21/10/08
毎月分配型投信より有能と言われる「予想分配金提示型」は買いなのか
投資信託の利益のひとつ、分配金。投資信託の決算が行われるときに支払われるお金です。この分配金の支払いルールにはさまざまあり、投資信託によって異なります。その中で最近、「予想分配金提示型」と呼ばれる投資信託が人気です。いったい、どんな投資信託なのでしょうか。
投資信託の分配金は2種類ある
投資信託の分配金には、普通分配金と元本払戻金(特別分配金)の2種類があります。
普通分配金は、投資信託が株や債券、不動産などを運用して得た利益から支払われる分配金です。自分が投資した投資信託がうまく運用して増やしてくれたお金ですから、受け取れたらうれしいですよね。普通分配金は利益ですから、受け取る際に通常20.315%の税金がかかります。
一方、元本払戻金は、投資信託の元本の一部を取り崩して支払う分配金です。お金が受け取れるという点では普通分配金と同じですが、元本の一部ということは、単に自分のお金が戻ってきているだけですから、利益でも損失でもありません。お金が増えているわけではありませんので、元本払戻金には、税金がかかりません。
投資信託の中には、分配金の定期的な支払いを掲げる商品があります。こうした投資信託は、運用で利益が出ているうちは問題なく普通分配金を出せるのですが、運用成績がいまひとつの場合は、普通分配金を出せなくなってしまいます。しかし、それでは分配金の支払いができません。こんなときに、元本払戻金を分配金として支払う、というわけです。
たとえば、分配金を毎月出すことを掲げる「毎月分配型」の投資信託は、毎月おこづかいのようにお金が受け取れるとあって、昔から人気があります。しかし、そのおこづかいは実は元本払戻金で、ただ単に自分のお金を受け取っているだけだったということは、よくあります。これでは、お金はなかなか増えません。毎月分配型の投資信託の中には、運用がうまくいっていないものも見られます。元本が減ってしまうため、長期の資産形成には向かないのです。
予想分配金提示型はどんな投資信託?
毎月分配型のこうした欠点を補うようにできているのが、予想分配金提示型の投資信託。予想分配金提示型は、投資信託の値段(基準価額)の水準に応じて分配金の金額が決まっている投資信託です。
たとえば、人気を集めている「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信D コース毎月決算型(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」(以下「AB・米国成長株投信D」)を見てみましょう。なお、数値は2021年9月29日時点のものです。
●AB・米国成長株投信D
純資産総額:12940.07億円
基準価額:12,183円
信託報酬(税込):年1.727%
トータルリターン:22.13%(3年・年率)、24.50%(5年・年率)
AB・米国成長株投信Dは、米国の成長株に投資するアクティブ型の投資信託です。純資産総額も1兆円を超えていて、人気を集めている様子がうかがえます。なお、AB・米国成長株投信にはAコースからDコースまで4種類あり、Dコースは毎月分配型・為替ヘッジなしとなっています。
このAB・米国成長株投信Dの目論見書には、次のように分配方針が記載されています。
●AB・米国成長株投信Dの分配方針
AB・米国成長株投信Dの目論見書より
AB・米国成長株投信Dの場合、原則毎月15日(休業日の場合は翌営業日)の前営業日の基準価額によって支払われる分配金の額が決まります。たとえば、基準価額が1万2000円ならば、1万口あたりの分配金額は300円となります。基準価額が1万4000円以上になれば500円の分配金が得られる一方で、1万1000円未満になると「基準価額の水準等を勘案して決定」とあります。
実際、AB・米国成長株投信D の2021年1月〜9月までの分配金は、次のとおりです。
●AB・米国成長株投信D の2021年の分配金額(1月〜9月)
・1月15日 200円
・2月15日 300円
・3月15日 200円
・4月15日 300円
・5月17日 200円
・6月15日 300円
・7月15日 300円
・8月16日 300円
・9月15日 300円
近年は投資対象の米国株が好調なこともあり、安定して分配金が支払われています。
予想分配金提示型の投資信託は、分配金の金額がいくらなのかがわかりやすいのも特徴です。通常の投資信託の場合、分配金を出すか出さないか、出す場合にいくら出すのかは後から発表されるので、あてが外れる場合もあります。しかし、予想分配金提示型の投資信託なら、基準価額の水準を見れば自分でもすぐにどのくらいの分配金がもらえるかイメージできます。
では、予想分配金提示型は買いなのか
予想分配金提示型の投資信託の人気を受けて、近年新たな予想分配金提示型の投資信託が次々登場しています。確かに、資産の取り崩しが少なく、運用を続けながら高い分配金が受け取れるなら、お得に感じられるかもしれません。
しかし、予想分配金提示型は、投資信託で長期間かけて資産をじっくり増やしたい方にはおすすめできません。予想分配金提示型の注意点を3つ紹介します。
●予想分配金提示型の注意点1:複利効果が得られない
投資信託で長期間かけて資産運用したい方が生かすべきなのは複利効果。投資で得られた利益を再び投資し、お金が新たなお金を生み出す複利効果を活用することで、お金の増えるスピードが加速していきます。
分配金を受け取って再投資しないと、複利の効果が受けにくくなってしまいます。また、普通分配金は出るたびに20.315%の税金が取られてしまうため、投資に回せるお金が減ってしまいます。複利効果を得るためには、分配金が少ない(または、ない)ものを選ぶのがおすすめです。
●予想分配金提示型の注意点2:信託報酬が高い商品が多い
予想分配金提示型の投資信託は、保有中にかかる信託報酬が高い商品が多くなっています。上で紹介したAB・米国成長株投信Dも年1.727%ですし、その他の予想分配金提示型も現状、1%台が主流のようです。
しかし、インデックス型の投資信託であれば、信託報酬が年0.1%程度と安い商品もあります。信託報酬がこれだけ違うと、10年、20年と長く保有した場合の手数料の差は数十万円に及ぶことも。長期間かけて資産をじっくり増やしたい方は、手数料がなるべく安い商品を選びましょう。
●予想分配金提示型の注意点3:基準価額が下がったら分配金はもらえない
予想分配金提示型の場合、基準価額が一定未満になると、分配金がもらえない場合があります。AB・米国成長株投信D も、1万1000円未満になると「基準価額の水準等を勘案して決定」とあります。過去には、100円、または0円だった月もあるのです。
予想分配金提示型の投資先は株式が多くなっています。また、中にはDX(デジタルによる社会の変革)やSDGs(持続可能な開発目標)などに関連する銘柄に投資するテーマ型の商品も出てきています。該当の投資先が好調なときはいいのですが、下落したときには分配金がもらえないばかりか、お金も増えない…ということになりかねません。
以上を踏まえると、予想分配金提示型の投資信託はこれから資産形成を進めていくという方にはおすすめできません。
もっとも、たとえば年金を受け取りながら生活している65歳以上の方で、運用しながら生活費の足しとなるお金も用意したい…という場合には、選択肢に入ってくるでしょう。受け取れる分配金の金額もわかりやすいので、生活費としても活用しやすいですね。
まとめ
予想分配金提示型の投資信託の特徴を紹介してきました。予想分配金提示型は、毎月分配型の欠点を補う商品で人気もあるのですが、これから資産形成をするという方ならば、手数料が安く、分配金を出す回数が少ない(または、ない)商品のほうが適しているでしょう。
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畠山 憲一 Mocha編集長
1979年東京生まれ、埼玉育ち。大学卒業後、経済のことをまったく知らないままマネー本を扱う編集プロダクション・出版社に勤務。そこでゼロから学びつつ十余年にわたり書籍・ムック・雑誌記事などの作成に携わる。その経験を生かし、マネー初心者がわからないところ・つまずきやすいところをやさしく解説することを得意にしている。2018年より現職。ファイナンシャル・プランニング技能士2級。教員免許も保有。趣味はランニング。
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