21/02/19
ほぼ日は上場してどこに向かうのか「すいません、ほぼ日の経営。」
「ほぼ日刊イトイ新聞」(以下、ほぼ日)のことをご存知ですか。1998年に始まった糸井重里さん主宰のウェブマガジンで、コラム「今日のダーリン」や大人の学び場「ほぼ日の学校」をはじめとしたさまざまなコンテンツが日々更新される人気のサイトです。
そんなほぼ日が、数年前に東京証券取引所のジャスダック上場を果たしたというニュースを聞いて驚いた人も多いでしょう。いつもゆるめの楽しさを届けてくれるほぼ日が、利益還元マストの株式会社になったのはなぜでしょうか。その独特なマネジメント法が、今回ご紹介するこの本に糸井さんの口を通して語られています。
「おもしろい」を重視する
ほぼ日の活動は、社員のふとした思い付きから始まります。合理的な理由や目的が求められる一般的な会社と違って、重視されるのは「おもしろい」と思えるかどうか。
一人の社員が「おもしろそうなのでやってみたい」と思いついたアイデアに、別の社員が「いいね」と同意すると、その場でプロジェクトチームが発足します。チームのメンバーは上司からの指名ではなく、社員同士の声のかけ合いで決まります。
たとえば2001年から発売されている「ほぼ日手帳」は、もともとは一人の社員が「ほぼ日読者の生徒手帳があったら楽しいかも」と考えたことから始まりました。ほかの社員や手帳制作のプロと一緒にたくさんのアイデアを出し合って商品化したものが、今では年間80万冊近くを売り上げる大ヒットロングセラーになっています。
人が本当によろこぶか
ドラッカーの本の中で「企業の目的は顧客の創造である」という言葉に出合った糸井さんは、ほぼ日を「人々がよろこぶものを新しく生み出す」という理念で運営しています。
マーケティングの世界では、どんな顧客をターゲットにするのかが重要ですが、「ほぼ日手帳」はターゲットを定めていません。その代わりに社員は、自分が買う側ならよろこべるかどうかを考えて「これは売れる」と思える段階になるまで、とことん試行錯誤を繰り返します。
初めはネット限定販売だった「ほぼ日手帳」は、ある社員の「ロフトにあったらいいんじゃないか」との思いつきがきっかけで、店内で売られるようになりました。
すると人目に触れる機会が増え、手帳のユーザーが熱くその魅力を発信することで注目を浴びて、さらにファンが増えていきました。買った人たちが売上に貢献してくれることから、糸井さんと社員たちは、お客さんも自分たちと一緒にほぼ日の経営を動かしているという意識を持っているそうです。
ほぼ日の働き方改革
子どもの頃から働くことがイヤで、組織や会社に入らずフリーのコピーライターとして活動してきた糸井さん。そんな彼が(イヤじゃない会社を作ってみよう)と発足させたのがほぼ日です。本のタイトルに付いている「すいません、」という言葉には、そうした遠慮がちな思いが込められているそうです。
会社の経営に必要なのはいいアイデア。アイデアがよければ、利益を生む新事業が立ち上げられますが、正直なところ、業務時間を長くしたからといってひらめきが生まれるわけではありません。そこで糸井さんは、ほぼ日流働き方改革を行いました。会社での勤務時間を減らして給料のベースを上げることで社員に刺激を与え、アイデアが生まれやすい環境をつくったそうです。
このように、糸井さんや社員たちが考えながらつくりあげているほぼ日の経営は、一般的な会社とはかなり異なっています。一部上場は、人がよろこぶものを追求するための社員たちのトレーニングの一貫ととらえているのだとか。
独特な運営方法ながら、利用者の目線に立っているためユーザーやお客さんに広く支持され、ビジネス的に成功しています。
ほぼ日の人気の秘密は、相手目線に立って考え実践するところにあるようですね。ほぼ日や糸井さんのファンの方、ほぼ日手帳のヒットの理由が知りたい人、新しい会社経営の在り方が気になる方などにお勧めの一冊です。
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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