21/11/07
「退職金は税金がかからない」という人は少数? 実際いくらかかるのか
税金の話は難しいからよくわからない、と思っている人も多いかもしれませんが、私たちの生活には税金との付き合いが欠かせません。税金のことなんてよくわからない、と言ってそのままにしておくと損をすることもあります。自分に関係がありそうな税金のことだけでも、しっかり押さえておきたいですよね。
そこで今回は、退職金にかかる退職金の話をご紹介します。「退職金には税金ってかからないんじゃないの?」と思っている人は要注意。退職金にかかる税金のルールと、どのくらいの税金がかかるのかを解説いたします。
「退職金」にかかる税金とは?
まずは簡単に退職金のおさらいからしておきましょう。退職金とは、役職員が企業を退職する際に企業から支払われるお金のことです。退職金は法律で定められているものではなく、あくまで企業側が自由に決めていいことになっていますが、支払うことを決めた場合は支払金額の計算方法や支給要件などを就業規則に明記するルールになっています。
そして税金の計算上、お給料は「給与所得」ですが、退職金は一時金として受け取った場合は「退職所得」、年金として受け取った場合は「雑所得」に分類されます。そして、いずれの場合も「所得税(復興特別所得税を含む)」と「住民税」がかかります。ただし、退職金というものは長年の勤労に対して報いる意味があることから、「退職所得」はほかの税金よりも負担が軽くなるように配慮されています。
また、退職金についてはきちんと手続きをしておけば基本的には勤務先のほうで手続きをしてくれるので、自分自身で確定申告を行う必要はありません。具体的には、「退職所得の受給に関する申告書」という申告書を退職金の支払元である会社に提出しており、会社がきちんと所定の手続きを行っていれば確定申告をする必要はありません。ただし、この手続きを行っていない場合は、退職金から一律20.42%の税金(所得税+復興特別所得税)が源泉徴収されますので、確定申告をして正しい金額に精算しなければなりません。
退職金を一時金でもらった場合の税金を計算してみよう
退職金を一時金でもらった場合にかかる税金は、次の4ステップで計算できます。
1.退職所得控除額を求める
2.課税対象となる金額を求める
3.所定の税率を掛ける
4.最終的な控除額を差し引く
少し複雑に見えるかもしれませんが、実際にやってみるとそこまで難しくはないのでぜひ一度計算してみてくださいね。
1.退職所得控除額を求める
まずは、退職所得控除額を計算してみましょう。所得税にも給与所得控除があるように、退職金にも退職所得控除があります。退職所得控除額は、勤続年数に応じて変わり、下記の計算式によって計算することができます。
勤続年数が20年以下の場合:退職所得控除額=40万円×勤続年数
勤続年数が20年超の場合 :退職所得控除額=800万円+70万円×(勤続年数ー20年)
※勤続年数は切り上げ。たとえば、勤続年数が3年6か月の人の場合には勤続年数は4年となる。
※障がい状態になったことが原因で退職となった場合、上記計算式で求められる金額に100万円を上乗せして退職所得控除額とする。
たとえば、勤続30年の人の場合、800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円が退職所得控除額となります。
2.課税対象となる金額を求める
続いて、課税の対象となる金額を計算します。課税の対象となる金額は、退職金から上記で求めた退職所得控除額を差し引いて1/2を掛けた金額となります。ですから、勤続30年の人が3,000万円の退職金を受け取った場合、(3,000万円-1,500万円(退職所得控除額))×1/2=750万円が課税対象となる金額となります。
3.所定の税率を掛ける
次は簡単で、その年の税額表を見て、該当する金額の税率をかけるだけです。2021年分(令和3年分)の所得税の税額表は下記の通りです。
●2021年分(令和3年分)所得税の税額表
国税庁ウェブサイトをもとに作成
4.最終的な控除額を差し引く
先ほどの勤続30年、3,000万円の退職金を受け取った例であれば、税率は23%、控除額は636,000円となりますので、750万円×23%-63万6,000円=108万9,000円が課税される所得税額となります。ちなみに、2037年まではこれに復興特別所得税がかかります。復興特別所得税は所得税×2.1%。108万9,000円×2.1%=2万2,869円となります。したがって、所得税と復興特別所得税の合計金額は111万1,869円となります。
また、このほかに住民税がかかります。住民税は、所得税額×一律10%となっていますので、10万8,900円がかかります。
まとめると、以下の通りになります。
・所得税額 108万9,000円
・復興特別所得税 2万2,869円
・住民税 10万8,900円
合計金額 122万769円
続いて、簡単に勤続年数が20年以下の場合も計算しておきましょう。ここでは、勤続9年4か月で500万円の退職金をもらったとして計算してみます。
1.退職所得控除額を求める
勤続年数が20年以下の場合:退職所得控除額=40万円×勤続年数
上記の式を使って、退職所得控除額を計算してみましょう。
40万円×10年=400万円
※勤続年数は切り上げ。
2.課税対象となる金額を求める
課税の対象となる金額は、退職金から上記で求めた退職所得控除額を差し引いて1/2を掛けた金額となるため、下記の計算で求められます。
(500万円-400万円)×1/2=50万円
3.所定の税率を掛ける
4.最終的な控除額を差し引く
税額表によると、税率は5%、控除額は0円となります。
(50万円×5%)-0円=2万5,000円
復興所得税は、2万5,000円×2.1%=525円、住民税は2万5,000円×10%=2,500円となりますので、まとめると以下の通りになります。
・所得税額 2万5,000円
・復興特別所得税 525円
・住民税 2,500円
合計金額 2万8,025円
退職金を年金方式で受け取った場合の税金を計算してみよう
退職金は一時金として受け取ると「退職所得」という分類になるのですが、年金方式で受け取ると「雑所得」という分類になります。雑所得には、一時金で受け取ったときのような「退職所得控除」はありません。しかし、代わりに「公的年金等控除」を受けることができます。
公的年金等の雑所得の金額は、収入金額から公的年金等控除額を引いて求めます。具体的には、年齢や年金の収入金額の合計によって、下記の表を参考に求めることができます。
●公的年金等に係る雑所得の速算表(令和2年分以後)
公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が1,000万円以下の場合
公的年金等の雑所得の金額=(a) 公的年金等の収入金額の合計額×(b)割合 - (c)控除額
国税庁ウェブサイトをもとに作成
つまり、公的年金などの雑所得「以外」の所得に係る合計所得金額が1,000万円以下のときは、雑所得は65歳未満の場合60万円、65歳以上の場合110万円までが非課税ということになります。この金額を超える場合は、所定の割合を掛けて控除額を引いた額が所得金額(課税対象となる金額)となります。なお、合計所得金額が1,000万円を超える場合、2,000万円を超える場合は、控除額が段階的に引き下げられます。
たとえば、70歳の方で公的年金などの雑所得「以外」の所得に係る合計所得金額が800万円、公的年金などの収入が100万円だった場合、上の表をもとにすると、所得金額つまり課税対象となる金額はゼロとなります。
また、70歳の方で公的年金などの雑所得「以外」の所得に係る合計所得金額が800万円、公的年金などの収入が500万円だった場合、上の表をもとにすると、所得金額は
5,000,000円×85%-685,000円=3,565,000円
となります。
退職金は年金として受け取った場合、雑所得として総合課税されます。つまり、給与所得など他の所得と合算したうえで所得金額の合計を出してから、税額が計算されるのです。したがって、他の所得や適用される所得控除などによって、税額は大きく異なります。
退職金を一時金で受け取る場合と年金で受け取る場合を税金の面で比較すると、一般的には一時金で受け取った場合のほうがおトクになることが多いでしょう。一時金で受け取った場合には住宅ローンの返済に充てたり、老後のまとまった資金を準備できたりするなどのメリットがあります。
しかし、だからといって年金で受け取るのが悪いわけではありません。年金方式で受け取った場合には一度にまとまった金額を受け取らないので無駄遣いしなくて済む、税制優遇を受けられる期間が長くなるなどのメリットもあります。
税金のことだけ考えるのではなく、退職金をどう使いたいかまでよく考えて受け取り方を選んだほうがいいでしょう。
まとめ
いかがでしたか。退職金の計算は意外とそこまで難しくなかったのではないでしょうか。また、ほかの税金よりも配慮されていることもあって、思ったよりも支払う税金額が少ないかも、と思った人もいると思います。退職する前に、少し計算してみてもよいでしょう。
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大塚 ちえ ファイナンシャルプランナー(AFP)、証券外務員Ⅰ種
新卒から証券会社一筋で働く、現役アラサー金融ウーマン。スポーツと音楽が趣味。金融機関勤めで得た知識と経験で、キャリアやお金、結婚・恋愛のことなどいろんな女性の悩みに向き合う。現代日本に生きる働きすぎな女性にエールを送る。
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