16/05/18
女性社労士FPが教える! 離婚時の「年金分割制度」によくある勘違い・誤り
平成19年から始まった離婚時の「年金分割制度」。
制度開始から9年が経過し、マスコミでもよく取り上げられてきたため、広がってきているという実感はあります。けれども、正しく認知されているかは疑問。
個人相談に乗っている中で「自動的に夫の年金の半分が、自分の収入として増える」と思っている女性が多くいますが、これは大きな間違いです。老後の生活資金は年金が大部分を占めるので、このように間違って覚えていると、暮らしが大変苦しいものになってしまいます。
今回は、離婚時の年金分割について、勘違いの多い点を中心に説明します。
「同居していないから、離婚してなくても分割できる」は誤り
実質夫婦生活は破たんしているが、離婚していない夫婦。この場合年金分割はできません。「請求時点で法律上の婚姻関係にないこと」が条件です。
逆に、戸籍上婚姻していなくても、過去実際に同居し、「事実婚」関係であったことが証明されれば、事実婚解消後に分割請求ができます。いくら長年同居していたとしても、一方または両方が、別の人と婚姻関係にある場合は、事実婚とはいわないので注意が必要です。
「離婚したら、自動的に夫の年金の半分がもらえる」は誤り
離婚したら、自動的に夫の年金がもらえるわけではありません。また、夫の年金の半分でもありません。そして、増えるのは収入でなく、妻の年金なのです。
年金分割制度の概要をまとめておきますので、以下確認してみてくださいね。
【年金分割制度】
- ・必ず離婚後2年以内に請求手続きが必要。自動的ではない
- ・合意分割の場合は、分割割合についても合意しないといけないので、半分とは限らない。2分の1が上限となっている。
- ・婚姻中の夫の厚生(共済)年金加入期間分が対象。つまり婚姻期間以外、基礎年金部分と基金の上乗せ部分は対象とはならないため、夫の年金の半分がもらえるわけではない。
- ・夫が自営業またはフリーランスで厚生(共済)年金加入期間がない、または妻より厚生(共済)年金加入期間が極端に短い場合、分割すると妻の年金が減額されるケースもある。
- ・厚生年金が増えるので、年金受給資格期間が足りず年金がもらえないと、年金分割しても意味がない。
つまり、妻に年金がもらえる権利があり、婚姻期間中の「厚生(共済)年金加入期間中の標準報酬額合計」を双方で比べて、夫のほうが大きい場合に、妻から分割請求するメリットがあるのです。
そもそも「合意分割」と「3号分割」の違いってなに?
年金分割には、「合意分割」と「3号分割」の2つの方法があります。それぞれの違う点をお伝えします。
【合意分割】
- ・夫婦間の合意が必要。基本的に両方からの申し出で分割できる
- ・平成19年4月1日以後に離婚している
- ・婚姻中の全ての期間が分割対象
- ・分割割合は自由だが、上限は2分の1
【3号分割】
- ・夫婦間の合意は不要。第3号被保険者のみからの請求で分割できる
- ・平成20年4月1日以後に離婚している
- ・平成20年4月1日から離婚した日までの期間が分割対象
- ・分割割合は、2分の1
例えば、平成20年5月1日に結婚して、ずっと専業主婦だったサラリーマンの妻が、平成28年5月に離婚し分割請求したら、8年間の夫の厚生年金の標準報酬合計の半分が、妻の標準報酬と考えられ、妻が将来受け取る厚生年金が増え、夫は減るということになります。
しかし、「標準報酬」が分割されるのであって、「期間」までもらえるわけではありません。分割したことを自分の年金額に反映させるためには、妻はその後保険料を払い、現在300ヶ月(25年)である受給資格期間(保険料納付済期間)を満たさなければならないことを忘れてはいけません。
「年金分割制度」の手続きの流れ
最後に手続きの流れを説明します。請求手続きはお近くの年金事務所で行います。必要書類は厳密に決められていますので、事前に年金事務所やコールセンターに問い合わせます。
1 「年金分割のための情報提供通知書」を取得する
これは、婚姻期間中の夫婦の厚生年金標準報酬の総額が記載された書面です。3号分割の場合は特に必要ありません。合意分割であっても、すでに分割割合が決まっているなら必要ありません。けれども、合意ができずに調停や審判などになった場合は必要となるので、早めに取っておきます。離婚前でも、一方からだけでも請求でき、請求があったことは夫に伝わりませんが、念のため窓口でその旨を申し出ます。
2 「標準報酬改定請求書」(離婚時の年金分割の請求書)を提出する
合意分割の場合、分割割合を決めてから必要書類を持参して、基本的に元夫婦二人で手続きに行きます。ただし、公正証書や調停調書、審判書などがあれば、どちらか一方だけでも請求手続ができます。
3号分割の場合、分割割合は2分の1と決まっていますので、3号被保険者のみからの請求が可能です。
基本的には離婚後2年を過ぎると受け付けてもらえません。離婚分割についてさんざん揉めたあとに、やっと審判書など書面がもらえたら、それで終わった気持ちになってしまう方があります。年金事務所での手続きが終わってこその分割終了なので注意してください。
夫がもらえる厚生年金も、「夫婦で築いた財産のひとつ」という考え方からできた制度です。老後の暮らしの大きな支えである年金。制度を十分理解した上で、忘れず手続きしましょう。
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小野 みゆき 中高年女性のお金のホームドクター
社会保険労務士・CFP®・1級DCプランナー
企業で労務、健康・厚生年金保険手続き業務を経験した後、司法書士事務所で不動産・法人・相続登記業務を経験。生命保険・損害保険の代理店と保険会社を経て2014年にレディゴ社会保険労務士・FP事務所を開業。セミナー講師、執筆などを中心に活躍中。
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