21/09/26
2022年分以降は退職金の税金が変わる! 勤続5年以下だと税金が増えるのは本当か
先行きが読めない経済情勢の中で、雇用環境が厳しくなっている業界や企業が増えています。今後、早期退職などで退職金を支給する企業が増えることが見込まれる中、2021年度の税制改正で短期(5年以内)の勤務年数の者に支給される退職金に係る所得税が増税されることになりました。そこで今回は、2022年以降に適用される「勤続5年以内の退職金」についての課税強化の概要とその影響について解説いたします。
退職金の課税のしくみ
まず、退職金(退職所得)にかかる所得税のしくみを見てみましょう。
退職金への課税は他の所得に比べ非常に優遇されており、主に3つのメリットがあります。
●退職所得の3つのメリット
①退職所得控除
退職所得の計算上、退職金から勤続年数に応じた退職所得控除を差し引くことができる。
②2分の1課税
上記①で計算された金額をさらに2分の1した金額を退職所得(課税対象)とすることができる。
③分離課税
上記②で計算された金額を他の所得と合算することなく、その金額だけを基準に累進課税の税率を適用できる。
まず、勤続年数に応じて計算される退職所得控除が認められており、さらにその控除後の金額の2分の1が原則として課税対象となります。また、分離課税という有利な課税制度を選択することができるため、所得税の納税負担は大幅に抑えられています。
退職所得は、長年の勤務をねぎらう意味で支給されるものであることや、今後収入が減る中での老後資金に充当されることも多いことを想定されています。そのため、「他の所得とそのまま合算して累進課税の適用を受けるのはなじまない」との考えから、他の所得と比べ税負担が少なくて済むような配慮がされているのです。
勤続5年以下の退職所得の規制強化
この退職金への課税は、あまりにも優遇されているという指摘が以前からありました。実際、特定役員等の退職金については、2012年度改正で規制強化の措置が既になされています。当時のキャリア官僚の天下りなど、特権階級の優遇を認めないという背景から、勤続5年以下の特定役員等の退職金については「2分の1」課税を認めないことになったのです。
しかし今回の2021年度の税制改正では、特定役員等以外の「従業員」に対しても規制の対象が広がります。従業員であっても、勤続年数が5年以下の場合は、課税額が300万円を超える部分については「2分の1」課税が適用できなくなるというものです。この措置は、2022年以降の支給分からが適用となります。
●2021年度税制改正のポイント(2022年以降に支給分から適用)
筆者作成
とはいえ、今回の改正点である「5年以下」という短い勤務年数の従業員に300万円を超える退職金が支給されることは、現実的には少ないのではないかと思われます。
では今回なぜこのような改正が行われたのでしょう。従来から外資系企業のような完全実力主義の会社では、短期間の雇用契約を結ぶ際、月給を抑える代わりに退職金を上乗せすることで従業員が税軽減を享受するケースが散見されていました。このような制度の本来の趣旨にそぐわない節税策が問題視され、今回の改正に至ったと考えられています。
勤続5年以下で退職金が出る場合、どのくらい手取りに影響がある?
ただ、今後は長期間ものあいだ1つの会社にずっと勤め上げて定年退職するという働き方よりも、自分のライフスタイルや自分を最大限活かせる企業に転職をしていくという働き方がスタンダードになっていくことが考えられます。そこで、勤続5年以下で退職金が出る場合はどのくらい手取りに影響があるのかを試算してみました。
例えば、勤続期間が5年で600万円の退職金を受け取った場合を考えてみます。
退職所得控除は以下の計算式にあてはめます。
●退職所得控除額の計算式
今回は、勤続期間が5年ですから、①勤続年数が20年以下の場合の式にあてはめて計算すると退職所得控除は200万円(40万円×5年)となります。
600万円から退職所得控除の金額200万円を引いた後の400万円に対し、改正前は全額が2分の1課税ですんでいたものが、改正後は400万円のうち、300万円までの部分は2分の1課税が適用され、それを超える100万円には2分の1課税が適用されないということになります。
この改正により、上記の前提条件では5万円ほど所得税の負担が増加する結果となりました。
●勤続年数5年で退職金を600万円受け取った場合の所得税の変化
【試算】
〈改正前〉
(1)退職所得控除後の金額 600万円-200万円=400万円
(2)退職所得 400万円×1/2=200万円
(3)所得税 200万円×所得税率10%-9.75万円=10.25万円
〈改正後〉
(1)退職所得控除後の金額 600万円-200万円=400万円
(2)退職所得 300万円×1/2+100万円=250円
(3)所得税 250万円×所得税率10%-9.75万円=15.25万円
退職金の税制優遇にまつわるその他の問題点
一方、今回の改正には盛り込まれなかったものの、退職金の税制優遇にまつわるその他の問題点も指摘されています。先ほどご紹介した退職所得控除は勤続20年以下と20年超では計算方法がガラリと変わり、勤続20年を超えると1年当たり70万円ずつ増額する仕組みとなっている点が、人材の流動化を妨げているというものです。つまり、長期間勤め上げた方がより優遇を受けられるという仕組みになっています。
しかし、このような退職所得控除の優遇が、旧態依然とした終身雇用を助長し、新しい仕事にチャレンジしようとする社員のモチベーション低下を招いてしまっているのではないかという懸念です。
そのため、今後、このような退職所得控除の見直しについても、世の中の実情を踏まえ変更される可能性があります。ご自身が退職金を受け取る際にあわてないよう今後の動きにも注目しておきたいですね。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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