25/02/16
厚生年金「夫16万円・妻10万円」、夫が亡くなったら妻の年金はいくらになるのか
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夫婦のどちらかが亡くなると遺族年金をもらうことができます。しかし、亡くなった人がもらうべき老齢年金がそのまま遺族年金になるわけではありません。もらえる遺族年金は、夫婦2人分の年金額と比べると、かなり減ってしまうのが現状です。では、夫を先に亡くした妻の場合、もらえる年金額はどれくらいになるのでしょうか?今回は、夫は月額16万円、妻は月額10万円の年金をもらっている夫婦を例に、夫が亡き後、妻の年金はどのようになるのか試算してみました。
日本の公的年金制度は1人1年金
日本の公的年金制度は、原則として1人1年金という決まりがあります。日本には3種類の年金「老齢年金」「遺族年金」「障害年金」がありますが、これら年金の受給権がある場合、重複して受給権が生じたときは、どれか1つを選ぶ必要があります。ただ、老齢基礎年金と老齢厚生年金のように、年金の支給事由が同じ年金は1つの年金とみなされます。
また、65歳以上の人は、支給事由が異なる年金の受給権が生じた場合、特例として2つ以上の年金をもらえる場合があります。
たとえば「老齢基礎年金+遺族厚生年金」や「遺族厚生年金+老齢厚生年金&老齢基礎年金」といったケースでは、特例として老齢年金と遺族年金が一緒に支給されます。
ただし、場合によっては一部の年金が支給停止になる場合もあるので注意が必要です。これはどのようなしくみなのか、夫が先に亡くなり、残された妻が「遺族厚生年金+老齢厚生年金&老齢基礎年金」をもらう場合で見てみましょう。
妻の老齢厚生年金が夫の遺族厚生年金よりも少額の場合、夫の遺族厚生年金から妻の老齢厚生年金にあたる金額が支給停止になります。また、夫の遺族厚生年金よりも妻の老齢厚生年金の方が高額になる場合は、夫の遺族厚生年金は全額支給停止になるというしくみです。
特例で2つ以上の年金を併給する場合、年金額の調整が入ることは頭に入れておきましょう。
遺族厚生年金の決まり方
ではここで、遺族厚生年金の年金額がどう決まるのか見ていきましょう。
遺族厚生年金の年金額は、老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3になります。
・遺族厚生年金=(A+B)×3/4
A:2003年(平成15年)3月以前の加入期間
平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの被保険者期間の月数
B:2003年(平成15年)4月以降の加入期間
平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以降の被保険者期間の月数
被保険者期間が25年(300月)未満の場合でも、要件を満たせば被保険者期間の月数を300月とみなして計算できます。なお、平均標準報酬月額と平均標準報酬額の違いはかんたんにいうと「賞与を含むか含まないか」です。2003年4月以降の平均標準報酬額は賞与(標準賞与額)を含む金額で算出されます。
●妻が自身の老齢厚生年金も受給する場合
65歳以上になると残された妻にも老齢厚生年金の受給権が生じます。その場合、妻が受け取る遺族厚生年金は、次のように決まります。
① 夫の遺族厚生年金の額
② 夫の遺族厚生年金の3分の2の額と妻の老齢厚生年金の2分の1を合算した額
上記①②を比較し、高い金額の方が遺族厚生年金の額になります。
ただし、妻自身の老齢厚生年金の額が遺族厚生年金の額よりも高い場合、遺族厚生年金は全額支給停止となります。また、妻自身の老齢厚生年金が遺族厚生年金よりも低い金額の場合、妻自身の老齢厚生年金は全額もらえますが、遺族厚生年金は老齢厚生年金にあたる金額が支給停止になります。
厚生年金が月額16万円の夫亡き後、妻の年金額はどうなる?
遺族厚生年金の決まり方をご紹介しましたが、ここでは共働き夫婦で65歳を過ぎてから夫が先に亡くなった場合、妻がもらう年金額を試算してみます。
【事例】
・夫の厚生年金:月額16万円(年金収入192万円)
・妻の厚生年金:月額10万円(年金収入120万円)
・夫も妻も満額の老齢基礎年金を受給(月額:6万9308円 年額83万1700円:2025年度の場合)
夫婦合わせて年金収入は312万円でしたが、夫に先立たれると妻の年金収入は変わります。
まずは、妻がもらう遺族厚生年金を試算してみましょう。
厚生年金には老齢基礎年金も含まれるため、老齢厚生年金(報酬比例部分)のみの金額を計算します。
・夫の老齢厚生年金
受給する厚生年金192万円-老齢基礎年金83万1700円=108万8300円
・妻の老齢厚生年金
受給する厚生年金120万円-老齢基礎年金83万1700円=36万8300円
夫の遺族厚生年金は、老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額になるので、年金額は以下のようになります。
・夫の遺族厚生年金
報酬比例部分108万8300円×3/4=81万6225円
ただし、この事例では妻も老齢厚生年金を受給しているため、以下の①②を比較し、高い方が夫の遺族厚生年金の額になります。
① 老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額
② ①の金額の3分の2と、妻の老齢厚生年金の2分の1を合算した額
① 81万6225円
② 81万6225円×2/3+36万8300円×1/2=72万8300円
上記を比較した結果、夫の遺族厚生年金は81万6225円になりました。
妻がもらえる年金は、「夫の遺族厚生年金+妻自身の老齢基礎年金+妻自身の老齢厚生年金」となりますが、2つ以上の年金を併給する場合は年金額に調整が入ります。
調整されるのは遺族厚生年金です。夫の遺族厚生年金よりも妻の老齢厚生年金の方が低い金額になるため、遺族厚生年金のうち、妻自身の老齢厚生年金にあたる部分が支給停止となります。
・妻がもらえる遺族厚生年金
夫の遺族厚生年金は81万6225円-妻の老齢厚生年金は36万8300円=44万7925円
よって、妻がもらえる年金は以下のようになります。
夫の遺族厚生年金44万7925円+妻自身の老齢厚生年金36万8300円+妻自身の老齢基礎年金83万1700円=164万7925円
試算の結果、夫が亡き後、妻がもらえる年金は年額約164.8万円になることがわかりました。
遺族年金がもらえなくなる場合がある
配偶者が死亡したときにもらえる遺族年金ですが、場合によっては遺族年金がもらえなくなるケースがあるのをご存じですか?これは現役世代にも関係することなのでご紹介しましょう。
●遺族基礎年金がもらえなくなるケース
遺族基礎年金は、18歳になる年度の3月31日までの子(※)がいる場合、子のある配偶者もしくは子が受給できる年金です。ただ、ケースによってはもらえなくなることもあります。
○子の要件に該当しないケース
遺族基礎年金がもらえる子とは、18歳になる年度の3月31日までの子です。わかりやすくいえば、高校を卒業するまでの子がいる場合に受給できます。たとえば、一家の大黒柱が死亡したタイミングで子どもが大学生になっていれば、たとえ18歳であっても遺族基礎年金をもらうことができません。
(※)障害年金の障害等級が1級・2級である子の場合は20歳未満になります。
○配偶者が生計を維持されていないケース
前年の年収が850万円未満(所得でいえば655.5万円未満)の配偶者であれば生計を維持されているとみなされ、子どもが子の要件に該当していれば遺族基礎年金をもらえます。しかし、配偶者の年収が850万円以上の場合、生計を維持されているとはみなされないので、遺族基礎年金を受給できません。
○配偶者が再婚したケース
配偶者が再婚すると、それまで受給できていた遺族基礎年金は支給停止になります。
●遺族厚生年金がもらえなくなるケース
遺族厚生年金は「子のある配偶者・子・子のない配偶者・父母・孫・祖父母」のうち優先順位の高い人が受給できる年金です。一般的には子か配偶者が受給するケースが多いでしょう。しかし、子や配偶者であっても遺族厚生年金をもらえないケースがあります。
○配偶者が生計を維持されていないケース
前年の年収が850万円以上の配偶者は生計を維持されているとはみなされないため、遺族厚生年金をもらうことができません。
○夫の年齢が55歳未満のケース
遺族厚生年金には男女差と年齢要件があり、夫は妻の死亡時に55歳以上でないと受給することができません。また、妻の死亡時に55歳以上であっても、実際に受給開始となるのは60歳になってからです。
○配偶者が再婚したケース
遺族厚生年金の受給権がある配偶者でも、再婚すれは支給停止になります。
国は遺族年金の見直しを検討中
現行の遺族年金制度では、夫婦のうちどちらかが死亡すれば遺族年金をもらうことができ、30歳以上の妻の場合は遺族厚生年金を生涯もらい続けることができます。
しかし国は現在遺族厚生年金の見直しを検討しています。近い将来、遺族厚生年金の男女差を解消し、収入要件を撤廃、原則5年の有期給付に改正するようです。
●遺族厚生年金の男女差の解消
現行の遺族厚生年金は、30歳以上の女性であれば生涯受給できますが、30歳未満の女性は5年間しかもらうことができません。また、遺族厚生年金をもらえる男性は、妻の死亡時の年齢が55歳以上の人だけです。今回の見直し案では男女差を解消し、60歳未満の人は男女に関係なく5年間の有期給付になることが検討されています。ただし、60歳以上の人は現行通りの支給となり、遺族基礎年金も今まで通り変わりはありません。
●収入要件の撤廃
現行の遺族厚生年金は、前年の年収が850万円未満でなければ受給できません。しかし、見直し案では収入に関わらず遺族厚生年金をもらうことができる見込みです。
●配慮が必要な人への継続給付
見直し案では、60歳未満の人は5年間しか遺族厚生年金をもらうことができませんが、事情によっては5年で生計を立て直せない人もいるでしょう。そのような人が生活費に困窮しないよう、5年を過ぎても生活を再建できない人に対しては、継続して遺族厚生年金の給付が検討されています。
1人になった場合の年金収入や生活費もシミュレーションしておこう
夫婦ともに健在なら年間の年金収入は312万円でしたが、夫の亡き後、妻の年金収入は約164.8万円になり、世帯年収は大きく下がりました。このことを考えると、生涯ゆとりのある生活を希望するなら、現役世代にライフプランを立て、年金の補てん分を貯蓄または運用で準備しておくことが重要です。また、1人になった場合の年金収入や生活費もシミュレーションして、世帯年収が下がったときの備えもしておきましょう。
また近い将来、遺族年金制度の見直しが行われる見込みです。その場合、60歳未満で配偶者を亡くすと、遺族厚生年金の支給が5年で終わってしまうかもしれません。そうなると自ら生計を立てる手段を考える必要が出てきます。
遺族年金制度の見直しは現時点ではまだ正式に決まったわけではありませんが、1人残されたとき生活費をどのように工面していくかは、私たちにとって重要な課題といえるでしょう。安心して生活していくためにも、1人残された場合を想定して、どれくらいの生活費が必要になるか早めに試算しておくことをおすすめします。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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