60歳まで加入を続けた場合の年金額
・50歳未満の人…これまでの加入実績に応じた年金額
50歳未満の人については、「ねんきん定期便」の年金額に「代行部分」は含まれていますが、今後の加入実績に対応する年金額が含まれていません。そのため、実際にもらえる年金額は、「ねんきん定期便」の額よりも増えることになります。
「ねんきん定期便」に記載されない年金もある
上で説明したとおり、「ねんきん定期便」には50歳未満の人の年金額は全部が記載されていません。それ以外にも、「ねんきん定期便」に記載されない年金はあります。たとえば、以下のようなものです。
●加給年金
加給年金とは、扶養している配偶者や子がいる場合に支給される年金で、扶養手当や家族手当のようなものです。加給年金が受けられるのは、次の条件を満たす人になります。
・65歳以上
・厚生年金の加入期間が20年以上
・扶養している配偶者または子がいる
・配偶者は65歳未満、子は18歳未満(1級・2級の障害状態にある場合は20歳未満)
加給年金の条件に該当する場合、年金に次の金額が上乗せされます。
<加給年金の金額(2024年度)>
筆者作成
さらに、配偶者の加給年金の額には、受給者本人の生年月日に応じて、3万4,700円から17万3,300円の特別加算があります。たとえば、1943年(昭和18年)4月2日以後に生まれた人の場合、特別加算は17万3,300円ですので、加給年金額の合計額は40万8,100円になります。
加給年金は老齢厚生年金の一部ですが、「ねんきん定期便」には記載されていません。扶養している配偶者等がいる人がもらえる年金額を試算するときには、加給年金を加算する必要があります。
●振替加算
加給年金の対象となっている配偶者が65歳に到達すると、加給年金は打ち切られます。その代わり、配偶者自身の老齢基礎年金に振替加算という上乗せが行われます。加給年金同様、振替加算も「ねんきん定期便」には記載されていません。
●確定拠出年金(企業型DC、iDeCo)
確定拠出年金には、企業型(企業型DC)と個人型(iDeCo)の2種類があります。確定拠出年金は公的年金とは別の私的年金制度であるため、「ねんきん定期便」には記載されていません。
確定拠出年金の場合、掛金や運用成果によって受け取れる年金額が変わります。運用資産の残高は確定拠出年金インターネットサービスで確認できます。
●国民年金基金
国民年金基金は、老齢基礎年金に上乗せする年金を作るために、自営業者など(国民年金第1号被保険者)が加入できる年金制度です。第1号被保険者なら誰でも加入できる「全国国民年金基金」と、特定の事業・業務に従事する第1号被保険者が加入できる「職能型国民年金基金」の2種類があります。
国民年金基金は「ねんきん定期便」の対象ではありません。国民年金基金の受取額は、加入している国民年金基金に問い合わせる必要があります。
「ねんきん定期便」を老後の資金計画に活用
現在では、50歳以上の人の「ねんきん定期便」の老齢厚生年金額に、厚生年金基金の「代行部分」の金額も含まれています。厚生年金基金加入歴がある人で、最近「ねんきん定期便」を確認していない人は、確認してみてください。これまで「年金が思ったよりも少ない」と感じていた人も、少し安心できるかもしれません。
「ねんきん定期便」に記載されていない年金もあるため、受け取れる年金額はもっと多い可能性もあります。「ねんきん定期便」の見方を知って、老後の資金計画を立てるようにしましょう。
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森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。
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