25/12/06
確定申告不要制度対象の年金生活者でも、住民税の申告しないとヤバイって本当?

年金受給者であっても、原則として確定申告が必要です。ただ、一定の条件を満たしていれば、確定申告をする必要がなくなる「確定申告不要制度」も存在します。確定申告のしかたは税務署などの相談コーナーで詳しく教えてくれますし、近年はスマホやパソコンでの確定申告も便利になりましたが、それでも手間には変わりありません。確定申告不要制度があるのはありがたい思う方は多いのではないでしょうか。
しかし、中には確定申告不要制度の対象でも、住民税の申告が必要な場合もあります。
今回は、確定申告不要制度の対象者と確定申告したほうがいい場合、住民税に関する手続きが必要な場合についてくわしく解説します。
年金受給者のための確定申告不要制度とは?
確定申告不要制度とは文字どおり、年金受給者の確定申告が不要になる制度です。年金は税務上「雑所得」という扱いとなり、所得税の課税対象となります。本来であればその年の1月1日から12月31日までにもらった年金の総額を計算し、確定申告をおこない所得税を納める必要があります。
公的年金も原則として源泉徴収の対象となっているため、確定申告は所得税の納付金額の過不足を精算することが主な目的といえます。しかし、収入のほぼすべてが年金という人にとって、確定申告をおこなうのは負担に感じてしまいます。そこで、一定の条件を満たした場合に確定申告を不要としているのです。
●確定申告不要制度の対象者
確定申告不要制度の対象となるのは、以下の2つの条件をともに満たす場合に限られます。
①公的年金等の収入金額(2か所以上ある場合は合計額)が400万円以下
②公的年金にかかる雑所得以外の所得金額が20万円以下
①の「公的年金等」とは、国民年金や厚生年金、共済組合から支給を受ける老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金、老齢共済年金)や確定給付企業年金契約に基づいて支給を受ける年金などを指します。
②の条件にある「公的年金等に係る雑所得以外の所得」とは、生命保険や共済などの契約に基づいて支給される個人年金や生命保険の満期返戻金、給与所得などです。
<年金受給者の確定申告不要制度のフローチャート>

政府広報オンラインより
確定申告不要制度の対象者でも確定申告したほうがいい場合は?
確定申告不要制度の対象者に該当しても、確定申告したほうがよい場合があります。確定申告をすることで各種控除を受けることができ、納めすぎた税金が返ってくる可能性があるからです。
以下、確定申告したほうがよい場合を具体例とともに解説します。
●①医療費控除を受けられる場合
年間の医療費が10万円を超えている場合「医療費控除」によって還付金が戻る可能性があります。医療費控除を受けるためには病院で発行される領収書が必要なので、領収書は必ず保管しておきましょう。
またその年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額を超える医療費を支払った場合、医療費控除を受けられます。つまり、医療費が10万円を超えていなくても医療費控除が受けられる場合があります。
【具体例】
年金受給者にとって有利な医療費控除の基準は次のとおりです。
・総所得金額が150万円の方の場合
150万円×5%=7万5000円
つまり、医療費が7万5000円を超えていれば医療費控除が受けられます
総所得金額が180万円の方の場合
180万円×5%=9万円
つまり、医療費が9万円を超えていれば医療費控除が受けられます
年金受給者の多くは総所得金額が200万円未満になるため、「10万円を超えた場合」という一般的な基準よりも低い金額で医療費控除を受けられるケースが多いのです。
また、医療費が比較的少ない場合でも、セルフメディケーション税制(特定の市販薬の購入費が年間1万2000円を超えた場合に適用)が利用できる可能性があります。ただし、医療費控除とセルフメディケーション税制はどちらか一方のみの適用となります。
【還付される金額の目安】
医療費控除で還付される金額は、以下の計算式で求められます。
還付金=医療費控除額×所得税率
例えば、医療費が15万円、総所得金額が150万円(所得税率5%)の場合
医療費控除額:15万円-7万5000円=7万5000円
還付金:7万5000円×5%=3750円
所得税だけでなく、翌年度の住民税も医療費控除額×10%(上記例では7500円)軽減されます。
●②住宅ローンを利用して住宅を購入した・リフォームした場合
住宅ローンを利用して住宅を購入した場合や、リフォームした場合の費用も控除対象です。住宅ローンを利用して一定の条件を満たす住宅を購入した場合は「住宅借入金等特別控除」の対象となり、最長13年にわたってローン残高の0.7%の控除を受けることが可能です。
住宅ローン控除を利用する場合、初年度は必ず確定申告が必要です。2年目以降、給与所得者は年末調整で対応できますが、年金受給者は毎年確定申告が必要です。確定申告をしないと、この控除を受けることができません。
また、一定の要件を満たすバリアフリー改修工事や多世帯同居のための改修工事を行った場合、「住宅特定改修特別税額控除」を受けられる場合があります。
●③社会保険料を支払った場合
社会保険料を支払っている場合は「社会保険料控除」を受けられます。企業に勤務し給与所得がある場合には、社会保険料控除は年末調整で受けることができましたが、年金受給者の場合、年末調整を受けられません。そこで、社会保険料を支払っている場合には、確定申告によって控除分の税金を還付してもらう必要があります。
対象となる社会保険料の例としては、
・年金から天引きされている社会保険料(国民健康保険税、介護保険料、後期高齢者医療保険料)
・納付書や口座振替で支払った社会保険料
・同一生計の親族(配偶者や子など)の国民年金保険料を支払っている場合
などがあります。
なお、年金から天引きされている社会保険料は、源泉徴収票に記載されているため、確定申告時に自動的に控除されます。それ以外の方法で支払った社会保険料がある場合に、確定申告が必要となります。
●④生命保険料を支払った場合
一部の生命保険契約を除いて、生命保険料を支払っている場合は「生命保険料控除」の対象です。
・新契約(2012年1月1日以後に締結):最大12万円の所得控除
・旧契約(2011年12月31日以前に締結):最大10万円の所得控除
生命保険料控除のための新契約と旧契約のそれぞれで複数契約を支払っている場合には、控除額の上限は4万円または5万円のいずれかを選択できます。
年金受給中も生命保険や医療保険などの保険料を支払っている方は多いため、控除証明書が届いたら忘れずに確定申告で申告しましょう。
【還付される金額の目安】
例えば、生命保険料控除が4万円、所得税率が5%の場合
所得税の還付:4万円×5%=2000円
翌年度の住民税軽減:最大2万8000円×10%=2800円
●⑤扶養親族等申告書を提出していない場合
年金の源泉徴収時に「扶養親族等申告書」を提出していない場合、本来受けられる控除が適用されず、源泉徴収税額が多くなっている可能性があります。
扶養親族等申告書は、日本年金機構や企業年金連合会などから毎年送られてきますが、以下のような理由で提出していないケースがあります。
・申告書の提出を忘れていた
・提出期限(通常10月末)に間に合わなかった
・年の途中で家族構成が変わり、申告内容が変わった
・提出不要と勘違いしていた
この場合、確定申告をすることで納めすぎた所得税の還付を受けられます。
なお、令和7年度の税制改正により、令和8年(2026年)分から年金の源泉徴収の対象となる金額が以下のとおり引き上げられました。
・65歳未満:108万円以上→155万円以上
・65歳以上:158万円以上→205万円以上
・退職共済年金の受給者であって、老齢基礎年金が支給されている方:退職共済年金の年金額が80万円以上→127万円以上
これまで扶養親族等申告書が送られてきていた方でも、令和8年分からは送られてこない場合があります。ただし、源泉徴収の対象外でも、所得税や住民税の課税対象になる場合があるため、ご注意ください。
●⑥配偶者と離婚もしくは死別した場合
結婚していた人が、その年に配偶者と離婚したり死別したりして状況が変わった場合にも、確定申告によって還付金が得られる場合があります。なぜなら、夫婦が離婚や死別すると「寡婦控除」「ひとり親控除」の対象になる場合があるためです。
【控除額】
ひとり親控除:35万円
寡婦控除:27万円
年の途中で婚姻関係に変化があった場合には、控除額が増えて還付金が発生する可能性があるため、忘れずに申告しましょう。
⑦災害や盗難にあった場合
その年に自身や扶養家族が地震や台風、水害など災害の被害に遭った場合、その復旧には費用がかかってしまいます。この費用は「災害関連支出」といい、被災者に発行される罹災証明があれば「雑損控除」という控除を適用することが可能です。雑損控除として認められるためには、罹災証明と共に災害関連支出に該当する領収書を提出する必要があります。
また強盗などの盗難被害にあった場合にも、盗難届を提出することで買い戻しに必要な費用や発生した損害を復旧するための費用が控除されます。この時も、復旧に要した支出の領収書は取っておきましょう。
⑧ふるさと納税など寄附を行なった場合
ふるさと納税(都道府県・市区町村に対する寄附)や国、日本赤十字社などへの寄附を行なった場合「寄附金控除」を受けられます。控除できる金額は寄附金額から2000円を引いた額で、所得金額の40%相当が限度です。
ふるさと納税に関しては、2015年以降創設された「ワンストップ特例制度」により、寄附先が5自治体以内であれば確定申告をせずに寄附金控除を受けることも可能となっています。
ただし、以下の場合はワンストップ特例制度が利用できず、確定申告が必要です。
・6自治体以上に寄附をした場合
・医療費控除などで確定申告をする場合
・ワンストップ特例の申請書を提出し忘れた場合
住民税に関する手続きはどうすればよい?
所得税の確定申告をした方は、自治体(各市町村)は税務署から送られる情報をもとに住民税を決定するため、改めて住民税の申告書を提出する必要はありません。
注意したいのは、確定申告不要制度により確定申告をしなかった方です。よくある勘違いに「確定申告不要制度の対象となったため、住民税についても申告不要」と考えている方が多いのですが、これは大きな誤解です。確定申告不要制度はあくまでも「所得税及び復興特別所得税」の申告が不要なだけで、住民税の確定申告は不要とはならないからです。
●住民税の申告が必要な場合
以下に該当する方は住民税の申告が必要となります。
①公的年金などに係る雑所得のみがある方で、「公的年金などの源泉徴収票」に記載されている控除(社会保険料控除や配偶者控除、扶養控除、基礎控除等)以外の各種控除の適用を受ける場合
「公的年金などの源泉徴収票」に記載されている控除以外の各種控除とは、生命保険料控除や地震保険料控除、医療費控除などを指します。
ここであれ?と思う方もいると思います。生命保険料控除や地震保険料控除、医療費控除を受けたいなら確定申告するのではないかと感じるでしょう。確かに住民税の算出方法は「住民税の課税所得=所得金額-所得控除額」となっており、所得税と同じです。しかし、同じ名称の項目の控除でも所得税と住民税では控除額が異なります。そのため、所得税及び復興特別所得税が0円になったときでも、住民税がかかることがあるので、「所得税は申告しないけど、住民税は還付を受けたい」という方が一定数存在します。
②公的年金などに係る雑所得以外の所得がある場合
公的年金等に係る雑所得以外の所得とは、生命保険や共済などの契約に基づいて支給される個人年金や生命保険の満期返戻金、給与所得などです。所得税では20万円以内であれば申告不要だったのに対し、住民税では、金額の多寡にかかわらず申告が必要となります。つまり、1円でもこのような所得が発生すれば、住民税の申告が必要となるのです。
なぜなら、自治体(各市町村)は確定申告がなされなかった場合には、その年度の源泉徴収票に基づき住民税を算出しますが、源泉徴収票に載ってこないこれらの金額が発生すれば、住民税額の再計算が必要になるためです。
住民税の申告だけする場合の具体的な手続き方法は?
住民税の確定申告は、所得税の確定申告と同様に毎年2月16日~3月15日までとなっています。
【申告に必要な資料】
・住民税申告書(各自治体のホームページでダウンロードできることが多い)
・マイナンバーカード
※マイナンバーカードが無い場合には、通知カード+身分証明書
・申告する年度の源泉徴収票
・各種控除を証明できる資料
住民税の確定申告書は市区町村ごとに少しずつ違うことがありますので、直接、区役所や市役所に行って用紙をもらってくるか、ホームページでダウンロードするとよいでしょう。申告手続きが不安な方は、申告に必要な資料を持っていき、その場で役所の担当者に確認しながら記入するのもよいでしょう。
住民税の申告書を提出すると、市民税・都道府県民税を役所が計算して、決定された税額の納付書が自宅に送られてきます。この納付書を利用して納税を済ませれば、住民税の課税もれ、納付もれはなくなります。
※個人の住民税に関しては、市民税だけでなく都道府県民税に関しても市区町村の役所が窓口となって徴収しています。
住民税の申告をしないとどうなる?
住民税の申告をしていないと、お住まいの市役所や区役所から市民税・都道府県民税の未申告(無申告)に関するお尋ね文書が自宅に届くケースがあります。これは、本来申告義務のある方が、申告等をしていない場合に送られてくるものです。このようなお尋ね文書が来てしまったら、速やかに指定された期限内に回答をするようにしましょう。期限の過ぎている場合でも気が付いた時点で急いで回答するようにしてください。
税金に関しては、たとえ少額であったとしても役所が見逃してはくれませんので、無視することは絶対に避けましょう。もし無視し続けてしまうと税務調査が入ったり、役所側で見積もった課税が行われてしまったりすることがあります。所得を役所側で見積もって課税された場合には、本来の所得控除等がきちんと反映されておらず、余計に高い住民税を払うことになってしまう可能性もあります。
また、国民健康保険・介護保険・後期高齢者医療保険に加入されている方に関しては、住民税の申告が正しくなされていないとこれらの保険料の算定や減額制度の適用の際に正しく算定がされないなど、減額等が受けられないといったことになります。このようなことがないよう、もし自宅にお尋ね文書が来たら、自己判断で無視することは避け、役所の担当者に現在の状況を説明したうえで指示に従って手続きを行うようにしましょう。
まれに、課税対象の所得(収入)がない方や基準以下の方に対しても未申告(無申告)に関するお尋ね文書が自宅に届くことがあるようです。このような方に関しては、基本的には住民税の申告義務はないため無視しても問題なさそうですが、自治体によっては収入がない方に対しても申告書の提出を求める場合があるようです。少々面倒ではありますが、課税(非課税)証明書や各種手続き(児童手当、就学援助、シルバーパスの発行等)の資料等にもなりますので、お尋ね文書が来た場合、収入の有無にかかわらず素直に回答をしておくほうが望ましいでしょう。
税金の滞納には「延滞税」というペナルティがある
住民税に限らず税金の滞納には「延滞税」というペナルティが課せられます。また申告内容を間違えてしまい、納める税金が少なすぎた場合にも「税金を滞納した」と判断されて延滞税が課せられます。いくら額面としては小さくても、この延滞税は滞納の期間が延びれば延びるほど増えていきますので、できるだけ早く納めなければ損です。
もしうっかり納付を忘れていた場合、一度遅れてしまったのは仕方ないものと考えて、できるだけ早く納めてしまうのが賢明です。そして次からは忘れないように、きっちりと納付期限までに納めるように心がけましょう。
確定申告の方法と必要書類
2025年分(令和7年分)の確定申告期間は、2026年(令和8年)2月16日(月)から3月16日(月)となります。なお、還付申告の場合は、この期間に関係なく、翌年1月1日から5年間提出することができます。例えば、2025年分の還付申告は、2026年1月1日から2030年12月31日まで可能です。
●確定申告の方法
①税務署の窓口で相談しながら作成
・税務署職員が作成を手伝ってくれます
・確定申告期間中は混雑するため、早めの訪問がおすすめ
②国税庁ホームページ「確定申告書等作成コーナー」で作成
・パソコンやスマートフォンで簡単に作成できます
・e-Tax(電子申告)なら、自宅から申告が可能
③会計ソフトを利用
・入力項目に沿って進めるだけで申告書が完成
・控除額の計算も自動で行われます
【主な必要書類】
・公的年金等の源泉徴収票
・マイナンバーカードまたは通知カード(本人確認書類)
・還付金の振込先となる預貯金口座の情報
・各種控除を受けるための書類
・医療費の領収書や明細書
・生命保険料控除証明書
・社会保険料の納付証明書
・住宅ローンの残高証明書
・寄附金の受領証明書など
住民税の申告が必要か確認しよう
確定申告不要制度は大変便利な制度ですが、該当したとしても、確定申告をすることにより、税金が戻ってくる可能性があるため、控除を受けられるものがないかを確認することは大変重要です。
特に以下のようなケースに該当する方は、確定申告を検討しましょう
・医療費が年間で一定額以上かかった(総所得200万円未満なら所得の5%以上)
・生命保険料や地震保険料を支払っている
・扶養親族等申告書を提出していない、または提出期限に間に合わなかった
・住宅ローンを利用している(初年度は必須)
・ふるさと納税をした(ワンストップ特例を利用していない場合)
・年の途中で配偶者と離婚・死別した
・災害や盗難の被害に遭った
また、確定申告不要であっても住民税の申告については必要となる場合もあることに注意しましょう。確定申告をした場合は住民税の申告は不要ですが、確定申告をしない場合で、公的年金等の源泉徴収票に記載されていない控除を受けたい場合や、年金以外の所得が少しでもある場合は、住民税の申告が必要です。/
還付申告は5年間さかのぼって行うことができます。過去に申告し忘れた年度がある場合も、あきらめずに確認してみましょう。不明な点があれば、お住まいの市区町村の税務課や税務署に相談することをおすすめします。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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