25/01/23
年金をもらいながら働いている人も「確定申告が必要」は本当か
70歳までの就業機会の確保の努力義務もあり、定年を過ぎても元気なうちは働きたいと考えている人が多くなりました。しかし、会社員時代までは年末調整だけで終わっていた人も、年金をもらいながら働くと確定申告が必要になる場合があります。確定申告というと、面倒なイメージを抱く方も多いのではないでしょうか。
今回は、令和7年度税制改正の大綱をふまえ、年金受給者で働いているときに確定申告が必要な場合を確認していきましょう。
老齢年金は所得税がかかる雑所得
会社員で働いて得られる所得は、給与所得です。それに対して年金は所得の種類では「雑所得」となり、老齢年金をもらっている場合には所得税がかかる場合があります。
老後に受け取る年金で代表的なものは、老齢基礎年金と老齢厚生年金ですが、他にも企業年金や国民年金基金、企業型や個人型の確定拠出年金などを受け取っている場合は、すべてを合計した金額が公的年金等の年金収入になります。公的年金等は、年金の収入金額から公的年金等控除額を差し引いて所得金額を計算します。
公的年金等控除は、65歳未満と65歳以上で金額が異なります。また公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額によっても、公的年金等控除の金額は変わります。公的年金以外の合計所得金額が1000万円以下の場合、年金を年110万円(65歳未満は60万円)以上もらっている場合には、雑所得として計上しなければなりません。
公的年金には「老齢年金」「障害年金」「遺族年金」の3種類があります。年金受給者で確定申告の対象となる人は、老齢年金の受給額と公的年金以外の雑所得の所得金額で決まります。なお、障害年金と遺族年金は非課税なので、確定申告の対象にはなりません。
雑所得の金額は、以下の速算表を使って計算することができます。
<公的年金等に係る雑所得の速算表(令和2年分以降)>
国税庁「公的年金等の課税関係」より
給与所得者で確定申告が必要な人
まず給与収入が主な収入で、年金をもらっている場合を考えてみましょう。
●給与の年間収入金額が2000万円を超える人
超レアだと思いますが、年金をもらっているかどうかにかかわらず、給与収入が2000万円を超えれば確定申告が必要になります。
●1か所の会社から給与をもらっている人で、給与所得・退職所得以外の所得額が合計20万円を超えている場合
●2か所以上の会社から給与をもらっている人で、給与のすべてが源泉徴収の対象となる場合に、年末調整されなかった給与の金額と給与所得・退職所得以外の金額が合計20万円を超える場合
年金をもらいながら働くときに、年金に関する所得が20万円を超えていれば、確定申告が必要になります。
●公的年金を65歳以上の場合に年110万円(65歳未満は60万円)を超えてもらっている場合
公的年金にも税金がかかる場合があります。公的年金等の所得である雑所得から所得控除を差し引いたときに0円を上回ると所得税がかかります。
たとえば、65歳未満の人が60万円の公的年金をもらっている場合の雑所得は、上の表より
60万円(年金収入)-60万円(公的年金等控除)=0円
と計算できます。
上記の場合には、結果的に給与所得しかもらっていないことになるので、年末調整だけで終了します。しかし、年末調整の対象になるのは、給与所得だけです。60万円を超えて年金収入があった場合、公的年金等は、雑所得になるので年末調整の対象にならず、基本的に給与所得と年金収入が発生する場合には確定申告が必要になります。
年金受給者で確定申告が必要な人
次に年金の収入を主な収入としている場合を考えてみましょう。年金収入は雑所得として課税の対象になるので、原則的には確定申告をして納税をします。ただし、年金をもらっている人の確定申告の手続きの負担を減らすために、確定申告不要制度が設けられています。
<確定申告不要制度>
政府広報オンラインより
上のフローチャートのとおり、
・公的年金等の合計額が400万円以下
・公的年金等以外の所得金額が20万円以下
この2つの条件がどちらも当てはまる人は確定申告をしなくてもいいことになっています。
つまり、年金受給者で確定申告が必要な人は、以下の場合です。
・公的年金等の合計が400万円を超える場合
・公的年金等以外の所得金額が20万円を超える場合
たとえば、公的年金等以外の所得が給与所得だけであった場合を考えてみます。給与所得控除の最低額は65万円ですから、給与収入が85万円を超えると確定申告が必要になります。
65万円(給与所得控除)+20万円=85万円
また、公的年金等の収入は400万円以下でも、副業で20万円を超える所得がある場合や、個人年金や生命保険の満期返戻金などで20万円を超える所得がある場合も、申告不要制度の対象外になります。
収入というと働いて得たお金というイメージがありますが、公的年金等を除いた雑所得、一時所得や配当所得(申告不要制度を選択した場合は除く)は、確定申告が必要な所得になるので注意が必要です。
確定申告不要制度の対象者であっても、申告したほうがいい場合とは?
給与所得で年末調整がされていても、所得控除には確定申告をしないと適用されないものもあります。確定申告が不要となる場合でも、医療費控除、寄附金控除、雑損控除などの所得税の還付を受ける人は確定申告が必要です。
また、公的年金以外の所得が20万円以下で確定申告不要制度に該当する場合も、所得税や復興特別所得税の還付を受けるには確定申告が必要です。具体的には、次の場合に確定申告を行うことで還付が受けられます。
●確定申告を行うことで還付が受けられるケース
1. 医療費控除・セルフメディケーション税制
医療費控除は、自身や同一生計の配偶者・親族のために支払った医療費から最高200万円控除する制度。場合によっては、介護サービスのうち医療費控除となるものがあります。また、セルフメディケーション税制は、健康の保持増進、疾病予防などに支払った費用のうち、1万2000円を超える部分から最高8万8000円を控除できるものです。
2. 生命保険料控除・地震保険料控除
生命保険や医療保険、個人年金保険に加入している場合、地震保険に加入している場合には、控除を受けることができます。
3. 住宅ローンを利用して住宅を購入・リフォームした場合
住宅借入金等控除を適用することで、住宅ローン残高から一定割合の金額を控除することができます。
4. ふるさと納税をした場合、一定の団体に寄附した場合
ふるさと納税をした場合や国や地方自治体、特定公益増進法人へ寄附した場合には、寄附金控除が受けられ、一定額を控除できます。
5. 1年の途中で退職して再就職していない場合
1年の途中で退職した場合には、年末調整を受けないままで終わっています。確定申告を受けることで源泉徴収された所得税等が還付されることがあります。
6. 災害や盗難にあった場合
災害や盗難、横領で資産に損害を受けた場合には、雑損控除によって損害を受けた金額の一部を控除することができます。
7.所得金額調整控除を受ける場合
給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除を受けようとする場合には、確定申告でのみ申告が可能です。所得金額調整控除は、税制改正により2020年に新設されました。子どもや介護者がいる世帯や、給与と年金両方の所得がある世帯の税負担を軽減させる控除の1つです。給与所得控除額と公的年金等控除額がともに10万円引き下げられたことを受けて、給与所得と年金所得がある人も控除の対象となりました。給与所得と公的年金等にかかる雑所得がある場合、その合計金額が10万円を超える人は、所得金額調整控除が受けられます。
税金の納めすぎがないようにするためには、確定申告が不要でも利用できる控除がないか確認してみましょう。
また、確定申告は不要でも住民税の申告が必要になる場合があります。たとえば、20万円以下の給与所得以外の所得がある人や、年金受給者の確定申告不要制度を利用した公的年金受給者のうち、年金以外の所得があった人などです。
住民税の非課税限度額は45万円とする自治体が多いのですが、42万円や38万円とする自治体もあります。また、令和7年から所得税の基礎控除額は58万円に改正されていますが、住民税では据え置かれています。申告や納税に不明な点がある場合は、詳しくはお住まいの市町村窓口でお尋ねください。
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池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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