25/07/27
年金制度改正で年金額が変わる人7選

2025年6月に年金制度の大きな見直しがありました。基本の考え方としては、働き方や家族構成、生き方が多様化している現代に対応すること、そして現在の年金受給者と将来の受給者の老後の生活をより安定させ、所得保障の機能を強化することにあります。
今回は、年金制度改正の影響を受ける7つのケースを整理し、なぜ変わるのかをわかりやすく解説します。
年金制度改正で年金額が変わる人1:高収入の会社員や公務員
厚生年金の保険料は、給与(毎月の賃金)や賞与(ボーナス)をもとに算出されます。現在は、毎月の報酬を「標準報酬月額」として65万円が上限とされており、どれだけ高収入でも65万円を超える部分には保険料がかかりません。そのため、高収入の人ほど実際の年収に比べて保険料負担の割合が低く、将来の年金額も思ったほど増えないという状況がありました。
しかし今回の制度改正により、この標準報酬月額の上限が段階的に引き上げられることになりました。今後は「68万円」→「71万円」→「75万円」と順次拡大していく予定です。これにより、高収入の人も収入に応じた保険料をより多く支払うことになり、その分、将来受け取れる年金額も増えることになります。高収入層にとっては、年金額が増える可能性がある大きな改正といえるでしょう。
年金制度改正で年金額が変わる人2:在職老齢年金の対象となる高齢就労者
在職老齢年金とは、年金を受け取りながら働いて一定の収入がある高齢者に対し、その収入に応じて年金の一部または全部が支給停止される制度です。具体的には、60歳以上65歳未満の人の場合、「給与」と「年金」の合計が50万円(2024年度時点)を超えると、超えた分に応じて年金が減額されます。
今回の制度改正では、こうした高齢者の働きやすさを重視し、支給停止の基準額が「62万円」に引き上げられます。これにより、今までよりも高い賃金を得ながらも、年金を減らさずに受け取れるケースが増えます。働く高齢者にとってはメリットのある改正と言えるでしょう。
年金制度改正で年金額が変わる人3:パート・アルバイトで厚生年金に加入する人
これまで、パートやアルバイトの方が厚生年金に加入するには、「年収106万円以上」「従業員51人以上の企業で勤務」などの条件がありました。
今回の制度改正では、これらの加入要件が大きく緩和されます。今後は「年収106万円以上」という条件が撤廃され、週20時間以上働いていれば厚生年金に加入できるようになります。また、「従業員51人以上」企業の規模要件についても段階的に縮小され、小規模企業で働く方も対象になります。
厚生年金に加入すると保険料の負担が発生するため、毎月の手取り額は減るというデメリットもあります。しかし、将来受け取れる年金額が増えるため、長い目で見れば老後の安心につながる選択といえるでしょう。
この改正によって、これまで厚生年金の対象外だった多くの働く人々が、老後の備えをしやすくなると予想されます。
年金制度改正で年金額が変わる人4:18歳になった年度末までなどの子ども
遺族年金とは、亡くなった被保険者によって生活を支えられていた家族に支給される年金です。
中でも「遺族基礎年金」は、18歳の年度末までの子どもや障害のある20歳未満の子ども、あるいは子どもがいる配偶者が対象となります。
ただし、現在の制度では、配偶者の年収が850万円未満であることが支給の条件となっており、親の再婚や収入増など、子ども自身の選択とは無関係な事情によって受給できないケースもありました。
今回の制度改正により、親の収入や婚姻状況などにかかわらず、子ども本人が遺族基礎年金を受け取れるようになります。
これにより、親の再婚や養子縁組、収入の増加などによって、子どもが不利益を受けることがないよう改善されました。子どもの生活を安定させるための制度として、より公平で柔軟になる点がポイントです。
年金制度改正で年金額が変わる人5:子どもがいない60歳未満の人
遺族年金とは、亡くなった方が所定の保険料納付要件を満たしていた場合に、その方に生計を維持されていた遺族が受け取れる年金です。
「遺族厚生年金」は、受け取ることができる優先順位が法律で決められています。
具体的には、
①子どものいる妻、または子どものいる55歳以上の夫
②次いで18歳到達年度末までの子ども(もしくは20歳未満で一定の障害のある子)
③子どものいない妻または55歳以上の夫
④55歳以上の父母
⑤18歳未満の孫
⑥55歳以上の祖父母
となっています。このなかで、もっとも優先順位の高い人がもらいます。
また、生計を維持されていた遺族とは、亡くなった方と同じ家計で生活し、かつ原則として年収850万円未満の方を指します。
今回の年金制度改正では、こうした遺族年金の受け取りルールに大きな見直しが入りました。
最大の目的は「男女の格差を解消する」ことです。
これまで、たとえば子どものいない55歳未満の夫が妻を亡くした場合など、支給されないケースがありましたが、今後は以下のような変更がなされます。
まず、子どものいない60歳未満の遺族に対して、遺族厚生年金が支給されるようになります。ただし、支給期間は原則として5年間の有期給付となります(特別な配慮が必要とされる事情がある場合は、5年を超えての継続も可能です)。
また、年収850万円未満という支給要件が撤廃され、より多くの遺族が対象となるようになりました。
加えて、残された遺族が受け取れる年金額も一部で増額される仕組みが導入されます。たとえば、「有期給付加算」による上乗せや、婚姻期間中に形成された年金記録の一部を配偶者に分割できる「死亡分割制度」などが該当します。
このように、子どもがいない60歳未満の遺族に対する保障の拡充は、家族構成やライフスタイルの多様化に対応する重要な一歩といえるでしょう。
年金制度改正で年金額が変わる人6:加給年金を受け取っている人、これから受け取る人
加給年金は、厚生年金に加入している人が65歳になったときに、その人が扶養する配偶者や子どもがいるときにもらえる年金です。
2025年度の加給年金・子の加算の金額は、
・配偶者…年41万5900円(23万9300円+特別加算17万6600円)
・1人目・2人目の子…各23万9300円
・3人目以降の子…各7万9800円
となっています。
今回の制度改正により、2028年4月より加給年金・子の加算の支給額が見直されます。
子の加算については、人数関係なく1人につき年額28万1700円に増額されることになりました。一方で、配偶者の加給年金については、女性の社会進出の増加、共働き世帯の増加の影響で36万7200円に減額されることになりました。加給年金の制度は、子育て支援により重きを置いた制度に変わるといえそうです。
年金制度改正で年金額が変わる人7:iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入したい人
これまでiDeCo(個人型確定拠出年金)に加入できるのは最長でも65歳未満(会社員・公務員・国民年金の任意加入者)、60歳未満(フリーランス・個人事業主・専業主婦(夫)など)でしたが、今回の制度改正により、iDeCo加入年齢の上限が70歳未満まで引き上げられます。
この変更により、60歳を過ぎても引き続きiDeCoに拠出することができ、老後資金をさらに積み増すことが可能になります。特に、退職後も働き続ける人や、これから老後資金を増やしたいと考えている人にとっては、大きなメリットとなるでしょう。
年金額の変化を把握しておこう
今回の年金制度改正は、今後段階的に実施されていきます。まずは、自分がどのケースに該当するのかを確認し、ライフプランや年金の受け取り方にどう影響するかをしっかり把握しておくことが大切です。
年金額の変化は、これからの生活設計に大きく関わってきます。制度のポイントを正しく理解し、不安を少しでも減らしながら、将来に向けて安心できる準備を進めていきましょう。
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舟本美子 ファイナンシャルプランナー
「大事なお金の価値観を見つけるサポーター」
会計事務所で10年、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として14年働いたのち、FPとして独立。あなたに合ったお金との付き合い方を伝え、心豊かに暮らすための情報を発信します。3匹の保護猫と暮らしています。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。FP Cafe登録パートナー

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