23/06/20
「年金繰り下げ受給」のために、65歳までにやっておくべき5つのこと
年金を65歳で受け取らず、繰り下げ受給すると、請求する年齢が1か月遅くなるごとに0.7%ずつ年金額が増額します。60代以降も働き続けたいと思う人も増え、年金のもらい方も選択肢が広がりました。しかし、年金額を増やすために繰り下げ受給をしたいと思うなら、それなりの準備も必要です。長生きが当たり前になった今、老後の生活はできるだけ豊かに過ごしたいものですね。
今回は、年金を繰り下げ受給するために、65歳までにやっておくべきことを5つ紹介します。
年金の繰り下げ受給でやっておくべきこと1:人生設計のビジョンを描く
70歳までの雇用継続の努力義務化が行われるとともに、年金の繰り下げ受給が70歳から75歳までに延長され、年金受給の自由度が大きくなりました。改正の中身を理解した上で、自分はいつまで働くのか、どうありたいのか老後の青写真を描いておきましょう。
「将来、どうなっているのかわからない」「先が見えないから老後が不安」という場合には、ざっくりでいいので、キャリアプランや教育費、住宅のリフォームや車などの買い替え、旅行の計画などを年単位で記入してライフプランシートを作ってみましょう。まとまった出費ばかりではなく、実現可能かどうかは別として、将来のやりたいことや理想も書き入れましょう。夢や希望と現実をすり合わせることで、家族のお金に対する価値観を共有することができます。ポイントは、プランの完璧さを追求するのではなく、「今、何をすべきか」を考えることです。
年金の繰り下げ受給は、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げの請求をすることができます。年金の繰り下げ方には3つのパターンがあります。
・老齢基礎年金(国民年金)のみ
・老齢厚生年金のみ
・老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方
世帯ベースで年金の受け取り方を考えましょう。ご夫婦のいずれか一方だけが繰り下げ受給をするというのも方法の一つです。年金は、一度請求したら取り消しができませんから、自分にとってベストな受給タイミングを設定しましょう。
年金の繰り下げ受給でやっておくべきこと2:できるだけ長く働くことを検討する
働き方を工夫することで、繰り下げ受給が可能になります。年金をもらうまでの間に働くことで生活資金を得て、厚生年金に加入すれば加入期間に応じて、厚生年金の受給額を増やすことができます。
厚生年金に加入するには、原則1週間に30時間以上働くことが原則ですが、パートやアルバイトの人でも条件を満たせば、厚生年金に加入することができます。2022年10月からは、週20時間以上の短時間勤務でも、企業規模要件が常時100人を超える事業所に勤めている方ならば加入できるようになりました。さらに2024年10月からは、常時50人を超える事業所でも、健康保険や厚生年金への加入が拡大されます。
特に女性は非正規雇用の比率が高く、自身の年金が少ないことが問題になっています。これからの長い老後を考えると、収入の手取り重視から年金アップへの意識改革も必要になります。今までのように「年収の壁」を意識して、会社員の配偶者が厚生年金保険料を払わないで済む範囲で働くのは、だんだんと時代遅れになってくるでしょう。
2022年4月からは、働きながら年金をもらう在職老齢年金も改正になっています。生年月日によっては、60~64歳に支給が始まる特別支給の老齢厚生年金をもらう人もいます。この年金は繰り上げ、繰り下げができないため、給料と同時に年金をもらうことになる人がいます。今までは、60代前半で給料と厚生年金の合計額が月額28万円を超えると、年金の支給額が減額されていました。改正により47万円(2023年度は48万円)に引き上げられたことによって、これまでカットされていた人も、改正後は年金が増えて働きがいが大きくなりました。
また、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある方が65歳になったときに、65歳未満の配偶者や18歳になる前の子どもを扶養している場合には、老齢厚生年金に加給年金という加算がつきます。長く働くことで条件を満たせるという人は、利用が可能になります。
再就職や再雇用などを視野に入れ、働き続けるにはどんなスキルを身につけておくべきか準備も必要です。副業などでできることを試す、事前のリサーチをしておくなど老後の自分にあった働き方を検討しましょう。
年金の繰り下げ受給でやっておくべきこと3:家計をダウンサイジングする
老後の不安を小さくする方法として、入ってくるお金で生活できるようにすることがあげられます。働いて収入が得られるといっても、60代以降の収入は現役時代の4割から6割の収入に減ってしまうのが現実です。特にたくさん収入があったところから、いきなり生活費を減らそうと思っても、感情が追いつかないのではないでしょうか。一度大きくなった家計を小さくするには、強い意志と慣れるまでの時間が必要になります。年金生活をイメージして生活費の支出を小さくする行動をしていきましょう。
家計の見直しは、変動費よりも固定費の削減のほうが効果で出やすくなります。子どもが巣立って不要になった保険や高い料金のままの携帯料金など、節約できそうなものがないか確認します。生活を改めないまま過ごしてしまうと、老後資金を減らしてしまう可能性が大きくなるので要注意です。
生活費をダウンサイジングするために、、買わない生活へシフトしていきます。たとえば、食費では1か月分のレシートをためておき、定期的に必要な買い物なのかを振り返ることで、習慣や行動パターンに潜む問題点を発見することができます。また、1週間や1か月などの予算を決めて守るのも有効です。
日用品は買いだめをしないようにすると、在庫管理がラクになります。必要なものしか買わないようになると、不用品が減り、かたづけの時間が少なくなり余裕も出てくることでしょう。
年金の繰り下げ受給でやっておくべきこと4:健康に配慮して過ごす
なんといっても、老後の一番の節約は、健康であることです。しかし残念なことに、高齢になれば病気やケガ、介護のことを抜きに考えることはできません。もし健康で老後を過ごしていくことができれば、医療費や介護にかかる費用はもちろん、周囲の人に迷惑をかけずにすみますし、好きなことに時間を割くことができます。ウォーキングやストレッチなど手軽に取り入れられる、毎日続けられそうな運動を日常生活の一部に取り入れるとよいでしょう。
また、定期健診を受けるなど、病気の早期発見を心掛け、具合が悪いと感じたら早めに受診しましょう。
60歳になる知人は、軽い認知症に似た症状が出ていましたが、そのままにしていました。ある日視野に異常を感じ眼科を受診すると、大病院へ緊急入院になりました。病名は、目の病気ではなく、脳腫瘍でした。手術で腫瘍は取り除かれましたが、昏睡状態が続いて寝たきりです。今後リハビリをしても回復は見込めず、老後を楽しむどころの話ではなくなりました。健康を保つためには食生活を含め、予防や早期発見がいかに大切かを再確認させられました。
年金の繰り下げ受給でやっておくべきこと5:私的年金や資産形成にも目を配る
年金だけで老後の生活をまかなうことがむずかしいのであれば、私的年金などの自助努力が必要になります。少しでも老後のお金を長持ちさせようと思うのならば、資産形成として運用に回すことも必要です。
iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やNISA、つみたてNISAなどの非課税制度を活用して、長く運用することでリスクを抑え、資産を増やしていくことを考えてみましょう。2022年の年金改正でiDeCo(イデコ)の加入可能年齢が「60歳になるまで」から「65歳になるまで」に延長されました(60歳以降の加入は会社員や公務員、国民年金の任意加入者といった「国民年金の被保険者」のみ)。また、受給開始期間も60~75歳の間に拡大されています。
さらに、2024年1月からは新NISAの制度が始まり、非課税保有期間が無期限化します。つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能となり、非課税限度額(生涯投資枠)は全体で1800万円になります。改正をうまく活用し、より長く運用することで、50代からでも資産の積み増しができる可能性が増えます。
繰り下げ受給の年金はまとめて受け取ることもできる
年金の受給年齢を遅らせることで、年金を増やせることがわかっていても、将来何があるかわからいと考えると、繰り下げ受給に踏み切れない人もいると思います。しかし、繰り下げ受給の受け取り方は2通りあり、前もって繰り下げ年齢を指定しておく必要はありません。
1つは、年金を請求した時点の増額率で繰り下げた年金を受給する方法です。
もう1つは、繰り下げ待機している間でも、年金が必要だと思えばその時点で請求し、繰り下げ請求しない金額で最長5年分までさかのぼって年金をもらう方法です。この場合、最長5年分の年金がまとめて受け取れます。
また、繰り下げた年金を請求せずに本人が亡くなった場合には、65歳から受け取っていたと仮定した場合の年金額が遺族に未支給年金として一括で支払われます。
こうした制度の内容を知っておくと、繰り下げ受給を検討するハードルが低くなりますね。
どの年金をいつ受け取るのがベストなのかは、世帯の構成や経済状況で異なります。老後をより安心して過ごすために、繰り下げ受給は慎重に検討しましょう。
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池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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