22/05/18
退職金の受け取り方は一時金と年金、どちらが正解か
老後の生活の大きな支えとなる退職金。まとまった金額が受け取れると楽しみにしている方もいるかもしれません。この退職金、受け取り方によってかかる税金や社会保険料の額が変わるため、手取りの金額が大きく違ってくることをご存じですか?
今回は、退職金の受け取り方による手取り額の違いと、どう受け取るのが正解なのか、退職金の受け取り方3つの基本戦略を紹介します。
退職金の受け取り方は3通り
退職金の受け取り方には「一時金」「年金」「一時金&年金」の3通りがあります。
一時金は、一括でまとめて退職金を受け取る方法です。一時金で受け取った場合は退職所得として所得税・住民税の課税対象になります。
退職所得は分離課税となり、他の所得とは区別して課税されます。税金を計算する際には、退職金にかかる所得税や住民税を大きく減らす「退職所得控除」という控除が利用できます。
退職所得控除が退職金よりも多い場合には、税金はかかりません。また、退職金が退職所得控除より多い場合には、退職金から退職所得控除の金額を引き、さらに2分の1をかけた金額が退職所得となります。この退職所得に所定の税率をかけ、控除額を差し引くことで、所得税や住民税の金額が算出されます。
注目したいのは、退職所得控除の「勤続年数」。退職所得控除の金額は勤続年数が長くなるほど多くなります。そして、20年以下か20年超かで退職所得控除の計算式が変わります。
勤続年数が20年以下の場合は毎年40万円ずつ増加するのに対し、20年超の部分は毎年70万円ずつ増加するようになっています。
●一時金の場合の税金
(株)Money&You作成
さらに、勤続年数に年未満の端数がある場合は、切り上げになります。
たとえば、22歳の4月1日に就職し、60歳の3月31日まで38年間ちょうど勤めて退職した場合の勤続年数は「38年」ですので、退職所得控除の金額は800万円+70万円×(38年−20年)=2060万円となります。
それに対して、60歳の4月1日に退職した場合は、勤続年数が「38年と1日」ですから、「39年」となります。したがって、退職所得控除の金額は800万円+70万円×(39年−20年)=2130万円となります。
また、一時金の場合は社会保険料の負担はありません。退職後に国民健康保険に加入する場合も、退職所得は除外して保険料を計算します。
年金は、10年、15年などと、一定の年数をかけて少しずつ退職金を受け取る方法です。年金で受け取ると雑所得となり、他の所得と合わせて総合課税されます。退職所得控除は利用できませんが、受け取っていない部分のお金は、一定の利率(予定利率)で会社が運用してくれます。
公的年金等の雑所得は、毎年の公的年金などの収入を合算した金額から「公的年金等控除」という控除を差し引いて計算します。公的年金等控除の金額は上の表のとおり、年金などの収入の合計額や年齢(65歳未満・65歳以上)によって変わります。
雑所得に所定の税率をかけ、控除額を差し引くことで、所得税や住民税の金額が算出されます。
●年金の場合の税金
(株)Money&You作成
年金の場合の社会保険料は、加入する社会保険によって変わります。会社の社会保険に加入した場合、社会保険料は給与に基づいて計算されるため、一時金の場合と同様に影響はありません。一方、国民健康保険に加入した場合は、雑所得を含めた所得で保険料を計算するため、毎年の年金額が保険料に影響します。つまり、退職金を年金で受け取った場合、保険料が増えるというわけです。
一時金と年金は、併用もできます。一時金と年金を併用すると、一時金の部分には退職所得控除、年金の部分には公的年金等控除を適用します。
退職金の受け取り方で手取りはどう変わる?
では、退職金を「一時金」「年金」「一時金&年金」で受け取った場合の手取りの違いの例を見てみましょう。
【条件】
・東京都文京区在住、38年間勤続で退職金は2000万円
・60歳から64歳までは年収300万円で勤務、協会けんぽに加入
・退職年金は10年間で受け取る(予定利率1.5%)
・所得控除は基礎控除・社会保険料控除・所得金額調整控除のみとする
以上の条件で、「一時金で受け取り」「年金で受け取り」「一時金で1000万円&年金で1000万円受け取り」をした場合の額面・手取りの違いを試算すると、次のようになります。
●退職金の受け取り方で額面・手取りはどう違う?
(株)Money&You作成
額面金額の合計は、「年金」が4650万円ともっとも多くなります。会社でまだ受け取っていない退職金を運用してくれるため、額面金額は増えます。
しかし、手取りの合計は「一時金」がもっとも多く、4085万円となっています。これは、年金受け取りにすることで毎年の収入が増え、税金や社会保険料の負担が増えるからです。
「一時金&年金」では、毎年の退職年金が減った分だけ税金や社会保険料が減るため、「年金」よりも手取りが多くなっています。
なお、上記の試算は一例です。お住まいの自治体の社会保険料の金額や退職金・企業年金の予定利率などによって細かい数字は変わるので、参考程度にとどめていただければと思います。
もっとも、多少金額は違っても、一時金で受け取った方が手取り面で得をするケースが多いです。
退職金はどう受け取るのが正解?
以上を踏まえて、退職金はどう受け取るのがいいか、3つの基本戦略を紹介します。
①退職金が退職所得控除より少ないなら「一時金」
退職所得控除の効果は大きいので、上記の試算と同様、一時金で受け取ったほうが手取り面で得をするケースが多いでしょう。退職金の額が退職所得控除より少ないならば税金はゼロですから、手取りの金額を最大化するためにも一時金で受け取るのがいいでしょう。
②退職金が退職所得控除より多いなら「一時金&年金」
もし、退職所得控除より退職金のほうが多いならば、退職所得控除を最大限活用し、公的年金等控除も活用できる一時金&年金がおすすめ。退職所得控除の枠ぎりぎりまで一時金で受け取り、残りは公的年金等控除の範囲で収まるようにして年金で受け取るようにすると、税額を減らすことができます。
③無駄遣いしそうなら「年金」
手取りの面や、税金・社会保険料の面からは一時金や一時金&年金の方がいいという方でも、無駄遣いしてしまいそういな方は、年金で受け取ったほうがいいでしょう。まとまった退職金を手にしても、無駄遣いしてしまうようではお金がすぐなくなってしまいます。年金ならば毎年一定額ずつ振り込まれるので無駄遣いもしにくく、お金の使い道も決めやすいメリットがあります。また、会社の運用によって増やすこともできます。
まとめ
退職金の手取り額は、一時金と年金で大きく変わります。なぜなら、受け取り方によって税金や社会保険料が変わるからです。一時金で受け取ったほうが手取り面で得をするケースは多いものの、退職金の額や「無駄遣いしてしまいそうか」といったことでも受け取り方の「正解」は変わってきます。
退職金の額、公的年金の額、保有資産は人それぞれです。退職金をどう受け取るかは、単に手取り面だけでなく、個人の事情も合わせて決めるようにしましょう。
今回の内容は動画でも紹介しています。ぜひご覧ください。
【関連記事もチェック】
・退職金を確実に減らす「やってはいけない資産運用」
・退職金の金額を直前まで知らない人が3割。その後に待ち受ける悲劇は
・退職金の扱い方でわかる「老後破綻する人」
・退職金額はどのように決まる? 最も多く採用されている方法は
・「退職金専用定期」を使い倒して退職金を超安全に10万円増やす方法
頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
この記事が気に入ったら
いいね!しよう