25/08/13
60歳以降に受給できる3つの「高年齢給付金」、対象者ともらえる金額はいくら?

今は60歳以降も働き続ける人がたくさんいます。総務省「労働力調査」によると、2024年の就業率は60〜64歳で74.3%、65〜69歳で53.6%に達しています。60歳に定年退職となっても、60歳以降も働き続けるケースは少なくないのです。嘱託社員として再雇用される人もいれば、定年退職後は別の会社に再就職することを決めている人もいるでしょう。そんなとき、60歳以降にもらえる「高年齢給付金」が3つもあることをご存じですか?
高年齢給付金は対象となる人が決まっているので、自分が該当する場合は忘れず受け取っておきたいですね。そこで今回は、60歳以降にもらえる3つの高年齢給付金について、対象者やもらえる金額、受給手続きなどをご紹介します。
再雇用または再就職で給与が一定率下がる人がもらえる「高年齢雇用継続給付」
高年齢雇用継続給付には、60歳で定年退職になったが再雇用された場合に要件を満たせば受け取れる「高年齢雇用継続基本給付金」と、60歳以後に再就職し要件を満たす場合に受け取れる「高年齢再就職給付金」があります。
これら2つの給付金はどちらも60歳以降も働く場合に支給されるものですが、受給するには以下の支給要件を満たす必要があります。
●高年齢雇用継続給付の支給要件
・支給対象月の初日から末日まで雇用保険の被保険者であること
・支給対象月に支払われた給与が、60歳到達時の賃金月額の75%未満に下がっていること
・支給対象月に支払われた給与額が最低限度額(※)を超えていること
(※毎年8月1日に改定。2025年8月1日からの最低限度額は2411円)
また、特別支給の老齢厚生年金など年金をもらいながら厚生年金に加入して働く場合、注意したいことがあります。それは、在職による年金の支給停止に加え、高年齢雇用継続給付によっても年金の一部が支給停止になる点です。
たとえば特別支給の老齢厚生年金と総報酬月額相当額を合算して51万円を超える場合、特別支給の老齢厚生年金の一部または全部が支給停止になります。このとき高年齢雇用継続給付の受給によっても年金の一部が支給停止になるので注意が必要です。
「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」のほかにも、高年齢の被保険者が失業した場合に受け取れる「高齢者求職者給付金」もあります。これら3つの高年齢給付金の対象者や支給額、受給期間をひとつずつ確認してみましょう。
高年齢給付金①:高年齢雇用継続基本給付金
高年齢雇用継続基本給付金とは、雇用 保険の基本手当(失業手当)を受給せずに再雇用されたものの、給与が60歳時点の賃金に比べて75%未満に下がったという場合に支給される給付金です。たとえば、60歳で一旦定年退職となるが基本手当をもらわず、それ以後も嘱託社員として同じ会社で働き続ける場合、給与が75%未満に下がったときにもらうことができます。
●高年齢雇用継続基本給付金の対象者
高年齢雇用継続基本給付金の対象となるのは、以下の要件を満たす人です。
・60歳以上65歳未満で雇用保険の一般被保険者である
・雇用保険の被保険者期間が5年以上ある
・60歳以降も再雇用で働くが、給与が60歳時点の75%未満に下がっている
●高年齢雇用継続基本給付金の支給額
高年齢雇用継続基本給付金の支給額は、以下のようになります。
60歳以上65歳未満の給与が60歳時点に比べて、
・64%以下に低下した場合⇒60歳以降の月額給与の10%相当額
・64%超75%未満に低下した場合⇒60歳以降、給与の低下率に応じ0~10%の相当額(※)
(※)60歳以降の給与が64%超75%未満に低下した場合、賃金額の低下率に応じた支給率は以下の通りです。
<高年齢雇用継続基本給付金の支給率>

厚生労働省「Q&A~高年齢雇用継続給付~」より
たとえば、60歳時点の給与が40万円で、60歳以降再雇用された際の給与が26万円になった人がいるとします。この場合、毎月もらえる高年齢雇用継続基本給付金の金額は、
26万円÷40万円×100=65%(賃金の低下率)
高年齢雇用継続基本給付金の支給率は表より8.95%なので
26万円×8.95%=2万3270円
となります。
●高年齢雇用継続基本給付金を受給できる期間
高年齢雇用継続基本給付金をもらえるのは、60歳になった月から65歳になる月までです。ただし、60歳になった時点で雇用保険の被保険者期間が5年に満たない場合、被保険者期間が5年になった時点から高年齢雇用継続基本給付金を受給できるようになります。
なお、高年齢雇用継続基本給付金の支給率は2025年3月末まで最大で15%でしたが、2025年4月1日からご紹介したとおり最大で10%に引き下げられました。
●高年齢雇用継続基本給付金の受給手続き
高年齢雇用継続基本給付金の受給手続きは、原則として会社が行います。ハローワークへ必要書類を提出して申請しますが、本人が希望するときは、本人が手続きすることも可能です。
高年齢雇用継続基本給付金をはじめて手続きするときは、以下の書類をハローワークへ提出します。
・高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書
・払渡希望金融機関指定届
・雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書
・賃金台帳、労働者名簿、出勤簿またはタイムカードなど、雇用の事実や賃金の支払状況、賃金額を確認できる書類
・運転免許証など本人の年齢を確認できる官公署が発行・発給する身分証明書のコピー
(※勤務先へマイナンバーを届け出ているときは省略可)
2回目以降の申請では、以下の書類を提出します。
・高年齢雇用継続給付支給申請書(ハローワークが交付)
・賃金台帳、出勤簿またはタイムカードなど賃金の支払状況、賃金額を確認できる書類
高年齢給付金②:高年齢再就職給付金
高年齢再就職給付金とは、定年退職となり雇用保険の基本手当(失業手当)を受給後、再就職したが、給与が60歳時点の賃金に比べて75%未満に下がった場合に支給される給付金です。
●高年齢再就職給付金の対象者
高年齢再就職給付金の対象となるのは、以下の要件を満たす人です。
・60歳以上65歳未満で雇用保険の一般被保険者である
・雇用保険の被保険者期間が5年以上ある
・定年退職し雇用保険の基本手当を受給した
・再就職した日の前日において、基本手当の支給残日数が100日以上残っている
・直前の職場での給与と比べ、再就職先での給与が、75%未満に下がっている
・再就職先において1年以上の雇用が確定している
・再就職手当をもらっていない
●高年齢再就職給付金の支給額
高年齢再就職給付金の支給額は、以下のようになります。
60歳以上65歳未満の給与が60歳時点に比べて、
・64%以下に低下した場合⇒60歳以降の月額給与の10%相当額
・64%超75%未満に低下した場合⇒60歳以降、給与の低下率に応じ0~10%の相当額(※)
(※)60歳以降の給与が64%超75%未満に低下した場合、賃金額の低下率に応じた支給率は、「高年齢雇用継続基本給付金」でご紹介したものと同じです。
●高年齢再就職給付金を受給できる期間
高年齢再就職給付金をもらえる期間は、基本手当の支給残日数によります。
・支給残日数が200日以上の場合⇒再就職日の翌日から2年経過する月まで
・支給残日数が100日以上200日未満の場合⇒再就職日の翌日から1年経過する月まで
ただし、65歳に達する月が限度となります。
●高年齢再就職給付金の受給手続き
高年齢再就職給付金も会社が手続きを行いますが、本人が希望すれば、本人が手続きすることも可能です。ハローワークへ必要書類を提出して申請しますが、電子申請による申請手続きもできます。
高年齢再就職給付金の初回手続きでは、以下の書類をハローワークへ提出します。
・高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書
・払渡希望金融機関指定届
・賃金台帳、労働者名簿、出勤簿またはタイムカードなど、雇用の事実や賃金の支払状況、賃金額を確認できる書類
・運転免許証など本人の年齢を確認できる官公署が発行・発給する身分証明書のコピー
(※勤務先へマイナンバーを届け出ているときは省略可)
2回目以降の手続きに必要な書類は以下の通りです。
・高年齢雇用継続給付支給申請書(ハローワークが交付)
・賃金台帳、出勤簿またはタイムカードなど賃金の支払状況、賃金額を確認できる書類
高年齢給付金③:高年齢求職者給付金
高年齢求職者給付金とは、高年齢の雇用保険被保険者が失業した際にもらえる給付金です。いわゆる失業手当(雇用保険の基本手当)は64歳までが対象。雇用保険に加入する65歳以上の人は、高年齢求職者給付金がもらえます。
●高年齢求職者給付金の対象者
高年齢求職者給付金をもらえるのは、以下の要件を満たす人です。
・離職日以前の1年間に、雇用保険の被保険者期間が通算6ヵ月以上あること
・失業状態であること
高年齢求職者給付金は、離職後も就職したいという積極的な意思があることと求職活動を行うことが前提となります。そのため、離職後は家事に専念したり、自営業を始めたりするなど就職する意思がない場合は高年齢求職者給付金を受給することができません。
●高年齢求職者給付金の支給額と受給期間
高年齢求職者給付金の支給額は、雇用保険の被保険者期間による日数分の基本手当に相当する額になります。また、高年齢求職者給付金を受給できる期間は、離職日の翌日から1年間となっています。
<高年齢求職者給付金の支給額と受給期間の例>

厚生労働省「離職されたみなさまへ」より
たとえば、65歳以上で退職前6か月の賃金総額が180万円、雇用保険の被保険者期間が1年以上の人の場合、もらえる高年齢求職者給付金の金額は1日あたり6207円、50日分で31万350円となります。
高年齢求職者給付金の受給には求職申し込みの手続きが必要です。また、基本手当は自己都合退職の場合、求職申し込みの日から7日間の待期を経た後、2ヵ月間の給付制限があります。求職申し込みが遅れると、高年齢求職者給付金がもらえる所定の日数分を受給できなくなる場合がある(たとえば上の図の場合、受給期限の15日前に認定日を迎えたため、35日分が受給できなかった)ので、できるだけ早めに求職申し込みの手続きをすることをおすすめします。
●高年齢求職者給付金の受給手続き
高年齢求職者給付金は自身で受給手続きを行います。必要書類を揃えて、住所地を管轄するハローワークで手続きをしましょう。
高年齢求職者給付金の受給手続きで必要な書類は、以下の通りです。
・離職票
・マイナンバーカード
マイナンバーカードを持っていない人は、以下の書類を持参しましょう。
・個人番号確認書類
・運転免許証など、官公署が発行した身分証明書など
・写真1枚(3センチ×2.4センチ)
・本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
高年齢雇用継続給付はいずれ廃止になる?
高年齢雇用継続給付は2025年4月1日から支給率が最大10%に縮小されました。また、将来的には高年齢雇用継続給付は段階的に廃止される見込みです。定年が65歳に引き上げられたり、65歳までは継続雇用制度が導入されたりと、高年齢になっても働ける環境が整ってきたことから、高年齢雇用継続給付の廃止が検討されるようになりました。長く働けば、その分収入を確保できるので、高年齢者に対する給付金が廃止となっても、経済的な影響は少ないかもしれません。
今回ご紹介した3つの「高年齢給付金」について、対象者や支給条件などを正しく理解し、自身が対象になる場合はおおよその受給額を確認して、家計のやりくりやライフプランに役立てるとよいでしょう。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。

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