21/09/17
ハードな環境の中、自分らしく生きようともがく若者たち~『無理ゲー社会』
最近「FIRE」や「親ガチャ」という言葉がよく話題に上がりますね。「FIRE」は「経済的自立と早期リタイアを目指すライフスタイル」を指し、ミレニアル世代の憧れの生き方になっています。また「親ガチャ」は「どんな境遇に生まれるかは運次第」という意味で、現代社会に対する若者の不満が反映されています。
今回ご紹介する本の「無理ゲー」とは、難易度が高すぎてなかなかクリアできないゲームのことで、現実におきかえて「人生詰んでいる」という意味にも使われます。著者の橘玲氏はこの最新刊で、現状に行き詰まり、人生を「無理ゲー」だと感じる若者が増えているという深刻な実態を明らかにしています。
自分らしさを求めた副作用
いまは「自分らしく生きる」「自分の人生は自分で決める」という、個人を尊重する価値観が強い時代。多くの人が、生まれや性別に関係なく自分の人生を自由に決めたいと思っています。
地元で家の仕事を継がずに都会で好きな職につく人も増えました。親が決めた相手とのお見合い結婚は古いという風潮もあります。
ところが、地域や会社のしがらみから抜け出して自由を得た先にあったのは、周りの助けなしに自分の才能と能力で生き抜かなくてはならないシビアな競争社会でした。
稼ぐ力がある人はどんどん財を増やしますが、所得が伸び悩み、職を失う人もいます。恋愛でもモテ続ける人がいる一方で、恋人が欲しくてもできない人が増えています。自分らしい生き方ができるのは、個人の力で勝てる人だけ。うまくいかない人も多く、両者の格差は拡大するばかりです。
必要なのは努力よりも才能
人は「勉強すれば学力は向上する」「努力すれば夢はかなう」という信念で自分を鼓舞し、挫折してしまうと「努力が足りなかったせいだ」「もっとやれたのに」と自分を責めがちです。
しかし著者は遺伝学の観点から、そうではないと主張します。才能や能力は遺伝によるもので、いくら個人ががんばってもどうしようもないと言うのです。
では、才能や能力のない人は、生まれつきのいい才能を受け継がないと勝ち組になれない不公平な社会で、どうすることもできずに「人生詰んだ」と「無理ゲー」感を噛みしめるしかないのでしょうか。
それでも人は、夢を捨てて家業を継がなければならなかったり、好きでもない人と結婚したりしなければならない、以前のような不自由な社会に戻ることは望みません。人々が地域や家族、会社に縛り付けられることを嫌い、自由を望んだことで、こうした自由市場の不平等さが表面化することになったのです。
不平等な社会とどうやって向き合っていくか
この「無理ゲー社会」化は世界中に広がっていますが、特に超高齢社会の日本では深刻です。人口の割合の高い高齢者の年金や医療・介護を支えるためには、現役世代から税を徴収する以外にありません。社会保障の財源が逼迫したままで後期高齢者の割合が増え続けると、若者にかかる負担は重くなる一方です。そのため、日本の若者は自分たちを社会の犠牲者だと考え、将来に希望どころか大きな不安を抱くようになりました。
自分らしく生きることに価値が置かれた現在社会では、自力で社会的・経済的に成功して恋人を獲得することが求められます。しかしそれは人によっては非常に攻略困難な「無理ゲー」。そのことに気づいた若者たちは、人生へのやる気を失くしつつあります。
今の社会で自分らしく生きられないのは非常につらいことですが、幻滅して閉じこもっていても事態は何も変わりません。この本には、無理ゲー社会への向き合い方や具体的な解決策は明示されていませんが、自分を取り巻く状況の理不尽さを理解することで、なんとか生き延びるためのヒントを探していこうという著者のメッセージを感じました。
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小野寺 理香 おのでら りか
読書ブロガー。好きなジャンルは文学、歴史、アート。ふとしたきっかけで出会い、好きになったら長くつきあう……本との巡り合いは人と同じ。時に味わう〝がっかり〟も、読書のおもしろさのひとつです。ここでは、よりすぐりのすてきな本をお届けします。
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