25/07/02
2028年4月「遺族年金改正」で年金が減るのはどんな人なのか

「もしパートナーが亡くなったら、ちゃんと生活していけるの?」
稼ぎ手の万が一の支えとなる「遺族年金」が、2028年4月から大きく変わろうとしています。
今回の年金制度改正法案では、主に7つの遺族年金に関する見直しが盛り込まれています。改正によって遺族年金の年金額が減る人もいれば、逆に増える人やもらえるようになる人もいます。
今回の遺族年金の改正内容がマイナスとなるかプラスとなるか、それとも影響がないかはそれぞれの状況によって異なります。遺族年金の制度は難しく、理解しづらいところもあるからこそ、戸惑ってしまうのは自然なこと。遺族年金の改正内容を整理しましょう。
遺族年金に関する主な改正ポイント
それでは、今回の遺族年金改正のポイントをひとつずつ確認していきます。
●①遺族厚生年金の「5年有期化」と男女差の解消
遺族年金は遺族基礎年金と遺族厚生年金があり、それぞれ要件を満たす遺族に支給されます。今回SNS等で「改悪」と叫ばれる大きな変更が見込まれているのは、主に会社員や公務員だったパートナーを亡くした現役世代の遺族が受け取る遺族厚生年金です。
遺族厚生年金は現状、30歳以上の妻と55歳以上の夫に、要件を満たす限り(夫は60歳から)無期限で支給されます。しかし、2028年4月以降、遺族厚生年金の対象を55歳未満の男性にも拡大し、遺族厚生年金の支給期間を「5年間」に大きく短縮する設計変更が検討されています。
ただし、実際に5年有期化の対象となる方は限られています。以下のとおり60歳未満の方のうち、主に現在37歳未満の方となります。
・2028年度に40歳未満であり、60歳未満で配偶者と死別した方
18歳未満の子どもがいる場合は、引き続き遺族基礎年金とあわせて遺族厚生年金を受け取ることができます。その場合、子どもが18歳以上となり、遺族基礎年金の支給が終了した時から5年の有期となる見込みです。
【遺族厚生年金が5年とならない方】
遺族厚生年金が5年の有期となるのは、主に施行時点で40歳未満の方であり、現役期間中にパートナーを亡くした方です。すべての方が5年で打ち切られるわけではありません。
具体的には、2028年度において以下のような方々は変わりなく受給できます
・40歳以上の妻
・子ども(18歳未満)がいる妻・夫
・60歳以上の妻・夫
・すでに遺族厚生年金を受給している人
●②年収要件の撤廃
これまで、遺族厚生年金の受給には年収850万円未満という制限がありました。この要件が廃止される見通しです。
これにより、年収が850万円より高い方でも遺族厚生年金を受給できるようになります。
●③遺族厚生年金の支給額の増額
「5年有期化」とあわせて「有期給付加算(仮称)」が新たに設けられ、年金額が増額されます。現在の遺族厚生年金の金額は、亡くなった配偶者が受け取るはずだった厚生年金の3/4です。改正後はこれに1/4が加わり、配偶者が受け取るはずだった厚生年金満額となります。
●④「死亡時分割(仮称)」の導入
受給期間が5年となる代わりに、亡くなった配偶者の厚生年金記録を分割し、残されたパートナーの老後の年金受給額を増やせる「死亡時分割(仮称)」のしくみが導入されます。離婚時の年金分割制度を参考とするようです。亡くなった配偶者の方が、報酬が高かった場合に対象となります。
●⑤生活保障が必要な人へのあらたな給付
遺族厚生年金の5年の支給期間終了後も、生活保障が必要なケースでは支給が続けられるしくみが設けられます。所得が一定のボーダーラインを下回る方は継続給付を全額受けることができ、ボーダーラインを上回る方も、所得に応じて減額された継続給付を受け取ることができます。
ボーダーラインがいくらになるのかはまだわかりませんが、国民年金保険料の免除基準を参考とする案が示されています。現状の国民年金保険料の免除基準は以下のとおりです。
全額免除:(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円
寡婦の場合:所得135万円
もし満額支給の所得基準が上記のものと同じとなる場合は、目安となる年収は、子どもがいない男性の場合で給与収入132万円、女性の場合は給与収入204万円となりそうです。
●⑥子どもへの年金額の増額
遺族基礎年金は子どもの人数に応じて金額が加算されるしくみです。改正後は、子どもへの加算額が手厚くなります。現在の子どもへの加算額は、2人目までは228,700円で、3人目以降は76,000円に大きく減額されます(令和7年度の金額)。改正後は以下のとおりすべての子どもへ同額が支給され、金額も増額されます。
・現在:子ども1人目・2人目→年228,700円、3人目以降→年76,000円
↓
・改正後:すべての子どもに対して年281,700円
この増額は、遺族年金だけでなく、老齢基礎年金や障害厚生年金でも同様に適用される見込みです。
●⑦子どもへの支給要件の緩和
これまで、子どもが親と死別後、一部のケースでは子どもへの遺族基礎年金が支給停止となるルールがありました。これが見直される見通しです。例えば以下のようなケースでは、支給停止とならず、子どもが遺族基礎年金を受け取れるようになる見込みです。
・両親が離婚後、父親に引き取られていたが、父親が亡くなり、母親に引き取られた子ども
・父親が亡くなった後、母親が再婚し、新しい父親と同居をはじめた子ども
・父親が亡くなった後、祖父母の養子となった子ども
・父親が亡くなった後、収入850万円以上の母親と暮らす子ども
遺族年金が「減る人」「増える人」「もらえるようになる人」
今回の年金改正が施行された場合、遺族年金が減る人、増える人、新たにもらえるようになる人は以下のような方です。※いずれも年齢は2028年度のものでみてください。
●改正後、遺族年金が減る人
・30歳以上40歳未満であり子どもがおらず、60歳未満で配偶者と死別した方
5年有期化の対象となり、これまで30歳以上であれば要件を満たす限り無期限だった支給期間が大幅に短縮されます。
●改正後、遺族年金が増える人
・18歳未満の子どもを育てる父母等
・30歳未満の子どものいない妻
受け取れる遺族基礎年金、もしくは遺族厚生年金が増える見込みです。
●遺族年金があらたにもらえるようになる人
・55歳未満の男性
・年収850万円以上の方
男女差の解消と収入要件の撤廃により、新たに遺族年金を受け取れるようになる見込みです。
「改悪」か「改良」か 答えは人それぞれ
このように、今回の年金制度改正は、一部の方には支給縮小のインパクトがありつつも、新たな方面からの保障や増額措置も導入されています。
制度全体の方向性は「男女差のない公平な支援」「切れ目のないこども支援」「人生100年時代を想定した経済的自立支援」にありますが、受け取る印象は人によって異なるでしょう。
大事なことは、ご自身の立場を丁寧に見つめて情報を整理し、ちゃんと迷えることです。未来への確かな一歩を踏み出すために、今できることを見つけていきましょう。
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内田英子 CFP,消費生活アドバイザー,住宅ローンアドバイザー
証券・保険業界出身の独立系ファイナンシャルプランナー。
住宅購入や定年退職をきっかけに保険や資産形成を見直す“家計の分岐点”に注目し、将来にわたって安心できる資金計画を中立・公正な立場からサポート。
制度や統計に基づいた分析と、自身の実体験をもとに、現実に寄り添うアドバイスを大切にしています。

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