25/10/17
定年後の再就職でもらえる「再就職手当」「高年齢再就職給付金」どっちが得?

定年後、再就職をすると収入が下がるケースは少なくありません。再就職の際に助けになるのが「再就職手当」「高年齢再就職給付金」という2つの給付金です。ただ、再就職手当と高年齢再就職給付金は併用ができません。どっちが得になるのでしょうか。2つの給付金のしくみと試算を紹介します。
定年後の再就職により受け取れる2つの給付金
定年後の再就職により受け取れる給付金には、「再就職手当」と「高年齢再就職給付金」の2つがあります。
●再就職手当
再就職手当は、雇用保険の基本手当(以下「基本手当」)がもらえる人が早期に再就職をした場合に受け取れる給付金です。
基本手当の支給残日数が、
・所定給付日数の2/3以上残っている場合:
支給残日数分×基本手当日額の70%
・所定給付日数の1/3以上残っている場合:
支給残日数分×基本手当日額の60%
の金額を一括で受け取れます。
所定給付日数は、雇用保険の加入年月により異なり、長く加入しているほど給付日数は長くなります。なお、前職と同じ会社に再就職する場合は受け取れません。
●高年齢再就職給付金
高年齢再就職給付金は、基本手当を100日以上残して安定した職業に再就職した
・60歳以上65歳未満で
・雇用保険の被保険者期間が5年以上で
・60歳以降の賃金が60歳時点の75%未満に低下した
人が受け取れる給付金です。
高年齢再就職給付金の給付金額は再就職後の賃金額の最大10%で、賃金の低下率が高いほど多く給付されます。
給付期間は基本手当の支給残日数が200日以上残っている場合は最大2年間、100日以上200日未満の場合は最大1年間です。
定年退職の場合、基本手当の所定給付日数は、最大でも150日です。解雇や会社の倒産など特別な理由の場合のみ、所定給付日数が200日を超える可能性があります。
再就職手当と高年齢再就職給付金どっちがお得?
再就職手当と高年齢再就職給付金は、併用することができません。どちらがお得か、2つのケースを見ていきましょう。
●ケース1:再就職後の給料の低下率が64%超の時
【前提条件】
退職時の給料(賃金月給):420,000円
退職時年齢:60歳(定年退職)
退職時の雇用保険被保険者期間通算:25年 (所定給付日数:150日)
基本手当受給済日数 35日→残りの支給日数115日
再就職後の給料:280,000円
・再就職手当の場合…427,455円
賃金日額=420,000×6÷180 =14,000
A.基本手当日額= 14,000×0.45 = 6300
B.再就職手当の場合の上限額は5,310円
A、Bいずれか少ない方が再就職手当の基本手当日額となるので、このケースの場合は5,310円となります。
支給率:残りの支給日数が100日以上あるため、70%となります。
支給額は 5,310 ×115 × 0.7 = 427,455円
・高年齢再就職給付金…244,272円
賃金低下率 28万円 ÷ 42万円 = 66.67%
賃金低下率66.67%の場合の支給率:7.27%
支払期間:12カ月(基本手当の残日数が100日以上200日未満のため)
支給限度額の確認
A)再就職後の月収+高年齢再就職手当1カ月分 = 280,000×0.0817+280,000=302,826円
B)限度額は386,922円(令和7年9月現在)
AはBよりも少額のため、高年齢再就職手当は全額支給されます。
支払総額:280,000 ×0.0727×12カ月 = 244,272円
つまりケース1の場合は、再就職手当の方がお得ということになります。
●ケース2:再就職後の給料の低下率が64%以下の場合
【前提条件】
退職時の給料(賃金月給):420,000円
退職時年齢:60歳(定年退職)
退職時の雇用保険被保険者期間通算:25年 (所定給付日数:150日)
基本手当受給済日数 35日→残りの支給日数115日
再就職後の給料:250,000円
・再就職手当:ケース1と同様
支給額は 5,310 ×115 × 0.7 = 427,455円
・高年齢再就職給付金…274,512円
賃金低下率 25万円 ÷ 42万円 = 59.52%
賃金低下率が 64%以下の場合の支給率:10%
支払期間:12カ月(基本手当の残日数が100日以上200日未満のため)
支給限度額の確認
A)再就職後の月収+高年齢再就職手当1カ月分 = 250,000×0.1+250,000=275,000円
B) 限度額は386,922円(令和7年9月現在)
AはBよりも少額のため、高年齢再就職手当は全額支給されます、
支払総額:250,000 ×0.1×12カ月 = 300,000円
ケース2も再就職手当のほうがお得になりました。実は、2025年度より高年齢再就職給付金の上限が15%→10%に引き下げられています。その関係で、多くのケースで再就職手当のほうがお得になるようです。ただし、退職理由が会社都合などで所定給付日数が多い場合などには、高年齢再就職給付金のほうがお得になる場合もあるので、ご自分の場合を確認するのがよいでしょう。
申請方法と申請期限について
再就職手当も高年齢再就職給付金も、失業保険の基本手当の受給期間に再就職が決まった場合の給付金です。そのため、退職をしたら、まずは管轄のハローワークに行き失業保険の基本手当の申請を行いましょう。申請してから7日間の待期期間があります。この期間は、収入を得たり、再就職を行うのは控えましょう。
再就職手当の手続きは、再就職日の翌日から起算して1ヶ月以内と短いため注意が必要です。入社後早めに手続きを行いましょう。一方で高年齢再就職給付金は、支給対象月の初日から4か月以内に初回の申請を行うようにしましょう。
再就職手当の申請の結果、審査で不支給となった場合でも、高年齢再就職給付金の受給資格を満たせば別途申請が可能なため、諦めずに申請してみましょう。
手当よりも再就職後の環境を重視して選ぼう
再就職後の給付金は、前職の収入や、失業保険の基本手当の残日数や、就職後の収入により、受給額が変わることがわかりました。特に高年齢再就職給付金は前職よりも収入が減るほど受給額が増えます。ですが、定年退職での離職の場合、受給期間は最大1年間です。再雇用後も1年以上勤めたい場合は、月給が少ないところに再就職を目指して、手当を増やすよりも、やりがいをもって長く続けられる環境を選ぶほうが満足度の高い暮らしとなるでしょう。
再就職がすぐに決まらなくても焦る必要はありません。雇用保険の加入期間により最大150日間、失業保険の基本手当が受給されます。手当に惑わされずに納得のいく就職活動を送りましょう。
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金子圭都 ファイナンシャルプランナー(CFP︎®︎)
学生の頃、親族の死をきっかけにお金について学び、ファイナンシャルプランナーの資格を取得。お金の勉強をする女性コミュニティでイベントの企画・運営に3年間携わり、のべ200人以上のお金の悩みに寄り添う。その後独立し、お金の不安を安心に変えるマネー相談を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー。

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