20/11/30
給与前払いサービスは決して使ってはいけない理由
「給与前払いサービス」というものをご存知でしょうか?近年注目を集めているサービスで、飲食業界などのサービス業を中心に福利厚生の一環として導入する企業も増えているようです。今回は給与前払いサービスの仕組みや、それと似て非なる「給与ファクタリング」との違いをご説明したうえで、給与前払いサービスの注意点についてご紹介します。
給料日前に給料が手に入る給与前払いサービス
給与前払いサービスとは、本来の給料日より前に給与を受け取ることができるサービスです。企業が給与支払いサービスの提供会社と契約し、そのサービスを従業員が利用するという仕組みです。セブン銀行のATMで給与が受け取れる 「CRIA(クリア)」、スマホアプリで簡単に申請できる「Payme(ペイミー)」、楽天銀行で受け取れば手数料が0円になる「楽天早トク給与」などがあります。
給与前払いサービスを利用する従業員のメリットは、給料日より前に給与を受け取れる点です。給料日より前にお金が必要になった場合に、キャッシングやカードローンを利用せず現金を受け取ることができます。また福利厚生として給与前払いサービスを従業員に提供することで、求人応募者の増加や離職率の低下が見込めるといった企業側のメリットもあります。
給与ファクタリングは違法なヤミ金融
似たようなサービスに「給与ファクタリング」というものがあります。これは将来受け取る予定の給与(給与債権)をファクタリング会社に売却し、給料日前に現金化できるサービスです。本来の給料日より前に現金を受け取ることができる点では同じですが、給与ファクタリングは勤務先の会社を介さず従業員が直接ファクタリング会社に給与債権を売却します。
給与ファクタリングは貸金業に該当するケースがほとんどです。これに該当する業者は貸金業の登録を受け、貸金業法や利息制限法などの法律に基づいた営業をおこなう必要があります。しかし無登録で営業している給与ファクタリング会社は多く、法外な手数料の請求や強引な取り立てをおこなう悪徳業者が後を絶たないのが実態です。
会社を介さない給与ファクタリングでは、個人ではその違法性に気付かなかったり、「会社に知られず給料日前に現金がほしい」という利用者の弱みに付け込まれたりして、被害に遭うケースは少なくないようです。
金融庁も、こうした実態を受けて「給与の買取りをうたった違法なヤミ金融にご注意ください!」という注意喚起を公表しています。また、2020年7月には全国で初めて給与ファクタリング会社が摘発され、従業員が貸金業法違反(無登録営業)容疑で逮捕されています。
ですので、給与ファクタリングは絶対に使ってはいけません。
給与前払いサービスの注意点
給与前払いサービスは企業がサービス提供会社をしっかり選定して導入しているケースが多いので、従業員としては安心感があるといえるでしょう。
しかし、給与前払いサービスを利用するにあたっては、注意したい点もあります。
●サービスの利用には手数料がかかる
給与前払いサービスを利用するためには手数料を支払う必要があります。手数料には、システムの導入費用や月額利用料、前払い金額に応じた手数料、振込手数料などがあります。すべての手数料を導入企業が負担する場合もあれば、従業員が一部またはすべての手数料を負担する場合もあり、サービスによってまちまちです。
従業員が手数料を負担する場合、実際に受け取る給与が目減りすることになるのでこの点は注意が必要です。手数料(金利)を支払って給与支払い日前に現金を手に入れるという意味ではキャッシングやカードローンを利用するのと変わらない、ということを念頭に置いておきましょう。
●悪徳業者が紛れている場合も
給与前払いサービスであっても、貸金業に該当する場合があります。このような業者は貸金業登録をおこなう必要があります。登録を受けた貸金業者は貸金業法の上限金利(15%~20%)が適用されますが、無登録業者の場合この上限金利を超えた高額な手数料を請求される場合があるため注意が必要です。
誕生して間もないサービスで貸金業に該当するか否かの解釈があいまいなため、悪徳業者が紛れている可能性もあります。
もちろん導入する企業側もサービスを提供する業者のチェックはおこなっているとは思いますが、必要以上に高い手数料を取られることがないよう利用する側も注意しましょう。
まとめ
企業の福利厚生施策として広まっている給与前払いサービス。すでに勤務先で給与前払いサービスを導入しているという方もいるかもしれませんね。安心して従業員が利用しやすいといった特徴がありますが、手数料を従業員が負担する場合、本来受け取ることができる給与が目減りしてしまうため注意が必要です。
その点では、給与前払いサービスは使うべきサービスではないでしょう。このようなサービスを利用する前に、家計の見直しなどの根本的な対策をすることをおすすめします。
【関連記事もチェック】
・借金が返せない場合の3つの債務整理、任意整理・個人再生・自己破産の違いは?
・1100兆円もある日本の借金、日本はどうして破綻していないのか。今後はどうなる?
・「隠れリボ」「自動リボ」は借金地獄への罠! 今すぐカードの支払い設定を見直さないとヤバイ
・220万円の借金で悩む32歳派遣社員。返済の優先順位とすべき手段は?お金のプロがアドバイス
・20代独身、貯蓄ゼロ借金あり生活から抜け出すためのステップ
鈴木靖子 ファイナンシャルプランナー(AFP)、2級DCプランナー(企業年金総合プランナー)
銀行の財務企画や金融機関向けコンサルティングサービスに10年以上従事。企業のお金に関する業務に携わるなか、その経験を個人の生活にも活かしたいという思いからFP資格を取得。現在は金融商品を売らない独立系FPとして執筆や相談業務を中心に活動中。
HP:https://yacco-labo.com
この記事が気に入ったら
いいね!しよう