21/09/04
2021年の退職金はいくら? 大企業と中小企業で退職金の差は1600万円超
お勤め先から将来、退職金がいくらくらいもらえそうかご存知ですか?
ご自身の退職金額について知らない方は多いのですが、そもそも退職金はないと思い込んでいる方もよく見かけます。
今回は、最新の退職金事情を確認することで、みなさんご自身の退職金を考える機会にしていただきたいと思います。
退職金制度のある会社の割合は8割
厚生労働省「就労条件総合調査」では、5年ごとに会社規模別(従業員の人数別)の退職金制度の状況を調査・公表しています。
退職金制度のある会社はどのくらいあるのでしょうか。2003年から2018年までの調査結果を並べて見てみましょう。
●退職金制度のある会社の割合(会社規模別)
厚生労働省「就労条件総合調査」より作成
退職金制度のある会社の割合はしばらく減少傾向となっていましたが、全体で見ると、2018年調査は2013年調査より5%上昇しています。企業規模別では規模が大きいほど退職金制度の導入率が高くなっていますが、従業員1000人以上の規模の会社の導入率は減少傾向が続いています。1000人未満の規模の会社全体の導入率も全体と同じくしばらく減少傾向でしたが2018年は増加となっています。会社の規模や年ごとに退職金導入率に違いは見られますが、このデータから約8割の会社が退職金制度を導入していることがわかります。
しかし、このデータには30人未満の会社が入っていません。そこで参考までに、10人~299人の都内中小企業を対象とした「2020年版中小企業の賃金・退職金事情」から確認してみると、退職金制度の導入率は65.9%となっていますので、会社規模が小さくなるほど退職金制度の導入率は低いとみてよさそうです。
なお、大企業の退職金の調査はコロナ前である点にはご注意ください。中小企業の退職金の調査は2020年7月に実施されたものなので、コロナ禍を反映したデータとなります。
コロナ禍前の前回(2018年)調査では、中小企業の退職金制度導入率は71.3%でしたので、この2年間で5.4%の減少です。ですから、大企業においても退職金制度の導入率が一段と下がっている可能性があります。
もっとも、それでも全体でみれば、退職金制度を導入している会社の方が多いのです。しかし、なぜか自分が勤めている会社には退職金制度がないと思い込んでいる人も多くいます。
退職金は毎月受取る給与の後払い的な性格があります。退職金制度を導入している会社は、みなさんの将来のための生活資金を確保してくれています。仮にお勤め先から退職金が出ない場合でも、退職金としては出さない代わりに毎月の給与やボーナスに上乗せしている会社もあります。
自分の会社には退職金がないと思い込んでいたけど、会社の担当者に聞いてみると実は有ったという方も実は多いです。一度、この機会に自分の会社の退職金制度はどうなっているのか調べてみるといいと思います。
大企業と中小企業の退職金額の違い
次に、企業規模別の退職金額を確認してみましょう。
大企業の退職金額は2年に一度、中央労働委員会により資本金 5億円以上かつ労働者 1000 人以上の会社を調査対象とした「2019年退職金、年金及び定年制事情調査」から、中小企業の退職金額は東京都産業労働局による従業員10~299人の会社を調査対象とした「2020年版中小企業の賃金・退職金事情」から見ていきます。
退職金は退職の仕方や辞めるタイミングによっても金額が違ってきます。自己都合、会社都合による退職金の違い、勤続期間による違いもまとめみました。
●大企業
※大学卒、事務・技術労働者が各勤続年数で退職した場合の退職金額
中央労働委員会「令和元年退職金、年金及び定年制事情調査」より作成
●中小企業
※大学卒、全産業の平均退職金額
東京都産業労働局「2020年版中小企業の賃金・退職金事情」より作成
大企業(総合職)と中小企業の退職金額を同じ勤続年数で比較すると、2倍以上の退職金額の開きがあることがわかります。一般職でも1.5~2倍程度は違います。勤続年数38年になると、大企業(総合職)の会社都合退職は2686.4万円、中小企業(2020年)の会社都合退職は1031.4万円。つまり、1600万円超の差があります。
なお、こちらも大企業はコロナ前、中小企業はコロナ禍のなかでの調査になっています。中小企業の平均退職金額は、2018年から2020年にかけて、大きく減少していることがわかります。調査がコロナ禍に実施されているからというだけで減少理由がコロナによるものとは言い切れませんが、コロナ感染拡大がプラス要因になるとは考えにくいです。
規模の大きな会社のコロナ禍を反映した退職金に関する調査はこれから公表されていくと思いますが、全体的な傾向からも、退職金導入率・金額の減少傾向は続く可能性はあるでしょう。
自己都合と会社都合で支給額が違う
退職には大きく「会社都合退職」と「自己都合退職」の2種類あります。
会社都合退職とは経営不振などを理由に会社側からの働きかけによる退職をいいます。労働者が希望退職制度に応募して退職した場合も会社都合退職となります。定年退職も会社都合に分類されます。
一方、自己都合退職とは転職や結婚、引っ越し、家庭の事情などの労働者側の都合で労働者の判断による退職をいいます。
前項のデータで企業規模、職種に関わらず退職金額は会社都合退職が自己都合退職よりも高くなっていました。会社都合か自己都合かによる退職金額の差も気になりますが、退職後の雇用保険からの失業給付金の給付開始時期や給付期間にも違いがでてきます。失業給付金を考えた退職の場合には会社都合退職が有利になります。
最近、コロナの影響もあり希望退職や早期退職を募集する会社が増えています。早期退職は割増退職金などの優遇が期待できるかもしれませんが、雇用保険では自己都合退職扱いになりますので注意ください。しかし会社によっては会社都合退職として処理してくれる場合もありますので事前に確認しておくことは大切です。
自分の退職金はいくら? 少ない場合・ない場合はどうする?
今回、ご紹介したデータはあくまでも平均額ですので、大企業、中小企業に関わらず会社によって退職金額は違います。「まあ、いくらかは貰えるだろう」と軽く構えていると、退職時に思った以上にもらえず、大慌てしてしまう…なんてことにもなりかねません。
退職金はご自身の将来生活の大切な原資となるものです。しっかり確認しておきましょう。
ご自身の退職金額を知るには、会社の総務や人事などの担当者に聞くのが一番簡単です。しかしそのようなことをいうと、たいていの方からは「そんなこと会社に聞きづらい」という反応が返ってくるものです。
でも、退職金は退職後の生活資金となる大切なみなさんの資産です。知って当たり前の気持ちで会社の担当者に聞いてみてください。
筆者の経験上、最初は退職金について聞くことを躊躇していた方も、少しの勇気を出して聞いてみたら、「ちゃんと教えてくれました!」といわれる方がほぼ100%です。
では、退職金を確認して「思いのほか少なかった」あるいは「ない」なんてことになったらどうしましょう?
少ない、または「ない」なりの将来の生活資金作りに、早急に取りかかる必要が出てくるでしょう。貯蓄もあまりできていない状態でしたらなおさらです。
2019年に金融庁が「老後資金は2000万円不足する」と発表し話題になりました。当然、個人差はありますが、2000万円不足というのはそれほど的外れな金額ではありません。将来の生活費を公的年金では足りない分をカバーするのに必要な平均的な金額ともいえるのです。
もし、退職金だけでは退職時に貯蓄が2000万円にも届きそうになく将来が不安と感じられるなら、少しでも早く家計の見直しをして、将来のためにお金を残せるようにしていきましょう。
今から将来のために積立貯蓄をスタートしよう
将来のためにお金を残すための方法として一番におススメするのは、「今から」始める貯蓄です。貯蓄をおススメすると始める時期で迷いだす方は多いのですが、おススメは「今から始める」ことです。少しでも早いうちに始めることで時間を味方にすることができますので、コツコツと少額からでも将来に向けた余裕資金を積み上げていくことが可能となります。
もっとも、貯蓄だけでお金を増やしていくのは大変です。金利がとても低いので、ほとんど増えていきません。
コツコツ積立におススメなのは、税制優遇を受けながら積立をすることです。具体的には、少額から積立投資ができる「つみたてNISA(ニーサ・少額投資非課税制度)」や「iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)」です。
どちらも、積立投資で得られた利益(運用益)に税金がかからないため、お金を効率よく増やすことが目指せます。また、iDeCoは投資した金額(掛金)が全額所得控除になるため、所得税・住民税を節約できます。
つみたてNISAでは投資信託に積立投資してお金を増やしていきます。また、iDeCoでは元本確保型の定期預金・年金保険と、投資信託から選びます。
iDeCoでは元本確保型の商品も選ぶことができますが、やはり現状の低金利の下では元本を増やすことは難しいです。つみたてNISAに加えて、iDeCoでも投資信託を選択して、お金を増やすことを期待した長期・積立・分散投資がおススメです。
投資には元本保証がありませんが、年率2%~4%ほどであれば無理な目標ではないでしょう。国内外株式や債券に20年間分散投資をした結果、年率2〜8%の間に収まったという金融庁の調査もあります
つみたてNISAであれば投資した年から最長20年間、最大40万円までの投資の利益にかかる税金を非課税にできます。またiDeCoであれば60歳(2022年5月からは65歳)まで積立投資を行い、利益にかかる税金を非課税にすることが可能です。
例えば毎月1万円を20年間、年率2%(複利)で運用できた場合、合計240万円の元本は約294万円に増える計算となります。投資額を倍の2万円にすると元本の480万円が589万円に。コツコツの力を感じませんか?
最近はクラウドソーシングといって、自宅にいながらパソコンなどを利用して事務・執筆・デザイン・軽作業などのお仕事ができる機会が増えました。今の給与では貯蓄に回す余裕がないような場合、勤務先以外のお仕事で収入を得て、その資金を積立投資に充てるということも検討してもいいかと思います。
まとめ
退職金は、会社の業績などに左右されるものです。今は退職金制度があったとしても、将来、今の約束通りに必ず支払われるというものではありません。
退職金は会社の規模などにより金額は大きく異なります。退職金の有無や金額で老後の資金計画は大きく変わってきますので、少ない、もしくはないならば自ら用意することも必要になるでしょう。
少しでも気になる点、不明点があったら、お勤めの会社に問い合わせてみましょう。会社の方は意外とやさしく教えてくれるはずです。
退職金はご自身の大切な将来の生活資金なのですから、しっかり確認しておきましょう。
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小林 裕子 ひろファイナンシャルプランニング代表 CFP ・1級FP技能士
2008年FP相談業務開始。2014年事務所運営スタイルを金融機関等からの紹介手数料を一切得ず、報酬は顧客からの相談料のみとするフィーオンリーへ移行。「ファイナンシャルプランニングは100人100様」をモットーにライフプランの実行支援を行っている。
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