25/05/21
労災保険の遺族給付と遺族年金は併給できる?それぞれいくらもらえる?

突然の不幸に見舞われた遺族にとって、労災保険の遺族給付と遺族年金は生活を支える重要な助けです。しかし、この2つの給付はどのような違いがあり、併せて受け取ることが可能なのか、疑問を抱く方も多いでしょう。今回は、遺族給付と遺族年金の違いや併給の可否、支給額について詳しく解説します。
労災保険の遺族給付は誰がいくらぐらいもらえるのか
労災保険の遺族給付は、労働者が業務上の災害や通勤途上の災害で死亡した場合に、その族に対して支給される給付金です。遺族給付には遺族の生活を支えるために支給される遺族補償年金があります。
労災保険の遺族給付の受給資格者は、死亡した労働者によって生計を維持されていた配得者、子供、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹などです。以下のように、受給資格者の年齢や障害の有無によって受給条件が異なります。
<労災保険の遺族給付>

筆者作成
遺族補償年金の年金額
労災保険の遺族補償年金の額は、年金給付基礎日額に遺族の人数に応じた日数を掛けたものです。そのほか、業務上の事故や災害で亡くなった労働者の遺族に対し、一律 300万円が支給される労災保険の特別な一時金「遺族特別支給金」もあります。
遺族補償年金は、基礎日額に遺族人数ごとの日数を掛けて計算されます。例えば遺族が1人の場合、給付基礎日額の153日分(ただしその遺族が55歳以上の妻または一定の障害状態のある妻の場合には175日分)、遺族が2人の場合、給付基礎日額の201日分、遺族が3人の場合、給付基礎日額の223日分などとなっています。
例えば、年金給付基礎日額(労働者が死亡する前の3か月間の総賃金をその期間の総日数で割った額)が 10,000円の場合、遺族の人数に応じた遺族補償年金額は以下の通りです。
・遺族が1人の場合:10,000円✕153日 = 1,530,000円
・遺族が2人の場合:10,000円✕201日=2,010,000円
・遺族が3人の場合:10,000円✕223日 = 2,230,000円
・遺族が4人以上の場合:10,000円✕ 245日=2,450,000円
また、遺族特別年金も支給され、この場合の受給額は給付基礎日額を算定基礎日額と読み替えます。支給日数は同じです。併せて遺族特別年金(遺族数に応じた金額)と遺族特別支給金(一律300万円)も支給されます。
遺族年金は誰がいくらぐらいもらえるのか
遺族年金は国民年金や厚生年金に加入していた人が死亡した際に遺族に支給される年金です。遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があります。
●遺族基礎年金
遺族基礎年金は、国民年金に加入していた者が死亡した場合に、その遺族に対して支給される年金です。遺族基礎年金の受給資格者は、死亡した者の子のある配者や子です。子とは18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または 2級の状態にある方をさします。子のある配信者が遺族基礎年金を受け取っている間や、子に生計を同じくする父または母がいる間は、子には遺族基礎年金は支給されません。
【遺族基礎年金の年金額(2025年度)】
遺族基礎年金の受給額は、基本年金 831,700円(2025年度の老齢基礎年金の満額)+子の加算額※となります。※子1人につき 239,300円(3人目の子からは79,800円)
例えば、具体的な年金額は以下のようにとなります。
・配用者と子1人の場合・基本年金額831,700円+子の加算額239,300円=1,071,000円
・配者と子2人の場合・基本年金額831,700円+子の加算額478,600円=1,310,300円
・配偶者と子3人の場合・基本年金額831,700円+子の加算額558,400円=1,390,100円
●遺族厚生年金
遺族厚生年金は、厚生年金に加入していた者が死亡した場合に、その遺族に対して支給される年金です。受給資格者は、死亡した者の配得者、子供、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹などです。
【遺族厚生年金の年金額(2025年度)】
遺族厚生年金の額は、被保険者の加入期間や収入に応じて異なり、亡くなった方が受け取る予定だった「老齢厚生年金」の報酬比例部分の4分の3に基づいて計算されます。以下が遺族厚生年金額の計算方法です。←
•報酬比例部分の計算:
報酬比例部分は、被保険者期間中の給与や賞与の平均額(平均標準報酬額)を基に計算されます。計算式は以下の通りです。
[報酬比例部分=平均標準報酬額✕被保険者期間✕0.005481]
・遺族厚生年金の額:
上記で計算された報酬比例部分の4分の3が遺族厚生年金として支給されます。
・最低保障期間:
被保険者期間が300月(25年)未満の場合でも、300月として計算されます。
定額式の遺族基礎年金と違い、遺族厚生年金の受給額の計算式は上記の通りとなっており、人により異なります。あくまでも一例ですが、妻と子2人の場合、死亡した夫の平均標準報酬月額を35万円、加入期間を300月(25年)、2003年4月以降の賞与総額を全月給の30%とし、本来水準の計算式で計算すると、遺族厚生年金は年額約56万円となります。なお、中高齢寡婦加算や経過的寡婦加算など、特定の条件を満たす場合には追加の金額が支給されることがあります。
労災保険の遺族給付と遺族年金は併給可能?
労災保険の遺族給付と遺族年金は、遺族が同時に受け取ることが可能です。ただし、受給には特定の調整が行われる点に注意が必要です。
労災保険の遺族給付と遺族年金を同時に受け取る場合、厚生年金や国民年金は全額支給されますが、労災年金(遺族補償年金)の方で調整が行われます。
この調整の結果、労災年金の支給額は本来の給付額に一定の調整率を掛けた金額となります。たとえば、遺族厚生年金を受け取る場合の調整率は「0.84」です。また、遺族基礎年金を併せて受け取る場合は、調整率が「0.80」に引き下げられる仕組みです。
具体例として、遺族厚生年金を年額60万円、労災補償年金を年額150万円と仮定すると、調整後の労災補償年金は以下のように計算されます。
・調整後の労災補償年金:150万円✕ 0.84=126万円
その結果、遺族厚生年金の60万円と労災補償年金の126万円を合わせた年額は186万円となります。
このように、調整が行われたとしても、最終的な受給額が著しく減額されることはありません。むしろ、この減額に当たっては、調整された労災年金の額と厚生年金の額の合計が、調整前の労災年金の額を下回らないように配慮がされています。
このような調整が必要な理由は、受給額が被災者の生前の給与を大幅に上回ることを防ぎ、保険制度の公平性を確保するためです。また、厚生年金の保険料は被保険者と事業主が共同で負担しますが、労災保険は事業主が全額負担しているため、事業主に過度な負担がかからないようにするというのも調整がされる理由の一つです。
労災保険の遺族給付と遺族年金の併給を希望する場合、具体的な手続きは年金事務所や労働基準監督署で行います。正確な支給額や調整内容を把握するためにも、これらの機関で詳細な情報を確認することが重要です。適切な手続きを通じて最大限の支援を受けられるよう、専門家のアドバイスを活用することをお勧めします。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。

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