24/06/21
【知らないと損】退職金の手取りを確実に増やす4つの方法
退職金といえば、会社員や公務員がまとまった金額がもらえる機会…なのですが、近年退職金の金額は減少傾向。退職金は、老後の生活の大きな支えとなるお金ですから、できるだけ多くもらいたいところですよね。そこで今回は、退職金の手取りを増やすためにできる4つの方法をご紹介。退職金の手取りを増やしたいという方は、ぜひ参考にしてみてください。
退職金の額は年々少なくなっている
退職金は必ずもらえるとは限りません。なぜならば、企業は法律上、退職金を支払う義務はないからです。厚生労働省の「就労条件総合調査」(2023年)によれば、退職給付制度がある企業の割合は74.9%。5年前(2018年)の前回調査では80.5%でしたから、この5年で退職金制度を取りやめている企業も相応にあることがわかります。定年直前になってあわてないためにも、定年が近い50歳代になったら勤め先の制度を確認してください。
退職給付制度には、退職金を一括でもらう「退職一時金」と、受け取り方が選択できる「企業年金」の2つがあります。前出の調査では、退職給付制度がある会社のうち、69.0%が退職一時金制度のみを採用しています。企業によっては、退職一時金だけでなく企業型確定拠出年金(企業型DC)など、複数の制度を併用している場合もあります。大企業に勤めている場合は、2つか3つの制度があることが多いでしょう。
ただ、退職金の金額は年々減少傾向にあります。大学卒の場合、1997年には平均で2871万円あった退職金が、25年後の2022年には1896万円と、約1000万円も減っています。高校卒も同様に、1351万円から1183万円と、約170万円減っています。
公務員は法律で退職金の支払いが規定されています。とはいえ、こちらも金額は不安定です。たとえば、国家公務員の場合、2015年度には2181万円あった退職金が、2018年度まで約4年かけて、2068万円に減少しています。その後、2020年度には2142万円まで持ち直しましたが、2022年度は2112万円となっています。今後も、民間同様に減少する可能性があります。
退職金の額面は増やせなくても、退職金の手取りを増やす方法はあります。退職金にも所得税や住民税といった税金がかかりますが、受け取り方を考えて、退職所得控除や公的年金等控除といった控除をうまく活用すると、退職金の手取りを多くすることができます。ここでは、4つの方法を紹介します。
退職金の手取りを増やす方法1:退職日を1日のばして退職所得控除を増やす
退職金を一時金として一括で受け取るときには「退職所得」という所得になります。退職所得は分離課税といって、他の所得とは区別して課税されます。退職所得に所定の税率をかけ、控除額を差し引くことで、所得税や住民税の金額を算出します。
なお、一時金の場合は社会保険料の負担がありません。
<退職金を一時金で受け取る場合の税金・社会保険料>
(株)Money&You作成
退職金を一時金で受け取るときに利用できる退職所得控除の金額は、勤続年数によって変わります。この勤続年数は「年未満の端数」を切り上げて計算します。
たとえば、22歳から60歳まで、38年間にわたって1つの会社に勤めてきた方の場合、退職所得控除は800万円+70万円×(38年−20年)=2060万円となります。
しかし、退職日を1日のばして「38年と1日」で退職すれば、勤続年数は「39年」とカウントされます。そのため、退職所得控除は800万円+70万円×(39年−20年)=2130万円となります。
勤続年数20年超の退職所得控除の金額は、退職日の1日の違いで70万円変わるのです。
仮に退職金が2130万円だった場合、退職所得控除が2130万円であれば、税金負担はゼロ。つまり手取りが2130万円となります。
退職所得控除が2060万円だった場合、退職所得は(2130万円-2060万円)×2分の1=35万円となります。課税所得35万円は所得税率が5%、住民税率は一律10%で、復興特別所得税(所得税額×2.1%)を含めると、合計5万2867円の税金を納める必要があります。
20年以下で退職した人の場合も同様の考え方で、1日の違いで40万円変わる可能性があります。
退職所得控除の金額が退職金よりも多ければ、退職金に税金は一切かかりません。退職金に税金がかかりそうという人は、会社に退職日をずらせないか相談してみるといいでしょう。
退職金の手取りを増やす方法2:再雇用・再就職した際の給与の一部を退職金に回すと節税できる
再就職・再雇用したときに給与の一部を退職時の退職金に回して後払いしてもらう契約を結べば、税金や社会保険料を節約できます。
たとえば、60歳から65歳までの5年間、月給25万円(年収300万円)で働いた場合と、月給20万円(年収240万円)で働き、毎月5万円を退職金に回した場合を比較すると、5年間の税金・社会保険料の合計は約71万円も少なくなる(その分手取りが増える)計算です。
<給与の一部を退職金に回した場合の税額>
(株)Money&You作成
退職金にかかる退職所得控除は、前回利用した時点から5年空けることで、前回利用時点以降の勤続年数に応じた退職所得控除が活用できます。つまり、この例では、60歳時点で活用した退職所得控除とは別に、再就職・再雇用の勤続年数に基づく退職所得控除が活用できます。ただし、勤続年数が5年以下の場合、「退職所得」が300万円超のときは「2分の1課税」が適用されないので注意しましょう。
なお、給与の一部を退職金に回すことで、納めるべき社会保険料が減るため、給与を退職金に回さない場合と比べて、将来もらえる老齢厚生年金が若干減ることには注意しましょう。
退職金の手取りを増やす方法3:在職中に退職金を前払いで受け取る
会社と金銭消費貸借契約(将来返す前提でお金を借りる契約)を結ぶことで、会社が退職金を前払いしてくれる「退職金の前払い制度」がある会社もあります。前払いした退職金は将来、本来の退職金で相殺することで、退職金の一部が課税対象にならなくなります。
社員にとっては、生活に困ってもお金が借りられて助かるメリットがあります。また会社も、お金を貸して返してもらうだけなので税金が発生せず、節税につながるうえ、社員を助けられるという面でもメリットが得られます。
退職金の手取りを増やす方法4:65歳定年なら60歳で企業型DC、65歳で退職一時金受け取りが得
定年年齢が65歳の場合、60歳で企業型DCを一時金で受け取り、65歳で退職一時金(受け取った方が支払う税金が減ります。
理由は、退職所得の合算対象となるルールが関係しています。
<退職金を一時金で受け取る場合の課税所得合算対象>
(株)Money&You作成
つまり、
・退職一時金(またはDB)受け取りから20年を空ければ、企業型DCの退職所得控除が使える
・企業型DC受け取りから5年を空ければ、退職金一時金(またはDB)の退職所得控除が使える
ことになります。
企業型DCは60歳から75歳の間で受け取らないといけませんので、定年時に退職一時金(またはDB)を先に受け取り、20年以上空けてから企業型DCの一時金を受け取ることはできません。また現行のルールでは、企業型DCを60歳より前に受け取ることもできません。しかし、定年年齢が65歳ならば、60歳で企業型DCを一時金で受け取り、65歳で退職一時金(またはDB)を受け取ることができるのです。
これにより、具体的にどれくらい税金が異なるのかを確認してみましょう。
【前提条件】
●60歳時点
企業型DC:600万円、加入期間:15年
●65歳時点
退職一時金:2200万円、勤続年数:40年
企業型DC:800万円、加入期間:20年
【65歳で退職一時金と企業型DCを同時に受け取る場合】
(退職金合計3000万円-退職所得控除2200万円(※))×2分の1
=課税退職所得400万円
※勤続年数と加入期間を比較して長い方が採用
所得税:400万円×20%-42万7500円=37万2500円
住民税:400万円×10%=40万円
税金合計:77万2500円
手取り:2922万7500円
【60歳で企業型DCを受け取り、65歳で退職一時金を受け取る場合】
・企業型DC
(企業型DC600万円-退職所得控除600万円)×2分の1=課税退職所得0円
税金:0円
・退職一時金
(退職一時金2200万円-退職所得控除2200万円)×2分の1=課税退職所得0円
税金:0円
つまり、60歳で企業型DCを受け取り、5年後の65歳で退職一時金を受け取れば、税金を一切支払わずに、退職金合計2800万円を手取りとして受け取ることができるのです。
この計算では、企業型DCで60歳から65歳まで5年間運用することで600万円から800万円へ増える前提にしています。そのため、65歳で同時に受け取った方が、税金を多く払ったとしても手取り合計は増えています。しかし、運用で増えるかどうかは不確実性がありますし、税負担が大きくなってしまう可能性がある点には注意です。
もっとも、運用を継続して増やすことを目的とするならば、企業型DCの運用に固執せず、新NISAの活用を考えたいところです。60歳で企業型DCを受け取った場合は、そのお金を新NISAに回していくことで、無駄な税金(上記例だと約80万円)を支払わずに企業型DCでの運用に近い金額まで増やせる期待があります。新NISAであれば、受け取り期限もなく、一生涯非課税で運用でき、受け取り時に課税もありません。
定年が65歳なら、60歳で企業型DCの受け取り手続きをするのを忘れないでおきましょう。
無駄遣いしそうなら年金受け取りも一案
退職金は年金形式で受け取ることもできます。年金で受け取る場合は「雑所得」という所得になります。雑所得は、他の所得と合わせての総合課税。雑所得に所定の税率をかけ、控除額を差し引くことで、所得税や住民税の金額を算出します。
<退職金を年金で受け取る場合の公的年金控除>
(株)Money&You作成
年金で受け取る場合は一時金受け取りと異なり、社会保険料の負担も発生します。再雇用・再就職せず、国民健康保険に加入する場合には、雑所得も含めた所得で保険料を計算することになります。なお、60歳以降も再雇用・再就職で働く場合は、勤務先の社会保険に加入しますので保険料が増えることはありません。
手取りが最も多くなる受け取り方は、一時金受け取りです。一時金受け取りは分離課税で、退職所得控除があり、2分の1課税になり、社会保険料の支払いがないからです。また、
退職所得控除の金額より退職金の金額が多いならば、退職所得控除の分は一時金、残りは年金の「一時金&年金」にすると、税金を減らせます。年金の部分は、なるべく長期間かけて少しずつ受け取るようにすると、毎年の年金にかかる税金や社会保険料も少なくできます。
年金は、手取りを増やすという観点からは不利な受け取り方です。
ただ、「一度に大金を手にすると無駄遣いしてしまいそう」というのであれば、多少金額が減っても「年金」を選んだほうがよいでしょう。毎年少しずつ受け取れるので無駄遣いが減らせます。
退職金の手取りを増やす4つの方法を紹介してきました。同じ金額の退職金が支給されるとしても、受け取り方の工夫ひとつで手取りの退職金の金額は変わってくるかもしれません。自分がもっともお得になる退職金の受け取り方を考えてみてくださいね。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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