25/11/21
亡くなった人の銀行口座はいつ凍結される?解除する方法は?

身近な人が亡くなった後、「お金を引き出そうとしたら口座が使えなかった」という話を耳にしたことはありませんか。銀行口座は名義人が亡くなると凍結され、入出金が一切できなくなります。突然の出来事に戸惑うご家族も多いのが現実です。
今回は、口座凍結が起こるタイミングや解除までの流れ、そして事前にできる備えについて詳しく解説します。
口座凍結はよくあるトラブル
たとえば、「葬儀費用を支払うために口座からお金を引き出そうとしたところ、口座が凍結されていて支払いができなかった」といったケースは珍しくありません。また、公共料金や家賃などの引き落としが止まり、督促状が届いてから初めて口座が凍結されていることに気づく人もいます。故人の口座からお金を引き出せず、介護施設の費用や病院代の支払いに困ってしまうケースもあります。
口座の凍結は、特別なトラブルではなく、誰にでも起こり得る身近な出来事です。突然の事態に慌てないためにも、凍結が起こる仕組みと解除までの流れを理解しておくことが大切です。事前に備えておけば、遺族が混乱することも少なく、安心して手続きを進められます。
そもそも口座凍結とは?凍結される理由と凍結のタイミング
口座の凍結とは、金融機関側で、預金口座への入出金ができないよう処理を行った状態を言います。金融機関が口座の凍結をする原因はいくつかありますが、代表的なものは口座の名義人が死亡したときです。銀行口座の名義人が死亡すると、その口座は凍結され、一切の入出金ができない状態になります。
●口座が凍結される理由
亡くなった人の預金は、亡くなった時点で相続財産となります。相続人は一人とは限りません。預金を誰が相続するか確定する前に一人の相続人が引き出してしまうと、相続人間でトラブルになる可能性があります。こうしたトラブル防止のため、口座名義人が死亡したときには、金融機関は口座を凍結する扱いをするのです。
●口座凍結のタイミングはいつ?
金融機関が口座を凍結するタイミングは、口座名義人死亡の事実を知ったときです。ただし、役所に死亡届を出しても金融機関に通知されるわけではありません。金融機関が死亡の事実を知るタイミングはまちまちです。
最もよくあるのは、親族から問い合わせがあったときです。亡くなった人の親族は、預金の相続手続きについて、金融機関に問い合わせをすることが多いでしょう。こうした問い合わせがあると、金融機関は亡くなった人の口座を凍結します。つまり、もし親族が問い合わせしなければ、口座はいつまでも凍結されない場合もあるということです。
なお、親族の問い合わせとは関係なく、新聞の訃報欄などで金融機関が口座名義人の死亡を確認し口座凍結をするようなケースもあります。
●口座が凍結されるとどんな影響がある?
預金口座が凍結されると、キャッシュカードでも窓口でも一切の入出金ができなくなります。また、その口座からの引き落としもできない状態となってしまいます。
たとえば、亡くなった人の口座から家賃や公共料金を自動引き落としにしていた場合には、引き落としがされず、滞納することになります。そのまま放置していれば、督促を受けるでしょう。公共料金を滞納すれば、電気やガスを止められる可能性もあります。
●口座凍結前にやっておくべきこと
故人の口座から公共料金の引き落としが行われていた場合、口座が凍結されると引き落としができなくなってしまいます。引き続き利用したい場合には、名義変更をし、引き落とし口座を変更しておきましょう。
公共料金は口座引き落としができなくても、解約しない限り滞納分を請求されます。解約する場合にも手続きを忘れないようにしましょう。
口座凍結を解除するにはどうすればいい?
口座の凍結は、放っておいても解除されません。死亡を理由に口座が凍結された場合、凍結を解除してお金を引き出すには、金融機関で預貯金の相続手続きを行う必要があります。預貯金を誰が相続するのかを明確にし、必要書類を揃えて銀行に提出すれば、解約や払い戻しの手続きができます。
●口座凍結解除までの流れ
まず、預貯金の相続手続きの大まかな流れを説明します。どのようなタイミングで口座の凍結や解除がされるのかを知っておきましょう。
①故人が取引していた金融機関を調べる
まず亡くなった人の持っていた預貯金を調べる必要があります。自宅に保管されている通帳や郵便物などから取引金融機関を確認しましょう。
②金融機関へ連絡・口座凍結
金融機関の窓口に「口座名義人が亡くなった」旨を伝えます。多くの場合、この段階で口座が凍結されます。金融機関は相続手続きについて案内してくれるため、資料一式を受け取り、必要書類などを確認しておきましょう。
③戸籍謄本の収集
相続人を確認するため、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本と、相続関係がわかる戸籍謄本を集めます。戸籍謄本は1つの役所で揃うとは限りません。いくつもの役所に請求しなければならないケースが多いため、時間がかかってしまいがちです。早めに動くようにしましょう。
④遺産分割協議
相続人が複数いる場合には、預金を誰が相続するかを話し合う「遺産分割協議」を行います。遺産分割協議には相続人全員が参加しなければならないため、疎遠な相続人にも必ず連絡します。話し合いがまとまれば「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名・押印します。
⑤金融機関に必要書類を提出
必要書類をすべて揃えて金融機関に提出し、相続の手続きをします。必要書類は金融機関によって異なりますが、一般的には以下のような書類を提出します。
・遺産分割協議書
・戸籍謄本(相続関係がわかるもの一式)
・相続人全員の印鑑証明書
金融機関によっては郵送での受付を行っておらず、窓口での手続きが必要な場合もあります。相続人の代表者が行う際には、他の相続人からの委任状を添付します。
⑥金融機関による審査・払い戻し
金融機関は提出された書類の内容を確認します。書類に不備がなければ、相続人名義の口座へ振込、または現金で払い戻しされます。書類の審査には2〜3週間程度かかるのが一般的です。相続人が複数いる場合や書類が揃わない場合はさらに時間を要することもあります。
●故人が遺言書を残している場合
上記は遺言書がない場合の流れです。遺言書があれば遺言書に従った相続が行われるため、遺産分割協議を行う必要がありません。金融機関での相続手続きは受遺者または遺言執行者が行うことになり、次のような書類を提出します。
・遺言書(自筆証書遺言は原則として検認が必要)
・戸籍謄本(口座名義人の死亡が確認できるもの)
・受遺者または遺言執行者の印鑑証明書
●遺産分割について調停や審判で決まった場合
相続人間で遺産分割協議を行っても話がまとまらないことや、遺産分割協議をすること自体が難しいこともあります。遺産分割について話し合いで決められない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停や遺産分割審判を申し立て、家庭裁判所で決める方法があります。
この場合、金融機関での相続手続きは家庭裁判所で遺産分割について決定した後に行うことになり、次のような書類が必要になります。
・調停調書謄本または審判書謄本・確定証明書
・預貯金を相続する人の印鑑証明書
凍結解除前でも相続人は仮払いを受けられる
相続手続きを行って口座の凍結を解除してもらうには、遺産分割協議をしたり必要書類を集めたりしなければならず、時間がかかります。一連の手続きが終わるまでに、亡くなった人の入院費用や葬儀費用の支払いがあり、お金を引き出したいケースも多いでしょう。
●故人の口座からすぐに現金を引き出す方法
凍結された口座からすぐに現金を引き出したい場合、次の2つの方法があります。
①家庭裁判所の仮処分を受ける
家庭裁判所に「仮分割の仮処分」という申し立てをすれば、家庭裁判所の認めた金額まで、相続人の一人が金融機関から払い戻しを受けられます。とはいえ、裁判所を利用することになるため、手続きが複雑になり、ある程度の時間はかかってしまいます。
②預貯金の仮払い制度を利用する
相続開始後迅速に現金を引き出したい場合、金額によっては、預貯金の仮払い制度を利用するのがおすすめです。預貯金の仮払い制度は2019年7月にスタートした制度で、裁判所が関与することなく、相続人が一定額までの預貯金の仮払いを受けられるというものです。故人の口座からどうしても現金を引き出したい場合には、預貯金の仮払い制度を利用するのが現実的です。
●預貯金の仮払い制度で払い戻しできる金額は?
各相続人が単独で仮払いを受けられる金額は次のとおりです。
払い戻し可能な額=相続開始時(亡くなった時)の預貯金額×1/3×法定相続分
※ただし、同一の金融機関からの払い戻し額の上限は150万円
法定相続分とは、民法で定められた相続割合です。
たとえば、相続人が妻と長男、次男の場合、各相続人の法定相続分は次のとおりです。
妻 2分の1
長男 4分の1
次男 4分の1
相続開始時の預貯金額が300万円とすると、それぞれの払い戻し可能額は次のようになります。
妻 300万円×1/3×1/2=50万円
長男 300万円×1/3×1/4=25万円
次男 300万円×1/3×1/4=25万円
●預貯金の仮払い制度の必要書類は?
預貯金の仮払い制度を利用して銀行に払い戻しを請求するときに必要な書類は、以下のとおりです。
・相続関係がわかる戸籍謄本一式
・払い戻しをする人の印鑑証明書
認知症でも口座が凍結されるかも
口座が凍結されるのは、口座名義人が亡くなったときだけではありません。口座名義人が認知症になった場合にも、口座が凍結されることがあります。
●認知症の人の口座はなぜ凍結される?
認知症とは記憶力や判断能力が低下している状態です。認知症になると、自分でお金を適切に管理できなくなってしまいます。他人に言われるままに現金を引き出してしまったり、詐欺にあって高額の買い物をしてしまったりするリスクも出てきます。こうしたことから、金融機関は認知症の人の財産を守るために、口座を凍結することがあるのです。
●認知症の人の口座が凍結されるケース
認知症の人の家族が金融機関に相談して、本人の口座を凍結してもらうことも可能です。また、金融機関側の判断で口座を凍結するケースもあります。たとえば、窓口で高額のお金を引き出そうとした高齢者が意味不明な内容を話している場合、金融機関は認知症と判断して口座を凍結することも考えられるでしょう。
●認知症の人の口座凍結を解除するには
認知症で口座が凍結されると、年金が振り込まれても引き出せないという状態になり、生活費に困ってしまうことも考えられます。一方で、口座の凍結が解除されても、本人は財産の管理ができません。誰かに代わりに財産管理を行ってもらう必要があります。
既に認知症になっている人については、財産管理を行う代理人として、家庭裁判所で成年後見人を選任してもらうことになります。成年後見人とは、認知症などで判断能力が低下した人の代理人となって財産管理を行う人です。
成年後見人を選任してもらうには、家庭裁判所に後見開始の申立てをします。このとき、家族を後見人候補者として申し立てをすれば、家族が成年後見人になれる場合もあります。一般には、弁護士等の専門家が成年後見人に選任されるケースが多くなっています。
成年後見人選任後、金融機関に届出すれば、凍結は解除されます。選任された成年後見人は、本人に代わって口座の入出金を行うことができるだけでなく、財産管理全般を行うことになります。なお、専門家に成年後見人として付いてもらう場合には、報酬を払う必要があります。
●あらかじめ任意後見人を選んでおくこともできる
将来認知症になった場合に備えて、正常な判断能力があるうちに、自分で後見人を選んで契約(任意後見契約)をしておく方法もあります。任意後見契約により依頼する成年後見人は、任意後見人と呼ばれます。任意後見人は、親族に依頼してもかまいませんし、弁護士や司法書士などの専門家に依頼することもできます。
任意後見契約を結ぶには、公正証書の作成が必須になります。任意後見人を決めておけば、認知症になったときにも速やかに任意後見人に財産管理を引き継ぐことができます。
金融機関の代理人サービスを利用できることも
認知症になった人が預金の引き出しなど金融機関と取引を行うためには、成年後見制度を利用して、成年後見人や任意後見人を選任するのが原則です。しかし、成年後見制度を利用すると、手続きの手間や費用がかかってしまいます。第三者に資産の管理をゆだねることに抵抗を感じる人も多く、成年後見制度の利用者はあまり増えていないのが現状です。
こうした背景をふまえ、金融機関の中には、独自の代理人サービスを行っているところもあります。あらかじめ親族やパートナーを代理人として指定しておいた場合、認知症になったときに代理人が診断書を提出すれば、代理人が代わりに取引できるようになります。
すべての金融機関で代理人サービスが導入されているわけではなく、サービスの内容も金融機関によって異なります。将来の資産管理が心配な場合には、取引している金融機関に相談してみるのがおすすめです。
口座凍結の予防策としてできることとは?
認知症になったり亡くなったりして口座凍結されると、家族に迷惑がかかってしまうことがあります。事前にできることとして、以下のような対策を考えてみましょう。
●早めに預金の一部を引き出しておく
万一の場合に備えて、早めに預貯金を引き出してある程度の現金を用意しておくのも1つの方法です。ただし、高額の現金を持っていると盗難のリスクが高まってしまいます。くれぐれも保管場所に注意しましょう。
●生命保険に加入しておく
生命保険の保険金は、民法上の相続財産ではなく、受取人固有の財産として扱われます。保険金については、遺産分割協議で受け取る人を決める必要はありません。契約上の受取人が保険金の請求手続きを行えば、すぐに受け取れます。生命保険に加入しておけば、亡くなった後に口座から現金を引き出さなくても、相続人は現金を手にすることができるのです。
生命保険の保険金にも相続税は課税されますが、「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。生命保険の活用は、相続税の節税対策としても有効です。
●取引金融機関を整理する
亡くなった後の凍結解除がスムーズにできるように、取引している金融機関を整理し、できれば口座の数を減らしておきましょう。預金の相続手続きは、金融機関ごとに行わなければなりません。預金口座を開設している金融機関が多ければ、それだけ手続きに時間がかかってしまい、相続人が現金を用意しにくくなってしまいます。
口座の数が多いと、高齢になってから管理するのが大変です。預貯金は一部の金融機関にまとめておくのがおすすめです。口座を開設している金融機関がわかるよう、財産目録を作ったり、エンディングノートに記入したりしておきましょう。
●家族信託を利用する
高齢になってからの財産管理には、家族信託という方法があります。家族信託とは、財産の所有者としての地位はそのままで、財産の管理・処分の権限だけを切り離して家族に与えられる仕組みです。
家族信託を設定する場合、口座の名義は財産管理等を任せる家族(受託者)の名義に変更することになります。財産の実質的な所有者が認知症になったり亡くなったりしても、口座名義人である受託者が生きていれば、口座は凍結されません。受託者が財産の管理をそのまま継続できます。
家族信託を利用するには、生前まだ判断能力のあるうちに家族との間で信託契約を結んで公正証書を作成し、金融機関で信託専用の口座を開設するなど複雑な手続きが必要になります。専門家に相談しながら手続きを進めるのがおすすめです。
口座凍結前にお金を使ってしまったらどうなる?
故人の預金口座が凍結される前に、相続人の一人が預金を引き出してお金を使ってしまうことは実際多いはずです。葬儀費用や故人の入院費用等の支払いに使っただけなら、問題になることはあまりないでしょう。しかし、使いみちがよくわからない場合などは、「私用で使ったのではないか?」と他の相続人から疑われるなどして、トラブルになることがあります。
故人の預金口座のお金を相続人が使っても犯罪に問われる可能性は低いですが、次のような問題が起こることがあります。
●相続放棄ができなくなる
故人が多額の借金を残している場合などは、相続すれば借金も引き継いでしまうため、相続放棄をしたいことが多いでしょう。しかし、相続放棄の手続きをする前に、故人の財産に手をつけてしまった場合には、相続放棄ができない仕組みになっています。
相続の際には、単純承認、限定承認、相続放棄の3つから自分で相続方法を選べます。単純承認とはプラスの財産もマイナスの財産を承継すること、限定承認とはプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を承継すること、相続放棄とはプラスの財産もマイナスの財産も一切承継しないことです。
しかし、以下のような場合には、法定単純承認となり、自動的に単純承認があったものとみなされてしまいます。
・相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき
・相続開始から3カ月以内に相続放棄または限定承認をしなかったとき
・相続放棄または限定承認をした相続人が相続財産の全部または一部を隠匿、消費したとき
故人の預貯金を勝手に引き出して使った場合、相続財産の全部または一部を処分したと言えるため、法定単純承認に該当することになるでしょう。この場合、後になって故人に借金があることがわかっても、相続放棄できないことになります。もし葬儀費用や故人の病院代・施設代の支払いなどに使うようなら、証拠を残しておきましょう。
●他の相続人に訴訟を起こされるかも
遺産分割が終わる前は、各相続人が相続財産に対し、法定相続分ずつの権利を持っています。故人の預貯金を使い込んだ場合、自分以外の相続人が損害賠償請求や返還請求をしてくる可能性もあります。
話し合いで解決しない場合には、裁判を起こされることになるでしょう。使い込んだ分を返さなければならないだけでなく、裁判費用の負担なども発生します。もちろん、他の相続人との関係も悪化するでしょう。
口座が凍結されていない状態であっても、家族が亡くなった後に預貯金を引き出す場合には、トラブルにならないよう慎重に行う必要があります。
口座凍結で慌てないために
亡くなった後に口座が凍結されると、家族がすぐに現金を引き出せず困ることがあります。残された家族に迷惑をかけないように、事前に対策を考えておきましょう。仮払い請求ができるよう、取引している銀行を把握し、一覧表を作っておくのがおすすめです。
家族が亡くなって自分が相続人になった場合、他の相続人の同意を得ずに勝手に故人の預貯金を引き出すことはできません。何にいくら使ったのかがわかるよう記録を残しておき、後日のトラブルを予防しましょう。
【関連記事もチェック】
・親が年金を受け取らず70歳で逝去…子は親の年金を受け取れるのか
・「老後破綻になる人」と「お金に困らない人」の決定的な違い
・所得税・住民税で1000万円超の負担も…パワーカップルを襲うペアローン団信の罠【Money&YouTV】
・厚生年金「夫16万円・妻10万円」、夫が亡くなったら妻の年金はいくらになるのか
・自己破産でも絶対に免除されない6つの支払い
森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
























