25/07/18
「賞与無し・給与高い」vs「賞与有り・給与低い」、年収が同じならどっちが有利?

ソニーが冬のボーナス廃止を発表し、話題となっています。「賞与はないが給与は高い」と「賞与はあるが給与は低い」、同じ年収ならどちらが手取りで得になるのでしょうか?
年収500万円と1000万円のケースで手取り額を比較すると、意外な結果が判明しました。税制の仕組みと、将来の年金への影響まで具体例を示しながら、同じ年収なら実際どちらが有利なのかを分かりやすく解説します。
企業が進める「賞与の給与化」とは?
ソニーグループは2025年度から、冬のボーナスを段階的に廃止する方針を発表しました。本社や半導体事業やエレクトロニクス事業の子会社に所属する約1万5000人の正社員を対象に行われ、廃止された分は月給と夏のボーナスに振り分けられるようです。
業績によって変動するボーナスを廃止し、金額が決まっている月給を上げることで、採用競争力を高める狙いです。また、2025年4月に入社する新入社員の初任給を引き上げる方針も発表しており、大卒は31万3000円、大学院卒は34万3000円に引き上げるとしています。
このような「賞与の給与化」は、従業員の収入を安定させ、優秀な人材の確保を目的とした取り組みとして注目されています。では、実際に同じ年収であれば、賞与がある場合とない場合でどちらが得になるのでしょうか。
手取り額で比較してみた:2つのケーススタディ
同じ年収の場合、賞与ありと賞与なし、実際どちらが「手取りベース」で得なのかを考えてみましょう。
以下のように「ケース①:年収500万円」「ケース②:年収1,000万円」の2つの年収ケースをもとに具体的に比較してみます。
※賞与ありの場合は、年収の2割を賞与と仮定して試算しています。
※手取り額は、あくまで目安であり実際の金額は個人の状況により変わります。
<ケース①:年収500万円の手取りの違い>

筆者作成
この場合は「賞与なし」の方が、年間手取りが約4万円多くなります。
<ケース②:年収1000万円の手取りの違い>

筆者作成
この場合は「賞与あり」の方が、年間手取りが約24万円も多くなります。
なぜ高年収ほど「賞与あり」が有利になるのか?
上記の計算例のように年収が高くなるほど賞与ありが有利になる理由は、税金と社会保険料の計算方法の違いにあります。
●高年収だと賞与ありが有利な理由①:所得税の計算方法の違い
給与の所得税は毎月の給与額を基に源泉徴収されるため、高額になるほど税率が高くなります。一方、賞与から源泉徴収する所得税および復興特別所得税は、原則として「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使って計算します。
賞与の所得税率は、前月の給与額に応じて決まるため、年収が高い場合でも月給が抑えられていれば、比較的低い税率で計算されるのです。
●高年収だと賞与ありが有利な理由②:社会保険料の上限
健康保険・厚生年金保険では、標準賞与額(健康保険は年度の累計額573万円、厚生年金保険は1ヶ月あたり150万円が上限)を設定し、保険料の額を計算します。
高年収の場合、月給が高くなると社会保険料も上限近くまで上がりますが、賞与があることで月給を抑えることができ、結果的に社会保険料の負担を軽減することができます。
●高年収だと賞与ありが有利な理由③:将来の年金への影響
高年収の場合、賞与ありの方が将来の年金受給額が多くなる可能性があります。これは、厚生年金の計算に標準報酬月額と標準賞与額の両方が反映されるためです。
厚生年金保険は1ヶ月あたり150万円が上限とされているため、高額の賞与がある場合でも、この上限内であれば年金の計算に反映されます。月給のみで年収を構成する場合と比べて、賞与部分も年金計算に加味されることで、将来の年金受給額が増える可能性があります。
ただし、この効果は年収や賞与額、勤続年数によって変わるため、個別に計算する必要があります。
手取りだけでは判断できない!考慮すべき3つのポイント
高年収ならば、手取りの面では賞与ありのほうが有利になることが多いでしょう。ただ、手取りの金額だけでは良し悪しが判断できない要素もあります。
①収入の安定性
賞与は業績に応じて変動する場合が多く、経済状況や会社の業績によって減額される可能性があります。一方、月給は比較的安定しているため、収入の安定性を重視する場合は月給重視の方が有利です。
②住宅ローン審査への影響
住宅ローンの審査では、安定した収入が重視されます。賞与部分は変動要因として扱われるため、月給が高い方が審査で有利になる場合があります。
③退職時の影響
退職時期によっては、賞与を受け取れない可能性があることに注意しましょう。ボーナスを受け取った月に退職する場合、退職日によっては、社会保険料がかからないことがありますが、そもそも賞与支給日前に退職してしまうと賞与は受け取れないことが大半です。
どちらが自分にとって有利かを判断しよう
「年収が同じなら手取りも同じ」とは限りません。年収500万円なら「賞与なし」の方が有利な場合がありますが、年収1000万円では「賞与あり」の方が手取り・将来の年金ともに有利になるケースが多くなることが分かりました。
とはいえ、手取り額だけで判断せず、将来の年金額や収入の安定性、住宅ローン審査やライフプランへの影響のような視点もあわせて考えることが大切です。
企業側の狙いは「収入の安定化」ですが、受け取る側にとっては「損得」が変わってくる可能性があります。自分の年収水準やライフプランをふまえ、どちらが自分にとって有利かを判断しましょう。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。

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