21/06/24
退職金制度がない会社は全体の約20%。老後資金を効率よく準備するにはどうすべきか
会社員が退職時に一時金や年金として受け取れる「退職金」。老後資金の頼りになるお金ですが、会社に退職金制度がないケースもあるようです。今回は、退職金制度の状況や給付額の推移を紹介したうえで、会社に退職金制度がない人はどう老後資金を用意すればいいのか、おすすめの老後資金の準備方法をご紹介します。ご自身やご家族の会社に退職金制度がない人は、ぜひ参考にしてみてください。
退職金制度がない会社は全体の20%程度
2018年の厚生労働省の調査によると、退職金制度がある企業は全体の80.5%。約2割の企業で退職金制度がないという結果が出ています。また企業規模別に見ると、従業員数が少ない企業ほど退職金制度がない会社が多い傾向にあります。
●退職給付制度がある会社の割合
厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」/退職給付(一時金・年金)制度 を参考に筆者が作成
さらに退職金の給付額も年々減少傾向にあります。下記グラフは学歴別の退職給付額の推移をまとめたものです。
●1人あたりの平均退職給付額推移(勤続20年以上かつ45歳以上の退職者)
厚生労働省 就労条件総合調査「退職給付(一時金・年金)の支給実態」を参考に筆者が作成
大学卒・高校卒ともに管理・事務・技術職の退職給付額が減少していることがわかります。この理由としては、退職金を運用するための利回りが低下していることや、転職市場の活発化により従業員の勤続年数が短くなっていることが考えられます。
必要な老後資金を計算してみよう!
会社に退職金制度がない場合、老後資金はどの程度必要になるのでしょうか。夫婦2人世帯の例を挙げて、実際に必要な老後資金を計算してみましょう。
【前提条件】
・現在30歳の会社員夫と専業主婦の妻の2人世帯
・夫(40年間勤務)の定年退職後、年金以外の収入はなし
・65歳から年金受給開始
・老後期間は65歳から90歳までの25年間を想定
・夫婦ともに国民年金保険料の未納・免除期間なし
上記の前提で老後の収入金額と支出金額を算出し、その差額を老後までに準備しなければならない資金(不足金額)としました。
●必要な老後資金はどのくらい?
政府等の統計データを参考に筆者作成
今回のケースでは65歳から90歳までの期間、夫婦で約2035万円が不足する結果になりました。会社に退職金制度がない場合、不足分は自ら準備しておく必要があります。
退職金制度がない人が老後資金を貯めるには?
会社に退職金制度がない場合、老後資金を貯める方法として活用したいのは、節税効果のある方法。具体的にはiDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)とつみたてNISA(ニーサ・少額投資非課税制度)を活用することです。
●高い節税効果が魅力の「iDeCo」
iDeCoは60歳以降に受け取ることができる私的年金制度です。国民年金や厚生年金などの公的年金と異なり、金融商品を自ら選んで運用します。そのため運用成績によって資産が増減するといった特徴があります。
iDeCoの最大のメリットは掛金が全額所得控除の対象となる点です。所得控除とは1年間の所得(収入ー必要経費)から一定の金額を差し引く仕組みで、所得税や住民税の負担を軽減する効果があります。
iDeCoの掛金は月額5000円から拠出可能。上限額は国民年金の種類や勤務先の企業年金の有無によって異なります。会社に企業年金がない人の上限額は年額27.6万円(月額2.3万円)です。
iDeCoの全額所得控除による節税効果は、その年に拠出した掛金に所得税と住民税の税率をかけた金額となります。住民税の税率(所得割)は一律10%ですが、所得税率はその人の所得金額によって異なります。
たとえば年収500万円の会社員で所得税率が10%の場合、年額27.6万円の掛金に対する節税効果は5.52万円になります。
① 所得税の節税効果
=年間掛金額27.6万円×10%=2.76万円
② 住民税の節税効果
=年間掛金額27.6万円×10%=2.76万円
節税効果総額5.52万円(①+②)
これを仮に30歳から60歳までの30年間、同じ金額積立て続けた場合、節税効果の総額は165万6000円に。これだけでも大きなメリットと言えます。老後まで引き出さなくてよい資金であれば、iDeCoの掛金上限いっぱいまで積立てておくと節税の効果も最大化できます。
その上、iDeCoの運用で生じた利益には税金がかかりません。iDeCoでは定期預金・保険・投資信託で運用を行います。投資信託の運用で得られた利益も効率よく受け取れるというわけです。
また、運用資金の受取時には税金がかかりますが、一定の税制優遇が受けられます。
iDeCoにはそのほかにも以下のメリット・デメリットがあるので、この点も理解したうえで有効活用することをおすすめします。
【iDeCoのメリット・デメリット】
●「つみたてNISA」ならいざという時の引き出しも可能
つみたてNISAは「長期・積立・分散投資」を支援するために作られた少額投資非課税制度です。非課税期間は20年間で、年間40万円までの積立投資に対してそこから得られる利益(配当金・分配金や売却益)が非課税となります。
通常金融商品の利益には20%程度の税金がかかるため、つみたてNISAの対象商品で運用するならこの制度を使わない手はありません。
iDeCoとの主な違いは以下の点です。
・運用中の資金はいつでも現金化可能
・iDeCoより少額から投資可能
・積立資金は所得控除の対象とならない
積立資金が所得控除の対象にならないため節税効果はiDeCoに劣りますが、老後資金を準備しつつも、いざという時に引き出せるようにしておきたい場合はつみたてNISAが便利です。
また少額から積立を始めたい投資初心者にもつみたてNISAは向いてきます。金融機関によって最低積立金額は異なりますが、楽天証券やSBI証券などのネット証券では100円から積立可能です。また対象商品も長期の積立・分散投資に適した投資信託に限定されているため、その点も投資初心者に向いています。
このような特徴をふまえたうえで、iDeCoとつみたてNISAを比較してみるとよいでしょう。
【つみたてNISAのメリット・デメリット】
●iDeCoとつみたてNISAの併用で老後資金2000万円を貯めよう
iDeCoとつみたてNISAは併用することができます。片方だけでは積立の上限を超えてしまう場合や目的に応じて使い分けたい場合は、両制度の併用を検討するのがおすすめです。
前述した夫婦2人世帯の例では65歳までに約2035万円の資金が必要でした。以下の条件で運用する場合、毎月どのくらいの金額を積み立てればいいのでしょうか。
【運用条件】
・初期投資金額:0円(これから老後資金を準備すると想定)
・運用利回り:2.5%(利益を狙いつつ、ある程度安定した資産運用を目指せる利回り)
・運用期間:30年間(30歳から60歳の期間を想定)
●毎月の積立額は3.79万円
モーニングスター「金融電卓」で計算
上記のとおり、月額3.79万円(年額45.48万円)の積立が必要だとわかりました。iDeCoまたはつみたてNISA、どちらか片方だけでは上限額を超えてしまうため、この場合は両者の併用が効果的です。
企業年金がない会社員のiDeCoの掛金は年額27.6万円なので、その金額まではiDeCoで積立てて、残りの17.88万円をつみたてNISAで運用すれば節税効果を高めることができます。
また投資の特徴として、投資期間が長いほど複利効果が期待できるというメリットがあります。老後資金の準備を考えているのであれば、早いうちからの投資がおすすめです。
ご家庭によって必要な老後資金や積立可能な金額・期間、運用方針(目標とする利回り)は異なります。上記のようなサイトを使ってシミュレーションしてみるとよいでしょう。
まとめ
退職金制度がない会社は一定数あるようですが、iDeCoやつみたてNISAなどの制度を活用することで効率よく老後資金の準備が可能です。どの程度老後資金が必要かを把握したうえで、早いうちから計画的に資産運用をはじめることをおすすめします。
毎月どの程度積立てられるかは収入や家計の状況によって異なります。ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談して、無理なく効果的に資産運用できるよう工夫するのもよいでしょう。
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鈴木靖子 ファイナンシャルプランナー(AFP)、2級DCプランナー(企業年金総合プランナー)
銀行の財務企画や金融機関向けコンサルティングサービスに10年以上従事。企業のお金に関する業務に携わるなか、その経験を個人の生活にも活かしたいという思いからFP資格を取得。現在は金融商品を売らない独立系FPとして執筆や相談業務を中心に活動中。
HP:https://yacco-labo.com
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