20/02/12
「ながらスマホ」の自転車事故で保険金はおりるのか
先日、筆者の友人が何やらせわしなくスマートフォンを操作していたので、何をしているのかと聞けば「ドラクエウォーク」をしているのだと。街のあちこちで、人だかりが起きた「ポケモンGO」の熱はすっかり冷めたと思っていた筆者ですが、次から次へと似たようなゲームが生まれるのですね。
さて今回は、自転車を運転する際などに気を付けたい、「ながらスマホ」に対する取り締まりや保険の事情について、確認してみたいと思います。
スマホで通話やゲームをしながらの運転は、安全義務違反
かつて自転車運転者の事故に対する取り締まりは甘かったのですが、2015年6月に改正道路交通法が施行されて以来、厳しくなってきています。
2019年12月に自動車(原付バイク含)の運転時罰則が強化されました。具体的には、
・携帯電話使用等(保持)…運転中に画面を見たり、操作をしたりした場合
5万円以下の罰金→6月以下の懲役又は10万円以下の罰金
・携帯電話使用等(交通の危険)…携帯電話の使用で事故を起こした場合
3月以下の懲役又は5万円以下の罰金→1年以下の懲役又は30万円以下の罰金
となりました。
しかし自転車は、今回の罰則強化の対象外となっています。
もちろん、悪質な自転車の運転にも罰則がないわけではありません。現行では、危険行為14種(信号無視や歩道の走行、酒酔い運転など)を3年以内に2回以上行った場合、「自転車運転者講習」という講習を有料で受けなければなりません(受けなかった場合は罰金が課せられ、前科がつくことになります)。
とはいえ、自転車といえども軽車両です。運転にあたって免許証は必要ないものの、道路交通法上「安全運転義務」が発生します。怠った場合は「安全運転義務違反」となり、人身事故が起こった場合に多く適用されることが想定されます。今回のテーマである「ながらスマホ」をしながら運転した場合などは、この義務違反となる事が考えられます。
事故数より気になるのは、未成年の事故率の高さ
自転車の事故は年々、件数自体が減ってきているものの、自転車相互の事故は2015年より増加。自転車対歩行者の事故は2016年より増加傾向にあります。
(国土交通省「自転車事故の損害賠償に係る現状について」より)
さらに注意したいのは、自転車事故の38%が、未成年者の事故であるということです。
(国土交通省「自転車事故の損害賠償に係る現状について」より)
子供でも気軽に乗れるのが自転車の良いところではありますが、だからこそ事故の当事者となってしまうのも事実です。大人と比べて、周辺への気配りが十分にできるかといえば、想像に易いことでしょう。私たち大人が、ルール順守を伝えなければなりません。
運転しながらスマホ、停車中の車両を傷つけてしまったら…
さて、本題の「保険」に戻ります。
先の道路交通法を考慮した上で、自転車を運転しながらスマホを使い、誤って「完全停車中」の車に衝突してしまったとします。
相手方から車両の修理代を賠償請求された場合、突っ込んだ自転車側に100%過失があります。請求される額は、破損の程度と車種によって変わるでしょうが、通常1万円~数十万円程度でしょう。
問題はここで、「賠償責任保険」が使えるかどうか、です。
自動車であれば、任意加入の自動車保険で補うのが通常ですが、自転車には適用できません。一般的には、火災保険や傷害保険などに特約としてつけられている「個人賠償責任保険」を利用します。
しかし、保険には「免責事項」とよばれるものがあります。
保険会社の約款の免責事由には、「保険契約者、または被保険者の重大な過失または故意」については、保険金は支払われない、と記載されています。
運転しながらスマホ操作をしていた、または手にもって(ハンドルから手を放して)通話していた場合、「重大な過失」に「安全運転義務違反」が該当するかどうかが焦点になります。
幼児やお年寄りにぶつかってしまったら…
もうひとつ、歩行者との衝突を想定してみましょう。ゆっくりとした運転中であっても、相手が幼児やお年寄りであれば、機敏に自転車を避けることは困難です。
スマホを見ながら人に衝突した場合、状況にもよりますが、たいていの場合は軽車両VS歩行者ですから、これも自転車に100%過失責任が課せられることが考えられます。
賠償金額は、ケガや後遺症の程度、逸失利益(いっしつりえき:被害者が本来得られたであろう収入など)を含めると、数万円~1億円以上まで考えられます。
たとえば、走行中の自転車と高齢者が衝突し、高齢者が意識不明となった事故の賠償額は9500万円以上となりました。この場合、加害者(未成年)は、スマホでゲームはしていない状況でしたが、自転車の事故でも高額な賠償金を支払う事例はあるのです。
保険金がおりない場合があるのは、どういった場面か
賠償保険金がおりるかどうかの論点は、スマホを操作しながら、またはスマホを見ながらの自転車運転が、「重大な過失」として見られるかというポイントです。
酒気帯び運転や、信号無視といったものは、「重過失」として挙げられるものですが、保険金がおりる、おりないといった保険契約における免責事項と同じかどうかは、程度や状況によって異なるため、簡単には判断できないものです。
大手損害保険会社の約款には「重大な過失とは、注意義務を著しく欠く場合をいいます。重大な過失の判断にあたっては客観的、一般的な視点から著しい不注意にあたるか否か、個別的な特殊事情があるかどうか等を考慮し、慎重に判断します」と記されています。
損害保険は生命保険と異なり、事故発生前に明文化するには、限界がある事が多いのが事実です。何にしてもスマホを見ながら、ましてゲームをしながらの車両運転は言語道断です。
東京都も自転車損害賠償保険等への加入義務化へ
自動車損害賠償保険等への加入義務を定める自治体が増えています。
2020年4月から、東京都では「東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」が改正され、自転車損害賠償保険等への加入が義務化されます。また自転車の販売・レンタル会社や学校、勤務先でも自動車損害賠償保険に加入しているかの確認義務・努力義務などが課せられます。
ついつい、スマホに夢中になってしまう気持ちはわからなくもありませんが、不幸な事故が起こると、被害者も加害者も、日常が大きく様変わりしてしまいます。安全に正しく運転を行い、「ながらスマホ」は絶対にしないと心して、周辺の大切な人にも呼びかけましょう。
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佐々木 愛子 ファイナンシャルプランナー(AFP)、証券外務員Ⅰ種
国内外の保険会社で8年以上営業、証券IFAを経験後、リーマンショック後の超低金利時代、リテール営業を中心に500世帯以上と契約を結ぶ。FPとして10代のうちから金融、経済について学ぶ大切さを訴え活動中。
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