25/05/22
国民年金保険料「10年」払えばもらえるけど、年金額はいくら?

老後の生活資金として重要なのが公的年金です。年金をもらうには、少なくとも10年は国民年金保険料を払う必要があります。しかし、国民年金保険料を10年しか払っていなければ、もらえる年金額はかなり少なくなってしまいます。
今回は、国民年金保険料を「10年だけ払った人」の年金額と、年金を増やす方法について説明しますので参考にしてください。
「10年だけ払った人」の年金はいくら?
国民年金には20歳から60歳までの40年(480か月)加入し、国民年金保険料を払う必要があります。40年間の国民年金保険料を全額払った人は、国民年金から老後にもらえる年金(老齢基礎年金)を満額受給することが可能です。
老齢基礎年金の金額は毎年改定されます。1956年(昭和31年)4月2日以降生まれの人の2025年度(令和7年度)の老齢基礎年金額は満額で83万1700円(月額6万9308円・1962年(昭和37年)4月2日以降生まれの場合)です。国民年金保険料を40年間払った人でも、それほど年金額が多いわけではありません。10年だけ払った人の年金額はかなり少ないことが予想されます。
以下、国民年金保険料を「10年だけ払った人」の年金額がどれくらいになるのかを説明します。
●国民年金保険料を10年払った人の年金額は?
老齢基礎年金を受給するためには、国民年金保険料の納付期間が10年以上必要です。逆に言うと、10年保険料を払っていれば年金はもらえるということです。ただし、年金額は保険料を払った期間に比例して変わるため、10年しか年金を払っていない人は、40年払った人の年金額の4分の1となります。
国民年金保険料を「10年だけ払った人」の年金額は満額の4分の1である20万7925円(月額1万7300円)です。老齢基礎年金は満額でも決して多いとは言えませんが、4分の1となると月1万円台となり、かなり心細い金額となってしまいます。
国民年金保険料を「10年だけ払った人」でも年金がもっと多いケースもある
上で説明した「10年だけ払った人」は、残り30年間の国民年金保険料が未納扱いの人です。未納とは、本来国民年金保険料を払わなければならないのに、正当な理由なく払っていない場合です。
次のような人は、年金未納ではないか未納期間が短いため、もう少し年金が多くなります。
●会社勤めした期間がある人
会社等に勤めていて厚生年金に加入していた期間がある人には、老齢基礎年金に加えて、老齢厚生年金も支給されます。厚生年金加入期間は、国民年金保険料も納めた扱いになるため、未納とはなりません。
つまり、自分で国民年金保険料を払った期間は10年しかなくても、それとは別に厚生年金に加入していた期間があれば、老後の年金はもっと多くなります。自分で国民年金保険料を払っていた期間が10年間であっても、仮に残りの30年間を厚生年金に加入していた人は、老齢基礎年金を満額もらえます。
●全額免除・一部免除の承認を受けた期間がある人
国民年金保険料の免除申請をし、全額免除や一部免除の承認を受けた期間がある人は、未納期間がある人よりも年金額が多くなります。全額免除・一部免除の承認を受けた期間については、納付期間にカウントされ、次のとおり年金額の一部が支給されるからです。
<国民年金保険料の免除の種類と年金受給額の割合>

筆者作成
国民年金保険料を10年だけ払い、残り30年間は全額免除だったケースで考えてみましょう。全額免除の期間は平成21年3月以前が20年、平成21年4月以降が10年と仮定します。
まず、国民年金保険料を払った10年間に対応する年金額は
(ア)83万1700円×10/40=20万7925円
です。
全額免除を受けていた30年間に対応する年金額は次のとおりです。
(イ)平成21年3月以前の20年間
83万1700円×20/40×1/3≒13万8616円
(ウ)平成21年4月以降の10年間
83万1700円×10/40×1/2≒10万3962円
以上より、受け取れる老齢基礎年金の額は
(ア)+(イ)+(ウ)=45万503円
となります。月額にすると約3.7万円です。
国民年金保険料を30年間未納にしていた場合と比べると、年金額は2倍以上になっています。国民年金保険料を払えないときには、未納にせず免除申請をすることが大事であることもわかるでしょう。
「10年だけ払った人」が繰り上げ受給・繰り下げ受給をしたらどうなる?
年金受給開始は原則として65歳からです。ただし、60歳以上65歳未満でもらい始める繰り上げ受給や、66歳以降でもらい始める繰り下げ受給も可能です。繰り上げ受給を選択した場合には年金額が減り、繰り下げ受給を選択した場合には年金額が増える仕組みになっています。
「10年だけ払った人」の年金額が、繰り上げや繰り下げによりどう変わるかをみてみましょう。
●繰り上げ受給の場合
1962年(昭和37年)4月2日以降生まれの人の場合、1か月繰り上げるごとに0.4%年金額が減額します。60歳から64歳で受給開始した場合、「10年だけ払った人」の年金額は次のとおりです。
<10年だけ払った人の年金額(繰り上げ受給)>

筆者作成
「10年だけ払った人」が繰り上げ受給を選択した場合、1年繰り上げるごとに約1万円年金が減ります。60歳まで繰り上げた場合の年金額は15万8023円(月額1万3168円)となります。ただでさえ少ない年金が、さらに少なくなってしまうことがわかります。
●繰り下げ受給の場合
1941年(昭和16年)4月2日以降生まれの人の場合、65歳に達した月から1か月繰り下げるごとに0.7%年金額が増額します。70歳まで繰り下げた場合には42.0%の増額です。
なお、1952年(昭和27年)4月2日以降生まれの人は、2022年(令和4年)4月より75歳までの繰り下げが可能になりました。75歳まで繰り下げた場合の増額率は84.0%となります。
「10年だけ払った人」が繰り下げ受給を選択した場合の年金額の変化をみてみましょう。
<10年だけ払った人の年金額(繰り下げ受給)>

筆者作成
「10年だけ払った人」の場合、1年繰り下げるごとに約1万7000円年金額が増えます。とはいえ、75歳まで最大限の繰り下げをしても、年金額は月3万円程度にしかなりません。
繰り下げ受給で年金額を少し増やせることは確かですが、老後資金はまだまだ不足するでしょう。
国民年金保険料を「10年だけ払った人」も年金を増やす方法はある!
60歳になった時点で年金を払った期間が10年しかない場合、繰り下げ受給をすれば年金を増やせます。年金を増やす方法はそれだけではありません。国民年金保険料を「10年だけ払った人」は、以下のような方法で年金を増やせないか考えてみましょう。
●年金を増やす方法1:追納する
国民年金保険料は、本来の納付期限から2年以内なら追納が可能です。免除や納付猶予の承認を受けている期間の保険料については、10年以内の追納が可能です。追納可能な保険料が残っていれば、払ってしまいましょう。
1か月保険料を追納した場合、
83万1700円×1/480≒1732.7
となり、約1700円年金額を増やせます。
国民年金保険料を追納する場合、年金事務所に「国民年金保険料追納申込書」を提出し、郵送されてくる納付書を使って納付する必要があります。期限ぎりぎりに追納を申し出ても間に合わないことがあるため、余裕をもって申込しましょう。
●年金を増やす方法2:60歳以降も国民年金に任意加入する
国民年金に加入して国民年金保険料を納付できる期間は、原則60歳までです。しかし、60歳に到達した時点で国民年金保険料の納付月数が480か月未満の人は、60歳から65歳の間も国民年金に「任意加入」して国民年金保険料を払うことができる制度があります。
この制度を利用して60歳から65歳までの5年間国民年金に任意加入した場合、
83万1700円×5/40=10万3962.5円
となり、約10万4000円年金額を増やせます。
国民年金の任意加入は、申し出た月からになります。遡って国民年金保険料を払うことはできないため、60歳になったらすぐに申し込むのがおすすめです。
なお、厚生年金に加入している人は、国民年金の任意加入制度は利用できません。そのかわり、厚生年金に加入している期間が480か月未満の場合、「経過的加算」という金額が老齢厚生年金に加算されるため、老齢基礎年金に相当する部分を増やすことができます。
●年金を増やす方法3:付加年金に入る
付加年金とは、国民年金の第1号被保険者(自営業者、フリーランス等)が月々の国民年金保険料に400円プラスして納付することにより、老齢基礎年金を増やせる制度です。付加年金に入ると、「200円×付加保険料納付月数」の年金を上乗せできます。
60歳以降国民年金に任意加入している期間中も、付加年金に入れます。60歳から65歳までの5年付加年金に入った場合に増やせる年金額は、
200円×60か月(5年間)=1万2000円
となります。
60歳までに国民年金保険料を納めた期間が10年の人が、60歳から65歳までの5年間国民年金に任意加入して付加年金にも入った場合には、65歳から受け取れる年金額は次のようになります。
83万1700円×15/40+1万2000円≒32万3887円
●年金を増やす方法4:国民年金基金に加入する
国民年金基金は、国民年金の第1号被保険者が任意で加入して年金を増やせる制度です。60歳以降国民年金に任意加入している人も、国民年金基金に加入して上乗せする年金を用意できます。
国民年金基金は口数単位で加入しますが、1口目は65歳から生涯受け取れる終身年金です。受け取れる年金額は、自分が選んだプランや掛金によって変わります。たとえば、男性が60歳の誕生月から終身年金A型に1口加入した場合、掛金2万770円を5年間納めることにより、65歳から月額5000円(年6万円)を一生涯受け取れます。
なお、国民年金基金と付加年金の同時加入はできないので、どちらかを選ぶ必要があります。
●年金を増やす方法5:働いて厚生年金に加入する
厚生年金には70歳まで加入できます。60歳以降も会社などで働く場合、条件をみたせば厚生年金に加入できるでしょう。厚生年金に加入して厚生年金保険料を払えば、年金額を増やせます。働ける間は働けば、毎月の収入も得られます。厚生年金の金額も増えれば一石二鳥です。
既に年金をもらっている場合でも、働いて厚生年金を増やすことはできます。厚生年金に加入した期間は、在職定時改定・退職改定により年金額の基礎となる被保険者期間に追加され、受け取る年金額が触れる仕組みになっているからです。
国民年金の加入期間が10年に満たない場合には?
老後に公的年金を受け取るには、年金に加入していた期間(受給資格期間)が少なくとも10年必要です。自営業者などの人で、ずっと国民年金保険料を払っていなかった人は、60歳が近づいたとき「今から国民年金保険料を払ってもどうせ年金はもらえない」と考えるかもしれません。しかし、あきらめなくても年金をもらえる可能性はあります。
公的年金は一生涯受け取れるものなので、多少なりとも年金がもらえれば心強いはずです。年金をもらえるようにするためには以下のような方法があります。とれる方法がないか考えてみましょう。
●60歳以降も国民年金に任意加入する
老後に年金を受け取るための受給資格期間が足りない場合、60歳から65歳までの間は国民年金の任意加入ができます。60歳から65歳の間も国民年金に任意加入し、受給資格期間が10年に達すると、65歳から年金を受給できます。
●65歳以降も特例任意加入ができる
65歳まで国民年金に任意加入しても、受給資格期間が10年に達しない人もいるでしょう。その場合には、65歳以降も「特例任意加入」という方法で国民年金に加入できます。特例任意加入とは、65歳になっても受給資格期間が足りずに年金受給資格がない人が、任意で国民年金に加入できる制度です。70歳までの間で、受給資格期間が10年に達するまで加入できます。
特例任意加入は受給資格を得るための制度なので、65歳時点で受給資格期間が10年未満の人のみ利用できることになっています。既に10年の受給資格期間がある人が年金を満額に近づけたい場合、特例任意加入することはできません。また、特例任意加入ができるのは、厚生年金に加入していない人です。
なお、会社などに勤めている人で70歳になって年金の受給資格期間が足りない人は、70歳以上も受給資格期間を満たすまで厚生年金に加入できる高齢任意加入の制度があります。
●「カラ期間」により10年の要件が満たせる可能性も
実は、公的年金には、年金保険料を納めていなくても、受給資格期間としてカウントできる合算対象期間(カラ期間)があります。年金制度はこれまでに何度も改正されています。カラ期間とは、年金制度の改正により一部の人たちが無年金になることを防ぐために設けられているものです。カラ期間がある人は、国民年金保険料を払った期間が10年未満であっても、年金がもらえる可能性があります。
たとえば、1991年3月までは、20歳になっていても学生であれば国民年金への加入は任意でした。制度改正により、1991年4月以降は20歳以上なら学生であっても国民年金へ加入しなければならなくなった経緯があります。そして、制度改正前後でバランスをとるために、1991年3月以前に学生だった期間がある人については、その期間をカラ期間として受給資格期間に含められる扱いになっているのです。
1991年3月以前に大学生だった人の中には、わざわざ国民年金には加入していなかった人も多いのではないでしょうか?その場合、カラ期間として、20歳から大学卒業までの期間を受給資格期間に含められます。なお、カラ期間は年金額に反映されるわけではなく、受給資格期間の判定の際に考慮されるものです。カラ期間の分の年金が増えるわけではありません。
カラ期間がある場合、合算対象期間として「ねんきん定期便」に表示されていることが多くなっています。思い当たるカラ期間が表示されていない場合には、すぐに年金事務所に相談するようにしましょう。
年金を少しでも増やす工夫を
60歳までに国民年金保険料を10年しか払っておらず、残りの期間が未納になっている人は、老後に受け取れる年金額がかなり少なくなってしまいます。しかし、60歳を過ぎてからでも、年金を増やす方法がないわけではなく、いろいろな方法により年金を増やせます。老後の年金が少ない人は、できる方法を組み合わせて、年金を少しでも増やす工夫をするのがおすすめです。
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森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。

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