25/06/11
9割が知らない隠れ年金「加給年金」年40万円もらえる人はどんな人?

みなさんは年金版の家族手当である「加給年金」を聞いたことがありますか。ねんきん定期便にも記載されていないうえに、みずから申請しないと支給されない加給年金は、その金額の大きさからも知らないと一大事です。そこで今回は、加給年金の支給要件や申請手続きはもちろん、本当はもらえるはずの人が陥りがちな誤解や留意点を解説します。
加給年金の基本的な仕組みを理解しよう
「加給年金」とは、厚生年金保険の加入歴が20年以上ある人を対象とする、老齢厚生年金の上乗せ給付です。65歳に到達した時点で、生計維持関係にある65歳未満の配偶者や18歳の年度末を迎えるまでの子(障害等級1・2級の状態にある場合には20歳未満)がいる場合に一定額が加算されます。
●配偶者に係る加給年金は通常17万6600円が特別加算
加給年金の額(2025年4月から)は、配偶者と1人目・2人目の子については各23万9300円で、3人目以降の子は各7万9800円です。
配偶者に係る加給年金についてはさらに、受給者の生年月日に応じて3万5400円~17万6600円が特別加算されることになっています。1943年4月2日以降生まれの特別加算額は17万6600円で、合計すると年41万5900円。この金額は「ねんきん定期便」には記載されません。
<加算対象となる家族と加給年金額>

日本年金機構「加給年金額と振替加算」より筆者作成
●「生計維持関係にある」とは?
加給年金の加算対象となる家族は、年齢要件のほかに、受給者本人との間に「生計維持関係」がある必要があります。具体的には、生計が同じで年収850万円(または所得655万5000円)未満でなければなりません。
●加給年金の受給には申請が必要
加給年金は、要件を満たすと自動的に給付が始まるわけではない点は特に注意してください。一般的には、65歳到達前に届く「年金請求書(国民年金・厚生年金保険老齢給付)」にて、加給年金額に関する生計維持の申し立てを記入し、必要書類を添える形で手続きを行う形になります。
そのほか、「老齢厚生年金・退職共済年金 加給年金額加算開始事由該当届」を、近くの年金事務所または街角の年金相談センターに提出することでも手続きが可能です。もしも手続きが漏れていた場合でも、5年前までの分であればさかのぼって請求することができるので、忘れずに申請するようにしましょう。
<【記入例】加給年金額に関する生計維持の申し立て>

日本年金機構「老齢年金請求書の記入方法等」より
加算対象の配偶者の範囲は広い!加給年金のめぐる4つの誤解
ここまで加給年金の基本的な仕組みについて紹介しましたが、「私たち夫婦は対象外かな?」と思っているなら慌てないでください。本来もらえるはずの人が知らなかった4つの誤解をもとに、加算対象となる配偶者の範囲をさらに具体的に解説します。
●加給年金の誤解(1):年下夫だから加給年金はもらえない
加算対象となる配偶者に男女差はありません。2021年度末時点における配偶者加給年金の受給者数は95.0万人。男性受給者(妻が年下)がそのうち92.7万人を占めるものの、女性受給者(夫が年下)も2.3万人います。
●加給年金の誤解(2):事実婚だから加給年金はもらえない
加算対象となる配偶者は、法律婚に基づく妻や夫に限られません。子は法律上の子である必要がありますが、配偶者については事実婚(内縁関係)に基づくパートナーである場合にも加算対象となります。
なお、加算対象となる家族は、受給者本人が65歳になった時点で判断される点に注意が必要です。つまり、加給年金の観点からは、65歳を迎えるまでに再婚等をしておくことが望ましいといえるでしょう。
●加給年金の誤解(3):年収850万円以上だから生計維持要件を満たさない
年収850万円(または所得655万5000円)未満の収入要件は、原則として前年の金額に基づきます。しかしながら、定年退職等の事情により、おおむね5年以内にこれらの金額を下回ることが見込まれる場合は、例外的に認められることはあまり知られていません。
●加給年金の誤解(4):妻も厚生年金の加入歴が20年以上だからもらえない
加算対象となる配偶者が、20年以上の厚生年金保険加入期間に基づく老齢厚生年金を受け取れる場合、加給年金の支給は停止されます。
この支給停止ルールを知っている人ほど、妻に20年以上の加入歴があることを理由に申請を漏らしがちですが、妻がその加入歴に基づく老齢厚生年金(65歳前の特別支給の老齢厚生年金を含む)の受給権を得られる年齢まで加給年金は受給できるので、忘れずに申請を行いましょう。
加給年金の4つの留意点をチェック
加算対象となる配偶者の範囲を具体的に理解したところで、加給年金や関連する給付を家計の見通しに反映させる際の留意点や、見落としがちな手続き上の留意点を解説します。
●加給年金の留意点(1):老齢厚生年金の繰り下げ待機期間は支給されない
最近は、老齢年金を65歳からもらわず、繰り下げ期間に基づく増額率を反映した年金額を受け取る人も増えてきました。しかしながら、老齢厚生年金の繰り下げ受給に向けて待機している期間は、加給年金の支給が行われない点に注意が必要です。つまり、加給年金を単独ではもらうことはできません。
歳の差がある夫婦ほど、繰り下げ受給よりも加給年金額をもらうメリットが大きいといえるでしょう。老齢基礎年金は繰り下げても加給年金の支給には関係がないので、老齢厚生年金は65歳から、老齢基礎年金は70歳から受給を開始するシナリオは、加給年金をもらいながら年金額を最大化させる案の一つです。
●加給年金の留意点(2):厚生年金の全額カット期間は加給年金も支給停止
在職老齢年金とは、「加給年金を除く」老齢厚生年金(報酬比例部分)と月額給与(1ヶ月あたりの賞与額を含む)の合計額が、月51万円(2025年度)の基準額を超えていると、老齢厚生年金の一部または全額の支給を停止とするルールです。
例えば、受給者本人が「月額給与:50万円+老齢厚生年金:月11万円」のケースでは、基準額を上回る10万円のうち2分の1に相当する5万円が支給停止となりますが、加給年金は全額が支給されるので安心してください。一方で、在職老齢年金で全額が支給停止となるケースでは、加給年金もまた全額が支給停止となるため注意が必要です。
●加給年金の留意点(3):不該当・支給停止の届け出漏れで返還が発生
加算対象となる配偶者の死亡や離婚、生計維持関係の解消等で加算対象に該当しなくなった場合には、「加算額・加給年金額対象者不該当届」の提出を忘れないようにしましょう。また、20年以上の厚生年金保険加入期間に基づく老齢厚生年金や、障害を給付事由とする年金の受給権を得た場合には、「老齢・障害給付 加給年金額支給停止事由該当届」の提出が必要です。
もしもこれらの届け出を忘れて支給が継続されていた場合、返還(最大5年分)が求められることは言うまでもありません。
●加給年金の留意点(4):「振替加算」の請求手続きが必要になるケースも
加算対象の配偶者が65歳に到達して加給年金が打ち切られると、今度は配偶者の老齢基礎年金に上乗せ加算が行われることを知っていましたか。この「振替加算」は、1966年4月1日以前生まれ(で厚生年金保険の加入期間が20年未満)の人が支給対象です。
振替加算の金額は生年月日によって異なっており、1961年4月2日から1966年4月1日生まれの人は、年16,033円です。なお、加給年金と同様に、繰り下げ受給を待機している期間は、受け取ることができません。
<加給年金と振替加算の関係>

日本年金機構「加給年金額と振替加算」より
年下妻が65歳になって自動的に振替加算の支給が開始されるのが最も代表的なケースです。年上妻のケースでは、夫が65歳を迎えたときに妻はすでに65歳を迎えているため、夫に加給年金は出ませんが、妻は請求手続きを行うことで振替加算の支給が開始されることを覚えておきましょう。
「加給年金で損をしない」は豊かな老後の第一歩
今回は、年金版の家族手当である「加給年金」について解説しました。本来の厚生年金額に年間40万円超の上乗せ給付となる配偶者加給年金は、老後の暮らしの足しになるどころか、配偶者が年金をもらい始めるまでの大事な柱となります。
加給年金を知らなかった、もらえないと思っていたけど支給要件を満たす世帯では、繰り下げ受給との比較を含めたさまざまなシナリオを家計収支の見通しに反映してみましょう。申請しないともらえない年金制度からの給付を見落とさないことが、より豊かな老後のくらしを実現する第一歩です。
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神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker

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