25/06/28
自己破産でも絶対に免除されない6つの支払い

自己破産は、多重債務などで返済が困難になった人が、借金の支払い義務を免除してもらって生活を立て直すための制度です。自己破産によりほとんどの借金は支払い義務が免除されます。しかし、実は自己破産で「どんな借金でも帳消しになるわけではない」という点には注意が必要です。
今回は、自己破産しても免除されない6つの支払いについて、わかりやすく解説していきます。
年間約7万人が自己破産を申し立て
借金の返済が困難になったとき、最終手段として選ばれるのが「自己破産」です。自己破産とは、債務の返済が現実的に不可能であることを裁判所に申し立て、免責(借金の支払い義務の免除)を求める手続きです。収入や資産では到底返済できないと認められた場合に、法的に借金の帳消しが許される制度であり、生活を立て直すための救済策とも言えます。
裁判所が公表する司法統計によると、令和5年度(2023年度)の個人の自己破産申立件数は7万589件にのぼります。全国で約7万人もの人が自己破産を選択していることから、自己破産は決して特殊なケースではなく、誰にでも起こり得る問題であることがわかります。
そもそも自己破産するとどうなる?
自己破産というと、「すべてを失う」「社会的に終わる」といった不安を抱く人も多いですが、実際には誤解や思い込みによる心配も少なくありません。自己破産に関するよくある疑問と実際の影響について見てみましょう。
●自己破産したことが戸籍や住民票に載る?
自己破産の情報が戸籍や住民票、運転免許証、パスポートなどに記載されることはありません。自己破産しても第三者に知られることはあまりないと考えてよいでしょう。
●自己破産で引っ越しや海外旅行は制限される?
破産手続き中は一時的に引っ越しや長期の海外旅行に制限がかかることがありますが、手続き終了後は自由に行えます。ビザ取得にも影響はありません。
●自己破産したことが周囲に知られる?
破産手続きは官報に掲載されますが、一般の人が官報を見ることはほとんどありません。家族や職場に知られずに手続きを終えることも可能です。
●自己破産で自宅や車はどうなる?
住宅ローンが残っている場合、自宅は原則として手放すことになります。車についても、ローン付きの場合は引き上げられる可能性がありますが、ローンがなく市場価値が低い車であれば、手元に残せることもあります。
●自己破産で携帯電話は使えなくなる?
携帯電話は、通話料や機種代に滞納がなければそのまま使用可能です。ただし、分割払い中で滞納がある場合は、利用停止となることがあります。
●自己破産は今の仕事に影響する?
ほとんどの職業は継続可能です。弁護士、警備員、保険外交員など一部の職業では破産手続き中に資格制限がかかることがありますが、免責確定後に解除されます。
●自己破産によって就職・結婚・年金・生活保護はどうなる?
自己破産が理由で結婚や就職が制限されることは基本的になく、年金受給や生活保護の申請にも影響しません。保証人になっている場合を除き、家族が借金を肩代わりする必要もありません。
自己破産するとブラックリストに載る
自己破産の影響として、「ブラックリストに載る」ことがあります。実は「ブラックリスト」という正式な名簿が存在するわけではありません。「ブラックリストに載る」とは、信用情報機関に金融事故の情報が登録されることを指します。
日本には、CIC、JICC、全国銀行個人信用情報センターといった信用情報機関があり、ローンやクレジットカードの利用履歴、延滞や債務整理などの情報が一定期間保管される仕組みになっています。自己破産をすると、信用情報機関に事故情報として登録されます。
自己破産の事故情報が登録された場合、ローンやクレジットカードの新規契約・更新がしばらくできなくなります。自己破産の情報は、信用情報機関によって異なりますが、5〜7年程度登録され続けます。その間は、住宅ローンや自動車ローン、スマホの分割購入なども審査に通りにくくなります。
ただし、一定期間が経過すれば信用情報は自動的に削除され、再びローンの利用やクレジットカードの申し込みが可能になります。
自己破産のメリットとデメリット
自己破産しても、日常生活にそれほど大きな影響はないことがおわかりいただけたでしょう。ここで、自己破産のメリットとデメリットをまとめておきます。
●自己破産のメリット
自己破産のいちばんのメリットは、借金の支払いが免除になることです。自己破産の手続きで免責許可決定を受ければ、借入金などの債務は免除になります。滞納している借金も、返す必要がなくなります。金融機関から借りたお金のほか、クレジット代金、奨学金、未払いの家賃などは免除の対象です。
●自己破産のデメリット
自己破産のデメリットとしては、持っている財産は売却して借金の返済に充てなければならない点があります。家や車は手放さなければなりません。また、士業や公務員など一部の職業につけないことや、ブラックリストに載って新たな借入ができないといった制限もあります。ただし、こうした制限は一定期間経過すればなくなるため、デメリットとして大きすぎるものではありません。
自己破産しても免除されない6つの「非免責債権」とは?
自己破産が認められれば、そのとき抱えている債務は原則的に免除となります。しかし、どんな債務でも免除になるわけではありません。法律上、自己破産しても免除にならない「非免責債権」があります。非免責債権に該当する支払いは、必ず行わなければなりません。
以下、自己破産しても免除されない6つの非免責債権について、どんなものかを説明します。
●自己破産しても免除されない支払い①:税金・社会 保険料などの公的な債務
税金や社会保険料などは自己破産しても支払いが免除されません。具体的には、以下のようなものは自己破産しても免除されず、支払義務が残ります。
【自己破産しても免除されないもの】
・所得税
・住民税
・贈与税
・相続税
・自動車税
・固定資産税
・国民健康保険料
・国民年金保険料
・下水道料金
なお、水道料金のうちの上水道料金、電気料金、ガス料金などについては、自己破産により滞納している分の支払いが免除されます。
●自己破産しても免除されない支払い②:損害賠償金や慰謝料のうち悪意や重過失で発生したもの
事故などで他人にケガをさせたり迷惑行為を行ったりした場合、損害賠償金や慰謝料を請求され、支払い義務を抱えていることがあるでしょう。損害賠償金や慰謝料については、自己破産したときに免除になるものと免除されないものがあります。
たとえば、飲酒運転や暴力行為などにより他人に重大な損害を与えた場合、その賠償責任や慰謝料は「悪意」または「重過失」によって生じたものと見なされ、破産しても帳消しにはなりません。「悪意」とは相手に損害を加える意思がある状態、「重過失」とは通常では考えられないほど重大な不注意を指します。
こうした損害賠償請求は、被害者保護の観点から強く保護されており、加害者が自己破産しても、被害者の損害回復を妨げることはできないとされているのです。
一方、離婚や不貞行為の慰謝料については、積極的な害意があるとは言えず、自己破産により支払義務がなくなり、免除されるのが一般的です。
自己破産しても免除されず、損害賠償金や慰謝料の支払義務が残るかどうかについては、ケースバイケースで法律的な判断が必要です。自己判断せず、弁護士に相談してください。
●自己破産しても免除されない支払い③:親族間の扶養義務にもとづく支払い
配偶者や子どもなどの親族を扶養するために支払うお金は、自己破産したからと言って免除になるものではありません。もし免除になるとすれば、家族の生活が脅かされてしまうからです。
たとえば、以下のような支払いは非免責債権であるため、自己破産しても免除されず、支払い義務が残ります。
・離婚した元夫または元妻に対する養育費の支払い
・夫または妻に対する婚姻費用(生活費)の支払い
養育費や婚姻費用について、公正証書や調停調書で取り決めしている場合には、自己破産しても免除されないので、原則的にその金額を払い続けなければなりません。
●自己破産しても免除されない支払い④:従業員の給料や退職金
個人事業主が自己破産した場合、従業員の給料や退職金の支払いが残っていることがあります。従業員を保護するため、たとえ自己破産しても、従業員の給料や退職金は自己破産しても免除されないので、払わなければならないとされています。従業員に対する預り金がある場合にも、従業員に支払いを行う必要があります。
●自己破産しても免除されない支払い⑤:自己破産する際に明らかにしていない借金
自己破産で支払いが免除されるのは、自己破産手続きで明らかにし、免責許可を受けたものだけです。たとえば、家族や友人からの借金を申立て書類に記載していなかった場合、その借金は免除にはなりません。
自己破産の際には、すべての借金を明らかにする必要があります。意図的に借金の存在を隠したと判断されると、「免責不許可事由」に該当し、そもそも免責が認められません。破産申立書類は正確・誠実に作成することが、免責許可を得るための大前提です。
●自己破産しても免除されない支払い⑥:罰金などの制裁金
刑事罰として科される罰金も、自己破産しても免除されず、支払い義務は残ります。科料、過料、追徴金と呼ばれる制裁金や刑事訴訟費用なども同様です。これらの制裁金は、たとえ生活に困窮していても支払いが求められ、自己破産しても帳消しにはなりません。
非免責債権が支払えないときには?
自己破産した場合でも、上記のような支払いは免除されません。自己破産するとブラックリストに載ることになり、一定期間は新たな借入もできなくなってしまいます。自己破産しても免除されず、支払い義務が残ると言っても、実際に払えないことも多いでしょう。非免責債権が払えない場合には、以下のような対処法をとる必要があります。
●税金等は役所に相談
税金や社会 保険料の支払いが困難な場合には、役所に事情を話して個別に相談しましょう。支払いの免除は無理でも、収入や生活状況に応じて支払い猶予や分納の相談に応じてもらえるケースもあります。
税金の滞納を続けると、延滞金も加算されるため、支払額が増えます。また、国や自治体は裁判所を通さずに強制執行ができるため、比較的短期間のうちに預貯金などを差押えされることになります。税金は必ず払わなければならないことを認識し、支払えない場合には放置しておかないようにしましょう。
●損害賠償金は債権者と交渉
損害賠償金を予定通り支払えない場合、分割払いや支払期日の延長について債権者と交渉する方法があります。「払えないものはどうしようもない」と放置しておくのがいちばん問題です。何も連絡せず払わずに放置していれば、裁判を起こされる可能性があります。債権者に対して誠実な対応を心がけましょう。
●養育費や婚姻費用は減額調停する方法も
養育費や婚姻費用についても、約束通り払えない場合には、受け取る側に事情を説明して話し合いが必要です。直接の話し合いが難しい場合には、家庭裁判所に減額調停を申し立てる方法があります。
調停では、現在の収入状況や生活費、他の扶養義務(たとえば再婚相手など)があるかなども考慮されます。たとえば、収入が激減しており、元々取り決めた養育費を払うのが困難であると裁判所が判断すれば、月額の支払いを減額してもらえることもあります。調停は弁護士を立てなくても申立てが可能です。費用もほとんどかからないため、活用しましょう。
自己破産しても免除されない「非免責債権」に注意しよう
借金を重ねて支払いが苦しくどうしようもない場合、裁判所に申し立てて自己破産するのも1つの方法です。自己破産すれば今ある借金等の債務の支払いを免除してもらえるため、生活を立て直すこともできるでしょう。ただし、自己破産しても免除されない支払いもあるため注意が必要です。自己破産をするなら、支払いが残る債務をどうやって支払うか、支払えない場合にはどのように対処するかも考えておきましょう。
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森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。

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