24/12/17
「年金決定通知書・支給額変更通知書」届いていたら必ず確認 年金が増減する要因は?
みなさんは、日本年金機構から定期的に届くハガキや封書をしっかり確認していますか。実は年金をもらい始めてからも、今年度の振込額がいくらになるかを案内するハガキが6月頃に届くほか、「年金決定通知書・支給額変更通知書」という案内を目にすることがあります。今回は、この「年金決定通知書・支給額変更通知書」の見方や送られてくる理由について解説します。年金をもらいながら働いている65歳以上70歳未満の人は特に、11月までにこの通知書が届いていないか要チェックです。
「年金決定通知書・支給額変更通知書」で確認すべき2つのポイント
まずは、毎年6月上旬頃に送付される「年金額改定通知書」との違いを整理しましょう。年金の給付水準は、物価や賃金といった経済の動きに合わせて年度ごとに改定されますが、その改定によって年金額がいくらになるのかを示す「年金額改定通知書」と、毎回の年金支給日に実際いくら振り込まれるのかを示す「年金振込通知書」は、すべての年金受給者の手元に届きます。
一方、今回紹介する「年金決定通知書・支給額変更通知書(以下、通知書)」は、受給者の事情で年金額に変更が生じた際に日本年金機構から送付される書類です。この通知書には、新しい支給額や変更理由が詳しく記載されており、受給者が変更内容を正確に把握するための重要な情報が含まれています。表面と裏面からなる通知書のイメージは、下の図のとおりです。
<「年金決定通知書・支給額変更通知書」のイメージ>
日本年金機構「年金決定通知書・支給額変更通知書」より
通知書を受け取ったらまず、表面の太枠部分(1)で、今後支給される変更後の年金額を確認しましょう。表面ではそのほか、計算の基礎となった加入期間、平均標準報酬額などが詳細に記載されています。これらの情報を通じて、自身の年金額がどのように算出されたのかを把握することが可能です。そして、裏面の(6)には、決定・変更に至った理由が記載されていますが、日本年金機構のウェブサイトでは、21のケースが次のとおり紹介されています。
<「年金決定通知書・支給額変更通知書」の主な決定・変更理由(文言)>
日本年金機構「年金決定通知書・支給額変更通知書」より
年金の基本ルールを理解していれば通知書が来ても怖くない
これら21個すべてのケースを覚える必要はありませんが、年金におけるいくつかの基本的なルールを理解していれば、「こんなはずではなかった」という事態を防ぐことができます。
●時間の経過とともに支給されなくなる給付がないかを確認しよう
時間の経過とともに増減が分かっている給付については、あらかじめ家計収支の計画に盛り込むことが可能です。
例えば、夫を早くに亡くした女性の遺族厚生年金に上乗せされる「中高齢寡婦加算」は、65歳以降支給されません(上表:番号28)。
老齢厚生年金に上乗せされる「加給年金」もまた、扶養している配偶者が65歳を迎えるまでの支給となります(上表:番号25)。
何も知らず、年金額が減らされる通知が来ると焦ってしまいますよね。そうならないためにも、これらの支給が終わるタイミングや、自身や家族が新たに受け取れる老齢年金等の額を理解しておくようにしましょう。もちろん、子どもが18歳の年度末を迎えたことによる加給年金の減額のように、単純に家計収入が減少するといったケースもあるので注意してください。
●年金の大原則「1人1年金」を理解しよう
通知書に記載される決定・変更理由として、上の表の番号2では、
「複数ある年金を受け取る権利のうち、他の年金の受け取りを選択されたため、この年金の一部の額または全額の支払いを停止しました。」
とあります。
例えば、厚生年金保険への加入歴が1年以上ある、1961年4月1日以前生まれの男性と1966年4月1日以前生まれの女性は、生年月日と性別に応じて定められた受給開始年齢から65歳を迎えるまで「特別支給の老齢厚生年金」の受け取りが可能です。しかしながら、この年金をもらっている期間に、配偶者が亡くなって「遺族厚生年金」の受給権を得ることになった場合、特別支給の老齢厚生年金か遺族厚生年金のどちらか一方を選択しなければなりません。
年金額の多い方が亡くなった場合には、遺族厚生年金を選択して、特別支給の老齢厚生年金は支給停止となることがほとんどでしょう。
<支給事由が異なる2つ以上の年金がある場合の選択>
日本年金機構「年金の併給または選択」より
65歳を迎えると特例的に2つ以上の年金を受けられるようになるため、この例でも65歳以降、老齢基礎年金と遺族厚生年金といった組み合わせでの受給ができるようになります。しかしながら、遺族厚生年金部分については老齢厚生年金の支給が優先されるため、今度は遺族厚生年金の金額が調整されて、支給されるのは老齢厚生年金との差額部分のみです。上の表の番号90「老齢厚生年金(退職共済年金)との調整を行ったため、遺族厚生年金の一部または全額の支払いを停止しました。」は、このことを表しています。
なお、障害年金や遺族年金は非課税所得です。変更前後で税金や社会保険料がどれくらい変わるかについても、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
●働きながら年金をもらう人は3つの支給調整ルールに注意しよう
年金の支給調整は公的年金の中だけに留まらない点にも注目です。次のような場合にも年金額の調整が行われます。
①特別支給の老齢厚生年金を含めて、雇用保険の基本手当(失業給付)を受けている間は、老齢厚生年金は支給されません(上表:番号59)。
②60歳に到達した時点に比べて賃金が著しく低下した65歳未満に支給される「高年齢雇用継続給付」との間でも、老齢厚生年金の一部は支給停止となります(上表:番号60)。
雇用保険と年金、それぞれから給付が受けられることを前提に家計のやり繰りを考えていた人は、すぐに計画を見直しましょう。
③賃金を得ながら年金を受給している場合、在職老齢年金制度による支給調整が行われます。在職老齢年金は、加給年金を除く老齢厚生年金(報酬比例部分)と月額給与(1ヶ月あたりの賞与額を含む)の合計額が月50万円(2024年度)の基準額を超えていると、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止となるルールです。
実は上の表のうち5ケース(番号1・14・39・74・1V)が、この在職老齢年金に絡んでいます。
在職老齢年金による支給調整を考慮した年金見込み額は、「公的年金シミュレーター」や「ねんきんネット」の試算ツールから簡単に知ることができるので、積極的に活用してより正確な見込額を計画に反映させることが重要です。
<在職老齢年金の仕組み>
日本年金機構「働きながら年金を受給する方へ」より
12月支給分から年金額が増える「在職定時改定」とは
65歳で老齢年金をもらいはじめてからも仕事に就いている、もしくは仕事に就こうと思っている人も多いことでしょう。70歳未満が加入対象の厚生年金保険では、「年金をもらいながら年金を増やす」ことができますが、「いつ」「どれくらい」増えるのか気になるところです。
●在職定時改定による増額のお知らせが11月に届く理由
9月1日時点で厚生年金保険に加入している65歳以上70歳未満の老齢厚生年金額は、前年9月から当年8月までの期間に係る厚生年金保険の加入記録を反映して、「毎年」10月分の年金額から改定されることになっています。これが2022年から新たに始まった「在職定時改定」と呼ばれるルールです。
10月分の年金は12月(2024年は12月13日)に支給されるため、該当する老齢厚生年金受給者には11月に日本年金機構から通知書が送られてきているはずですが、中身をしっかり確認しましたか。在職定時改定による支給額の変更は、上の表の決定・変更理由のうち番号3Rに該当します。
なお、退職(1ヶ月以内に再就職し、厚生年金保険に加入したときは除く)、もしくは70歳を迎えて厚生年金保険の加入資格を喪失した場合には、まだ反映されていない加入記録を反映させたうえで、翌月分から年金額が改定されることも覚えておきましょう(上表:番号39)。
<在職定時改定と退職改定のイメージ>
日本年金機構「働きながら年金を受給する方へ」より
●月収20万円で1年間に増える年金額は約1.3万円
在職定時改定は、年金を受給しながら働く人の経済基盤の充実を図ることを目的に導入されましたが、年に一度、年金額が増えている実感を得ながら働くことは、仕事へのモチベーションにもつながりますよね。
65歳から70歳を迎えるまでの5年間、給与月額20万円(年収240万円)で厚生年金保険に加入した場合、在職定時改定による老齢厚生年金の増額は毎年13,200円。70歳以降もらう年金額の中に最後の5年間の在職によって増えた分が65,800円含まれていることを考えると、就労の継続はやはり、老後資金に不安が残る人にとっては有力な選択肢です。
なお、厚生年金保険の加入期間が480月(40年)に満たない場合は、さらに経過的加算が加算されます。「公的年金シミュレーター」や「ねんきんネット」も活用しながら、年金を「増やす」戦略をこの機会に考えてみませんか。
<厚生年金保険の加入継続で増える年金額の目安(報酬比例部分)>
筆者作成
「年金決定通知書・支給額変更通知書」で老後の家計をアップデートしよう
今回は、日本年金機構から届く「年金決定通知書・支給額変更通知書」の見方や送られてくる理由について解説しました。2022年から始まった「在職定時改定」のルールにより、年金をもらいながら働く人の年金額が12月支給分から変わるケースが増え、この通知書がより身近な存在になりつつあります。
一方で、支給停止や併給調整などの要因により減額が生じる場合もあることから、通知書に記載された内容を丁寧に確認することが求められることは言うまでもありません。この通知書は、単なるお知らせではなく、老後の安心した暮らしを築くための大切な手がかりとなります。少しでも内容に疑問点があれば、一人で悩まずに年金事務所等に相談するようにしましょう。
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神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker
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