23/09/15
早期退職金をもらう場合、定年退職より生涯賃金が多くなる可能性はあるのか
早期退職をすると、退職金が割増になるといわれます。ここだけを見ると、早期退職はお得だと思われがちですが、実際はどうなのでしょうか?生涯賃金を見てみると、早期退職がお得だとはいえないかもしれません。
そこで今回は、定年退職と早期退職の退職金の平均額を紹介するとともに、どちらの方が生涯賃金が多くなるのか調べてみます。
早期退職制度とは?
早期退職制度とは、社員が定年を迎える前に希望するタイミングで退職できる制度のことです。早期退職優遇制度と呼ばれることもあります。
これは福利厚生の一環として設けられている制度で、退職金の割増などの優遇が受けられる場合が多いです。早期退職制度は社員が希望して退職するものなので、扱いは自己都合退職になります。
なお、似た制度に「希望退職制度」もあります。希望退職制度は、会社が期間を限定して退職者を募る制度。会社の経営が悪化したときや人件費を抑えたいときなどに行われるケースが多くあります。
早期退職のメリット・デメリット
早期退職のメリット・デメリットには、次のようなものがあります。
●早期退職のメリット
・自分の希望するタイミングで退職できる
・退職金が割増になる
・独立起業など自分のやりたいことにチャレンジできる
早期退職制度を利用すれば、自分が希望するタイミングで退職できるので、退職後の人生設計が立てやすくなるでしょう。また、退職金が割増になるので、資格を取得するなどセカンドキャリアの準備資金ができます。それに、独立して事業を始めたいときにも割増退職金を活用できるでしょう。
●早期退職のデメリット
・定期収入がなくなる
・再就職までに期間がかかる場合がある
・年金の受給額が減る
早期退職をすると定期収入がなくなります。すぐに再就職するならば、収入がなくなるのは一時的ですが、再就職先が決まっていない場合は、定期収入がない期間も長くなる可能性があります。
また、独立起業を予定している場合でも、その事業が軌道に乗るまでには時間がかかります。退職後、失業保険をもらうこともできますが、もらえる金額は会社員時代の手取りより少なくなります。そのため、早期退職をする際は当面の生活費を準備しておく必要があります。
また、早期退職すると厚生年金の加入期間が減るので、将来もらえる老齢厚生年金が減ることも留意しておきたいです。
早期退職は定年退職より生涯賃金が多くなる?
では、早期退職は定年退職より生涯賃金が多くなるのでしょうか。厚生労働省が実施した「就労条件総合調査(2018年)」から、退職給付の支給実態のデータをご紹介しましょう。
大卒の場合、勤続年数による定年退職時の退職給付の平均は以下の通りです。
●大卒の定年退職による退職金の平均額
厚生労働省「2018年_就労条件総合調査 第44表 学歴・職種、勤続年数階級、企業規模別定年退職者1人平均退職給付額」より筆者作成
次に、大卒の人が早期優遇退職制度を利用した場合の退職金を勤続年数別に見てみましょう。
●大卒が早期優遇退職制度を利用した場合の退職金の平均額
厚生労働省「2018年_就労条件総合調査 第47表 学歴・職種、勤続年数階級、企業規模別早期優遇退職者1人平均退職給付額」より筆者作成
確かに、早期優遇退職制度を利用した方が退職金の金額は増えています。ただ、増えてはいるといっても、たとえば倍になるような劇的な増加は見込めないこともわかります。もちろん、データはあくまで平均なので、実際の金額はケースバイケースですが、過度に期待してはいけないこともわかります。
生涯賃金が多くなる可能性が高いのは?
上記の表から、定年退職と早期退職のどちらの生涯賃金が多くなるかを考えてみました。
大卒のAさんは勤続年数42年、65歳で定年退職し、退職金を2,173万円もらったとします。同じく大卒のBさんは勤続年数35年、58歳で早期退職をして、退職金を2,530万円もらったとしましょう。この2人の退職金の差額は357万円です。
仮に2人が年収500万円とすると、退職金の差額は年収1年分にも満たないことになります。それに、AさんはBさんよりも7年長く働きます。つまりAさんは、年収500万円×7年=3,500万円の賃金を多くもらえることになるのです。こうして見てみると、早期退職するより定年退職の方が生涯賃金は多くなる可能性があります。
また、Aさんは65歳まで厚生年金に加入して働くため、老後の年金額も増加します。
ただ、早期退職をしてこれまでよりも年収が多い会社に再就職できたり、起業した事業が軌道に乗ったりした場合、もしかしたら早期退職の方が生涯賃金は増えるかもしれません。早期退職の方がお得かどうかは、退職した後の生き方次第で変わるということですね。
まとめ
定年退職と早期退職での退職金の違いを見ると、早期退職した方が退職金は割増になります。しかし、定年退職の方は勤続年数が増える分、もらえる賃金が増えるので、生涯賃金は多くなる可能性があります。ただ早期退職しても、その後の働き方次第では定年退職よりも生涯賃金が多くなる場合もあるでしょう。
要するに「何歳で早期退職すれば定年退職より生涯賃金が多くなるのか?」という問いには明確な答えはないということです。早期退職すれば退職金は割増にはなりますが、生涯賃金が多くなるわけではなことは留意しておきたいですね。
【関連記事もチェック】
・退職後の「3つの支払い」、放置や考えなしに選択すると大損
・50代お金のダメ習慣7選 当てはまれば「老後破綻」の末路
・定年後に毎月不労所得を生み出す、新NISA高配当株投資
・「64歳で退職するとお得」は本当?失業給付は65歳退職といくら違うのか
・退職後にやってくる「3つの支払い」、放置で起こり得る緊急事態
前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう