21/01/24
厚生年金に44年以上加入で年金が増える! 使える人は?実際いくら増えるの?
高年齢者雇用安定法が制定されたことにより、60歳で定年を迎えた後も会社で働く人が増えました。ところで、厚生年金に44年以上加入し続けると、年金が増える制度があるのをご存じでしょうか?
今回は、65歳未満で受給する「特別支給の老齢厚生年金」において、一部の人が優遇を受けられる「長期加入者特例」について説明します。
特別支給の老齢厚生年金とは?
1986の年金制度改正により、公的年金の支給開始年齢は60歳から65歳に引き上げられました。この引き上げをスムーズに行うために設けられたのが、「特別支給の老齢厚生年金」です。
特別支給の老齢厚生年金とは、要件をみたした人に60~64歳の間も老齢厚生年金が支給される制度で、期間限定で行われているものです。受給できる人の要件は、次のとおりです。
●特別支給の老齢厚生年金の受給要件
①男性は1961(昭和36)年4月1日以前、女性は1966(昭和41)年4月1日以前に生まれたこと
②老齢基礎年金の受給資格期間(10年)をみたしていること
③厚生年金保険等に1年以上加入していたこと
④60歳以上であること
特別支給の老齢厚生年金は、「報酬比例部分」と「定額部分」から成ります。報酬比例部分は給料等に応じて算出される部分で、定額部分は厚生年金保険の被保険者期間に応じて算出される部分です。
「報酬比例部分」と「定額部分」の支給開始年齢は、それぞれ生年月日によって異なります。生年月日が早い人ほど支給開始年齢が早くなっており、次のようになっています。
●特別支給の老齢厚生年金の受給開始年齢
日本年金機構パンフレット「老齢年金ガイド(令和2年度版)」より抜粋
現在は、定額部分がもらえた世代は既に65歳を超えており、報酬比例部分が支給される世代が若干残っているのみになります。
長期加入者特例とは?
上述のとおり、特別支給の老齢厚生年金は現在報酬比例部分のみが支給されていますが、例外的に定額部分が受け取れる人がいます。具体的には、次の要件をみたす人です。
①特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分が受給開始年齢に達している
②厚生年金保険の加入期間が44年(528月)以上
③厚生年金保険の被保険者資格を喪失している
たとえば、1957年(昭和32年)12月生まれの男性は、2020年12月に63歳となり、報酬比例部分の受給が開始します。もし63歳に達した以降、上記②③の要件をみたしていれば、定額部分も受給できます。
定額部分の金額は、次の計算式で計算します(以下、金額は令和2年度のもの)。
定額部分=1,630円×1.000(支給率)×被保険者期間の月数(※上限480月)
つまり、長期加入者特例の要件をみたす人なら、定額部分として年間78万2,400円(月6万5,200円)の年金額が上乗せされることになります。
なお、老齢厚生年金には、要件をみたす配偶者や子供がいる場合に「加給年金」が支給される制度があります。定額部分を受給する人が加給年金の要件をみたしていれば、加給年金も合わせて受け取れます。
長期加入者特例が使える人とは?
大卒で44年以上働くと65歳に達してしまうので、長期加入者特例が受けられるのは、主に中卒や高卒で働き続けた人です。なお、民間企業で加入する厚生年金と公務員共済組合や私学共済の加入期間を合算することはできず、1つの種類の厚生年金で44年の加入期間が必要なことにも注意が必要です。
長期加入者特例を利用して定額部分を受給するには、厚生年金の被保険者でないことが要件となっています。60歳を過ぎて長期加入者特例の要件をみたす人は、会社を退職して年金をもらう選択肢もあることを知っておいた方がいいかもしれません。特例の適用を受けるために、厚生年金に入らない形での雇用契約を結ぶことも検討した方がよいでしょう。
中卒や高卒で長年働いてきた人は、60歳を過ぎて会社を辞めようか迷ったら、長期加入者特例の44年の要件をみたしていないかも確認してみてください。退職時期を遅らせることで、年金が増えることもあります。
まとめ
長期加入者特例は、一般的な人よりも長く会社で働いてきた人を優遇する制度です。長期加入者特例の要件をみたす人はそれほど多くはなく、制度についてもあまり知られていません。身近で該当しそうな人がいればぜひ教えてあげてください。
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森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。
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