25/07/19
【やらないと大損】年金生活者が忘れてはいけない7つの手続き

年金は「申請主義」といって、もらう場合には請求手続きが必要です。では、年金の請求手続きをいったんすれば、あとはもう何も手続きはないのでしょうか?
そんなことはありません。年金をすでにもらっている人であってもしなければならない手続きや、手続きしないでいると年金の面で損してしまう可能性のある手続きもあるのです。今回は、年金をもらっている方が忘れてはいけない手続きを7つ、紹介します。
忘れてはいけない年金の手続き1:加給年金の請求
加給年金とは、年金の家族手当のようなもの。厚生年金に20年以上加入している人が65歳になった時点で、65歳未満の配偶者や18歳未満の子を養っていると加算されます。ただし、加給年金は要件を満たしていれば自動的にもらえるわけではなく、自分で請求手続きをしなければなりません。
「養っている」というのは、配偶者や子の生計を維持しているということ。具体的には、同居しているまたは別居で仕送りをしており、配偶者や子の前年の収入が850万円未満である場合に認められます。「配偶者が専業主婦(夫)でないと加給年金を受け取れない」と勘違いして、せっかくもらえるはずの加給年金の請求手続きを行わない方もいるため気をつけてください(ただし、配偶者自身が20年以上厚生年金に加入している場合、加給年金は支給されません)。
●加給年金の手続きに必要な書類
・老齢厚生年金・退職共済年金 加給年金額加算開始事由該当届
・戸籍謄本または戸籍抄本(配偶者との続柄がわかるもの)
・世帯全員の住民票の写し(続柄と筆頭者の記載があるもの)
・配偶者や子の所得証明書または非課税証明書
加給年金を請求する届出書に加え、配偶者や子との続柄、扶養している事実を証明する書類、配偶者や子の収入や所得が分かる書類が必要です。
●加給年金で受け取れる金額
加給年金で受け取れる金額は、毎年見直されます。2025年度の場合、生計を維持している65歳未満の配偶者がいる場合は年額23万9300円を受け取ることができます。また、18歳未満の子がいる場合、1人目・2人目の子は年額23万9300円をそれぞれ受け取ることができますが、3人目以降の子は年額7万9800円ずつとなります。
さらに、配偶者がいる場合の加給年金は、受給権者本人の生年月日によって加算されます。これを特別加算といいます。
<加給年金の特別加算の金額>

日本年金機構「加給年金額と振替加算」より筆者作成
例えば、65歳未満の配偶者がいる1958年生まれの人は、23万9300円に加え17万6600円が加算され、合計で年額41万5900円の加給年金が支給されることになります。
忘れてはいけない年金の手続き2:振替加算の請求
加給年金は、配偶者が65歳になると支給が停止されます。その代わり、今まで加給年金として上乗せされていた金額の一部が配偶者の年金に自動的に加算されます。この加算額を「振替加算」といいます。
もともと、配偶者が厚生年金に加入している場合、専業主婦(主夫)が国民年金に加入する義務はありませんでした。1985年の法改正により、厚生年金加入者の配偶者である専業主婦(主夫)は、必ず第3号被保険者として国民年金に加入することになりました。しかし、法改正後に第3号被保険者になった人は加入期間が少ないため、それにともない老後にもらえる年金額も少額となってしまいます。そこで、これらの対象者に老齢基礎年金にプラスしてお金を支給する目的で、振替加算の制度がつくられました。
加給年金は、生計を維持されている配偶者が年下の場合にのみ受け取れますが、振替加算は配偶者が年上でも受け取ることができます。
配偶者が年下であれば、加給年金から振替加算への移行は自動的に行われるため、振替加算を受け取るための特別な手続きは必要ありません。注意しなければいけないのは、配偶者が年上、つまり会社員の夫(妻)と専業主婦(主夫)で年上の妻(夫)といった夫婦です。この場合、夫(妻)が65歳になったタイミングで、妻(夫)が振替加算の手続きを行う必要があります。
●振替加算の手続きに必要な書類
・国民年金 老齢基礎年金額加算開始事由該当届
・戸籍謄本または戸籍抄本(配偶者との続柄がわかるもの)
・世帯全員の住民票の写し(続柄と筆頭者の記載があるもの)
・配偶者の所得証明書または非課税証明書
●振替加算で受け取れる金額
振替加算は国民年金に加入する義務がなかった人のためにつくられた制度です。そのため、1986年の制度変更時に59歳以上だった人の受け取れる金額が最も多く、年齢が若くなるにつれ減額され、1986年に20歳未満だった人(1966年4月2日以降生まれの人)は受け取れない仕組みとなっています。
<振替加算の金額>

日本年金機構「加給年金額と振替加算」より筆者作成
忘れてはいけない年金の手続き3:亡くなった人がもらわなかった未支給年金の請求
年金をもらっていた人が亡くなると、もちろん、それ以降の年金を遺族がもらい続けてはいけません。黙ってもらい続けていると不正受給となってしまいますから、速やかに死亡の届出をして支給を止める必要があります。
ただし、年金は偶数月に前月と前々月の分がまとめて支給される後払いのシステムですから、亡くなった月の分までは「未支給年金」として、遺族が代わりに受け取る権利を持っています。例えば、年金をもらっていたAさんが5月に亡くなったとすると、Aさんの遺族は6月に支給される4月分と5月分の年金までは受け取って良い、ということです。なお、ここでいう遺族とは、亡くなった人と生計を共にしていた三親等内の親族のこと。配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、その他の順に未支給年金を受け取る権利があります。
未支給年金をもらいたい場合は、年金事務所に死亡の届出をすると同時に、未支給年金の請求手続きも行わねばなりません。
●未支給年金の請求時に必要な書類
・未支給年金請求書
・亡くなった人の年金手帳・年金証書
・戸籍謄本または法定相続情報一覧図
・亡くなった人の住民票除票
・未支給年金請求者の世帯全員の住民票
・金融機関の通帳やキャッシュカード
請求書や年金手帳・証書のほかに、亡くなった人と請求する人の続柄が分かる書類や、生計を共にしていたことを示す書類が必要です。未支給年金を振り込んでほしい金融機関の通帳やキャッシュカードも忘れずに用意しましょう。
忘れてはいけない年金の手続き4:特別支給の老齢厚生年金
1985年の法律改正により、厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳に延長されました。しかし、急に5年延長されると、60歳から年金を受け取る予定で人生設計を立てていた人が困ってしまいます。そこで、受給開始年齢を段階的に引き上げるため、厚生年金の受給開始年齢が65歳になった後も、生年月日によっては特別に60歳~64歳から年金を受け取れるようにしました。この年金を「特別支給の老齢厚生年金」といいます。
特別支給の老齢厚生年金は、1年以上厚生年金に加入しており、男性は1961年4月1日以前、女性は1966年4月1日以前に生まれた人が受給対象です。受給開始年齢は生年月日によって異なります。例えば、1944年4月生まれの男性は60歳から報酬比例部分、61歳から定額部分を受け取ることができました。いっぽう、昭和1960年4月生まれの男性は、64歳から報酬比例部分のみを受け取ることになります。
特別支給の老齢厚生年金も、手続きを忘れると受給できません。手続きを忘れたまま65歳を過ぎると、もらえたはずの特別支給の老齢厚生年金が時効で減っていきます。気づき次第、早めに申請するようにしましょう。
●特別支給の老齢厚生年金を申請する際に必要な書類
・年金請求書
・戸籍謄本や戸籍抄本、住民票など生年月日がわかるもの
・年金を受け取る金融機関の通帳やキャッシュカード
扶養している配偶者や18歳未満の子がいるなど、条件によってはほかにも書類が必要となる場合があります。受給年齢に達する3か月前に日本年金機構からお知らせが届きますので、よく読んで申請してください。
●特別支給の老齢厚生年金で受け取れる金額
特別支給の老齢年金は、年収や年齢、性別によってもらえる金額が異なります。1949年4月2日~1961年4月1日生まれの男性、1954年4月2日〜1966年4月1日生まれの女性がもらえる特別支給の老齢厚生年金の金額(年額)は、以下のように示すことができます。
(平均標準報酬月額×0.007125×2003年3月までの加入月数)+(平均標準報酬額×0.005481×2003年4月以降の加入月数)
平均標準報酬月額は、2003年3月までの標準報酬月額の合計を月数で割った平均で、簡単にいうと給与の平均額となります。平均標準報酬額は、2003年4月以降の標準報酬月額と標準賞与額(ボーナス)の合計を月数でわったものです。
1963年4月1日生まれの女性で、2003年3月までの平均標準報酬月額が25万円で加入期間が240ヶ月、2003年4月以降の平均標準報酬額が30万円の場合で加入期間が180ヶ月の場合、63歳から特別支給の老齢厚生年金額をもらうことができます。受給金額(年額)は以下のように計算できます。
(25万円×0.007125×240ヶ月)+(30万円×0.005481×180ヶ月)=72万3474円
忘れてはいけない年金の手続き5:雇用保険に関する届出
ハローワークに行って雇用 保険の失業給付(基本手当)を受ける手続きを行うと、65歳未満がもらう特別受給の老齢厚生年金は全額停止されます。失業給付の申し込みをしてから実際に受け取るまでには7日間の待機期間があり、自己都合退職の場合はそこからさらに1ヶ月〜3ヶ月給付されない期間がありますが、この期間中も年金は受け取れません。失業給付を全て受け取り終える、もしくは失業給付をもらえる期間が過ぎてから、実際には失業給付を受けられなかった期間の年金をさかのぼって受け取る、という仕組みになっています。
失業給付を受け取った上で年金もさかのぼって正しく受け取るためには、日本年金機構へ雇用 保険に関する届出を行わねばなりません。具体的には、下記の書類を年金事務所に提出する必要があります。
・老齢厚生・退職共済年金受給権者 支給停止事由該当届
・雇用保険受給資格証または雇用保険受給資格通知
また、60歳以降も働く人が雇用保険の高年齢雇用継続給付を受けると、年金の一部が支給停止されます。このときも、雇用保険に関する手続きを行わねばなりません。年金事務所に提出する書類は以下の通りです。
・老齢厚生・退職共済年金受給権者 支給停止事由該当届
・高年齢雇用継続給付支給決定通知書または高齢雇用継続給付支給決定通知書
なお、年金を請求するタイミングで雇用保険に関する届出をすでに行っていた人は、失業給付を申し込む際や高年齢雇用継続給付を受給する際に再度手続きを行う必要はありません。
忘れてはいけない年金の手続き6:企業年金の請求手続き
企業年金は、従業員の退職後の生活のために、企業が公的年金に上乗せして独自で行う私的年金制度です。この企業年金は、もらい忘れる人が非常に多い年金です。企業年金を脱退した人の年金を取りまとめる企業年金連合会によると、2024年3月末時点で企業年金を請求していない人は全国におよそ113.8万人いるとのことです。
もらい忘れの原因として最も多いのが、企業年金のある企業に勤めていた女性が、結婚を機に退職した場合です。受給できる年齢が近づくと企業年金連合会からお知らせが届くのですが、結婚を機に名字や住所が変わったため郵送物が届かず、本人も企業年金がある会社に勤めていたことを忘れて手続きをしないままになってしまうのです。
企業年金は、短期間しか加入していなかった場合や、勤め先が倒産した場合でも受給できる可能性があります。企業年金がある会社に少しでも勤めていた経験はないか振り返ってみて、心当たりがある場合は、勤めていた先や企業年金コールセンターに問い合わせてみてください。
忘れてはいけない年金の手続き7:年金生活者支援給付金の請求手続き
年金やそのほかの所得が一定基準以下の人の生活を保障するため、2019年に年金生活者支援給付金制度がつくられました。年金生活者支援給付金は、65歳以上で住民税非課税世帯、かつ前の年の年金含む所得が下記を満たす人に、年金に上乗せして支給されます。なお、カッコ内の所得の人には、補足的老齢年金生活者支援給付金が支給されます。
1956年4月1日以前に生まれた人の場合:78万7700円以下(78万7701円〜88万7700円)
1956年4月2日以後に生まれた人の場合:78万9300円以下(78万9301円〜88万9300円)
●年金生活者支援給付金の請求手続きに必要な書類
・年金生活者支援給付金請求書(日本年金機構から送付されます)
●年金生活者支援給付金制度で受け取れる金額
年金生活者支援給付金の受給額(月額)は、以下のように示すことができます。
(5450円 × 保険料納付済月数 ÷ 480ヶ月)+(1万1551円 × 保険料免除月数 ÷ 480ヶ月)
例えば、1957年1月1日生まれで、保険料納付済期間が400ヶ月、免除期間が80ヶ月の人の場合、(5450円 × 400ヶ月 ÷ 480ヶ月)+(1万1551円 × 80ヶ月 ÷ 480ヶ月)= 約6467円。月額およそ6467円が年金に上乗せして支給されることになります。
年金は請求しないともらえない
年金をもらっている人がやっておかないと損する手続きや必要書類について紹介しました。年金は受け取る権利があっても、自分から請求しないともらえないのが基本です。逆に、手続きを忘れたことによって、もらいすぎた年金を後で返金しなければならない場合も。本記事を参考に、必要なときには忘れずに手続きを行い、不明点があれば必ず年金事務所などに問い合わせるようにしてください。
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木下七夏 Webライター
大学卒業後金融機関に勤め、個人のお客さま向けの営業を担当。退職後にFP2級を取得し、フリーライターに。FPで学んだ知識や金融機関勤めの経験を生かして、生活にまつわるお金の疑問を分かりやすく噛み砕いて解説する記事を作成している。

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