22/03/28
退職金の金額を直前まで知らない人が3割。その後に待ち受ける悲劇は
あなたが会社を辞める時、退職金をいくらもらえるか考えたことはありますか?「定年まで勤めれば、最低○千万円くらいもらえるだろう」と、自分でよく調べず、安易な過信で退職金をアテにしてはいないでしょうか。思い当たるフシのある方は、後々厳しい現実が待ち受けているかもしれません。なぜなら、老後を支えるはずの自分の退職金がいつのまにか激減している可能性が高いからです。「こんなはずじゃなかった」と定年を迎えてから慌てないよう、今から退職金についての理解を深めておきましょう。
退職金の金額を「受け取るまで」知らない人は全体の約3割
フィデリティ退職・投資教育研究所の「退職金の把握時期」についてのアンケート調査では、「退職金を受け取るまで知らなかった」との回答が約3割に達し、「定年退職前半年内」と回答した人と合わせると実に過半数に上ります。さらに、「覚えていない」という人も2割ほどいることを考慮すると、その金額を事前に把握できている人はほとんどいないことが分かります。
●退職金の金額を把握した時期 (単位:%)
フィデリティ退職・投資教育研究所「高齢者の金融リテラシー調査2019」より
本来、企業から受け取る退職金は、多くの人にとって人生で手にする最大級の大金であり、今後の人生設計においても大きな武器となるもの。また、老後資金の準備や対策は、前もって時間をかけて取り組むべきものです。ですが、実際には自分がもらえる退職金の金額を事前に把握し、それを退職後の資産形成を考える際に考慮できている人はかなり少ないのではないかと考えられます。
20年で1200万円の大幅減。退職金は昔ほど当てにできない時代が到来
なぜ、退職金の金額を事前に把握することが大切なのでしょうか。その理由は、退職金の金額がここ数年で急減していることにあります。
●平均退職給付額(全規模)の推移
金融庁金融審議会市場ワーキング・グループ報告書 「高齢社会における資産形成・管理」より
図は最終学歴・職種別に比較した退職金額の推移グラフです。1997年と2017年で退職金の金額(平均退職給付額)を比較すると多くが減少傾向にあります。大学・大学院卒(管理・事務・技術職)にいたっては20年間で1200万円以上の大幅減。状況は悪化の一途をたどっていることが分かります。
退職金額の減少が止まらないのは「成果主義化」による制度見直しが一因
退職金額が減少している理由のひとつに、「退職金制度の成果主義化」があります。90年代半ば以降、多くの企業が年功序列的な賃金制度を見直し、成果に応じた賃金制度の導入が急速に進みました。実は退職金においても大企業を中心にこうした成果主義化が広がったのです。
具体的には退職時の基本給を元に退職金を算定する「退職時給与連動方式」から社員の役職や業績に応じたポイントを積み上げて退職金を算定する「ポイント制」への転換が推し進められたという背景があるのです。
●退職一時金の算定方法の推移(大企業)
※集計年ごとに母集団が異なる点に留意する必要がある
りそな年金研究所「年金ノート(2021.4)」より
大企業の退職一時金の算定方法は、以前は退職時の給与と勤続年数に比例して決める方式が多く採用されていました。しかし直近の調査では「ポイント制」が大勢を占めていることがわかります。2001年にはポイント制を導入している企業は24.5%にすぎなかったのに対して、直近の調査では64.3%が導入しています。
また、業種にもよりますが業界再編・合併が相次ぎ、管理職のポストが減ったことを背景に、管理職になれないまま定年退職することも珍しい話ではなくなっています。その結果、ポイントが積み上がらず、退職金が低く抑えられる会社員が増加したということが退職金額減少の一因として考えられるのではないでしょうか。
退職金制度がある会社は8割程度
そもそも、退職金制度はすべての会社にあるものではありません。退職金の支払いは、法律で定められているものではなく、企業ごとに制度の有無を決めているからです。そのため、退職金がもらえる企業はまだましな方とも言えます。
前述したように、退職金制度の見直しの風潮が高まる中、制度自体を廃止しようという会社もだんだん増えてきています。最新の厚生労働省の調査では、退職金制度を導入している企業の割合(全体)は約8割程度にとどまり、企業規模別にみると規模が小さくなるほど導入割合は低くなる傾向があります。また、今制度がある会社も将来まで制度があり続ける保障はどこにもありません。「うちの会社だってさすがに退職金くらいはもらえるだろう」と甘い考えでいると大きなしっぺ返しをくらう可能性が高いのです。今や5社に1社は「制度なし」というなんとも悲惨な時代になっているのが現実です。
●退職金制度がある企業の割合(会社の規模別)
厚生労働省「就労条件総合調査(2018年度)」より筆者作成
老後に備えるためには、まずは「向き合う」ことから
「思ったよりも子どもの教育費にお金がかさみ、夫婦2人の老後資金にまで手が回らないが退職金があるから大丈夫」
「住宅ローンの完済まであと何年もあるが、退職金で繰り上げ返済すればどうにかなるだろう」
一世代前の時代では、一社で勤め上げれば、退職金もそれなりに手厚い金額がもらえたためそんな考えでもなんとかなったかもしれません。ですが、日本の退職金制度は今大きな転換期に直面しています。
定年退職者にとって、老後生活の「大事な虎の子」であった退職金の水準低下は、あとでやり直しが効かない分、死活問題となります。いざ退職というときになって蓋を開けてみたら「退職金がなかった」「思ったより少なかった」となっては、全く対策ができないため非常に危険です。会社に退職金制度がある場合は、しっかりと明示されているはずですので、勤務している会社の就業規則や賃金規則を確認してみましょう。
またこれらの規定は、会社の経営状況や社会情勢によって内容が変更されることもあるため、規定が変更されるたびにチェックしておくことをおすすめします。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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