24/12/01
年金受給者「確定申告不要制度」でも確定申告したほうが得する7つのケース
毎年、確定申告の時期が訪れると、申告書の作成や提出の手続きが面倒だなと思う方は多いのではないでしょうか。年金受給者の方は、会社勤めの頃と違って、自分で申告手続きを行わなければなりませんが、一定の条件を満たしていれば、確定申告をする必要がなくなる「確定申告不要制度」も存在します。しかし、中には確定申告不要制度の対象でも、確定申告したほうが得する場合や住民税の申告が必要な場合もあります。
今回は、確定申告不要制度の対象者と確定申告したほうがいい場合、住民税に関する手続きが必要な場合についてくわしく解説します。
年金受給者のための確定申告不要制度とは?
確定申告不要制度とは文字どおり、年金受給者の確定申告が不要になる制度です。年金は税務上「雑所得」という扱いとなり、所得税の課税対象となります。そのため、本来であればその年の1月1日から12月31日までにもらった年金の総額を計算し、確定申告をおこない所得税を納める必要があります。
ただし、公的年金も原則として源泉徴収の対象となっているため、確定申告は所得税の納付金額の過不足を精算することが主な目的といえます。しかし、収入のほぼすべてが年金という人にとって、確定申告をおこなうのは負担に感じてしまいます。そこで、一定の条件を満たした場合に確定申告を不要としているのです。
●確定申告不要制度の対象者
確定申告不要制度の対象となるのは、以下の2つの条件をともに満たす場合に限られます。
①公的年金等の収入金額(2か所以上ある場合は合計額)が400万円以下
②公的年金にかかる雑所得以外の所得金額が20万円以下
①の「公的年金等」とは、国民年金や厚生年金、共済組合から支給を受ける老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金、老齢共済年金)や確定給付企業年金契約に基づいて支給を受ける年金などを指します。
②の条件にある「公的年金等に係る雑所得以外の所得」とは、生命 保険や共済などの契約に基づいて支給される個人年金や生命保険の満期返戻金、給与所得などです。
●年金受給者の確定申告不要制度のフローチャート
政府広報オンラインより
確定申告不要制度の対象者でも確定申告したほうがいい場合は?
確定申告不要制度の対象者に該当していても、確定申告をすることで節税につながるケースがあります。確定申告によって各種控除を適用すると、納めすぎた税金が還付金として戻る可能性があるためです。以下では、確定申告を検討すべき具体的なケースについて解説します。
●1.世帯合計での医療費が高額になった場合
医療費が高額になった年は、「医療費控除」によって税金が軽減されることがあります。医療費控除は、1年間に支払った医療費が10万円を超える場合に適用され、所得税の一部が還付金として戻る可能性があります。この控除を受けるには、病院や薬局で発行された領収書を保存し、明細を取っておくことが必要です。医療費は自分や家族のために支払ったものが対象となるため、世帯全体の医療費を合算して10万円を超えるか確認しましょう。
また、その年の総所得金額等が200万円未満の方は、年間の医療費が10万円未満でも医療費控除を受けられる場合があります。具体的には、総所得金額等の5%を超える医療費があれば控除が適用されます。たとえば、所得が150万円の方は、その5%にあたる7万5,000円以上の医療費を支払っていれば医療費控除の対象です。年金受給者の場合、「総所得金額等の5%」が該当するかを確認しましょう。
【医療費控除の具体例】
総所得金額が180万円の人が10万円の医療費を支払った場合、10万円が総所得の5%である9万円を超えているので、1万円が控除の対象として扱われることになります。
2. 住宅ローンを利用して住宅を購入またはリフォームした場合
住宅ローンを活用して住宅を購入した場合や、一定の条件を満たすリフォームを行った場合も、確定申告で「住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)」を受けることで税負担を軽減できます。この控除は住宅ローンの残高に応じて税額控除が受けられる制度で、条件を満たせばローン残高の0.7%が最長13年間控除されます。
住宅ローン控除を受けるためには、以下の主な条件を満たす必要があります
- 自己居住用の住宅であること(投資用物件は対象外)
- ローンの返済期間が10年以上であること
- 建物が耐震性や一定の品質基準を満たしていること
また、リフォームについても耐震や省エネ、バリアフリー改修など一定の要件を満たせば住宅ローン控除の対象になります。
【住宅ローン控除の具体例】
住宅ローン残高が2,000万円の方であれば、0.7%にあたる14万円が税額控除の対象です。この控除によって所得税や住民税が軽減されるため、年収に対する税負担が大きい方ほどメリットがあります。
控除を受けるには購入後またはリフォーム後最初の年に確定申告が必要です。また、2年目以降は会社員であれば年末調整により自動的に適用されますが、年金受給者の方は毎年の確定申告が必要になりますのでご注意ください。。
3. 公的年金等から特別徴収されていない社会保険料がある場合
もともと年金受給者の方でも公的年金等から特別徴収される社会保険料(介護保険料、国民健康保険料(税)および後期高齢者医療保険料)については、その金額が源泉徴収税額を算出する際に控除されることとなっています。しかし、公的年金等から特別徴収されていない社会保険料がある場合は、確定申告を行っていただき、所得税および復興特別所得税の過不足分を精算することになります。
このように公的年金等から特別徴収されていない社会保険料がある場合は、確定申告をして「社会保険料控除」の追加控除を受けることにより所得税の一部が軽減される可能性があります。
また、確定申告で追加控除の対象となるケースもあります。たとえば、同一生計の親族(両親や子どもなど)の国民年金保険料を支払っている場合、その支払分も「社会保険料控除」として確定申告することで、さらに税負担を軽減できます。
【社会保険料控除の具体例】
年金受給者の方が年間で20万円の国民健康保険料や介護保険料を特別控除の仕組みを使わずに支払った場合、その20万円は所得控除の対象です。仮に所得税率が10%であれば、年間2万円の税額控除が適用され、還付金として戻ってきます。また、家族の国民年金保険料として年間15万円を支払っている場合も、その分が控除対象となり、合計35万円分の控除が受けられる計算です。
4. 生命保険料を支払っている場合
生命保険料を支払っている場合、「生命保険料控除」を通じて所得税や住民税を軽減できる可能性があります。この控除は、2012年1月1日以降に契約した新契約と、2011年12月31日以前に契約した旧契約で異なる扱いとなります。控除額の上限も契約年に応じて変わるため、まずは契約日を確認しましょう。
- 新契約(2012年1月1日以降):生命保険、介護医療保険、個人年金保険の3つのカテゴリそれぞれで最大4万円の控除が可能で、合計で最大12万円の控除を受けられます。
- 旧契約(2011年12月31日以前):生命保険と個人年金保険の2つのカテゴリで最大5万円ずつ、合計最大10万円の控除が受けられます。
・複数契約時の上限額
新契約と旧契約の両方に該当する契約がある場合、生命保険、介護医療保険、個人年金保険それぞれのカテゴリで控除額を組み合わせることが可能です。たとえば、生命保険契約を複数締結している場合、それぞれの保険料の合計額に応じて最大4万円(新契約)または5万円(旧契約)の上限額が適用されます。
【生命保険料控除の具体例】
2013年に加入した新契約の生命保険料として年間10万円、また2010年の旧契約の生命保険料として年間8万円を支払っている場合、それぞれの上限額が適用されます。この場合、新契約の生命保険で最大4万円、旧契約の生命保険で最大5万円の控除が可能です。合計9万円が控除対象となり、その分が課税所得から差し引かれるため、節税効果が得られます。
5. 配偶者と離婚または死別した場合
その年に配偶者と離婚や死別を経験した方は、確定申告を行うことで所得税や住民税の還付を受けられる可能性があります。これは、婚姻状況が変化したことで「寡婦控除」や「ひとり親控除」の対象となる場合があるためです。これらの控除は、所得から一定額を差し引くことにより税負担を軽減する制度で、主に以下の条件で適用されます。
- 寡婦控除:離婚または死別後、扶養する子がいない場合でも、所得が一定額以下(合計所得金額が500万円以下の方が対象)であれば適用されます。一般の寡婦控除は27万円の控除があり、特別寡婦控除では35万円が控除されます。
- ひとり親控除:離婚・死別などにより扶養する子どもがいる場合、また未婚のシングルマザーやシングルファザーも対象で、控除額は35万円です。この控除は合計所得金額500万円以下の方に適用されます。
【離婚・死別に伴う控除の具体例】
離婚後に一人で未成年の子どもを育てている方が年収400万円の場合、ひとり親控除の35万円が適用され、所得税や住民税が軽減されます。また、離婚や死別により単身となり、扶養する子どもがいない場合でも、所得が低ければ寡婦控除が適用され、還付を受けられる可能性があります。
6. 災害や盗難の被害に遭った場合
その年に地震や台風、水害といった自然災害や火災、または盗難・横領といった被害に遭い、復旧や買い戻しのために支出をした場合、「雑損控除」を適用することで税負担を軽減することができます。雑損控除は、災害関連の損失を確定申告で申告することで、支出額の一部が所得から控除される制度です。
●雑損控除の申請に必要な書類
雑損控除を受けるためには、被災状況を証明する以下の書類が必要です。
罹災証明書:災害に遭った際、自治体が発行する証明書。これにより災害関連の支出が証明されます。
領収書:災害後の復旧費用や盗難により損害を受けた財産の修繕・買い戻しの費用に関する領収書。これにより実際の支出が証明されます。
盗難届:盗難被害に遭った場合は警察に提出した盗難届も提出する必要があります。
【雑損控除の計算方法と具体例】
雑損控除の対象となる金額は、「(災害による損失額等-保険金等で補填される金額)-5万円」または「(災害による損失額等-保険金等で補填される金額)-所得の10%」のうち多いほうが控除額になります。
例えば、台風で住宅の一部が損壊し、修繕費用に50万円かかり、保険金で20万円が補填されたとします。この場合、損失額は50万円から補填額20万円を引いた30万円です。年収150万円の方であれば、雑損控除の対象となる金額は「30万円-5万円=25万円」または「30万円-(150万円×10%)=15万円」となり、どちらか大きい金額、つまり25万円が控除対象です。
被害に遭った年の確定申告で忘れずに雑損控除を申請し、災害や盗難による負担を少しでも軽減しましょう。
7. ふるさと納税や寄附を行った場合
ふるさと納税や日本赤十字社、国、地方自治体などへの寄附を行った場合は「寄附金控除」を受けることができます。寄附金控除により、寄附金額から2,000円を差し引いた額が所得税の控除対象となり、節税につながります。控除の対象となるふるさと納税額は、寄附金の合計額から2,000円を引いた額です(控除額の上限は、総所得金額等の40%)。
【ふるさと納税とワンストップ特例制度】
ふるさと納税については、2015年に創設された「ワンストップ特例制度」により、確定申告をせずに寄附金控除を受けられる場合があります。この制度を利用するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 寄附先の自治体数が5つ以内であること
- 会社員や公務員など確定申告を通常行わない給与所得者であること
- 寄附ごとにワンストップ特例申請書を提出すること
ワンストップ特例制度を利用すると、寄附先の自治体が代わりに寄附金控除を自治体へ通知し、翌年度の住民税から控除が適用されます。ただし、ふるさと納税先が5自治体を超える場合や、自営業や副業などで確定申告が必要な場合は、通常の確定申告を通して寄附金控除の手続きを行う必要があります。
住民税に関する手続きはどうなる?
所得税の確定申告をした方は、自治体(各市町村)は税務署から送られる情報をもとに住民税を決定するため、改めて住民税の申告書を提出する必要はありません。
注意したいのは、確定申告不要制度により確定申告はしなかった方です。よくある勘違いに「確定申告不要制度の対象となったため、住民税についても申告不要」と考えている方が多いのですが、これは大きな誤解です。確定申告不要制度はあくまでも「所得税及び復興特別所得税」の申告について不要としているだけであり、住民税の確定申告は不要とはならないからです。例えば、以下に該当する方は住民税の申告が必要となります。
①公的年金などに係る雑所得のみがある方で、「公的年金などの源泉徴収票」に記載されている控除(社会 保険料控除や配偶者控除、扶養控除、基礎控除等)以外の各種控除の適用を受ける場合
「公的年金などの源泉徴収票」に記載されている控除以外の各種控除とは、生命保険料控除や地震保険料控除、医療費控除などを指します。
ここであれ?と思う方もいると思います。生命保険料控除や地震保険料控除、医療費控除を受けたいなら確定申告するのではないかと感じるでしょう。確かに住民税の算出方法は「住民税の課税所得=所得金額-所得控除額」となっており、所得税と同じです。しかし、同じ名称の項目の控除でも所得税と住民税では控除額が異なります。そのため、所得税及び復興特別所得税が0円になったときでも、住民税がかかることがあるので、「所得税は申告しないけど、住民税は還付を受けたい」という方が一定数存在します。
②公的年金などに係る雑所得以外の所得がある場合
公的年金等に係る雑所得以外の所得とは、生命保険や共済などの契約に基づいて支給される個人年金や生命保険の満期返戻金、給与所得などです。所得税では20万円以内であれば申告不要だったのに対し、住民税では、金額の多寡にかかわらず申告が必要となります。つまり、1円でもこのような所得が発生すれば、住民税の申告が必要となるのです。なぜなら、自治体(各市町村)は確定申告がなされなかった場合には、その年度の源泉徴収票に基づき住民税を算出しますが、源泉徴収票に載ってこないこれらの金額が発生すれば、住民税額の再計算が必要になるためです。
住民税の確定申告は、所得税の確定申告と同様に毎年2月16日~3月15日までとなっています。
申告に必要な資料は次の通りです。
・住民税申告書(各自治体のホームページでダウンロードできることが多い)
・マイナンバーカード
※マイナンバーカードが無い場合には、通知カード+身分証明書
・申告する年度の源泉徴収票
・各種控除を証明できる資料
住民税の確定申告書は市区町村ごとに少しずつ違うことがありますので、直接、区役所や市役所に行って用紙をもらってくるか、ホームページでダウンロードするとよいでしょう。申告手続きが不安な方は、申告に必要な資料を持っていき、その場で役所の担当者に確認しながら記入するのもよいでしょう。
確定申告したほうがお得なケースは意外と多い
年金受給者の確定申告不要制度と確定申告したほうが得する場合をケース別に紹介してきました。確定申告不要制度は大変便利な制度ですが、該当したとしても、確定申告をすることにより、税金が戻ってくる可能性があるため、控除を受けられるものがないかを確認することは大変重要です。また、確定申告が不要であっても住民税の申告については必要となる場合もあることに注意しましょう。
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・年金収入のみの場合、所得税・住民税がかからないのはいくらまで?
KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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