24/03/26
年金平均「月14万円」もらえない人は意外と多い。低年収でも年金を増やす4つの施策
「老後の年金額の平均は月14万円」と聞いて心配になったことのある方も多いでしょう。でも実際、自分がいくらもらえるかというと、すぐには答えられないこともあるかもしれません。今回は、もらえる年金額の平均・分布と「平均ほどもらえない人」の割合をみてみましょう。あわせて、月10万円ほどの年金をもらえる人が、平均以上を目指すためにやっておきたいこと、やってはいけないことを紹介します。
年金、いくらもらっている?
厚生労働省年金局「令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2022年度(令和4年度)の厚生年金に加入している人のうち、民間企業のサラリーマンが対象となる第1号厚生年金被保険者の厚生年金受給権者数は1599万6701人です。
これらの人々が、毎月いくら年金をもらっているのか、1万円ごとの月額階級で示した分布図で確認してみましょう。
●男女別年金月額階級別老齢年金受給権者数
※国民年金+厚生年金の金額
厚生労働省年金局「令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」より作成
平均年金月額は、
・全体:14万3973円
・男性:16万3875円
・女性:10万4878円
となっています。
後述しますが、国民年金は年収に関係なく保険料を納めることで満額もらえます。一方、厚生年金は基本的に年収が高く、加入期間が長いほどもらえる金額が増えるため、受給額は人によって大きく違います。
男性と女性の平均年金月額を比較すると、約6万円の差があります。女性の場合、結婚後、扶養の範囲内で働き、厚生年金には入らないケースがあります。その場合、もらえる年金は老齢基礎年金のみになってしまったり、厚生年金の加入期間が短かったりするのが、平均年金月額が少なくなる理由になると考えられます。
年金を平均額ほどもらえない人の割合は?
年金を平均額ほどもらえない人(全体14万円、男性16万円、女性10万円以下)の人数、割合は以下のとおりです。
●年金を平均額ほどもらえない人の人数・割合
厚生労働省年金局「令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」
を参考に筆者作成
男性は43.0%、女性は47.5%、全体で見ると47.9%の方が、年金を平均額ほどもらえないことがわかります。老後にもらえる公的年金は一生涯支給されるため、受給額が多ければ多いほど長生きリスクへの準備ができているといえます。つまり、年金はできるだけ多くもらえるように心掛けることが大切です。
国民年金と厚生年金合わせて「月額14万円」の年金、その年収を試算
会社員や公務員だった人がもらう老齢年金は、1階が老齢基礎年金、2階が老齢厚生年金の2階建てで構成されています。
老齢基礎年金は、20~60歳までの40年間、国民年金に加入していれば、誰もが等しく、満額(2024年度:年額81万6000円・月額6万8000円、67歳以下の場合)がもらえます。
老齢厚生年金は、次の計算式で計算されます。なお、ざっくり計算するため、2003(平成15)年4月以降の計算式のみ表示し、スライド率等については含みません。
●平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以後の加入期間
月額14万円の年金をもらう場合の年収を計算するにあたり、前提条件は、次のとおりです。
【前提条件】
会社員(2003年(平成15年)4月以降に就職)
厚生年金保険の加入期間は40年
年金を月14万円もらう場合に必要な老齢厚生年金の月額は「14万円-6万8000円=7万2000円」(年額86万4000円)
老齢厚生年金を月額7万2000円(年額86万4000円)もらうための年収は、次のとおりです。
●計算式
平均標準報酬額×5.481/1000×480月=86万4000円
平均標準報酬額≒32万8407円
標準報酬月額は32万円(標準報酬月額の20等級となる)
32万円で報酬比例部分を計算すると、84万1881円≒月額7万2000円
老齢基礎年金の月額6万8000円+老齢厚生年金の月額7万2000円=14万円
これより、国民年金と厚生年金を合わせて年金を14万円もらう場合、現役時代の年収は32万円×12ヶ月=384万円以上が目安とわかります。
年金月9~11万円の人が全体の平均「年金月14万円」以上を目指すには
女性の年金額の平均は10万4878円でした。先に紹介した分布図でも、9万円〜11万円の人が多くいることがわかります。この方々は、もう少しの工夫で平均年金月額14万円以上の年金額を達成できそうです。ここでは、年金を増やす方法を4つ紹介します。
●年金を増やす方法1:年金を5年ほど繰り下げる
公的年金は、原則65歳から受給できます。とはいえ、就業先があり、収入の目途があるのであれば、年金の受給開始を繰り下げして、将来もらえる年金を増やすことを目指してみてはどうでしょう。
年金の繰り下げは、66~75歳までの間、1ヶ月単位でできます。年金を繰り下げると、1ヶ月あたり0.7%多く年金をもらえます。
もし70歳まで繰り下げをすると、0.7×60ヶ月=42%、75歳まで繰り下げをすると、0.7×120ヶ月=84%も年金を増額できます。
また、年金の繰り下げは、老齢基礎年金、老齢厚生年金の両方ではなく、どちらか一方だけをえらぶことも可能です。仮に、老齢基礎年金の月額6万8000円だけを70歳まで繰り下げた場合「6万8000円×1.42=9万6560円」となり、毎月もらう年金が2万8560円増えます。さらに、75歳まで繰り下げれば「6万8000円×1.84=12万5120円」となり、毎月もらう年金が5万7120円増えます。
年金の受給開始を繰り下げすれば、その分多くなるといっても、全くもらわずに過ごすのは、難しいかもしれません。そんなときは、どちらか一方だけをもらうようにするだけでも、将来もらう年金は増やせます。
●年金を増やす方法2:60歳以降も働き厚生年金を掛ける
年金を繰り下げるといっても「生活するお金がなければ繰り下げなんてムリ」という方もいるでしょう。その際に考えたいのが、70歳まで働き続けることです。
2021年4月から高年齢者雇用安定法が改定となり、雇用主は70歳まで就業機会を確保することが努力義務となっています。その影響により、最近ではシニアの働き口も増えてきました。この機会を利用しない手はありません。
もし、60~65歳で会社を退職したとしても、再任用で70歳まで働くことを検討してはどうでしょう。そうすれば、給料で生活費が得られるので、年金の繰り下げも選びやすくなります。そのうえ、厚生年金を掛け続けることができ、年金の受給額をさらに増やすことができます。
たとえば、年収240万円で1年間働くと年金額は「20万円×5.481/1000×12か月=1万3154円(年額)」増えます。仮にそのまま、5年間働けば「1万3154円×5年間=6万5772円(年額)」増額します。
「月額では5481円、意外と増額にならない」と思われるかもしれません。しかし、長く現役でいれば規則正しい生活ができ、健康が得られます。また、様々な人と接することで、活き活きとした気持ちのハリも得られるでしょう。お金も健康も得られて一石二鳥といえます。
●年金を増やす方法3:未納している年金があれば任意加入する
国民年金は、20~60歳まで40年間が加入期間です。しかし、20歳時点で学生だったため、国民年金を納めていない期間があったり、転職などで年金納付に空白期間があったりする場合があるかもしれません。将来もらう国民年金は、納付した保険料に応じて支払われます。保険料納付期間が40年よりも少ないと、その分、もらえる年金が減額されます。
もし、事前に保険料の免除や猶予を受けていれば、10年前までさかのぼって追納できます。しかし、もう追納期間が過ぎているのであれば、年金の任意加入をして40年間を満たすようにしましょう。加入期間が1年増えれば、年金額はおよそ年2万円増えます。ただし、任意加入ができる期間は60~65歳までの5年間だけです。
未納期間の心当たりのある方は、毎年誕生日ごろに送られてくる「ねんきん定期便」で確認しておくようにしましょう。
●年金を増やす方法4:iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)で準備する
iDeCoは自分で出した掛金を運用して老後の年金を作る制度です。60歳以降国民年金に加入する場合(会社員・公務員・国民年金の任意加入者)は65歳未満まで掛金を出すことができます(その他の方は60歳まで)。
iDeCoでは、毎月一定の金額を積み立て、あらかじめ用意された預金・保険・投資信託などの金融商品を自ら運用します。月額5000円からはじめることができ、上限は、加入者の職業等で違いがあります。
iDeCoのメリットは、拠出、運用、受取のタイミングで税金の節約ができること。より効率よく自分年金を準備できます。ただし、iDeCoは老後資金を準備するのが目的となっているため、原則60歳まで引き出すことはできない点は注意が必要です。
年金を増やすためにやってはいけないことは?
反対に、年金を増やすためにやってはいけないこともいくつかあります。
●年金を増やすためにやってはいけないこと①:国民年金保険料の免除や猶予の申請をしない
国民年金保険料の支払いが苦しいときには、免除や猶予の制度があります。いずれも条件を満たした場合に申請することで適用されます。なお、会社員や公務員といった国民年金の第2号被保険者は勤め先の厚生年金に加入することで国民年金保険料も支払っています。国民年金保険料の免除や猶予は個人事業主やフリーランスといった国民年金の第1号被保険者に関わる話です。
国民年金保険料の免除制度には、全額免除・4分の3免除・半額免除・4分の1免除の4種類があり、所得の状況に応じて免除割合が決まります。また、保険料を納めた場合ほどではありませんが年金額も増加します。
また、国民年金保険料の猶予制度では保険料の支払いを最長10年間猶予してくれます。20歳以上50歳未満の人が利用可能です。猶予を受けた月は国民年金(老齢基礎年金・障害基礎年金・遺族基礎年金)の受給資格期間に含まれますが、追納しないと年金額は増加しません。
国民年金保険料の支払いが苦しいにもかかわらず未納のまま放置していると、もらえる年金が少なくなったり、年金が受け取れなくなったりする可能性がありますので、支払いが苦しいときには免除・猶予の申請をしましょう。
また、学生納付特例のところでも紹介しましたが、免除・猶予の手続きをした場合は10年前までさかのぼって保険料を納めることができます(未納のままでは2年)。保険料を納めれば本来の年金額で受け取ることができますので、なるべく保険料を納めましょう。2年以内であれば加算額もありませんので、早めがベターです。
●年金を増やすためにやってはいけないこと②:ねんきん定期便を確認しない
毎年誕生日ごろに郵送で届く「ねんきん定期便」、しっかり見ていますか?ねんきん定期便には、年金の加入状況・これまでの年金加入期間・もらえる年金額が記載されています。特に50歳以上のねんきん定期便には、今のまま加入を続けた場合に65歳からもらえる老齢年金の見込額が記載されています。ですので、ぜひ確認するようにしましょう。
ねんきん定期便を放置していると、年金の加入記録の誤りに気づかず、もらえる年金が減るかもしれません。また、年金の見込み額がわかれば老後の生活でどれだけのお金が使えるかがわかります。
ねんきん定期便は「ねんきんネット」を活用することでも確認できます。ねんきんネットは誕生月に限らずいつでも最新の情報が確認できますし、これまでの加入履歴も全期間閲覧できます。さらに、年金額の詳細なシミュレーションをすることもできます。
●年金を増やすためにやってはいけないこと③:年金を繰り下げたいのの65歳で手続きしてしまう
年金の受給は原則65歳から。それに先立ち、日本年金機構からは、65歳になる3か月前に「年金請求書」が送られてきます。このとき、年金額を増やす繰り下げ受給をしたい場合には、とくになにも手続きをする必要はありません。年金の請求手続きは、あくまで年金を受け取りたいときに行う手続きだからです。年金請求書が届いたからといって、なんとなく手続きをしてしまうと年金の支給がスタートすることになるので、注意しましょう。
反対に、「特別支給の老齢厚生年金」(男性1961年4月1日以前生まれ、女性1966年4月1日以前生まれの人が条件を満たすと65歳よりも早く受け取れる老齢厚生年金)には繰り下げ受給で金額が増える、といった制度がありません。こちらは所定の年齢に達したら速やかに請求するようにしましょう。
年金増のために早めの取り組みを
50歳以上になったら、自分が将来いくらの年金をもらうのか、確認しておきましょう。誕生月に送付される「ねんきん定期便」に目安の受給額が記載されています。早めの取り組みが年金アップの確実性を高めます。もし年金額が少ないと思ったら、具体的にどんな方法で年金を増やすか検討しましょう。
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舟本美子 ファイナンシャルプランナー
「大事なお金の価値観を見つけるサポーター」
会計事務所で10年、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として14年働いたのち、FPとして独立。あなたに合ったお金との付き合い方を伝え、心豊かに暮らすための情報を発信します。3匹の保護猫と暮らしています。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。FP Cafe登録パートナー
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