23/12/06
国民健康保険料の上限2万円アップで3年連続増加!手取りが減るのはどんな世帯?
厚生労働省は、2024年度(令和6年度)から国民健康保険料の年間上限額を現行より2万円引き上げる方針を発表しました。国民健康保険料上限の引き上げは3年連続。これにより手取り収入が減少する可能性のある世帯が出てきます。
物価上昇でさまざまな日用品の値上げラッシュが続く中、今回の国民健康保険料の年間上限額が引き上げられるというニュースは、またしても生活を圧迫することになるのではないかと不安を感じる方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、この引き上げの背景や対象について解説し、高すぎる保険料負担の節約テクニックについても紹介します。
国民健康保険料の決まり方
国民健康保険は、職場の健康保険に被扶養者として加入していない方などが加入する健康保険です。例えば、最近増加傾向にあるフリーランスの方やお店などを経営する自営業の方、また従業員であってもパートやアルバイトなどで一定以上の収入がある方が加入しています。
国民健康保険料は、下の図のように「医療分」「後期高齢者支援金分」「介護分」の3つの区分から構成されて、加入者の所得や、世帯人数を基に計算されています。
●国民健康保険料の計算式
筆者作成
「医療分」➔国民健康保険加入者の医療費用の保険料
「後期高齢者支援金分」➔後期高齢者医療制度(75歳以上の医療制度)のための費用
「介護分」➔介護保険制度のための費用
「医療分」「後期高齢者支援金分」はすべての加入世帯でもれなくかかり、「介護分」は40歳~64歳の加入者にだけかかります。
国民健康保険料は「支払い能力」に応じて決まる
国民健康保険料は保険制度の円滑な運営のため、加入者の「支払い能力」に応じて、公平に決める必要があるとされています。上の計算式のとおり、保険料の各区分には「所得割」と「均等割」があります。そのうち「所得割」が被保険者の「支払い能力」により金額が決まってくる部分です。
各自治体によって適用する保険料率は異なるため、市区町村が、加入者の国民健康保険料の年間金額(その年の4月~3月に支払う保険料の合計)を決定し通知します。
例えば、東京都大田区の2023年度(令和5年度)の保険料率や所得割額・均等割額は以下のとおりとなっています。
東京都大田区の所得割額・均等割額
東京都大田区ホームページ「令和5年度保険料の料率等について」より
国民健康保険料の年間上限額の見直しとは
国民健康保険料は支払い能力(所得)に応じて公平に負担する仕組みとはいえ、そこまで医療機関を利用していないのに「前年度の収入がたまたま多かった」ために高すぎる保険料を負担させられてしまうのはおかしな話です。そのため、所得が一定金額を超えてくると保険料の上限額に達し、それ以上保険料は増加しない仕組みがあります。
具体的には、国民健康保険料は区分ごとに世帯限度額が設けられ、各区分の合計額が世帯限度額以上になる場合は世帯限度額を優先することになっています。
●国民健康保険料の世帯限度額(東京都大田区の場合)
東京都大田区ホームページ「令和5年度保険料の料率等について」より
この国民健康保険料の年間上限額について見直しをして引き上げましょうというのが今回の法改正の趣旨です。具体的には、令和6年度の国民健康保険料の年間上限額は以下のように、最大2万円引き上げられ、年間106万円となる方針です。
●賦課(課税)限度額の引上げ(令和6年度)
厚生労働省 「国民健康保険の保険料(税)の賦課(課税)限度額について」より
高所得層の「負担増」で中所得層の負担軽減が狙い
今回の国民健康保険料の年間上限額の引き上げの背景には、急速に進む高齢化による医療費の増大で、国民健康保険の財政が厳しいことにあります。この政策が実施されることで、高齢化社会における医療費の増加に対処し、国民健康保険制度を持続可能なものとすることを目指しています。
国民健康保険制度を支えていくためには、国民健康保険料そのものを引き上げなければなりませんが、全被保険者の国民健康保険料を値上げすることは大きな反発が予想されます。そこで、高所得層の上限負担を引き上げることで、中所得層の負担を少しでも軽減しようというのが、上限額引き上げの狙いです。
つまり、今回の限度額引き上げによる保険料への影響は、高所得者層ほど影響が大きくなるということがいえます。
保険料が増加するのは単身世帯で年収およそ1160万円以上
今回の見直しにより、来年度から負担が増える高所得世帯はどのような世帯なのでしょうか。上限額を支払うことになるのは、単身世帯で見ると、年収およそ1160万円以上となる見通しです。
国民健康保険料額は収入や年齢、家族構成によって異なりますので一概には言えませんが、上記の厚生労働省試算の前提条件では、2021年度(令和3年度)の保険料率を適用していますので、来年度の保険料率によっては、年収1000万円前後の人でも引き上げ後の上限金額が適用される可能性もあります。
ただ、厚労省の試算によると、限度額該当世帯の割合は、加入世帯全体の1.52%に過ぎないそうですから、影響は比較的軽微なのかもしれません。
高すぎる保険料負担の節約テクニック4選
今回対象にはならなかった世帯でも、社会保険料負担の増加に備えて、何らかの対策を立てておく必要がありそうです。「国民健康保険料は高すぎる!」というあなたに、ここからは思いつく限りの保険料の節約テクニックをご案内します。
●① 世帯を1つにまとめる
1世帯ごとにかかる「平等割額」が保険料に加算される市区町村があります。この場合、例えば親世代と同一住居で生活をしているにもかかわらず別世帯として国民健康保険に加入するとそれぞれに平等割額がかかってきてしまいます。もし世帯を一緒にすることができるのなら即実行すべきです。
●② 保険料の安い市区町村へ引っ越す
引っ越しといってもそう簡単にできるものではありませんが、場合によっては年間で数十万円もの保険料節約が可能になるかもしれません。全国で一番高い自治体と低い自治体の差は2倍以上になるケースもあります。保険料の節約方法として住む自治体を変えることは最も効果的かもしれません。
●③ 電子マネーのnanacoを利用する
nanacoはセブンイレブンが運営する電子マネーです。国民健康保険料はこのnanacoで支払うことができます。クレジットカードでnanacoチャージすることでカードのポイントをためることができます。nanacoへのチャージにクレジットカードを利用する場合は、どのクレジットカードでも良いわけではなく、セブンカード系列のクレジットカードのみとなっています。
●④ 確定申告で控除を受ける
国民健康保険料をきちんと納付していて所得がある方は、確定申告を行うことで社会保険料控除を受けることができます。結果として国民健康保険料の軽減・節約につながりますので該当する方は必ず確定申告を行いましょう。
このほか、国民健康保険では、ある一定の条件を満たす方については保険料を減免(免除)してくれる制度があります。例えば会社が倒産し無職になってしまった方とか、病気やケガで障害を負った方などが該当しますので、お住まいの市区町村などに必ず相談をしてください。
負担は今後も増える?
高齢化社会における医療費の持続可能な管理は、今後ますます重要なテーマとなっていくでしょう。制度の維持、社会的な公平性、高所得者への負担増加についての議論は今後も続くものと思われます。ぜひ注目していきましょう。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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