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21/10/02

資産運用・経済

投資信託の出口戦略、定額取り崩しと定率取り崩しどちらがよいのか

老後2000万円不足、コロナショック、少子高齢化……。経済の先行きが見通せずに不安ななか、投資信託で資産運用をスタートする方が増えています。しかし、「どの投資信託を買おうか」「いくら買おうか」などと「入口」はしっかり考えていても、肝心の「出口」までイメージできている方は、少数派ではないでしょうか。
そこで、今回は投資信託の「出口戦略」、特に老後資金を貯めたあとの資産の取り崩し方を紹介します。

投資信託は運用しながら取り崩すのがおすすめ

投資信託に限った話ではないのですが、資産運用には大きく分けて
①投資して資産を築いていく時期
②投資して築いた資産を取り崩して使う時期
の2つの時期があります。

投資信託は、長期間コツコツと投資することで平均購入単価を下げる「ドルコスト平均法」の効果が受けられるとあって、積立投資をしている方が多いでしょう。資産運用の目的が老後資金だとしたら、一般的に「①投資して資産を築いていく時期」は、仕事を辞めるまで。以後は「②投資して築いた資産を取り崩して使う時期」となり、年金やその他の貯蓄などとともに、投資して得た資産を活用して余生を送ります。

もっとも、「②投資して築いた資産を取り崩す時期」に入ったからといって、それまでに築いた投資信託をいきなり全額売るのは得策ではありません。おすすめは、少しずつ定期的に取り崩すことです。なぜなら、投資信託の値動きによっては、安いタイミングで一気に売ってしまう可能性があるからです。投資信託の価格(基準価額)がいつ安いか(高いか)は、誰にもわかりません。

ドルコスト平均法では、買うタイミングを分散させて平均購入単価を下げることを狙います。それと同様、売るタイミングも少しずつ定期的にすることで、安値で売ってしまうことを防げる、というわけです。

さらに、資産を少しずつ取り崩しながら運用を続けることで、資産が増やせる可能性があります。

たとえば、2000万円の資産を一気に売却して、月10万円ずつ使ったとします。すると、2000万円の資産は200ヶ月、つまり16年8ヶ月でなくなってしまう計算です。65歳から受け取った場合、82歳には資産がなくなってしまいます。しかし、毎月10万円ずつ取り崩しながらも、年利4%で運用できたらどうでしょう。

少し専門的ですが、これを計算するのには、「資本回収係数」という数値を使います。かんたんにいうと、資産を取り崩しながら一定の利回りで運用した場合に、毎年いくら受け取れるかを計算する数字です。

●資本回収係数

2000万円を25年間にわたって年利4%で運用した場合、受け取れる金額は
2000万円×0.06401=128万200円
となります。月額に直すと、10万7000円ほどになります。

つまり、運用しないと16年8ヶ月で底をついてしまう資産が、運用することで25年以上もつ、というわけです。65歳から受け取ったとすれば、90歳までは持つのですから、安心感がだいぶ違いますね。

定額取り崩しと定率取り崩し、どちらがおすすめ?

ただし、上の試算にはひとつ盲点があります。それは、必ずしも年利4%で運用できるとは限らないということです。年によっては、運用の利益が少なかったり、損失を出したりすることもあるでしょう。そこで考えたいのが、資産の取り崩しの方法です。

資産を少しずつ定期的に取り崩す方法には、大きく分けて定額取り崩しと定率取り崩しがあります。定額取り崩しは、「毎月〇円ずつ」という具合に、資産を毎月一定の金額ずつ取り崩して受け取る方法。それに対して定率取り崩しは、「毎月資産の○%ずつ」という具合に、資産を毎月一定の比率で取り崩して受け取る方法です。

では、定額取り崩しと定率取り崩し、資産を長持ちさせるという観点ではどちらがいいのでしょうか。

資産2000万円を年3%で運用しながら取り崩したとします。このとき、毎年120万円ずつ定額で受け取った場合と、毎年資産の6%ずつを受け取った場合で、資産の減り具合を示したのが次のグラフです。

●定額取り崩しと定率取り崩しの比較①

筆者作成

どちらも取り崩しのスタート地点の資産は2000万円です。しかし、年を追うごとに定額取り崩しと定率取り崩しの差が開いていきます。そして、定額取り崩しだと22年ほどで資産がゼロになってしまいます。一方、定率取り崩しにすると30年後も約760万円もの資産が残っている計算です。

定額取り崩しのほうが、受け取る側はわかりやすいでしょう。定額取り崩しならば、資産がいくらであっても「月10万円、年120万円」と受け取れる金額が一定なので、いくら取り崩せばいいのか、計算しやすいですね。また、毎月の収入が安定するので、生活がしやすいのもメリットです。
しかし、定額取り崩しの場合、資産を取り崩すたびに、資産に占める取り崩し金額の割合が増えてしまいます。すると、その後仮に「運用で3%増えた」などと、利益が出たとしても、資産が減ってしまっているので、運用で資産が増えにくくなってしまうのです。

もう1つ、かなり悲観的に試算したのが次のグラフです。計算条件は基本的に同じ(資産2000万円を運用、定額取り崩しは年120万円、定率取り崩しは年6%を取り崩す)ですが、運用によって3%増える年と3%減る年が交互にやってきたとすると、資産の減り具合は次のグラフのようになります。

●定額取り崩しと定率取り崩しの比較②

筆者作成

運用が毎年うまくいけばいいのですが、うまくいかない場合は資産が減ってしまうことになります。その点は、定額取り崩しでも定率取り崩しでも変わりません。しかし、定額取り崩しだと17年ほどで資産がゼロになってしまう計算に。一方で定率取り崩しは、30年経過後も約310万円の資産が残っています。

定額取り崩しの場合、資産が減ってしまうと取り崩し金額の割合がいっそう増加するため、翌年に利益が出ても挽回しにくいのです。その点、定率取り崩しは資産が多いときにはたくさん取り崩す一方で、資産が少なくなると取り崩す金額も少なくなります。資産を長持ちさせたいのであれば、定率取り崩しを選択するのがいいというわけです。

定率+定額の合わせ技もあり!

ただ、定率取り崩しの場合、資産が減るごとに受け取れる金額も減ってしまいます。たとえば、資産が500万円まで減ったとき、6%の取り崩しで受け取れる金額は年30万円。いくら資産が長持ちするからといって、これではちょっと、心許ないですね。

そこで提案したいのが、定額取り崩しと定率取り崩しを組み合わせる方法。資産の多い前半は定率取り崩しでお金を受け取り、資産が少なくなってきたら、今度は定額取り崩しを利用します。

資産2000万円を取り崩す際に、前半は年6%の定率取り崩しを行い、資産が1000万円を切るタイミングで年60万円の定額取り崩しに切り替えたとします。運用によって毎年3%増やせたとすると、資産の減り具合は次のグラフのようになります。

●定率取り崩し+定額取り崩しの例

筆者作成

単純計算で、21年経過時点まで、年120万円〜60万円程度を受け取ることができます。そして、資産が1000万円を切るところで60万円の定額取り崩しにします。こうすると、30年経過時点でも約690万円の資産が残る計算です。

もちろん、例で紹介したとおり、運用がうまくいかない可能性もあります。しかし、世界経済はおおむね年3〜4%成長しています。日本・世界の株式や債券に投資するバランス型の商品を選ぶことで、世界経済の成長の恩恵を受ける期待は十分できるでしょう。

PayPay証券

定期売却サービスを活用しよう

投資信託売却の手続きが面倒という方におすすめしたいのが、投資信託の定期売却サービスです。投資信託を運用しつつ、決まった日に売却して現金化。売却代金を受け取ることができます。

投資信託の定期売却サービスは複数の金融機関で取り扱っていますが、定額取り崩しにしか対応していないところもあります。そのなかでおすすめは楽天証券の定期売却サービス。楽天証券では、毎月1000円以上1円の定額取り崩しを行う「金額指定」に加えて、毎月0.1%以上0.1%単位で定率取り崩しを行う「定率指定」ができます(他に最終受取年月を指定する「期間指定」も設定可能です)。

●楽天証券「定期売却サービス」金額指定と定率指定のイメージ

楽天証券ウェブサイトより

一般NISAやつみたてNISAで購入した商品でも定期売却サービスの設定が可能。取り崩しの日にちは毎月1日〜28日の間で自由に決められます。一度設定しておけば、あとは自動的に取り崩してくれますので、手間がかかりません。

まとめ

資産運用の本当の目的は、お金を増やすことではなく、増やしたお金を使って、よりよい生活を送ること。老後資金の資産運用ならば、余生をお金に困ることなく暮らすことにあります。投資信託で老後資金の資産運用を行うならば、今回お話しした出口戦略をどうするのかを決めて取り組むことをおすすめします。

頼藤 太希 マネーコンサルタント

(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki

畠山 憲一 Mocha編集長

1979年東京生まれ、埼玉育ち。大学卒業後、経済のことをまったく知らないままマネー本を扱う編集プロダクション・出版社に勤務。そこでゼロから学びつつ十余年にわたり書籍・ムック・雑誌記事などの作成に携わる。その経験を生かし、マネー初心者がわからないところ・つまずきやすいところをやさしく解説することを得意にしている。2018年より現職。ファイナンシャル・プランニング技能士2級。教員免許も保有。趣味はランニング。

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