25/04/08
自分も相手もラクになる正しい“丸投げ”『任せるコツ』

なにかを人に「任せる」って難しいですね。こちらの意図がきちんと伝わらないと、思うような形に仕上がらないからです。一からやり直しになる可能性もあるため、全部自分でやってしまおうかと考えたりもするでしょう。これは仕事に限らずさまざまな場合にあてはまります。
私はクラス会の幹事になったことがありますが、他のメンバーに手伝ってもらうのは気が引けて一人で準備を始めました。しかし途中でキャパオーバーになり、結局周りに助けてもらうことに。自分だけでは限界があるため、最初からみんなに頼んで協力してもらえばよかったと反省しました。
今回お勧めする本は、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」でマネジメント部門賞に選ばれた『任せるコツ』です。ストレスなく人に仕事を任せられる極意が詰まっています。
誰に頼むか~できる人がいいとは限らない
仕事の成功を左右する一番大切な点は、誰に任せるかということです。仕事ができるリーダーだと、自分でやる方が早く済むかもしれませんが、部下に仕事を振って経験を積ませるのはリーダーの重要な役割。大きな仕事を成し遂げるためにも、先を見すえた上司の資質が問われるところです。
また、仕事を任せるのは必ずしも優秀な人がいいわけではありません。普段はそれほど目立たなくても、その仕事に対して意欲のある人を見つけて、その人の適性に合った仕事を割り当てることが、プロジェクトの成功につながる鍵となります。そのためにもリーダーは日頃から部下とコミュニケーションをとっておくことが大切。面談や会話から仕事の悩みやキャリアビジョン、「経験を積みたい」「達成感を味わいたい」「出世したい」「チームに貢献したい」といった個々の願いを汲み取って把握しておくと、必要なときにメンバーの中から意欲的な適材を選び、その人にぴったり合った仕事を割り当てやすくなるからです。
自分の采配が的中して部下がよい結果を出すと、周囲も触発されて全体的なパフォーマンスが一気に向上します。
どう頼むか~相手のことを考えて
任せるときには頼み方も大切です。相手が気持ちよく引き受けて、モチベーションを持って仕事に取り組んでくれるようにしましょう。せわしない帰宅時などに引き留めて話を振るのはNGで、就業中にその人を褒めて前向きな気持ちになっているときがベストタイミングです。
言い方は「Aのデータが足りないから増やして」ではなく「Sのデータを揃えてくれてありがとう。Aももう少し増やせますか?助かります」とポジティブな言葉で指摘事項をはさむのがいいでしょう。これは叱るときの「シットサンドイッチ」という手法ですが、頼みづらいことを依頼するときにも効果的です。さらに相手の希望や適性を依頼案件に反映させて「プロジェクトの成功のためにこのデータが必要だから集めてほしい」など目的をきちんと伝えると、参加意識が芽生えて良いアウトプットを引き出せます。その仕事を行うメリットを知るとやる気につながるため、事前に伝えておきましょう。
本人の意欲が低かったり時間的に余裕がない場合には、無理に仕事を受けてもらっても高いパフォーマンスは発揮できません。相手のスケジュールを考え、断る選択肢も用意して、こちらの頼む仕事が負担になりすぎないよう配慮することも必要です。
丸投げのすすめ
『任せるコツ』の副題は「自分も相手もラクになる正しい“丸投げ”」です。丸投げというと仕事を全部押し付ける無責任なイメージがあるため、頼む側は遠慮してしまいそうですが、著者は国内最大手のマーケティング会社の統括ディレクターとして年間100近いプロジェクト業務を割り振る際に、仕事を分担するのではなく、プロジェクトそのものを人に丸投げするそうです。やみくもに仕事を押し付けるのではなく、チームメンバーの適性を理解し、依頼の仕事がこなせると信頼してまるまる任せると、期待に応えてメンバーが結果を出した場合に個人の成長がのぞめる上に組織全体が活性化して、大きな成果につながります。
このように、任せるとは相手を信じて未来に投資することです。たとえその時失敗したとしても、経験値となり未来でのリターンがあるため無駄にはなりません。今の時代は「俺の後に続け」と先頭に立って走る昭和タイプの熱血リーダーではなく、空気のように存在感が薄いリーダーの方が、メンバーの自発的な成長をうながせるという話になるほどと思いました。たしかに後者の方が部下はのびのびと仕事ができそう。時代とともにあるべきリーダー像も変わっていくものですね。
人に仕事を任せるコツは、褒めること・意欲と適性を見抜くこと・目的を示すこと・任せることです。この4つのアプローチをすれば、嫌そうな顔をしたメンバーに気兼ねしながら仕事を頼むこともなくなり、仕事をどんどん丸投げしやすくなるでしょう。
さまざまな仕事を頼む機会が多い今の季節、気持ちよく仕事をしてチームとして最大の成果を上げたいリーダーや、頼みごとがなかなかできずに一人で仕事を抱え込んでしまいがちな人におすすめの一冊です。
【読書ブロガー小野寺理香のブックレビュー】記事
全バックナンバーはこちら
・会社も役所も教えてくれない定年後のお金情報『定年後のお金と生き方大全』
・日本経済の停滞は官僚が原因~「官僚生態図鑑――ズレまくるスーパーエリートへの処方箋」
・幸せな人生のためにお金を使い切れ! 『DIE WITH ZERO』
・本を読めない原因は仕事のせい?~「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」
・自分も相手もラクになる正しい“丸投げ”『任せるコツ』

小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
ブクログ「本のツバサ」

この記事が気に入ったら
いいね!しよう