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24/09/20

相続・税金・年金

親が年金を受け取らず68歳で逝去…子は親の年金を受け取れる?

親が年金を受け取らず68歳で逝去…子は親の年金を受け取れる?

公的年金は、本人が請求手続きを行うことでその受給が開始されます。最近は、本来の受給開始である65歳で請求手続きを行わずに、受給開始を66歳以後に繰り下げてその分増額された年金を受け取ることを選択する人も増えてきましたが、人生何が起こるかは分かりません。もしも繰り下げ受給をしようと待機していた期間に急逝した場合、本人・家族ともに何ももらうことができずに、損なことだらけなのでしょうか。そこで今回は、将来の繰り下げ受給を考えている本人と家族が事前に知っておきたい、いくつかのポイントを解説します。

亡くなった年金受給者にはまだ受け取っていない年金が必ずある

公的年金の支給は2ヶ月に一度、原則偶数月の15日。その支給対象は前月までの2ヶ月分であることから、年金受給者が亡くなった際には必ず、生前に支給されなかった年金が宙ぶらりんの状態となります。この支給されなかった年金のことを未支給年金といいます。
年金受給者の未支給年金は、亡くなったタイミングに応じて1~3ヶ月分発生します。

●亡くなったタイミングと未支給年金の月数

・偶数月の14日以前に亡くなった:亡くなった月を含む3ヶ月分
・奇数月に亡くなった:亡くなった月を含む2ヶ月分
・偶数月の15日以降に亡くなった:亡くなった月のみ1ヶ月分

未支給年金を受け取れる遺族には優先順位がある

故人と生計を同じくしていた遺族は、この未支給年金を受け取ることができるので、年金の受給停止手続き(死亡の届け出)と合わせて、請求手続きを行いましょう。なお、未支給年金は5年を過ぎると時効で請求手続きができなくなります。
未支給年金が受け取れる遺族は、次のうちもっとも順位が高い人です。

●未支給年金が受け取れる遺族と順位

(1)配偶者
(2)子
(3)父母
(4)孫
(5)祖父母
(6)兄弟姉妹
(7)その他(1)~(6)以外の3親等内の親族

今回は親の未支給年金を請求するケースを想定していますが、親に生計を同じくする配偶者がいる場合には受け取ることができません。また、同順位内で請求ができるのは1人であることから、ご自身のほかに要件を満たす兄弟姉妹がいる場合には受け取れないことも考えられます。

なお、生計同一関係は、みなさんが思っている以上に広い範囲まで含むものです。生活費や療養費等の経済的な援助があった場合はもちろん、配偶者や子については定期的な音信や訪問でも認められることは、日本年金機構の案内でも明確に示されています。

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親が年金受給の開始を繰り下げているなら4つのポイントに注意

老齢年金の受給は、原則65歳から開始されますが、66歳以後75歳までの間に繰り下げることで、1ヶ月単位で0.7%ずつ増額されることは、みなさんもご存知のことでしょう。もしも親が年金を受け取る前に亡くなった場合には、親が65歳以降に受け取るはずだった未支給年金を遺族が受け取ることができます。
たとえば、68歳で亡くなった親が年金を受け取っていなかった場合、65歳から68歳までの3年分(36ヶ月分)の年金を受け取れます。
ただこのとき、注意しておきたいポイントが4つあります。

●繰り下げにおける未支給年金の注意点①:増額分は反映されない

もし今回のケースのように68歳まで36ヶ月請求していなかったならば、その時点における増額率は25.2%。本来は基礎年金と厚生年金合わせて月15万円(65歳到達時点)のはすだった親は、生きていれば、請求手続きをすることで月18.78万円の年金を終身もらうことができた計算です。

繰り下げをしている期間(繰り下げ待機中)に亡くなった場合もまた、残された遺族は、亡くなった人が本来受け取るはずだった年金を、一括で受け取ることができます。しかしながら、未支給年金の金額には、繰り下げをしたことによる増額分は反映されません。したがって、このケースにおける未支給年金の額は、676.08万円(18.78万円×36ヶ月)ではなく、540万円(15万円×36ヶ月)となる点には注意が必要です。

●繰り下げにおける未支給年金の注意点②:未支給年金は遺族の「一時所得」

未支給年金は、遺族が「自己の名」で請求を行うことになることから、相続税の課税対象には含まれません。その金額は受け取った遺族自身の一時所得に含まれる点は、重要なポイントの一つです。

一時所得の特別控除額(最高50万円)等も考えると、(1~3ヶ月分の金額に限定される)年金受給者の未支給年金額が、遺族の税負担や医療・介護保険にかかる保険料や自己負担割合に与える影響は、あまり大きくないものと想定されます。一方で、繰り下げ待機中の故人に係る未支給年金額が大きい場合には、遺族に及ぼす影響を無視できません。

●繰り下げにおける未支給年金の注意点③:支給対象は最大5年分

繰り下げ待機中の68歳の親が亡くなった今回のケースでは心配はいりませんが、(繰り下げ待機中で)本人が未請求のまま71歳で亡くなる例では、65歳から66歳まで1年分の年金はすでに時効を迎えています。つまり、未支給年金として受け取れるのは最大5年分。増額率が反映されていない65歳到達時点の年金額に基づいて、5年分の未支給年金額が計算される点は、①で紹介したとおりです。

●繰り下げにおける未支給年金の注意点④:受給開始後の対象は1~3ヶ月分のみ

③と同様に、今回のケースでは問題ありませんが、もしも68歳まで受給開始を繰り下げていた親が、25.2%増額された年金を受け取り始めて3ヶ月後に亡くなった場合にはどうなるでしょう。すでに年金を受け取っている故人に係る未支給年金の対象はあくまで、亡くなる直前の年金支給日以降に受け取っていない年金額(通常の未支給年金)に限ります。したがって、遺族が受け取れる未支給年金は、25.2%の増額率が反映された年金額の1~3ヶ月分のみです。

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もしも繰り下げ待機している親に健康不安が生じたら

繰り下げ受給を待機している期間に健康不安が生じた、とりわけ余命が短いことが明らかになった場合に、焦って増額された年金を請求、受給を開始するのは慎重に検討した方がよいかもしれません。繰り下げ待機している人は、65歳に到達した時点の本来の年金額に基づき、いつでもその期間に係る分を一括で受け取ることができます。

しかしながら、一括で受け取れる対象は、やはり時効の関係で請求前5年の期間だけです。例えば、71歳に到達した時点で請求を行うと、時効の関係で66歳からの5年間分しか一括で受け取れません。そこで2023年4月から新たに導入された制度では、66歳の時点で繰り下げ受給の申出があったものとみなして、66歳までの1年間の増額率(0.7%×12ヶ月=8.4%)を反映させた年金額に基づき、5年分を一括で受け取ることができるようになりました。請求後は、8.4%の増額率が反映された年金額が亡くなるまで支給されます。

繰り下げ受給にはこのような選択肢があることも踏まえて、年金の受給権を持つ親の意思を尊重にしながら、最も望ましい選択をサポートしてあげるとよいでしょう。

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思わぬ未支給年金がないかも確認しよう

「消えた年金」という言葉を覚えている人も多いかもしれません。誰のものか分からない約5,095万件の年金記録(未統合記録)の存在が、2007年に明らかになりました。「年金記録問題」として世間を震撼させてから約20年。この間、持ち主を探すための周知が行われてきましたが、いまだに約1,713万件(2024年3月時点)の年金記録が持ち主不明のままです。

「ねんきんネット」に搭載されている「持ち主不明記録検索」機能では、故人の年金記録を遺族が検索することもできます。未統合の記録が見つかった人の約9割は、「転職」「名字の変更」「いろいろな名前の読み方がある」ことに起因していたようです。もしも親の年金額や加入記録に不自然な点があれば、「消えた年金」の対象になっていないかどうかを調べたうえで、必要に応じて年金記録の訂正請求を行いましょう。

<「持ち主不明記録検索」画面>

日本年金機構「ねんきんネット(持ち主不明記録検索)」より

年金記録の訂正による増額分は、本来の時効(5年)に関係なく支払われることが、「年金時効特例法」で定められています。遺族が受け取る未支給年金についても、全期間にさかのぼって支払われることは知らない人が多いかもしれません。

繰り下げ受給のメリットと留意点は家族も一緒に理解しよう

年金受給者や受給権を持ちながらも請求をしていなかった人が亡くなった場合において発生する、「未支給年金」の取り扱いについて解説をしました。今回は、子が親の未支給年金を受け取るケースを想定しましたが、配偶者のケースでは特に、事前に想定していた老後の家計に大きな影響を及ぼすことが考えられます。

受給開始時期を現在繰り下げている本人や家族が知っておきたい4つのポイントは、繰り下げ受給を待機している期間に不測の事態が生じた場合における冷静な判断をサポートするものです。現在まさに繰り下げている人や、これから65歳を迎えて繰り下げ受給を検討している人は、家族にも相談をしながら、受給を開始するタイミングを検討するようにしましょう。

神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)

1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker

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