21/08/10
厚生年金の支給開始年齢は原則65歳! 今後引き上げられる可能性はある?
会社員や公務員が加入できる厚生年金。現在は原則65歳から老齢厚生年金が受給できます。しかし厚生年金制度の設立以降、段階的に支給開始年齢が引き上げられてきたのをご存知でしょうか。
本記事では老齢厚生年金の支給開始年齢の推移と、繰上げ受給・繰下げ受給の仕組みを解説します。老後の資金計画を立てる前にチェックしておきましょう。
厚生年金制度の改正と支給開始年齢の推移
現在の老齢厚生年金の支給開始年齢は原則65歳です。しかし現在の支給開始年齢に至るまでに段階的に引き上げられてきた経緯があります。
●老齢厚生年金の支給開始年齢の移り変わり
厚生労働省「第4回社会保障審議会年金部会/支給開始年齢について」を参考に筆者作成
厚生年金の前身となる「労働者年金保険法」が1942年に施行された当時、支給開始年齢は55歳でした。さらに女性は適用除外となっていたのです。1944年に「厚生年金保険法」に改称・改正され、女性が適用対象となります。その後1954年以降の改正で支給開始年齢が段階的に引き上げられてきました。
2021年時点では、男女ともに老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられている途中です。男性は2024年度、女性は2029年に引き上げが完了します。
老齢厚生年金の受給年齢引き上げが行われる主な要因には、財源となる厚生年金保険料を負担する現役世代の割合が減少していることが挙げられます。
厚生年金の繰上げ受給・繰下げ受給で受取時期を変更できる
原則65歳からの支給となっている老齢厚生年金。その支給開始年齢は年金事務所等に届け出ることで、繰上げまたは繰下げが可能です。受給できる厚生年金額は請求時の年齢によって増減します。
●繰上げ受給の減額率・繰上げ受給の増額率(2022年3月まで)
日本年金機構「年金の繰上げ・繰下げ受給」を参考に筆者作成
繰上げ受給では繰上げ請求月から65歳になる前月まで1ヵ月あたり0.5%の年金額が減額されます(最大30%)。一方繰下げ受給では、66歳に達した月から70歳になるまで1ヵ月あたり0.7%が増額となります。(最大42%)。なお、老齢基礎年金の増減率は老齢厚生年金と同じです。
また、2022年4月からは繰上げ受給の減額率が1月あたり0.5%から0.4%に減少し、繰下げ受給の上限年齢が75歳まで引き上げられる予定です。
●繰上げ受給の減額率・繰上げ受給の増額率(2022年4月以降)
日本年金機構「年金の繰上げ・繰下げ受給」を参考に筆者作成
厚生年金の繰上げ受給・繰下げ受給で気を付けるべきポイント
ご自身の状況に応じて老齢厚生年金の繰上げ受給・繰下げ受給ができるのは老後の資金計画を立てるうえで便利ですが、利用する際は以下の点に注意しましょう。
●繰上げ受給の注意点
・年金額が生涯減額される
・国民年金に任意加入できなくなる
・在職老齢年金にかかりやすい
・障害年金、遺族年金が原則として受けられなくなる
前述のとおり老齢厚生年金の繰上げ受給には年金額の減額が伴います。年金額の減額は繰上げ期間中だけでなく生涯続く点は覚えておきましょう。60歳以降も働くことや、これまで蓄えた資金を取り崩すなど老後の資金不足を補う他の方法がある場合は、そちらも検討して長期的に見て損をしない方法を選ぶことをおすすめします。
国民年金の任意加入ができなくなる点も注意が必要です。国民年金の任意加入とは、国民年金保険料の納付済期間が40年未満の人が、60歳以降に国民年金保険料を納めることで、受給できる老齢基礎年金を満額に近づけることができる制度です。国民年金保険料の未納や免除期間がある人は老齢基礎年金が満額受給できないうえに、繰上げ受給によってさらに受給額が減ってしまいます。
60歳以降も働く人は、在職老齢年金にかかりやすくなるというデメリットもあります。在職老齢年金とは60歳以上の厚生年金被保険者が老齢厚生年金を受給している場合に、収入金額に応じて60代前半の老齢厚生年金の一部または全額が支給停止になる制度です。
繰上げ受給をしている場合、原則として障害基礎年金を同時に受け取ることができない点にも注意が必要です。障害基礎年金は病気やケガで一定の状態に陥った場合に受け取れる年金です。繰上げ受給開始後に障害基礎年金の対象となる病気やケガの初診日があっても、障害基礎年金は受けられません。
また繰上げ受給が始まったあとに遺族年金の受給権が発生した場合、老齢基礎年金と遺族年金のどちらかを選ぶ必要があります。遺族年金のほうが多くもらえるケースが多いため遺族年金の受給を選ぶことが一般的ですが、その場合繰上げ受給は停止になります。また65歳以降も繰上げ受給で減額された年金額は戻りません。
●繰下げ受給の注意点
・所得税と住民税が増える
・医療費の窓口負担が増える
・繰下げ受給中は加給年金の支給が停止になる
老齢厚生年金を含む公的年金は受給額に応じて所得税と住民税が課せられます。一定の金額までは控除されるものの、繰下げ受給によって年金額が増えるとその分所得税と住民税の負担も大きくなるので注意が必要です。
繰下げ受給することで医療費の自己負担が増える場合もあります。70歳以上の医療費の自己負担は2割、75歳以上で1割となり、70歳未満の3割負担より医療費は軽減されます。ただし現役並みの所得者の場合、自己負担は70歳以降も引き続き3割です。
現役並みの所得者の基準は年収約370万円以上(課税所得145万以上)が目安となりますが、この収入には年金受給額も含まれます。そのため繰下げ受給により現役並みの所得者に該当する人は、医療費の自己負担が増えてしまいます。
また年下の配偶者や高校生以下の子どもがいる人も注意が必要です。老齢厚生年金を繰下げている間は加給年金の支給が停止されるためです。
加給年金とは厚生年金の被保険者期間が原則20年以上ある人が65歳になった時点で、生計を維持している該当の家族がいる場合に老齢厚生年金に加えて支給される年金です。厚生年金の家族手当のようなものと考えるとわかりやすいでしょう。65歳未満の配偶者であれば39万500円(加給年金額22万4700円と特別加算額16万5800円の合計)、1人目・2人目の子であれば各22万4700円、3人目以降の子であれば各7万4900円が受け取れます(いずれも2021年度の金額)。
加給年金の受給要件を満たしているようであれば、繰下げ受給を選択する場合とどちらが長期的に見て有利か比較検討するとよいでしょう。
今後は厚生年金の支給開始年齢が70歳に引き上げられる可能性も?
少子高齢化が進んでいる現状を考慮すると、今後も老齢厚生年金の支給開始年齢が引き上げられる可能性はあります。
2021年4月1日に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以降、高年齢者雇用安定法)」が改正されました。この改正では、事業主に対して雇用している労働者を70歳まで継続的に雇用する努力義務が課せられました。政府は70歳まで働ける環境を整えようとしているのです。
実は、厚生年金の報酬比例部分が60歳から65歳に引き上げられた2000年当時も、高年齢者雇用安定法の改正により、労働者が65歳まで継続的に働ける措置の実施が義務付けられています。このような経緯からも、今後老齢厚生年金の支給開始年齢が70歳まで引き上げられることは十分考えられます。
まとめ
少子高齢化の促進に伴い、段階的に引き上げられてきた老齢厚生年金の支給開始年齢。今後も支給開始年齢の引き上げがないとも言い切れません。そのようなリスクも考慮して、早めに老後の資金計画を立てることをおすすめします。今回ご紹介した厚生年金の繰上げ受給・繰下げ受給制度も上手に活用して、今のうちから老後に備えましょう。
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鈴木靖子 ファイナンシャルプランナー(AFP)、2級DCプランナー(企業年金総合プランナー)
銀行の財務企画や金融機関向けコンサルティングサービスに10年以上従事。企業のお金に関する業務に携わるなか、その経験を個人の生活にも活かしたいという思いからFP資格を取得。現在は金融商品を売らない独立系FPとして執筆や相談業務を中心に活動中。
HP:https://yacco-labo.com
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