23/11/03
年末調整ですべき5つの控除「忘れると16万円損」になることも
年末はもうすぐそこ。会社員など給与所得者にとっては、年末調整の季節とも言えます。忙しい毎日の業務の合間、年末調整の細かい作業は面倒に感じるかもしれませんが、忘れずに申告しないと大損してしまうことも。
今回は、年末調整でするべき5つの控除をお伝えします。早めの準備で、ゆとりの年末を迎えましょう。
所得税は、所得控除が増えると安くなる
まず、所得税の計算方法を確認しましょう。
所得税は、給与金額に直接かかるものではありません。給与収入から一定額の所得控除を差し引いたものが給与所得。そこからさらに所得控除を差し引いた、課税所得に対して税率をかけて所得税額が決まります。
●所得税のしくみ
筆者作成
ですから、所得控除がたくさんあったほうが、所得税額が安くなります。
ちなみに、所得税額からさらに税額控除(住宅ローン控除など)を差し引いた金額が、最終的に納める所得税です。
年末調整とは、「所得税の精算」
所得税は、その年の1月1日から12月31日までの収入をもとに計算します。とはいえ、12月に一括で払うのは金額が大きいので、会社員の場合には毎月の給料から分割して差し引かれます。これが、所得税の源泉徴収です。
ただ、源泉徴収された所得税は概算の金額なので、年末に精算する必要があります。この、精算の手続きが年末調整です。
年末調整では、所得控除を申告しますので、もれなく申告できるよう準備をしておきましょう。
今回は、所得控除によって所得税をいくら安くできるのか、概算で紹介します。
なお、計算の条件は次のとおりです。
・夫の年収650万円(収入はすべて給与収入)で、その他の家族を扶養している
・夫の課税所得(以下紹介する所得控除を適用する前)
650万円-174万円(給与所得控除)-48万円(基礎控除)-97万5000円(社会保険料控除・収入の15%と仮定)=330万5000円
年末調整でするべき控除①:配偶者控除・配偶者特別控除
税金は公平性が大切。同じ収入でも、独身者より、配偶者を養っているほうが税金が安くなることもその表れです。
たとえば、夫の給与が年収650万円の場合、妻の年収が103万円以下の場合には、配偶者控除として38万円が所得控除になります(①)。
なお、妻の年収が103万円を超えても配偶者特別控除が受けられます。配偶者特別控除でも年収150万円までであれば38万円の所得控除が受けられます。しかし、年収150万円を超えると徐々に所得控除の金額は下がります。そして妻が年収201.6万円を超えると配偶者特別控除の対象外になります。
年末調整でするべき控除②:扶養控除
養う家族が多ければ、そのぶん税金が安くなります。配偶者以外に養っている家族がいる場合には、扶養控除が使えます。
16歳以上の家族を養っていたら、ひとりあたり所得控除は38万円ですが、19歳以上23歳未満なら63万円です。また、70歳以上の同居の親は58万円、同居でなくても48万円の所得控除です。
●扶養控除の区分と金額
筆者作成
年収650万円の夫に高校生の子がいれば38万円、大学生の子がいれば63万円です。
合計で101万円の所得控除が受けられます(②)。
さらに、同居の親が1人いれば58万円、別居の親に仕送りしていれば48万円の所得控除が受けられます。ただし、扶養控除も配偶者控除同様に、扶養される家族に所得の上限があるので注意が必要です。
年末調整でするべき控除③:小規模企業共済等掛金控除
夫がiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)をしていたら、その掛金は全額所得控除になります。掛金の上限は夫の勤務先の年金制度によりますが、年間14万4000円~27万6000円です。
たとえば、月1万円ずつ掛けていたら12万円の所得控除が受けられます(③)。
小規模共済等掛金控除を申告する場合には、国民年金基金連合会から届く、小規模企業共済等掛金控除証明書が必要です。
10月末頃に圧着ハガキで届きますので、忘れずにとっておきましょう。
年末調整でするべき控除④:生命保険料控除
条件を満たした生命保険に加入していたら、生命保険料控除が利用できます。生命保険料控除の上限額は、いつ契約した生命保険かによって変わります。
●2012年以前(旧制度)
・一般生命保険料控除…5万円
・個人年金保険料控除…5万円
●2012年以降(新制度)
・一般生命保険料控除…4万円
・介護医療保険料控除…4万円
・個人年金保険料控除…4万円
仮に年収650万円の会社員が2012年以降に対象の生命保険にすべて加入して控除を受けられたとしたら、12万円の控除が受けられます(④)。保険は、子どもや配偶者にかけている保険でも、保険料を負担しているのであれば控除の対象になります。
手続きにはiDeCoと同じく10月末ごろに届く生命保険料控除証明書が必要ですので、捨てずにとっておきましょう。
年末調整でするべき控除⑤:社会保険料控除
所得控除には、公的な健康保険料や、国民年金・厚生年金の保険料が対象になる、社会保険料控除があります。会社員の場合、給与から社会保険料も源泉徴収されており、年末調整でわざわざ申告しなくても勤務先で計算してくれます。
ただし、子どもの国民年金保険料を払った場合には申告しないと所得控除になりません。
学生でも20歳になれば国民年金加入しますが、学生納付特例制度により保険料の納付を猶予することもできます。しかし保険料を納めれば、子どもが将来受け取る年金を増やすことができ、さらに保険料を負担した親の所得控除にもなります。
国民年金保険料は、2023年度は1カ月あたり1万6520円、2022年度は1万6590円でした。2023年1月~12月までを払っていたら、合計19万8450円が所得控除になります(⑤)。
所得税はいくら安くなる?
上の5つの所得控除を反映すると、所得税はいくら安くなるのでしょうか。
●所得控除前
・夫の課税所得
650万円-174万円(給与所得控除)-48万円(基礎控除)-97万5000円(社会保険料控除・収入の15%と仮定)=330万5000円
【所得税額】
330万5000円×20%−42万7500円=23万3500円
●所得控除後
・夫の課税所得
650万円-174万円(給与所得控除)-48万円(基礎控除)-97万5000円(社会保険料控除・収入の15%と仮定)
-①(配偶者控除)38万円
-②(扶養控除)101万円
-③(小規模企業共済等掛金控除)12万円
-④(生命保険料控除)12万円
-⑤(子の社会保険料控除)19万8450円
=147万6000円(課税所得・千円未満切り捨て)
【所得税額】
147万6000円×5%=7万3800円
23万3500円-7万3800円=15万9700円
5つの所得控除を適用することで、合計で約16万円も所得税を安くすることができました。この例では、所得控除によって課税所得が330万5000円から147万6000円に下がりました。それによって、適用される税率が20%から5%に下がっています。
所得控除を加味して計算した所得税が、すでに払っている源泉所得税よりも少なければ、差額が12月の給与に上乗せして戻ってきます。また、今回は話をなるべくわかりやすくするために省略しましたが、正しく所得控除をして課税所得が減れば、翌年の住民税も安くなります。
年末年始をひかえて収入が増えるのはうれしいものです。
年末調整をするのは忙しい時期ですから、必要書類はひとつにまとめて管理するなど、スムースに申告できるよう準備しておきましょう。
【関連記事もチェック】
・「金持ちから貧乏夫婦に転落」払ってはいけない5つのお金
・「金持ち老後」と「貧乏老後」を分ける決定的な5つの違い
・貯蓄ゼロにつながる「たった1つの悪習慣」
・会社も役所も教えてくれない、年金受給者が確定申告で得する8つの事例
・スポーツジムで医療費控除が受けられるための3つの条件
タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
この記事が気に入ったら
いいね!しよう