24/02/20
厚生年金「夫16万円・妻10万円」夫が亡くなると妻がもらえる年金はいくら?
夫婦のどちらかが亡くなると遺族年金をもらうことができますが、夫婦2人分の年金額と比べると、もらえる年金額はどれくらい変わるのでしょうか?今回は、夫は月額16万円、妻は月額10万円の年金をもらっている夫婦を例に、夫が亡き後、妻の年金はどのようになるのか試算してみました。
日本の公的年金制度は1人1年金
日本の公的年金制度は、原則として1人1年金という決まりがあります。日本には3種類の年金「老齢年金」「遺族年金」「障害年金」がありますが、これら年金の受給権がある場合、重複して受給権が生じたときは、どれか1つを選ぶ必要があります。ただ、老齢基礎年金と老齢厚生年金のように、年金の支給事由が同じ年金は1つの年金とみなされます。
また、65歳以上の人は、支給事由が異なる年金の受給権が生じた場合、特例として2つ以上の年金をもらえる場合があります。
たとえば「老齢基礎年金+遺族厚生年金」や「遺族厚生年金+老齢厚生年金&老齢基礎年金」といったケースでは、特例として老齢年金と遺族年金が一緒に支給されます。
ただし、場合によっては一部の年金が支給停止になる場合もあるので注意が必要です。これはどのようなしくみなのか、夫が先に亡くなり、残された妻が「遺族厚生年金+老齢厚生年金&老齢基礎年金」をもらう場合で見てみましょう。
妻の老齢厚生年金が夫の遺族厚生年金よりも少額の場合、夫の遺族厚生年金から妻の老齢厚生年金にあたる金額が支給停止になります。また、夫の遺族厚生年金よりも妻の老齢厚生年金の方が高額になる場合は、夫の遺族厚生年金は全額支給停止になるというしくみです。
特例で2つ以上の年金を併給する場合、年金額の調整が入ることは頭に入れておきましょう。
遺族厚生年金の決まり方
ではここで、遺族厚生年金の年金額がどう決まるのか見ていきましょう。
遺族厚生年金の年金額は、老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3になります。
・遺族厚生年金=(A+B)×3/4
A:2003年(平成15年)3月以前の加入期間
平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの被保険者期間の月数
B:2003年(平成15年)4月以降の加入期間
平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以降の被保険者期間の月数
被保険者期間が25年(300月)未満の場合でも、要件を満たせば被保険者期間の月数を300月とみなして計算できます。なお、平均標準報酬月額と平均標準報酬額の違いはかんたんにいうと「賞与を含むか含まないか」です。2003年4月以降の平均標準報酬額は賞与(標準賞与額)を含む金額で算出されます。
●妻が自身の老齢厚生年金も受給する場合
65歳以上になると残された妻にも老齢厚生年金の受給権が生じます。その場合、妻が受け取る遺族厚生年金は、次のように決まります。
① 夫の遺族厚生年金の額
② 夫の遺族厚生年金の3分の2の額と妻の老齢厚生年金の2分の1を合算した額
上記①②を比較し、高い金額の方が遺族厚生年金の額になります。
ただし、妻自身の老齢厚生年金の額が遺族厚生年金の額よりも高い場合、遺族厚生年金は全額支給停止となります。また、妻自身の老齢厚生年金が遺族厚生年金よりも低い金額の場合、妻自身の老齢厚生年金は全額もらえますが、遺族厚生年金は老齢厚生年金にあたる金額が支給停止になります。
厚生年金が月額16万円の夫亡き後、妻の年金額はどうなる?
遺族厚生年金の決まり方をご紹介しましたが、ここでは共働き夫婦で65歳を過ぎてから夫が先に亡くなった場合、妻がもらう年金額を試算してみます。
【事例】
・夫の厚生年金:月額16万円(年金収入192万円)
・妻の厚生年金:月額10万円(年金収入120万円)
・夫も妻も満額の老齢基礎年金を受給(月額:6万8000円 年額81.6万円:2024年度の場合)
夫婦合わせて年金収入は312万円でしたが、夫に先立たれると妻の年金収入は変わります。
まずは、妻がもらう遺族厚生年金を試算してみましょう。
厚生年金には老齢基礎年金も含まれるため、老齢厚生年金(報酬比例部分)のみの金額を計算します。
・夫の老齢厚生年金
受給する厚生年金192万円-老齢基礎年金81.6万円=110.4万円
・妻の老齢厚生年金
受給する厚生年金120万円-老齢基礎年金81.6万円=38.4万円
夫の遺族厚生年金は、老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額になるので、年金額は以下のようになります。
・夫の遺族厚生年金
報酬比例部分110.4万円×3/4=82.8万円
ただし、この事例では妻も老齢厚生年金を受給しているため、以下の①②を比較し、高い方が夫の遺族厚生年金の額になります。
① 老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額
② ①の金額の3分の2と、妻の老齢厚生年金の2分の1を合算した額
① 828,000円
② 828,000円×2/3+384,000円×1/2=744,000円
上記を比較した結果、夫の遺族厚生年金は82.8万円になりました。
妻がもらえる年金は、「夫の遺族厚生年金+妻自身の老齢基礎年金+妻自身の老齢厚生年金」となりますが、2つ以上の年金を併給する場合は年金額に調整が入ります。
調整されるのは遺族厚生年金です。夫の遺族厚生年金よりも妻の老齢厚生年金の方が低い金額になるため、遺族厚生年金のうち、妻自身の老齢厚生年金にあたる部分が支給停止となります。
・妻がもらえる遺族厚生年金
夫の遺族厚生年金は82.8万円-妻の老齢厚生年金は38.4万円=44.4万円
よって、妻がもらえる年金は以下のようになります。
夫の遺族厚生年金44.4万円+妻自身の老齢厚生年金38.4万円+妻自身の老齢基礎年金81.6万円=164.4万円
試算の結果、夫が亡き後、妻がもらえる年金は年額164.4万円になることがわかりました。
1人になった場合の年金収入や生活費もシミュレーションしておこう
夫婦ともに健在なら年間の年金収入は312万円でしたが、夫の亡き後、妻の年金収入は164.4万円になり、世帯年収は大きく下がりました。このことを考えると、生涯ゆとりのある生活を希望するなら、現役世代にライフプランを立て、年金の補てん分を貯蓄または運用で準備しておくことが重要です。また、1人になった場合の年金収入や生活費もシミュレーションして、世帯年収が下がったときの備えもしておきましょう。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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